烙印からの帰還者〜天上院家の末っ子は脳筋デッキしか勝たん〜 作:Eクラス
双頭の機械仕掛けのドラゴンはとても見覚えがあり彼曰く「異世界で拾った」とのことだった。
そうなのか、異世界なら納得だ…というわけにもいかず、あまりにふざけた回答に腹が立つくらいだ。
なんだそれは…
そんな理由であのイケメンが兄のカードを使っていることに腹が立った。
でも、やはり異世界に行くと兄のカードもありふれた1枚になってしまうのだろうか。
どうなんだろう。
せっかく勝てると思っていたのにあんな切り札を出されてしまった。
翔の中で1秒がやけに長くていろいろ考えてしまう。
でも、気がついた時にはLPは0になっていた。
翔は異世界馬鹿野郎に負けてしまったのだ。
「うへー。真樹那のヤツ、容赦なしかよ」
翔の全力に対して真樹那も全力で応えただけ。
「そんな…なんで。僕の引きは最強だったはず…」
「翔…」
「兄さんに封印されているパワーボンドも使いこなせていたのに!なのに、なんで僕が負けるんだよ!!」
勝てる自信があった。勝って証明しなければならなかった。
「確かに強かったよ。すごいよ翔。でも、今回はオレの方が引きがよかった。ただ、それだけ」
「僕だって最高の引きだったんだぞ!こんなんじゃ納得できるもんか!」
翔はまるで駄々っ子をする子どものように敗北を否定する。
せっかく手に入れた強さ。これから丸藤翔の快進撃が始まるはずだった。
だというのに、この異世界馬鹿野郎に止められたという事実を否定したかたった。
素直に負けを認められなかった。
「はぁ…納得できない、か。わかったよ。オレが勝って翔が負けた理由を教えてやるよ。それは確固たる経験の差だ」
ため息を一つ。
「翔。キミは生涯にどれだけデュエルしてきた?100回くらいは最低でもしたん?」
「入学してから間もないのにそんなにできるわけないじゃないか」
「生涯の話しだって。オレは最低でも1000回以上はデュエルしてきた」
「1000回…以上…」
「うっひょー、すげーじゃん真樹那…!!」
「デュエル馬鹿過ぎ…異常者ね」
「…まぁ異世界じゃデュエルは日常茶飯事だったし。何も、強いデッキ、異世界のカードを持っているだけでオレTUEEしてるわけじゃないのさ」
嘘は言ってない…
便利だな異世界へ行ってた経歴って。
実際にはDMのランク戦は1600回以上戦っている。ソロモードは2000回以上潜り込んでひたすらデッキを回してきた。
「翔。異世界にはオレよりも強いデュエリストなんてごまんといる。オレよりもチートなデッキテーマを使うヤツ。オレよりもデュエルタクティクスが長けたヤツ」
本当に嘘は言ってない…
「オレはそんな奴らに勝つために、一泡吹かせてやりたくて何度も挑戦して、何度も負けて、何度もデッキ構成を考え直した。どうすればオレの脳筋デッキで勝てるかを何度も何度も戦いを繰り返し研究して今の強さがある。だからもうわかるだろ?この経験の差こそが、今回のデュエルじゃオレに味方してくれた。引きも。運も。勝利も全て。持論だけどね」
たまたまだけども、言語化して論理的に考えたらそうなるのか。
ただ単純に強いカードを使っているだけじゃない。何度もデュエルをして試行錯誤して、自分の勝ちパターンを見つけてきた。
何も努力せずに勝てるほど真樹那のデッキは強くないから。
「まぁ、でもアレだ。オレができる今の最高と翔の出せる今の最高がぶつかり合ったこのデュエル、オレは楽しかったぜ」
「僕は…やっぱり負けたら楽しくないよ。悔しいよ。負けたら意味がないんだよ。君に勝って十代のアニキに認められて制裁タッグデュエルに挑みたかったんだ」
翔は涙を溢す。
泣き虫は治っていないようだ。
そんな泣き虫の頭に真樹那は手をポンと乗せる。
「ばーか。意味ならあったろ。もう十分強いじゃん。それにこれからだろ?十代も認めてくれてるって。な?」
「あぁ!翔。お前がこんなデュエルするとは思ってなかったぜ。ガッチャ!すっげー面白かったぜ!」
「アニキ…」
「お前は強いよ。だから俺たち2人で力を合わせて制裁タッグデュエルを乗り切ろうぜ!」
「う、うん…!!」
憧れた友に認められた。
翔は涙を拭いて力強く頷いた。
「真樹那くん。いろいろ暴言吐いてごめんよ。そして、僕とデュエルしてくれてありがとう」
「いいってことよ。それより罰ゲームな。明日からケモ耳はしてもらうから」
「やっぱりひどい奴!」
「ははっ。それから白いカードも没収。アレはこの世界にあっちゃいけないものなんだ。はい、出して」
「うん。そういうルールだったね。…わかったよ」
観念した翔はポケットに手を突っ込む。
そして、
顔を青ざめた。
翔がデッキからではなくポケットから取り出そうとした行為自体がおかしい話しなのだ。
「ない…」
「は?」
「ないないないない!ポケットに入れたいたはずだったのにないんだよ〜〜!!」
「おいおい、どこかに落としたのか?」
「マジかー」
真樹那は天を仰いだ。
でも、待てよ。
それってさ…
「いや、待て待て。翔。キミ、白いカード無しで戦ってたってことになるじゃん?自力であのポテンシャルはちょい引く」
「君には言われたくないよ…!?」
「どういうことかしら?」
「真樹那。もしかして翔は白いカードを持って強くなったと錯覚していたということにはならないか?自己暗示の類い的な何か…」
「ありうる…のか。そんなこと?でも、確かに妙な手応えだったし。翔はアイツを使っていない…烙印の気配…じゃない。こりゃあのアホの残り香か?もしかしたら何か細工されていた可能性もあるけど。そもそも、翔からはアイツの気配がまったく感じない…翔。どこか痛いとか苦しいとかはない?」
「ううん。特には…」
なんだそれ?と三沢に聞くも彼が知る由もなく。お前の方が詳しいだろうと一蹴される。
でも、そういうことだ。
翔は白いカードを使わずに、持って強くなったと勘違いして真樹那とデュエルしていたということになる。
白いカードはここにはない。
これにて一件落着なんて簡単な話にはならないだろうけど。
「え〜と。外野は何がなんだか…」
「結局どういうことなんです?明日香さん」
「私に聞かれてもなんだけど…翔くんは自力で真樹那と対等にデュエルしたってことじゃない?」
「ふーん。まっ、アンタにしてはまぁまぁ頑張った方じゃない?」
「ですけどわたくしの真樹那さまの方がやっぱりお強いことには変わりないですわ」
ダカライツアンタノモノニナッタノヨ⁉︎などと、ジュンコがモモエにツッコミを入れる。
「ははっ、あはは…なんだよ。白いカード持って強くなったと調子に乗った僕ってカッコ悪るぅ…うわーーーん」
「おいなんでそうなるんだよ!翔!!」
「翔、待てなんだなぁ!」
翔はこれまでの自分の言動を思い出し、顔を真っ赤にしてまた逃げ出した。
「じゃあ。ここはもう用済みってことね。さようなら」
「あ、おい!榊!止まれ!!」
「ふん。私は止まらないわよ?止めたければ殺してでも止めてみせたら?」
例のカードがないのならここに留まる必要もなくなった。
「なぁ、掲示板の噂って本当だったのか?」
「例の白いカードを落としたって?だったら俺が先に見つけてやるよ!」
「あ、バカ!お前らが探していいようなもんじゃねーんだ!!神楽坂!!」
「へへっ、わりぃーな真樹那。お前だけが強いなんて許されねー。俺も強くなりたいんだわ」
そりゃみんな強くなりたい。
だから、ちょっぴり危険だと知っていたとしてもその甘い蜜を啜りたくなる。
白いカードを手に入れてオレTUEEしたくなる。
この欲望は止められないのさ。
「くそ…十代!翔のことは任せるから!」
「あぁ!わかったぜ!!」
「真樹那。俺も協力するぞ」
「三沢…わかった。でも、本当に気をつけてくれよ」
三沢もこの異常を感じ取っていた。
翔の件は未遂に終わったといっていいだろうけど、次は違うかもしれない。
綺麗に話しが終わらないかもしれない。
その危険性があるから真樹那が焦って声を荒げているのだ。
そして、この異常を感じ取ったのは三沢だけじゃない。
「真樹那。一体何が起きてるの?」
「姉さん…それは。」
「真樹那!!」
「ほんとごめん!説明はまたあとで!夜話すよ!」
「ちょっと何よそれ!待ちなさい!!」
説明をしている暇もないくらいに緊急事態ということだ。
「あ、明日香さん〜。置いてかないでー」
「明日香さんー。真樹那さまー。待ってくださいまし〜」
明日香たちも、真樹那のあとを追っていく。
だけど、どんどん遠ざかっていく弟の後ろ姿に明日香の声が届くことはなかった。
翔の方は十代と隼人、そして、兄であるカイザー亮の介入でどうにか説得できたみたい。
アニメ通りのシナリオではないけど、これなら2人は制裁タッグデュエルを突破できるだろう。
目下の問題は白いカードの行方である。
白いカードを必死に探せど、彼らを嘲笑うかのように誰も予想だにしない新たな局面へ突入する。
時は同じくして…
「ん?なんだこれは?」
万丈目は落ちてある白いカードを拾った。
見たこともないカードだ。
しかし、デュエリストの中でも優秀な彼だからこそ感じるものがあった。
その真っ白さに魅せられていく。
「ふふ、フハハハハ!なんだか知らんが今はすこぶる気分が良い!!誰にも負ける気がしない!!」
力がみなぎる。
新しい戦術、新しい創造性が溢れ出す。
新たなステージへと万丈目を導く。
「フハハハハハ!俺様はまだ強くなれる!この万丈目純は新しく生まれ変わるのだ!待っていろ兄弟!!貴様のいるステージへ俺様も辿り着いてみせる!!」
To Be Continued…