烙印からの帰還者〜天上院家の末っ子は脳筋デッキしか勝たん〜 作:Eクラス
この世界に神など存在しない…
この世界に平等なんてものはない…
この世界に必要なものは試練であり…
この世界に足りないものは666の生贄の魂である…
「あのカードはこの世界にあっちゃいけないものだ…」
海馬コーポレーションの宇宙ステーションに封印された白いカード。
『深淵の神獣ディス・パテル』
研究員の男はわかっていた。このカードがどれほど危険な存在なのか。
ここ7日間、隣のラボに厳重に封印して常に観測していたからわかる。
あんな動画を何度も見せられたら尚更だ。
あのカードは生きている。
男の気のせいであって欲しかったが観測していた波長に一定のリズムと時折抵抗するかのような乱れが観測された。
疑いたくなる事実だが、カードを突き破って飛び出てきそうなそんな予感さえした。
それが疑いから確信になったのは海馬たちが立ち去ったあとのことであった。
「これは…なんの冗談だ…くそ、我々の科学のチカラじゃ抑えきれないというのか…っ!?」
「主任、駄目です!地上との回線が繋がりません!」
「くっ、妨害されたのか!?やむを得ない…予定変更だ。あのカードをステーションから切り離す。ポッドを太陽圏外に飛ばすぞ」
「ですが、それは危険だから社長が待てと…」
「馬鹿!もう待っていられないだろう!このままじゃここいる私達が全滅する…っ!!」
「それはそうなのですが…っ!?」
危険なカードとわかっていたから誰の手にも届かない宇宙ステーションへ封印した。
しかし、その作戦が裏目に出て孤立してしまった。
もう、危険なカードを太陽圏の外まで飛ばすかない。
あとは発射スイッチを押すだけだ。
男もオペレーターの女性もわかっている。
未知なる宇宙エネルギーとの干渉があのカードにどの影響を及ぼすか考えたくもない。
今この時を凌ぎさえすれば、次の作戦を立てられるはずだ。
脳裏に過ったのはあの日、あの白いカードと一緒に落ちてきた少年の存在。
彼はデュエルモンスターズを操っていた。
男も子を持つ親だ。子供を危険なことに巻き込ませたくないがそれでも彼に協力してもらうしかないのだろう。
もうそういう段階のところまで来てしまっている。
だから賭けるしかなかったのだ。
「社長がいない今、全責任はこの私だ…君はすぐに他のスタッフと共に脱出の準備をしてくれ」
「主任…1人だけ残るとか言いませんよね?」
「馬鹿、このボタン押したらすぐに向かうさ。というかもう押した」
「あ……」
そういう判断の早いとこが主任の長所ですよね、好感持てます…などと冗談を言うことはできなかった。
モニター越しに映る白いカードを閉じ込めていたポッドが破壊されていた。
否、そうじゃない。
あのカードが自ら破壊したのだ。
「そんな…」
「最悪の事態だなこれは…今すぐ総員退避!!」
緊急事態。
緊急アラートがけたたましくなった。
もはやこの宇宙ステーションに安全なところはない。
「主任、早く!何してるんですか!?」
「あぁわかっている!でも、少しもの時間稼ぎを…」
そう言って高速でキーボードを叩いていく。
海馬コーポレーションとしても何も策を用意しているわけではなかった。
あのカードを太陽圏まで射出するか、或いは今この場で処分するかだ。
「危険なカードは凍らせるまで!アブソリュートゼロだ!」
作戦コードは打ち込んだ。
危険なカードを閉じ込めていたラボが瞬時にアラスカ並みの摂取マイナスの世界へと変わっていく。
カードを氷付にして時間差で爆発させて粉々に砕く作戦だ。
「よし、松田くん。私たちも避難するぞ!」
「なんか主任活き活きしてません!?」
「ははっやっぱりわかるかい?不謹慎だろ?でも、だってSF映画みたいな展開じゃないか!そりゃ男なら誰でもテンション上がるものさ!」
「こんな時に何言ってるんですか!?」
男の判断は間違っていなかったはずだ。
もし、男に落ち度があるとするなら、白いカードの力が弱っていた…社長から渡されたあの瞬間に破り捨てるべきであった。
(コノ程度デ…ワタシヲ葬レルト思ウナ、ニンゲン風情ガ)
声がした。
あのカードから声がした。
この世界に存在してはいけない者の声が男の頭の中に届いた。
「主任……?」
「いや、なんでもない。あともう少しでエレベーターだ。早く行こう」
松田に心配かけさせまいと何でもないフリをする。
廊下のあの角を曲がれば宇宙エレベーターは目前なのだ。
立ち止まるわけにはいかない。
(コンドコソ我ガ怨敵ヲコロス!テンジョウインマキナ!キサマノ大切ナモノハ全テコワス!)
「……」
(キサマノ仲間ヲマタコロシテヤル!)
「……」
(キサマガ死ニタイト口ニスルマデ何度デモ殺シテヤルゾ!)
「……」
(キサマニ未来ハナイ…!!)
「……」
エレベーターにはすでに男と松田以外のスタッフは全員乗っていたようだ。
「主任!松田さん!早く!」
「よかった!間に合った…!」
「……」
松田はエレベーターに乗り込んだ。
男はエレベーターに一度足を入れるも乗らずに一歩下がった。
「何やってるんですか!こんな時に冗談やめてください!」
「ごめんな松田くん。君、こうしないと私と一緒にあの場に残るとか言い出すでしょ?」
「あ…駄目……!!」
男の判断は早い。
松田が察した時にはエレベーターが『地上』へのスイッチは押した。
扉が閉まりだす。
案の定、こちらに駆け寄ってくる松田を突き飛ばした。
「まぁ、あとは任せてくれ。なんとかしてみるから」
「ーーーーーー!!?」
声にならない悲痛な叫びがエレベーター内から聞こえた。
それを見送って男は元来た道を戻っていく。
まだやるべきことがある。
あのカードを完全に破壊しなければならないのだ。
ゴウンという振動がステーション内に響いた。
カードを冷却して十分に凍らせてからの起爆した揺れなのだろう。
あわよくば、という淡い期待もあったが…
「はぁはぁ……冗談じゃないぞ、何なんだよこいつ…!?」
男の頭の中で声が続いている。
例の少年への復讐に執着する怨念の声。
案の定、爆発したと思われた白いカードは無傷で健在。宙を浮いていた。
化け物と言わず何と言う。
(万策尽キタトイウ顔ダナ、残念ダッタナ)
「ぐっ……!?」
男は吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。
異能のチカラにただの人が抗うことすらできない。
そんなことわかっていた。
しかし、
「いいや、まだ一つだけやり残したことがあるぞ怪物…」
(キサマ……ッ!!)
「正直、私もあのエレベーターで逃げるつもりだったけど、気が変わってね」
男の手には起爆スイッチ。
それを押した。
「私も子を持つ親だ…お前みたいなヤツに子供の未来を奪わせるわけにいかない」
子供の未来を守るためなら白いカードと心中するのも本望。
宇宙ステーションに何ヶ所か仕掛けられていた自爆装置が起動した。
モニター越しに映る火の海。
ディス・パテルのカードを奪った道化の少年。
真樹那達は今にも大爆発を起こして崩れゆく宇宙ステーションと横たわる男の最期を見届けようとしていた。
『という感じで事の顛末はこんなものさ』
「いや、オマエがそこに登場した話1ミリもないんだけど?」
『ボクのことは気にするなよ。それよりも彼の奮闘に免じてゲームをしよう』
烙印。
道化の手にある白いカード。
まだ試練は続いてる。
『キミが眠っている間にボクもこのセカイをいろいろ調べてみたよ。だから、このディス・パテルくんを1番面白そうなデュエルアカデミアという学園のどこかに隠す。次の入学式と同時スタートする宝探しってやつだ』
「は?ふざけすぎでしょナメてんの?ボコボコにしてやるから今すぐ降りてこいよかまってちゃん」
『マキナ、キミの安い挑発には乗らないよ。嫌ならゲームを降りたっていい。まぁ、キミがこのカード見つけなければ他の誰かが見つけるだけ。666の生贄の魂ってやつだ。精霊のチカラってやつを使える者とそうでない者、さぁこのカードがキミ以外の誰かに渡ったらどうなるかな?それはそれで面白そうだね』
「くそ……」
それこそ安い挑発なのだが。
真樹那以外のメンツは事の成り行きを静観している。
道化の少年に用があるのは真樹那なのだから。
(なーんかあいつムカつく。嫌い。ねぇ誰かー、オレのデッキの中で宇宙へひとっ飛びしてあのアホをボコせるヤツいるー?)
((((ムリに決まってるだろバカたれ))))
と、精霊達に聞いてみたけど一蹴された。
(こういう時にアーゼウスとか宇宙に強い系がいてくれたらなぁ…)
それを言ったらキリがない。
『キミの馬鹿さ加減にはいい加減慣れたし、よからぬ事を考えてるところでしょ?そろそろ退散するよ』
「まだ話しは終わっていませんけど?」
『いいや終わりだよ。それじゃ頑張って』
「オレ、オマエ、大嫌い……!!」
そう言って、道化の少年は立ち去ろうとした。
そして、それを止めたのは海馬であった。
「おい、アルベルと言ったか貴様」
『やぁ社長さん。お邪魔してるよ。でもゴメンね。この世界ではマキナしか興味ないんだ』
「ふん、そんなことはどうだっていい。しかし俺のステーションと社員に手を出したこと、この屈辱や忘れやせん。倍返しにして必ず貴様をぶちのめす!芋でも洗って待っていろ!」
『はは、キミもなかなかの大物だね。いいよ、その言葉しかと覚えておこう。やれるものならやってみな』
こうして道化の少年・アルベルは姿を消した。白い『烙印』のカードと共に…
残されたのは研究員の男のみ。
「くそっ、あんなヤツと長話するんじゃなかった…このビルに宇宙エレベーターがあるんだよな?」
「どこ行く気なのマキナ!?」
「あのヒトを助ける!まだ間に合うかもしれないじゃん!」
「また無茶言ってる!待ってボクもついて行く!」
バカたちは宇宙エレベーターを目指した。
「あのバカ!病み上がりだろ!しかも反対方向だし!あーもう!ちょっと待てこっちだぞバカ共!」
見かねた木馬があと追いかける。
職員を誰1人として死なせたくない。
もしかしたら…という一途の希望に賭けるしかなかった。
『彼、行ってしまいましたね社長…』
「あぁ…」
男は燃える宇宙ステーションの中で、壁に背を付けて座り直し最後のタバコを一服した。
娘がタバコ嫌いで僅かなニオイもダメで、なかなか吸う機会がなかった。
最後くらい至福の贅沢したい。
『もう、5分ともたない…』
「そうか…」
少年がどう足掻いた所で間に合わない。男は苦笑いするしかなかった。
「榊、どうして他の職員と一緒に避難しなかった?」
『あれ?社長がそんな野暮なこと聞いちゃいます?勿論、格好つけたかったからですよ』
「フッ、そうだったな…貴様はそういう男だ」
勿論、宇宙ステーションに残ったちゃんとした理由がある。
あのまま宇宙ステーションを放置できなかった。
白いカードが、もしくは道化の少年が悪戯に悪意を持ってこの宇宙ステーションを地上に落とすという可能性を潰すためでもあった。
男も子を持つ親だ。
そして、海馬コーポレーションの一員だ。
宇宙ステーションが地上に落下。それは海馬コーポレーションの汚名に繋がる。
家族にも迷惑をかけてしまう。
そんなことは絶対にさせない。
「まっ、正直言うと一時撤退して社長やあの少年と共に戦ってみたかったなー。まぁ、あとの祭りですが。後は任せました。私の、俺の家族のことも頼みますよ」
もう宇宙ステーションは限界を迎えている。
こうして最後に会話できていることさえ奇跡なのだ。
爆発の怒号は鳴り止まない。崩れていく天井。モニターのノイズが荒く今にも通信は途絶えそうだ。
「磯野さんもお元気で。社長のことしっかり頼んます。この人、昔から無茶苦茶ですからね」
「うぅ、榊くん……」
「それでは、おさらばです。今までお世話になりました!」
「あぁ、今までご苦労であった!さらばだ榊直哉!」
その日、海馬コーポレーションの所有する宇宙ステーションと1人の研究員が消息を断った。
この事件は翌日のニュースで大々的に取り上げられた。
当然、真樹那達は間に合わなかった。
宇宙エレベーターの入り口前で立ち尽くしていた。
無力な自分を痛感させられる。
通信が途絶えて砂嵐になったモニターがそれを思い知らせてくる。
宇宙ステーションで働いていた社員達は無事に帰還できたらしい。
真樹那たちと鉢合わせた所だ。
彼ら社員達の顔を見ればわかる。
大切な仲間を失った時の知った顔だ…
中には泣き崩れている女性もいる。
いっそのこと自分を罵倒してくれたら気持ちも少し楽になれたのかな。
それぐらい自分は弱い。
1人じゃ何もできない。
精霊のチカラがあっても助けられない命がある。
何度も経験したきた。
そして、これからも…
それでも真樹那はもう立ち止まらない。
「キット、今度こそ絶対にアイツに勝つぞ」
「うん!当然!!」
デュエルアカデミアを悲劇の舞台にさせてたまるものか。
To Be Continued…
真樹那「というわけで社長!木馬さん!磯野さん!力を貸してください!」
海馬 「フハハ何を今更!当然だ!榊の仇もある!デュアルアカデミアの入学試験まで徹底的にシゴいて究極の戦士にしてくれる!というか今更敬語とか気色悪いわ!」
木馬 「じゃ、俺は勉強見てやるよ。お前、中学行ってないだろ?ガリ勉真樹那にアップグレードして筆記試験一位で通過させてやる」
磯野 「じゃあ私は…」
真樹那「磯野さんは…えと…」
キット「何もないんじゃ…バカマキナ!」
真樹那「うるさいぞケモ娘!」
キット「ケモ…娘…!?」
真樹那「あ!磯野さん、オレってまだ失踪扱い?家族に連絡とかしてない??」
磯野 「え、えぇ、真樹那くんはシークレット中のシークレットですから」
真樹那「だったらそのまま失踪扱いで上手いこと情報操作よろしくー!入試の時に姉さん達にサプライズしてやろっと♪」
キット「うわー、これが噂に聞くシスコン」
※日付変更 真樹那が帰還した日→12月17日
※日付変更 真樹那が目覚めた日→12月24日