人理修復を成し遂げたマスターはありふれた世界じゃ最強に決まっている 作:アイリエッタ・ゼロス
しばらく待っていると車に新しく荷台を取り付け、その荷台に兎人族を乗せた南雲が
やって来た。
「水月先生! 全員連れてきました!」
「おう。じゃあ樹海に向かうが....俺等はどうする?」
「オレは走る」
「立香の後ろ」
「うちは霊体化してのんびり追いかけるわぁ」
「了解。じゃあ南雲、俺達の前を走ってくれ。後ろから追いかける」
「わかりました」
そう言って、南雲は車を走らせた。俺はメルトを後ろに乗せて車を追いかけ、アニキは
俺と並走し、酒吞ちゃんは霊体化して姿を消した。
「(この方角、ロビンがレイシフトした方の場所だな)」
そう思いながら、俺は周囲を確認しながらバイクを走らせた。そしてしばらくすると、俺達は
樹海の入り口に着いた。
「ここが樹海か....」
「(ロビン、この中に移動したのか?)」
俺は道中でロビンを見かけなかったことからそう考えていた。すると、一人の兎人族が
俺に近づいてきた。
「失礼ですが、あなたが水月殿ですが?」
「そうだが、あんたは?」
「私はカム。シアの父にしてハウリアの族長をしております。この度はシアのみならず我が一族の
窮地をお助け頂きありがとうございます」
カムと名乗った兎人族は俺に頭を下げてきた。
「礼はいい。こっちも対価は貰う予定だ」
「樹海にある迷宮までの案内でしたな。であれば、決して我等から離れないようにしてください。
はぐれてしまうと厄介ですから」
「了解した」
「それと、皆様出来るだけ気配を消しておいてもらえますかな? フェアベルゲンに見つかると
少々厄介なものでして....」
「わかった。....だとよ」
俺はアニキにメルトにそう言った。すると、二人は霊体化してこの場から姿を消した。俺も
二人が消えたのを見て気配を殺した。すると、カムは驚いた表情に変わった。
「これは....! 水月殿、南雲殿。ユエ殿や白崎殿と同じぐらいにしてもらえますかな?
これほどまで消されてしまうと我等でも見失ってしまいますので」
「わかりました」
「そうか」
そう言って、俺と南雲は少しだけ気配を戻した。
「いやはや、流石ですな!」
「そりゃどうも。それじゃ、案内頼むぞ」
「かしこまりました」
そう言って、カムは樹海の中に入っていった。俺達はその後ろをついていき、深い霧の中を
歩き出した。しばらく歩き続けていると、周囲から魔物の気配を感じた。カム達兎人族も
気づいたのか、その場で止まり周囲を経過し始めた。
「(そことそこら辺か....)」
「おい南雲。場所は....」
俺は南雲に続きを言おうとした時、魔物がいる方向に向かって緑色の光が飛んで行くのが
見えた。その光は草木の中に入り、魔物の断末魔が聞こえた。
「(今のは....)」
俺は周囲を見渡したが、光を放った本人は見当たらなかった。
「(宝具で消えてるな....)」
「先生! 今の光は....」
「安心しろ、俺の仲間だ。ただ、姿は消してるな....」
そう白崎に言うと、再び何かの気配を感じた。すると、カムの表情が苦虫を噛んだ表情に
変わり、シアは顔を青ざめていた。そして、俺達の前に現れたのは虎の亜人族だった。
「お前達....何故人間といる! 種族と族名を....! 白い髪の兎人族....だと!? 貴様等、報告の
あったハウリア族か! 亜人族の面汚し共め! 長年同胞を騙し続け、忌み子を匿うだけで
なく、今度は人間族を招き入れるとは! 反逆罪だ! もはや弁明など....!」
「メルト! アニキ! 殺すな!」
俺は咄嗟に二人にそう叫んだ。その叫び声に全員驚いたのか動きが止まった。すると、虎の
亜人族の正面にメルトとアニキが現れた。二人はそれぞれの武器を虎の亜人族の首元に
向けていた。突然二人が現れたことに、目を見開いて驚いており冷や汗が流れていた。
「....何で止めるのよ」
「余計な殺しはするな。ここで暴れられたら面倒だ」
「....安心しろ。オレは牽制のつもりだったぜ?」
「(どうだか....)」
そう思いながら、俺は虎の亜人族の前に歩いて行った。
「すまないな、俺の仲間が。ただ、こちらも敵意を向けられればそれ相応の対応をしなければ
ならない。まぁ、こちらも余計な血を流すのは見たくない。大人しく引いてくれるというの
なら命の保証はしよう。言っておくが、周辺にも仲間がいるのは分かっている。数は13人と
いったところか。この意味が、分からないわけではないだろ?」
「....何が目的だ」
「樹海にある迷宮に行きたいだけだ。俺達はある目的のために七大迷宮を攻略している。
その案内のために、この兎人族と契約を結んだ。樹海の大樹へ行くためにな」
「樹海にある迷宮だと? 七大迷宮とは、この樹海そのものだ。一度踏み込んだが最後、
亜人族以外には決して進むことも帰る事も叶わない天然の迷宮だ」
「にしては、随分と優しすぎる」
「どういう意味だ?」
俺の言葉に虎の亜人は訝しそうにそう聞いてきた。
「あぁ。俺達はここに来る前、オルクス大迷宮を攻略してきた。そこの迷宮じゃ、さっき
近くに現れた魔物とはレベルの違う魔物が山ほどいた。それに亜人族ならば簡単にこの樹海を
行き来できる。ならば"解放者"による試練にならないだろ」
俺の言葉を聞き終わると、虎の亜人は深く考え込んだような表情になった。
「....話は分かった。お前が、国や同胞に危害を加えないというなら、大樹の下へ行くくらいは
構わないと、俺は判断する。部下の命を無意味に散らすわけには行かないからな」
「話が分かるようで助かる」
「ただ....一警備隊長の私ごときが独断で下していい判断ではないため本国に指示を仰ぐ。
お前の話も、長老方なら知っている方もおられるかもしれない。お前に本当に含むところが
ないというのなら、伝令を見逃し私達とこの場で待機しろ」
「わかった」
「ザム! 聞こえていたな! 長老方に余さず伝えろ!」
「了解!」
虎の亜人がそう叫ぶと、一人の虎の亜人が走り出した。
「メルト、アニキ。二人とも武器を納めてくれ」
「あぁ。悪かったな」
「....わかったわよ。はぁ、蹴り損ねたわ。立香、代わりにアナタを蹴らせなさい」
「何でだよ!」
どうにか止めさせようとしたが、結局俺はやわらか魔剣ジゼルを食らった。そうしてしばらく
すると、新たな亜人が数人現れた。見たところ、真ん中の初老の男が一番偉そうな亜人なの
だと俺は考えた。
「ふむ、お前さん等が問題の人間族かね? 名は何という?」
「水月 立香。一応こいつ等の責任者だ」
「南雲 ハジメです。あなたは....」
「私はアルフレリック・ハイピスト。フェアベルゲンの長老の座を一つ預からせてもらっている。
さて、お前さん等の要求は聞いているのだが....その前に聞かせてもらいたい。"解放者"とは
何処で知った?」
「オルクス大迷宮にあるオスカー・オルクスの隠れ家の手記からだ」
「証明できるか?」
「南雲」
「はい」
俺が南雲を呼ぶと、南雲は"宝物庫"から魔石を取り出した。
「オルクス大迷宮の奈落の底で手に入れた鉱石です。そしてこれはオスカー・オルクスが
付けていた指輪です」
「な、何て純度だ....」
「....確かに、お前さん等はオスカー・オルクスの隠れ家にたどり着いたようだ。他にも色々
気になるところはあるが、よかろう。取り敢えずフェアベルゲンに来るがいい。私の名で滞在を
許そう。ああ、もちろんハウリアも一緒にな」
アルフレリックの言葉に、周囲の亜人達からは抗議の声が上がった。だが、その抗議の声を
アルフレリックは厳しい表情で咎めた。
「彼等は、客人として扱わねばならん。その資格を持っているのでな。それが、長老の座に
就いた者にのみ伝えられる掟の一つなのだ」
「俺等、別にそっちの国には用はねぇぞ?」
「いや、そうしてもらわなければ大樹には行けぬ」
「どういうことだ?」
「大樹の周囲は特に霧が濃い。亜人族でも方角を見失う程にな。一定周期で霧が弱まるから、
大樹の下へ行くにはその時でなければならん。次に行けるようになるのは....十日後だ。
亜人族なら誰でも知っているはずだが....」
「....だそうだが?」
「シアさん? カムさん?」
「あっ....」
すると、カムの口からそんな声が聞こえた。
「いや、その、何といいますか....ほら、色々ありましたから、つい忘れていたといいますか....
私も小さい時に行ったことがあるだけで、周期のことは意識してなかったといいますか....」
「(契約する奴ミスったか....)」
「はぁ....一先ず南雲、フェアベルゲンに着いたらそいつ等説教しとけ。取り敢えず、今は
フェアベルゲンに行くぞ」
「わかりました....」
「....では私達についてきてくれ」
アルフレリックにそう言われ、俺達はフェアベルゲンに向かった。
~~~~
「試練に神代魔法、それに神の盤上か....」
南雲に説明を丸投げし、その説明を聞いたアルフレリックはそう呟き、アルフレリックは
フェアベルゲンの長老の座に就いた者に伝えられる掟を話し始めた。この樹海の地に七大迷宮を
示す紋章を持つ者が現れたらそれがどのような者であれ敵対しないこと、そしてその者を
気に入ったのなら望む場所に連れて行くことという何とも適当な口伝だった。そして今後に
ついて話そうとした時、階下の方が騒がしくなった。
「何の騒ぎだ?」
俺が下を見ると、兎人族が他の様々な亜人族に詰め寄られていた。
「おいおい、随分荒れてるな....」
「何をしているお前達....」
「アルフレリック....貴様どういうつもりだ。なぜ人間を招き入れた? こいつ等兎人族もだ。
忌み子にこの地を踏ませるなど....返答によっては長老会議にて貴様に処分を下すことに
なるぞ」
そう言ったのは熊の亜人で拳を握り締めていた。
「口伝に従ったまでだ。お前達も各種族の長老の座にあるのだ。事情は知っているだろう?」
「何が口伝だ! そんなもの眉唾物ではないか! フェアベルゲン建国以来一度も実行されたこと
などないではないか!」
「だから今回が最初になるのだろう。それだけのことだ。お前達も長老なら口伝には従え。
それが掟だ。我ら長老の座にある者が掟を軽視してどうする」
「なら、こんな人間族の小僧が資格者だとでも言うのか! 敵対してはならない強者だと!」
「あぁ」
「....ならば、今この場で!」
そう言って熊の亜人が殴り掛かってしようとした時、熊の亜人の動きは止まった。
「なっ....! 何故身体が!?」
俺が熊の亜人をよく見ると、熊の亜人には細い糸の様な物が絡まりついていた。
「そういう事か....アーチャー! いるんだろ」
俺がそう叫ぶと、誰もいない場所から一人の男が現れた。男が現れた事に、俺とメルトと
アニキ以外は驚いた表情に変わった。
「....何だ、気づいてたのかマスター」
「あの亜人に絡まってる糸を見て気づいた。というか、森の中で途中から近くにいただろ。
あの矢もアーチャーが撃った物だろ?」
「相変わらず、勘の良さは英霊並みだねぇ....」
そう言いながら、ロビンは俺の隣に立った。
「ま、オタクらこの人に手は出すのは止めといたほうが良いと思いますぜ。この人に手を出そうと
したらおっかない人らがアンタらを殺そうとしますからねぇ。例えば、ここにいるペンギンの
パーカー着てる女王様や、そこで刀を構えてる鬼の姫様がな」
ロビンがそう言った方向には、刀を構えた酒吞ちゃんがいた。
「ま、魔人族....!」
「そないなんと同じにせんといてぇな。うちは鬼。それよりも旦那はん、斬ってええの?」
「ダメ。やってもみねうちに抑えて。メルトもだぞ」
「旦那はんが言うなら....」
「気が向けばね」
「はぁ....どうしてこう血の気が多いのやら....」
そう呟きながら、俺は熊の亜人族の前に立った。
「で、どうする? 余計な血を流したいのなら好きにすればいいが....」
そう言いながら、俺は亜人達に殺気を向けた。すると、メルトと酒吞ちゃんからも殺気が
放たれ、亜人達は毛が逆立て地面に膝をついた。
「ま、アンタ等がどうしようと俺は興味がない。ただまぁ....俺等の邪魔をするってなら、
アンタ等を潰す」
「貴様....! そのような態度でこちらが友好的に....!」
「知るか。先に殺気を向けたのはテメェ等だろ。こっちが被害者でそっちが加害者。テメェも
長老なんだろ? だったら罪の判別ぐらいはつけとけよ」
「グゼ、気持ちはわかるが、そのくらいにしておけ。彼の言い分は正論だ」
すると、アルフレリックは文句を言ってきた亜人にそう言った。
「確かに、彼等は紋章の一つを所持しているし、その実力も大迷宮を突破したと言うだけの
ことはあるね。僕は、彼を口伝の資格者と認めるよ。じゃないと、本当に殺されないからね....
みんなはどうする?」
狐の亜人は俺を見ながらそう言った。他の亜人を思うところはあるようだが、渋々頷いた。
「水月 立香。我らフェアベルゲンの長老衆はお前さん達を口伝の資格者として認める。故に、
お前さん等と敵対はしないというのが総意だ....可能な限り末端の者にも手を出さないように
伝える。しかし....」
「絶対は無いってか?」
「ああ。知っての通り、亜人族は人間族をよく思っていない。正直、憎んでいるとも言える」
「ま、納得はできるな。それで?」
「お前さん等を襲った者達を殺さないで欲しい。お前さん等の実力なら可能だろう?」
「まぁ出来るだろうが....あんまりしつこいと流石にうちのお姫様がなぁ....」
そう言いながら、俺はメルトを見た。
「ならば、我々は大樹の下への案内を拒否させてもらう。口伝にも気に入らない相手を案内する
必要はないとあるからな」
すると、虎の亜人が俺にそう言ってきた。
「そしてハウリア族に案内してもらえるとは思わないことだ。そいつらは罪人。フェアベルゲンの
掟に基づいて裁きを与える。何があって供に行動していたのか知らんが、ここでお別れだ。
忌まわしき魔物の性質を持つ子とそれを匿った罪。フェアベルゲンを危険に晒したも
同然なのだ。既に長老会議で処刑処分が下っている」
「長老様方! どうか、どうか一族だけはご寛恕を! どうか!」
「シア....止めなさい。皆、覚悟は出来ている。お前には何の落ち度もないのだ。そんな家族を
見捨ててまで生きたいとは思わない。ハウリア族の皆で何度も何度も話し合って決めたこと
なのだ。お前が気に病む必要はない」
「でも、父様!」
「既に決定したことだ。ハウリア族は全員処刑する。フェアベルゲンを謀らなければ忌み子の
追放だけで済んだかもしれんのにな」
「そんな....」
虎の亜人の言葉にシアは涙をこぼし始めた。
「そういうわけだ。これで、貴様等が大樹に行く方法は途絶えたわけだが、どうする? 運良く
たどり着く可能性に賭けてみるか?」
「お阿呆はんやなぁ。そないなの脅しなってへんで」
そんな虎の亜人の言葉に酒吞ちゃんはそう言った。
「そうだな」
「どういう意味だ....」
「結局、アナタ達は私達の邪魔をするのでしょう? なら、手を出す出さないに限らずアナタ達を
消すわ。だって私達の邪魔をしているもの」
「確かに、メルトリリスの言う通りだな」
「どうする? ここで私達と一戦を交えて全滅する? 私達としてはアナタ達がどれだけ死のうと
関係ないもの。そこの兎達がいれば目的は果たせるから」
「悪いこと言いまへんからその子等の処刑はやめとき。あんたはん等にも家族はおるやろ?」
「だが! 掟が!」
「じゃあ聞くんだが....もしも自分の子供にそこの兎ちゃんみたいな子が産まれたら殺すんだな」
ロビンの言葉に、さっきまで攻撃的だった亜人達の表情は固まった。
「どれだけ子供に恵まれなかった亜人にいざ子供が産まれた時に兎ちゃんみたいな子が産まれたら
殺すんだよな。例え、自分の子供だとしても」
「そ、それは....」
「おいおい、自分の子供は可愛いからダメって言うのか? そりゃ筋が通らないでしょ。あぁ、
それとも兎ちゃん達は興味が無いから死んでも問題ないと」
「....アーチャー、そこら辺にしておけ」
「....わかりましたよマスター」
俺はロビンにそう言って話を止めた。
「まぁそういうこった。敵対するなら、覚悟を決めな」
「....本気かね?」
「あぁ」
「フェアベルゲンから案内を出すと言っても?」
「敵意向けてる奴等に案内されてもな。敵意のある奴と無い奴なら無い奴を選ぶだろ?」
「....わかった。ならばお前さん等の奴隷ということにでもしておこう。フェアベルゲンの
掟では、樹海の外に出て帰ってこなかった者、奴隷として捕まったことが確定した者は死んだ
ものとして扱っておる。ゆえに、既に死亡と見なしたものを処刑はできまい」
「アルフレリック! それでは!」
「ゼル。わかっているだろう。争えば私達に勝機は万に一つも無い。罪の無い者達が死ぬような
事態は避けなければなるまい」
「だが....!」
「ならば彼等をフェアベルゲンや周辺の集落への立ち入りを禁ずる。以降、彼等に手を出した場合
全て自己責任とする。これなら文句はないだろう....」
「....っ」
アルフレリックの言葉に、他の亜人族はついに何も言えなくなった。
「....すまないが、早々に立ち去ってくれるか。ようやく現れた口伝の資格者を歓迎できないのは
心苦しいが....」
「いや、冷静な判断感謝する。さて、行くぞお前等。アーチャー、拘束解除してやれ」
「了解」
アーチャーは熊の亜人の拘束を解除したのを確認し、俺は全員を連れて外に出た。
「あ、あの私達は....」
「とっとと来い。契約、果たしてもらわないと駄目だからな」
シアの困惑した言葉に、俺はそう言った。
「あ、ありがとうございます!」
「礼なら南雲に言っとけ」