人理修復を成し遂げたマスターはありふれた世界じゃ最強に決まっている   作:アイリエッタ・ゼロス

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殺意と依頼

 白崎side

 

「あ゛?」

 

 先生のその一言で、ギルド内の空気は一瞬にして真冬の北海道かと思うぐらい寒くなった。

 そして同時に先生のいる床と私達がいた机は亀裂が走り、先生の身体からは謎のオーラの様な

 物が見えた。そんな先生の表情は無表情なのだが、明らかに怒っているのが分かった。

 

「(う、動けない....)」

 私は先生の殺気を感じて身動きが取れなかった。身動きが取れなくなったのは私だけでなく、

 ハジメくんやユエちゃん、このギルド内にいた人間は全員が身動きが取れなくなっており、

 何人かは気を失っていた。ただ、メルトリリスさんだけは驚いた表情で立ち上がっていた。

 

「おいテメェ....ケンカ売ってんのか? 誰の女を妾にするって?」

 先生はそう言って立ち上がると、貴族らしい男の前に立った。

 

「ひ、ひぃぃぃぃ!?」

「おい、さっさと答えろや。あぁ!?」

 先生は男の腹を踏みつけながらそう言った。

 

「(と、止めた方が良さそうだけど....)」

 私はそう思っていたが、あまりの恐怖で身体が動かなかった。

 

「レ、レガニド! 私を助けろぉぉぉ!」

 すると、男はここから離れた場所にいる冒険者に向かってそう叫んだ。叫んだのだが....

 

「む、無茶言うな!? 俺はまだ死にたくねぇぞ!」

 冒険者はそう叫んで助けることはなかった。

 

「き、貴様ぁぁ! 私を裏切る気か!」

「こんな化け物と戦ったら俺が死....!」

 そう叫んだ冒険者だったが、次の瞬間氷漬けになった。先生の方を見ると冒険者に手を

 向けており、恐らく先生の魔法で氷漬けにされたのだろうと分かった。

 

「ピーピーうるせぇな....黙ってろや」

 そう言いながら、先生は踏みつけている男に手を向けた。

 

「お、お前! わ、私を誰だと思っている! プーム・ミンだぞ! ミン男爵家に

 逆らう気かぁ!」

「だからどうした。平民だろうが貴族だろうが王族だろうが、メルトに手を出す奴は等しく

 潰す。安心しろ。テメェの家が報復に来るってなら返り討ちにしてやるよ」

 そう言いながら先生は拳を振り下ろしたのだが、その拳が男に届くことはなかった。何故なら、

 先生の拳をメルトリリスさんが脚で止めたからだ。

 

「....メルト、何で止めた」

「私のために怒ってくれたのは評価するけど、少しは落ち着きなさい。こんな所で殺人事件

 起こせば後処理が面倒よ」

「....」

「それぐらい、立香なら少し考えればわかるでしょ?」

「....あぁ。わかったよ」

 先生はそう言うと、踏みつけていた足を離し殺気が収まった。

 

「良い子ね」

「(い、息が詰まるかと思った....)」

「あぁそれと....」

 メルトリリスさんは一言そう呟くと、倒れていた男を先生が氷漬けにした冒険者に向かって

 蹴り飛ばした。

 

「アナタの様な人間が私を妾に? お生憎様。アナタなんかじゃ私の隣に立つことさえ許され

 ないわ。もう少し自分の立場を自覚することね。それと、私は人間が嫌いなの。次、私の前に

 現れたら全身を粉々に切り刻んであげる」

「....メルト、自分が蹴りたくて俺のこと止めたな?」

「あら、何の事かしら?」

「(こ、この人達....止めれる時にちゃんと止めないと駄目なやつだ....)」

 私がそう思っていたら、先生とメルトリリスさんはギルドの職員に囲まれていた。

 

 ~~~~

 立香side

 

「あ、あの、申し訳ありませんが....あちらで事情聴取にご協力願います」

 アホとの問題が解決した俺はギルドの職員に囲まれた。

 

「おいおい....こっちは被害者だ。自分の女を敵から守っただけだがまさかそれが悪い事、

 なんて言わねぇよな?」

 俺はそう言いながら囲んできた職員を睨みつけた。

 

「そ、そう言われましても....ギルド内で起こされた問題は当事者双方の言い分を聞いて

 公正に判断することになっていますので....規則ですから冒険者なら従って頂かないと....」

「規則ねぇ....だったら俺がキレた時点で止めろよ」

「そ、それは....」

「てかあの貴族擬き、今回のが一回目っていう感じじゃねぇな? テメェ等あんなの放置してたら

 こういう問題が起こるってのは少し考えればわかるだろ。貴族だか何だか知らねぇが、ちゃんと

 注意してろよ。それかギルドを出禁にでもしてろ」

「お、おっしゃる通りです....」

「はぁ....まぁ聴取ぐらいならいい。ただし、あのアホと同じ対応はごめんだ。良いな?」

「そ、そう言われましても我々では....」

「....これは一体、何事ですか?」

 すると、突然別の男の声が聞こえた。

 

「ドット秘書長! いいところに! これはですね....」

 

 ~~~~

 

「....話は大体聞かせてもらいました。証人も大勢いる事ですし嘘はないのでしょうね。

 やり過ぎな気もしますが....」

「殺さなかっただけマシと思って欲しいんだが?」

「....取り敢えず、彼等が目を覚まし一応の話を聞くまではフューレンに滞在はしてもらうと

 して、身元証明と連絡先を伺っておきたいのですが....それまで拒否されたりはしない

 でしょうね?」

「さっさとしてくれよ? あんまり遅いようならこっちのやり方で連中に吐かせるからな」

 そう言って俺はステータスプレートを投げた。

 

「....何ですか、これは」

「知らねぇよ。何回やってもこのステータスが表示されるんだよ」

「....そちらの方々は」

「そっちの二人は普通だ。そこの三人はステータスプレートは持ってない。そっちはそいつの

 奴隷だし、こいつは倒れてるところを拾った」

「でしたらギルドで立て替えましょう。事情聴取もそちらで行います」

「(めんどくせぇ....)」

 そう思っていると、ユエが俺の袖を引っ張った。

 

「リツカ、あの手紙....」

「手紙? ....あぁ、これか」

 ユエに言われ、俺は腰のポーチから手紙を取り出した。

 

「それは?」

「ブルックのギルドの受付からもらった手紙だ。揉めたらその町のお偉いさんに見せろと」

「....拝見します」

 そう言ってドットが手紙を見始めると、みるみるうちに表情が変わっていった。

 

「....少々支部長に確認を取らせていただきます。その間、別室でお待ちいただけますか?」

「まぁ良いが....」

「ではこちらで....支部長は今どこに!」

 そう言ってドットは職員用の通路に走っていった。

 

「(あの人、一体何者だよ....)」

 

 ~~~~

 

 別室に通され十分後、俺達は支部長室に案内された。

 

「初めまして。冒険者ギルド、フューレン支部支部長イルワ・チャングだ。立香君、ハジメ君、

 メルトリリス君、香織君、ユエ君、シア君でいいかな?」

「あぁ。名前は手紙か?」

「その通りだ。先生からの手紙に書いてあったよ。随分と目をかけられている....というより

 注目されているようだね。将来有望、ただしトラブル体質なので出来れば目をかけてやって

 欲しいと」

「トラブル体質、ねぇ....」

「実際そうでしょ?」

「まぁ確かに....で、先生って知り合いか何かか?」

 俺はイルワの発言が気になってそう聞いた。

 

「おや? 本人から聞いてないのかい? 彼女は王都のギルド本部でギルドマスターの秘書長を

 していたんだよ。その後、ギルド運営に関する教育係になってね。今、各町に派遣されている

 支部長の五、六割は先生の教え子なんだ。私もその一人で、彼女には頭が上がらなくてね。

 その美しさと人柄の良さから、当時は僕等のマドンナ的存在、あるいは憧れのお姉さんのような

 存在だった。その後、結婚してブルックの町のギルド支部に転勤したんだよ。子供を育てるにも

 田舎の方が良いって言ってね。彼女の結婚発表は青天の霹靂でね。荒れたよ。ギルドどころか、

 王都が」

「ほえー....」

「そんなすごい人だったんですね....」

「ん、キャサリン凄い....」

「通りで人を見分ける力が凄いわけだ....中枢の人間の中でも上澄みじゃねぇか。まぁそれは

 一度置いておくとして....それで、それ身分証明になるか?」

「あぁ。先生からの紹介だ。身分証明は問題ない」

「身分証明は、ね....」

 メルトがそう言うと、イルワは瞳の奥を光らせた。

 

「....君達の腕を見込んで一つ依頼だ」

「依頼だ?」

「あぁ。行方不明者の捜索だ。北の山脈地帯の調査依頼を受けた冒険者一行が予定を過ぎても

 戻ってこなかったため、冒険者の一人の実家が捜索願を出した、というものだ」

 そう言いながら、イルワは俺達の前に一枚の紙を置いた。

 

「依頼人はクデタ伯爵。捜索して欲しいのは伯爵家の三男ウィル・クデタという人物だ」

「貴族の息子かよ....」

「先程君達と揉めた人物とは違うから安心してくれたまえ。....伯爵は、家の力で独自の

 捜索隊も出しているようだけど手数は多い方が良いとギルドにも捜索願を出した。つい昨日の

 ことだ。最初に調査依頼を引き受けたパーティーはかなりの手練でね、彼等に対処できない

 何かがあったとすれば、並みの冒険者じゃあ二次災害だ。相応以上の実力者に引き受けて

 もらわないといけない。だが、生憎とこの依頼を任せられる冒険者は出払っていてね。そこへ、

 君達がタイミングよく来たものだから、こうして依頼しているというわけだ」

「なら俺達には相応以上の実力があると?」

「あぁ。君が氷像にした人物のランクは黒だ。それに、樹海の魔物、ライセン大峡谷を余裕で

 探索出来る者を相応以上と言わずして何と言うのかな?」

「何でその事を....って、手紙か。シア、お前だな」

 俺はそう言ってシアを見た。

 

「わ、私だけじゃないですよ! ユエさんも話しましたからね!」

「っ! シア、裏切り者....」

「お前等なぁ....」はぁ

 完全に退路を断たれた俺はため息が出た。

 

「生存は絶望的だが、可能性はゼロではない。伯爵は個人的にも友人でね。できる限り早く捜索

 したいと考えている。どうかな? 今は君達しかいないんだ。引き受けてはもらえないだろうか?」

「....友人の息子にしては、随分入れ込むわね」

 メルトが何気なく呟いたその言葉を聞き、イルワは苦い顔をした。

 

「彼に....ウィルにあの依頼を薦めたのは私なんだ。調査依頼を引き受けたパーティーにも

 私が話を通した。異変の調査といっても確かな実力のあるパーティーが一緒なら問題ないと

 思ってね。実害もまだ出ていなかったし。ウィルは、貴族は肌に合わないと昔から冒険者に

 憧れていてね....だがその資質はなかった。だから強力な冒険者の傍で、そこそこ危険な場所へ

 行って、悟って欲しかった。冒険者は無理だと。昔から私には懐いてくれていて....

 だからこそ、今回の依頼で諦めさせたかったのに....」

「それ、アナタの自業自得じゃない」

「君の言う通りだ。これは私の油断が招いた事故だ。だからこそ、即急に解決したいんだ」

「....だそうよ」

「めんどいが仕方ねぇか....いくつか条件がある。それを飲めるならその依頼を受けよう」

「条件?」

「あぁ。一つ、シアとユエのステータスプレート作る事。その際、二人の表記された内容に

 関して他言無用を約束すること。二つ、面倒ごとが起こった際に俺達の後ろ盾になる事。

 三つ、それなりの報酬。以上三つだ」

「三つ目は今ここで約束しよう。ついでにランクも私の推薦で上がるようにしよう。だが、

 一つ目と二つ目は....」

「この二人のステータスは異質だ。表沙汰になれば面倒だ。だから初期状態を知ってるのは

 ここにいる人間だけにしたい」

「メルトリリス君は....」

「それは依頼が終わった後に気が向けば話す。で、二つ目の方はどの道遅かれ早かれ俺達は

 教会と対峙する。その際にある程度の教会の情報提供と施設の利用の許可が欲しい」

「きょ、教会と対峙ですか!?」

 俺の言葉にドットは驚いた様子だった。

 

「全員が無理ならこいつ等四人だけでも保護をしろ。俺とメルトは最悪どうにかなる。それで、

 どうする?」

「....犯罪に加担するような倫理にもとる行為・要望には絶対に応えられない。君達が要望を

 伝える度に詳細を聞かせてもらい、私自身が判断する。だが、できる限り君達の味方になる

 ことは約束しよう」

「ま、それで十分だ。....契約成立だな」

「君達の秘密が気になってきたが....それは、依頼達成後の楽しみにしておこう」

「もしも亡くなってたら遺品か遺体でも持ってきたら良いか?」

「あぁ。どんな形であれ、ウィル達の痕跡を見つけてもらいたい。どうか、よろしく頼む」

 イルワはそう言って頭を下げてきた。

 

「....ま、過度な期待はしないでくれよ。行くぞお前等」

 そう言って、俺達は支部長室を後にした。

 

 ~~~~

 イルワside

 

「支部長....よかったのですか? あのような報酬を....」

 彼等が部屋から出ていくとドット君がそう聞いてきた。

 

「ウィルの命がかかっている。彼等以外に頼めるものはいなかった。仕方ないよ。それに、

 彼等に力を貸すか否かは私の判断でいいと彼等も承諾しただろう。問題ないさ。それより、

 彼らの秘密....」

「ステータスが異質、ですか?」

「ふむ....ドット君は知っているかい? ハイリヒ王国の勇者一行は皆、とんでもないステータス

 らしいよ?」

「っ! 支部長は彼が神の使徒であると? しかし、彼はまるで教会と敵対するような口ぶり

 でしたし、勇者一行は聖教教会が管理しているでしょう?」

「そう。でも....およそ四ヶ月前、その内の三人がオルクスの奈落の底に魔物と一緒に

 落ちたってね。恐らく、その三人が立香君、ハジメ君、香織君なのだろう」

「....まさか、その落ちた彼等が生きていたと? 四ヶ月前と言えば、勇者一行もまだまだ

 未熟だったはずでしょう? オルクスの底がどうなっているのかは知りませんが、とても

 生き残るなんて....」

「未熟か....それは、正しいようで間違っているだろうね」

 私はそう言ってドット君の顔を見た。

 

「どういう意味ですか?」

「神の使徒の一人が、召喚されたその日に神殿騎士の一人を殺したそうだ。それも、圧倒的な

 実力で。恐らくそれが立香君なのだろう」

「彼が....!?」

「あぁ。一目見てわかったよ。....彼は、明らかに乗り越えてきた死線が違う」

 先生からの手紙にも書いてあったが、立香君とメルトリリス君は明らかに他の四人とは違う

 空気感を持っていた。

 

「ギルド内での強烈な殺気にも納得がいったよ。....少なくとも、彼とは敵対するのは

 避けた方が良いだろうね。教会を敵に回す方がいくらかマシだ....」

「本気で言っているんですか....?」

「あぁ」

「支部長....引き際は見誤らないでくださいよ?」

「わかっているとも」

「(さて、君は一体何者だろうね立香君)」

 

 

 

 

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