人理修復を成し遂げたマスターはありふれた世界じゃ最強に決まっている 作:アイリエッタ・ゼロス
立香side
「水月先生」
「何だ?」
「オルクスで知ったこの世界の真実、畑山先生に話しても良いですか?」
飯も食い終わって部屋で休んでいると、南雲と白崎が来てそう聞いてきた。
「....好きにしろ。ただし、俺のことについては黙っとけよ?」
「そこは分かってますよ」
「じゃあ行ってきますね」
そう言うと、二人は部屋から出て行った。
「良かったのですか、我が夫?」
「まぁあそこで知ったこと喋ったところで特に問題もなさそうだしな....」
俺はモルガンに膝枕されながらそう言った。
「モルガン、そろそろ交代」
「....良いでしょう。我が夫」
「あぁ」
俺はモルガンの膝の上からどき、第3再臨の姿に変わったティアマトの膝の上に座った。
「素直な我が子。お母さん嬉しい....」
そう言うと、ティアマトは俺を抱きしめながら頭を撫でてきた。
「(メルトに見られたら蹴られるな....)」
そう思いながら、俺は大人しくしていた。何故二人とこのような状況になってるかというと、
数時間前の説教で二人から甘やかしたいと言われたからだ。俺は下手なことを言えばさらに
説教をされると思ったため、二人のお願いを大人しく聞いたのだった。
「そういやメルトは....」
「メルトリリスなら、虞美人のもとに行きましたよ」
「そう、か....」
~~~~
虞美人side
「....わざわざ一人で私のもとに来るなんて珍しいわね、メルトリリス」
宿の屋根の上で一人酒を飲んでいた私のもとにメルトリリスがやって来た。
「世間話をしに来たわけじゃないの。アナタに聞きたいことがあるわ」
「聞きたいこと、ね....」
「立香のことよ。....闇落ちの件、知ってるわよね?」
「あぁ、その事....何でわざわざ私に聞きに来たのよ?」
「あの二人は口が堅いでしょ?」
「(遠回しに口が軽いって言われたわね....)」
そう思いながら、私は酒を飲んだ。
「それに....その顔にある傷、立香が随分気にしているようだったわ。その傷、立香が
付けたのよね」
メルトリリスはそう言って、私の右頬にある傷を見ていた。
「(ま、遅かれ早かれバレるわよね)」
「えぇそうよ。この傷、あの後輩に付けられたわ」
「やっぱり....治せないの?」
「別に治せるわよ。でも、後輩に自分がやらかした事を忘れさせないために残してるだけよ。
ま、私なりの嫌がらせね」
「....」
「ま、傷の事はあんたはどうでもいいわよね。あんたが知りたいのは闇落ちの件でしょ」
「そうよ」
「....はぁ。私が言ったって言うんじゃないわよ」
そう言って、私は杯を一度置いた。
「あの後輩はね....なってしまったのよ、八番目の獣に」
「獣って....まさか!?」
「そうよ。存在しないはずの八番目。"守護"の理を持つ獣。それが後輩よ」
「嘘でしょ....」
私の言葉に、メルトリリスはその場で固まっていた。
「嘘だったら、どれだけよかったかしらね」
「じゃあ、立香は....」
「安心なさい。後輩は人間よ、半分はね」
「半分....?」
「後輩はビーストになった際、完全にビーストにはならなかった。元々人だった魂の半分が
ビーストに堕ちた。だから今の後輩は人間とビーストのハーフって言ったところね。ま、
そのビーストに堕ちた魂はキャスター達の魔術によって封じ込められてるけど」
「....」
「何でビーストになった、って顔してるわね。....ま、後輩一人に背負わせすぎたツケが
回ってきたのよ」
そう言いながら、私は杯に酒を注いだ。そして、私は杯が溢れても酒を注ぎ続けた。
「この杯は人間の心とでも思いなさい。人間一人の許容量なんてこの杯ぐらいよ。なのに、
あの後輩はそれを超えても進み続けた。未練やら恨みやら呪いやら....抱える必要も無い物を
抱えて。そうしていくうちに、杯の方が壊れた。だから後輩は、一時的に人じゃなくなった。
そして、ビーストになったのよ」
「そう、なのね....」
「....言っとくけど、自分のせいだなんて思うんじゃないわよ」
「っ....!」
私は後悔したような表情をしたメルトリリスにそう言った。
「死んだのがあんたでも、あんたじゃなくてもどの道後輩はああなってたわ。....そこまで、
後輩は自分の中にため込んでたのよ」
「立香....」
「だからまぁ、あんたはしっかり後輩を見張って毒抜きしなさい。他の連中がやるよりも、
あんたがやるのが一番効果的よ」
「....」
「それに....後輩が再びビーストにならなかったのもあんたにもう一度会うっていう
希望を持ってたからよ。だから、あんたに再会できた後輩は暴走することはないと
思うわよ。多分だけどね」
そう言って、私はメルトリリスに近づいて一発デコピンをした。
「っ~!? 何するのよ!」
「辛気臭い顔してんじゃないわよ。酒がマズくなるわ。....というか、聞きたいことには
答えたんだからさっさと帰って後輩とイチャついてなさい。あんた達の面倒見るこっちも
疲れるのよ」
「アナタに面倒見られた覚えはないわよ!」
「表向きはね。裏で私がどれだけ手を回してんだか....」
私はそう言うとさっきまで座ってた場所に戻った。
「ほら、とっとと帰った帰った。じゃないと後輩、あの二人に食われるわよ」
「っ! あの二人....!」
メルトリリスはそう言うと踵を返した。
「お礼は改めてさせてもらうわ!」
そう言って、メルトリリスは目にもとまらぬ速さでこの場から消えた。
「はぁ....全く、世話のかかる二人ねぇ」
私はそう呟いて、右頬の傷を撫でながら酒を飲んだ。
「二十と少し生きた人間と、生まれて数年の英霊の行く末....今度は死に際をしっかり
看取らせなさいよ、後輩」
そう言いながら、私はある一点を見つめていた。
~その頃~
白崎side
「そんな事が....! な、南雲君達はもしかしてその狂った神をどうにかしようと旅を....?」
「邪魔をしてくるなら殺そうと思いますが、僕達はあくまで地球に帰るのが優先です」
「....アテはあるんですか?」
「大迷宮にある神代魔法が鍵です。それを七つ集めることが出来れば、もしかしたら地球に
帰ることが出来るかも知れません」
ハジメくんと私は畑山先生の部屋に来てオルクスで知ったこの世界の真実を話していた。
「ただ....行ったところで攻略はほぼ不可能だと思ってください。僕や香織達だけで
攻略しようとしても成功率は三割あるかどうかといったところです。正直、水月先生がいた
おかげで奈落から脱出できたと言っても過言ではないです」
「そんな....」
「ハッキリ言いますよ....僕達と水月先生とでは戦闘力に天と地ほどの差があります。僕、
香織、ユエ、シアの四人がかりでも水月先生に勝つことは不可能です」
「っ!? 水月先生は、一体何者なんですか!」
「....それは言えません。水月先生との約束なので」
「私も、水月先生から黙っておけと言われているので....」
「そう、ですか....」
畑山先生は落ち込んだ表情でそう言った。すると畑山先生はしばらく考え込んだ表情をして
こう言ってきた。
「....一先ず、お二人の事情は分かりました。確かに私達のもとに戻れば問題が起こる
可能性についても....」
「そうですか。じゃあ、僕達はこれで....」
そう言ってハジメくんが部屋から出ようとすると....
「八重樫さんは! 八重樫さんは諦めていませんでしたよ....」
畑山先生は大きな声でそう言った。
「他のみんなは、白崎さんは生きて南雲君は死んだと思っていますが....八重樫さんだけは、
まだ三人が生きているのではと....」
「雫ちゃん....」
私は今ここにいない大切な親友の名前を呟いた。
「....八重樫さんは、まだ無事ですか?」
「は、はい。オルクス大迷宮は危険な場所ではありますが、順調に実力を伸ばして攻略を
進めているようです。時々届く手紙にはそうありますよ」
「....そうですか」
「....畑山先生。なら、今度書く手紙に書いておいてください。敵は仲間の中にいます。
警戒するなら、魔物じゃなく仲間だって」
私は畑山先生の話を聞き、畑山先生にそう言った。
「ど、どういうことですか?」
「みんなの様子を見てましたが....ハジメくんが落ちたのは事故って事になってませんか?」
「え、えぇ....」
「それは大きな間違いです。ハジメくんが落ちた原因の魔法は、明らかに狙われたものです」
「ほ、本当なんですか!?」
「はい。実は、奈落に落ちた時に水月先生に聞いたんです」
~~~~
『先生』
『何だ?』
『あの....南雲くんが受けたあの攻撃って....』
『ありゃ狙ってたな。明らかに軌道が変わるのが見えたし直撃コースだった。ま、誰が
撃ったかまでは見れんかったが....』
『(南雲くんに恨みを持つ人間って....)』
~~~~
「私は、誰が狙ったか見当はついています」
「い、一体誰が....」
「....それは言えません。まだ確証はないので」
「そう、ですか....白崎さんは、もし犯人が考えている人だった場合どうするつもりで....」
「それは....その時にならないと分かりません....」
そう言いながら、私は自分の持っている杖を握り締めた。
「香織、そろそろ....」
「っ! うん。じゃあ、私達はこれで。伝えることは伝えたので....」
そう言って、私達は部屋から出た。そして、自分達の部屋へ向かって歩いている時....
「明日....水月先生に、八重樫さんのところに顔出せるか頼んでみようか」
ハジメくんが私にそう言ってきた。
「っ! 良いの....?」
「うん。....心配なんでしょ?」
「ありがとうハジメくん!」
そう言って、私達は自分達の部屋に戻った。