人理修復を成し遂げたマスターはありふれた世界じゃ最強に決まっている 作:アイリエッタ・ゼロス
「....」
現在、私達がいる部屋はお通夜の様な空気になっていた。その理由は、さっきの水月先生と
その仲間の人との会話が原因だった。
「水月先生、変わっちまったよな....学校でもどこか冷めてる人だと思ったけど....」
「あぁ....」
「....違うわよ。香織に聞いたけど、あれが水月先生の素の姿みたいよ」
玉井達の言葉に私はそう言った。
「それに水月先生、生きてきた環境が違うって南雲が言ってた。だからあんなに殺しや
戦いに詳しいんだって....」
「生きてきた環境って....じゃあ水月先生は戦時中に生きてたって言うのかよ」
「そんなの、私達が知るわけないじゃない....でも、香織と南雲は知ってるみたいだけど」
「二人は話せないって言ったけど....」
奈々がそう言うと、部屋の空気はさらに重くなった。
「....水月先生本人に聞きに行きましょう」
すると、愛ちゃん先生がそう言って立ち上がった。
「ここで何もしていないよりは絶対良いと思います。私が行くので、皆さんはここで
待っていてください」
「あ、愛ちゃん先生が行くんだったら俺等も....!」
「わ、私も....」
「私も....」
愛ちゃん先生の言葉に私達はそう言った。
「皆さん....えぇ、行きましょう!」
そう言って部屋から出たのは良いが、水月先生が今どこにいるのかわからなかった。すると、
偶然にもティオさんの姿が見えた。
「ティオさん!」
「ん? どうしたのじゃお主等。揃いに揃って....」
「あの、水月先生を見かけませんでしたか?」
「水月殿? 水月殿ならあの防壁の上におるぞ」
私がそう聞くと、ティオさんは防壁の方を指差した。
「そうですか、ありがとうございます!」
「別に構わぬが....水月殿の用事かの?」
「はい....」
「少し、水月先生と話を....」
「ふむ....」
ティさんはそう呟くと、少し考え込むような顔をした。そして、ティオさんはこう言ってきた。
「妾はお主達がどんな話をするのかは分からぬが、一つ言っておこう。お主達人の価値観と、
人でないもの価値観というのは違う。妾やユエ殿の価値観がお主達と違うように、水月殿と
その仲間の価値観はお主達とは違うと妾は思う」
「それ、どういう意味ですか?」
「....わかりやすく言えば、水月殿とそのお仲間は人ではない。水月殿の場合は半分が
人ではないと言ったところじゃな」
「なっ....!?」
ティオさんの言葉を聞き、私達は耳を疑った。
「水月先生が、人じゃないって言うんですか! それにあの女性達も!」
「うむ。明らかに魂の形が違っておった。四人の女性も人の魂ではなかった。中には明らかに
神性のある者もおった。だが、それよりも凄かったのは水月殿じゃ」
そう言ってティオさんは震え出した。
「あれは....明らかに見てはいけないものじゃ。あのようなものを抱えて平然としている
水月殿は、異常とも言える」
「人じゃない....」
「お主達も、下手に刺激するのは避ける事じゃ。あれは、人がどうにかできるものでは
ないからのう....では、妾はもう行くぞ。やる事があるのでな」
そう言ってティオさんは何処かに歩いて行った。
「どういう事だよ....水月先生が人じゃないって....」
「それに女の人達も....確かに人じゃなさそうな人もいたけど....」
「....確かめに行きましょう。そのために外に出たんですから」
愛ちゃん先生の言葉で、私達は防壁の方に向かった。
~~~~
防壁に付けられていたはしごを使って私達は防壁の上にいた。だが、そこに水月先生はおらず、
代わりに白いウエディングドレスの様な物を纏い、脚が金属の巨大な剣の様な物になった
女性がいた。その女性の顔はペンギンパーカーの女性と同じだった。
「....何でアナタ達が来るのよ」
女性は私達に気づくと明らかに不機嫌そうな表情でそう聞いてきた。
「あの....水月先生は....」
「立香なら魔物の通り道に罠仕掛けに行ったわよ。アナタ達と違って暇じゃないからね。
というか、何の用よ。こっちも暇じゃないんだけど?」
そう言うと、私達に向かって殺気を放ってきた。その殺気に怯えたが、愛ちゃん先生は
膝を地面に着きながらも女性にこう言った。
「貴方達は、一体何者なんですか! 水月先生も! 貴方達も! ティオさんが言うには
貴方達は人じゃないって言っていましたよ!」
「へぇ....あの竜、そんな事がわかるのね。ま、だからって感じだけど....」
そう言うと、女性は立ち上がって私達を見下ろした。
「それで、そんな事を知ってどうするの? アナタが知ったところで何か変わるのかしら?」
「知りたいんです....! 水月先生があんな風になってしまった原因を! 私達が知っている
水月先生はあんな感じじゃ....」
「アンタが....アンタが水月先生に何かしたんじゃないのか!」
すると、相川がそう叫んだ。
「アンタだけじゃない! 他の女の人達も人じゃないんだろ! 水月先生をあんな風にしたのは
アンタ等じゃないのか! それに南雲も白崎も! アンタ等が何かしたんじゃないのか!」
「そうだ....アンタ等が水月先生や白崎をあんな風に!」
相川の言葉に仁村が便乗すると、私達を見下している女性は笑い出した。
「ふふふ....あはははは! 随分面白い妄想をするわね。そもそも、前提条件が間違って
いるのに」
「どういう意味ですか....?」
「アナタ達に見せてた姿は猫かぶってただけよ。立香の本性はアナタ達が知ってる姿じゃ
なくて、あれが本来の立香の姿よ」
「あれが....」
「そもそも、アナタ達は立香の何を知っているの? ....立香が今までどんな生き方をして
ここにいるか知っていて?」
そう言った女性の眼は、水月先生が騎士を殺した時の眼と同じ眼だった。
「アナタ達は分かる? 兄の様に慕っていた人が目の前で死んでいく姿を見る気持ちが、
友を死地に送る気持ちが、恩人の命を見殺しにする気持ちが、自分を守るために多くの人が
死んでいくのを見捨てなければならない気持ちが....何の覚悟も無い人間が、立香の過去に
踏み込んでこないで!」
そう言って女性が脚を振るうと、私達の真横を斬撃が通っていった。斬撃は想像を超える
威力なのか、防壁の底まで切れていた。
「わかったなら、とっととここから消えなさい。でないと次は....」
「おいおいおい....何がどうなってこうなってんだよ....」
そう言って女性が脚を上げた時、そんな声が聞こえてきた。声の方を見ると、そこには
呆れた表情をした水月先生がいた。
「立香....仕掛けは終わったの?」
「そりゃ終わったから戻って来たんだよ。....で、この状況は?」
「立香の過去に踏み込もうとしてきたからちょっと手を出しただけよ」
「これでちょっとは無理があるだろ....」はぁ
水月先生はため息をつきながらそう言うと、私達の方を見てきた。
「お前等とっとと町に戻れ。お前等に俺の事や過去を話す気はねぇよ。というかここに
いられても邪魔なんだよ」
「そ、そんな言い方は....!」
「じゃあ何だ? お前等魔物の大群と戦うのか?」
水月先生がそう言った瞬間、全員視線を逸らした。
「戦う気ないならさっさと町に戻れ。戦う覚悟も無いやつがいても足手まといなんだよ。
....ウィルを守って死んだ冒険者みたいになりたいなら好きにすればいいけどな」
「っ....」
そう言うと、愛ちゃん先生も何も言えなくなってしまった。そして、愛ちゃん先生は
何も言わず防壁を下りて行った。それを見て、他のメンバーも防壁の下に向かって行った。
だが、私だけはまだ防壁の上にいた。
「(今なら言えるかも....)」
「あの、水月先生....」
「....何だよ」
「あの時は助けてくれてありがとうございます....あの時のお礼だけはどうしても言って
おきたかったんです」
「....お前、よくこの状況で礼言えたな。ある意味感心するぞ....」
水月先生は呆れたような表情をしながら私のを見てそう言った。
「言っとくが、別に礼を言われる筋合いはねぇ。目の前で死なれるのは気分が悪いから
助けただけだ。次はねぇぞ」
「はい....」
「....はぁ。おい園部、一つだけ言っといてやる。今のままだとお前、すぐに死ぬぞ」
「えっ....」
「お前だけじゃねぇな....他のガキどもも、畑山もそうだ。今のままだと、お前等はすぐに
死ぬ。死にたくないなら、少し身の振り方を考えた方が良いぞ」
水月先生は呆れた表情だったが、何処か真剣な目をして私にそう言ってきた。
「言いたいことはそれだけだ。さっさと町に戻れ」
水月先生はそう言うと、平地の方に向いた。
「(身の振り方....)」
私は水月先生に言われた言葉を考えながら防壁から下りた。
~~~~
「あ....」
「香織....」
町の方に戻ると、偶然香織と会った。
「何、してるの?」
「怪我をした人の治療をしてた。襲撃来るって町の人達が知って大騒ぎになったからね。
少しでも自分のやれることをやろうと思ったから。優花ちゃんは....何かあった? 何だか
暗い表情をしてるけど....」
「実は....」
私は話すべきか迷ったが、思い切って香織にさっきの事を話した。
「そっか、先生とメルトリリスさんが....」
「うん....」
「私がこう言うのもあれだけど....二人の言葉は正しいと思う。私達は先生の過去を聞いたけど、
あの過去は誰もが知ってもいいものじゃないと思ってる。それぐらい、悲惨な過去だから」
「そうなんだ....」
「それと先生の言葉だけど....きっと先生は、覚悟を持てって言おうとしたんだと思うよ」
「えっ?」
香織の言葉に私は顔を上げた。
「先生は何かを守るには何かを捨てる覚悟がいるって言ってたの。もちろん、何も捨てずに
守る事が最も良いって言ってはいたけど、そんな事はほとんど起きない。だから、何かを
守りたいなら何かを捨てる覚悟は持っておけって私達は言われたよ」
「何かを守るには、何かを捨てる....」
「....私は、ハジメくんを守るためなら自分の命を捨てる覚悟はあるよ。それに、もしも
クラスメイトが敵になるなら倒す覚悟もある」
「っ!?」
そう言った香織の眼はさっきの女性と同じ眼をしていた。
「優花ちゃんは、何かそういった覚悟はある?」
「私は....」
「(無い....そんな覚悟なんて私には....)」
香織の言葉に私は何も言うことが出来なかった。
「きっとその覚悟の有無が、私達と先生との差だと思うんだ」
「覚悟....」
「....ごめんね、私もそろそろ準備しないといけないから。もう行くね」
そう言うと香織は何処かに走っていった。
「覚悟、か....」