人理修復を成し遂げたマスターはありふれた世界じゃ最強に決まっている 作:アイリエッタ・ゼロス
園部side
「っ! 嘘っ....」
戦いが終わるのを町で待っていると、突然町から少し離れた場所に出来た防壁が崩壊
し始めた。
「何で防壁が!」
「あそこって香織っち達がいるはずじゃ!」
「っ....」
私は何を思ったのか、一目散に防壁の方に走り出した。
「おい園部!」
「危ないって優花!」
「園部さん!」
後ろからみんなの声が聞こえたが、それを無視して私は防壁の方に走った。
~~~~
「はぁ、はぁ....! 水月先生! 水月先生!」
「....何だ園部?」
崩壊した防壁の近くに着き水月先生の名前を叫んだ。すると、防壁の死角になった所から
水月先生が現れた。
「水月先生....無事だったんですか」
「当たり前だろ。で、何しに来た」
「いえその....防壁が壊れたので水月先生達は大丈夫かなって....」
「....心配無用だ。あのぐらいの高さなら落ちても擦り傷程度だ。というか、こっちはまだ
作業中なのに余計なもん連れてきてくれたな....」
水月先生はそう言いながら私ではなく私の背後を見ていた。振り向くと、私の背後には私を
追いかけてきたと思われる愛ちゃん先生と奈々達がいた。
「みんな....」
「水月先生! これは一体....」
「....攻撃の余波でぶっ壊れただけだ。言っとくが余計なことすんなよ。こっちもまだ....」
「みなさーん! 見つけましたー!」
水月先生が何かを言おうとした時、シアさんという人の声が聞こえてきた。
「見つけたか....」
水月先生はそう呟くと声が聞こえた方に歩いて行った。
「す、水月先生! 話はまだ....!」
すると、そう言って愛ちゃん先生が水月先生の後を追った。私達もついて行くと、着いた
場所には南雲達や水月先生の仲間の女の人が集まっていた。そして、一人黒いローブの男が
鎖で縛られていた。
「お手柄だなシア」
「いやぁ~、それほどでも....!」
「....さて、じゃあ首謀者の尋問を始めるか」
水月先生はそう言うと、黒いローブの男のローブを取った。その男の顔を見た私達は息を
呑んだ。
「清水....!」
~~~~
立香side
「さて、随分面倒なことをしてくれたな清水」
フードを取った男の顔を見て俺はそう言った。清水は俺の顔を見ると目を見開いて驚いた。
「水月先生....!? 何で、アンタはあの時奈落に落ちて死んだはずじゃ!」
「アホ。あの程度で死ぬか。こっちはパラシュート無しで空から落ちたことあるんだよ。
つか、南雲と白崎も生きてんぞ」
俺はそう言って南雲と白崎を指差した。二人を見ると清水はさらに驚いた様子だった。
「何で....何で無能の南雲が生きてんだよ! 俺よりも無能だったはずの南雲が生きられ....」
清水がそう叫び始めると、清水を縛っている鎖の締め付けが強くなっていった。
「あぁぁぁぁぁ!?」
「清水くん。ハジメくんのこと悪く言うのやめてくれない? 私、うっかり殺しちゃいそうに
なるから」
白崎はそう言って殺気を出しながら杖を構えていた。白崎の背後には般若の様なものが
浮かんでおり、目からは光が消えていた。
「おい白崎、殺すなよ。まだ尋問終わってねぇから」
俺がそう言うと白崎は少しだけ鎖の締め付けを緩くした。それを確認して、俺は清水の
首に槍を当てた。
「何が目的でこれだけの数の魔物を集めた? それと協力者についても答えろ。あの数、
テメェ一人で集めたわけじゃねぇだろ」
「目的? そんな事もわかんないのかよ。だから、どいつもこいつも無能だっつうぅぅぅ!?」
清水が悪態をつこうとした時、突然何かの痛みで叫び始めた。
「さっさと質問に答えなさい。でなければ心臓を潰します」
痛みの原因はモルガンの魔術によるものであり、モルガンの片手にはオーラの様な物が
握られていた。
「バーサーカー....殺すなよ?」
「その男次第です」
「....だとよ。死にたくねぇならさっさと答えろ」
「は、畑山先生を殺すためだよ! 魔物を捕まえに、一人で北の山脈地帯に行った時、俺は一人の
魔人族と出会った! 最初は警戒したがその魔人族は俺との話しを望んだ! そして、わかって
くれたんだよ! 俺の本当の価値ってやつを! だから俺はその魔人族側と契約したんだよ!」
「契約だ?」
「畑山先生を町の住人ごと殺せば、俺は魔人族側の勇者として招かれる! そういう契約だった!
俺の能力は素晴らしいって、勇者の下で燻っているのは勿体無いってよ! 分かるやつには
分かるんだよ俺の価値は! 実際、超強い魔物も貸してくれて想像以上の軍勢も作れた!
だから、だから絶対、あんたを殺せると思ったのに! 何で8万の軍勢が全滅するんだよ!」
「なるほど....」
「(てことはこの辺にその魔人族がいてもおかしくないな....)」
「なぁメルト。この辺に....」
「何、まだ終わってなかったの?」
俺はメルトに近くに魔人族がいないか調べてくれと頼もうとした時、突然現れたパイセンに
言葉を遮られた。
「パイセン」
「何そいつ」
「今回の首謀者。ただいま尋問中。そっちは終わったんすか? てか何でその姿に....」
「あっそ。こっちは終わったわよ。姿は元に戻すよりこっちの方が楽だからよ。あ、それと
戻ってくる途中に変な褐色の集団殺したわよ。魔人族がどうのこうの言ってたけど」
「そうっすか....助かりましたよパイセン」
「(魔人族殺されてんのか....手間が省けたな)」
パイセンの話を聞いて俺は魔人族が死んだのがわかった。
「それで? そいつどうすんのよ」
「まぁ殺しますよ。生かしてても仕方ないでしょ....」
「ダ、ダメです! そんなこと許されません!」
すると、畑山が俺にそう叫んできた。
「何でお前の許しがいる? コイツは敵だ。また魔物の大群を暴れさせたら誰が止める?
言っておくが俺はごめんだぞ」
「そんなこと私がさせ....!」
「コイツが堕ちてる事に気づかなかったお前がか」
「っ....」
俺がそう言うと畑山は口をつぐんだ。だが、すぐにこう言い返してきた。
「でも、殺す必要はないじゃないですか! 私がダメというのなら王宮で預かって
もらって....!」
「じゃあ王宮にいる連中を危険にさらすのか?」
「えっ....?」
「コイツは一度魔人族と接触があった。もしかしたら魔人族の中にコイツの居場所がわかって
王宮から攻撃を仕掛けていく奴がいないとも限らない。仮にそうなった時、王宮の連中が
死んだらお前責任取れんのか?」
「そんなことは....」
「起きないって100%言えるか? 言えねぇよな、今回の件を見て。それに言っておくが、
王宮に預けようがお前が見張ってようがどの道テメェの生徒の命を危険にさらすだけだ」
「どういう意味ですか!」
「....わかってねぇのか。コイツは今回魔物を洗脳した。だが、コイツの洗脳が人間に
効く可能性を考えなかったのか?」
「っ!?」
「仮に人間に効いた場合、罪の無い人間がコイツの欲望を満たすために人殺しをさせられる
可能性がある。コイツの欲望を満たすために女は慰み物にされる可能性もある。もし、
そこにいるガキどもがそうなったら、お前はどう責任を取るんだ?」
俺はそう言って園部達を見た。園部達もそんな可能性を考えていなかったのか、怯えた
表情で清水を見ていた。
「常に最悪の事態を想定し行動しろ。でなければ失わなくていいものまで失ってしまう。
....ある人から教えてもらった言葉だ。だから俺はその最悪の可能性をなくすために
コイツを殺す」
「そんな....起きるかもわからない可能性のために殺すって言うんですか!」
「あぁ。大事な人や仲間を守るためだ。命の優先順位が違う」
「優先順位って....!」
「言っとくが、お前は俺の事を批判できないはずだ」
「私は優先順位なんて....!」
「戦いが始まる前、お前はパイセンに言ったこと覚えてるか?」
「私が言ったこと....?」
「...."水月先生のお仲間と同じぐらい強いんですよね"、"力を貸してください"、パイセンが
そこのガキども戦わせろって言ったら、"彼等を戦わせるわけには"って言った。お前は
無意識に命に優先順位をつけてんだよ。だからお前はそこのガキどもよりも優先順位の低い
パイセンに戦えなんて言えるんだ。もしも優先順位がついてないならそこのガキどもにも
同じことは言えたはずだぞ」
「わ、私が命に優先順位を....」
畑山はそう呟きながら地面に座り込んで頭を抱えた。
「水月先生! 愛ちゃん先生に対して言い過ぎだ!」
「愛ちゃん先生に何の恨みがあるんだよ!」
「そうだそうだ!」
「ちょ、ちょっと三人とも!」
「落ち着きなよ!」
すると、畑山の後ろにいた三人の男のガキどもがそう言って俺に文句を言ってきた。その
三人を二人の女のガキどもが止めようとしていた。
「はぁ....別に恨みはねぇよ。俺は俺の思ったことを言っただけだ。というか....俺は
テメェ等にも言いたいことはあるぞ」
そう言って俺は文句を言ってきたガキどもを睨んだ。
「テメェ等、白崎に聞いたが畑山の護衛だそうだな。護衛なら命を賭してそいつ守れや。
今回の襲撃だってそいつが狙われた。本来だったら襲撃を止めるのはテメェ等の役割だ。
なのにテメェ等は戦いもせず町にいただけ。護衛として終わってる。そもそもテメェ等、
全員あのアホ勇者の口車に乗って何も考えずに戦争参加するって言ってたな? それがこの
ザマか....テメェ等戦争を何だと思ってやがる!」
「「「「「「っ!?」」」」」」
「自分は特別な力を持ってるから戦争に参加しても大丈夫だと思ってんのか? 戦争を
舐めてんじゃねぇぞガキども! 覚悟もねぇ奴が戦場に立っても邪魔なだけだ! そんな奴が
戦場に立っても無意味に死んで死ななくていい人間が余計に死ぬ! 戦う覚悟も殺す覚悟も
ねぇんだったら最初から戦場に立つんじゃねぇ!」
「か、覚悟が無いなんて....そんな事....」
「じゃああるって言うのか? なら、選べ」
そう言って、俺は清水の顔に向かって槍を向けた。
「コイツを殺すか、それとも生かすか。お前等が決めろ」
「お、俺達が....」
「一人でもコイツを殺すべきっていう奴がいるんだったらコイツは殺す。ただし、全員が
生かすべきって言うのなら見逃してやる。その結果、コイツがまたやらかしても俺達は
俺達に被害が来ない限り手は貸さない」
「水月先生! 生徒たちに何を!」
「テメェは黙ってろ畑山」
畑山を黙らせると、ガキども五人は全員互いの顔色を窺っていた。ただ、園部だけは
清水の方を見ていた。そして、突然園部は手を挙げた。
「....水月先生」
「何だ」
「自分の命を守るために誰かの命を奪う事も、覚悟ですか?」
「....あぁ。それも覚悟の一つだ」
「だったら、私は清水を殺すのに賛成です」
園部がそう言うと、畑山とガキどもは驚いた表情になった。
「優花っち!?」
「園部、お前本気で言ってんのかよ!」
「ダメです園部さん! 殺すなんて言っては....!」
「....正直、水月先生が言ってることは間違ってないと思うんです」
すると、園部はそう言いながら畑山達の方を見た。
「私は、生きて元の世界に帰りたいです。家族に会いたいんです。戦わなくていいなら、
もう戦いたくないです....戦場に立つのも怖いんです! 水月先生が言った通り、清水が
またこんなことをすれば私は戦わないといけなくなる! もう嫌なんです! 自分の命が危険に
さらされるようなことになるのが! 護衛をしているのだって出来るだけ戦場から遠くに
いるため....でも、こんなことになるなんて思ってなかった」
「優花っち....」
「優花....」
「お前....! じゃあ清水は死んでもいいって言うのかよ!」
「清水の命より自分の命の方が大事よ! じゃあアンタは清水のためだったら死ねるって
言うの!」
「そ、それは....」
「アンタだってそうじゃない! 清水の命よりも自分の命が大事! でも殺すなんて言えないし
生かすとも言えない! そうじゃないの!」
園部の言葉に、仁村は何も言えなくなった。
「香織が言ってた言葉の意味がこの状況になってよくわかったわ....何かを捨てなきゃ何も
守れない。こういう事だったのね」
「....優花ちゃん」
「自分の命が一番大事よ。でもその次に奈々や妙子の命も大事。....友達の命を危険に
さらすような奴を生かすのは、私にはできない」
「「....」」
「....決まりだな」
園部の言葉を最後に、他の連中は何も言えなくなった。そして俺は清水の方を見て槍を構えた。
「清水、テメェはここまでだ」
「ま、待ってくれよ水月先生! お、俺、どうかしてた....もうしない! 何でもする! 助けて
くれたら、あんたの為に軍隊だって作って! 女だって洗脳して! ち、誓うよ! あんたに
忠誠を誓う! 何でもするから、殺さないでくれ!」
「この期に及んで命乞いか? バカかテメェ。俺が聞くとでも思ってんのか?」
「あ、あんたは生徒を殺すのか!」
「都合の良い時にそう言うよなバカってのは。自分の欲望を叶えるために敵対した奴は敵だ。
テメェがさっき言った命乞いもこの状況どうにかするためだろ。嘘がバレバレだ」
「う、嘘なんか....!」
「目を見りゃなんとなくわかる。それに、自分の欲望のために裏切るような奴の忠誠なんざ
必要ねぇ。そういう奴はどうせまた裏切る」
そう言うと、清水は説得が無理だという事が分かったのか園部を睨んだ。
「園部! テメェよくも俺を殺しやがったな! 上手くいけば俺は英雄になれたのに!」
「英雄か....テメェなんかじゃ英雄になれやしねぇよ。英雄ってのは英雄になろうとした
瞬間に失格だ。お前はそもそも、最初からアウトなんだよ」
「(ま、一部例外はいるけどな....)」
「黙れ! この人殺しがぁぁぁぁ!」
「....んなことは俺がよく知ってんだよ」
そう言って、俺は清水の首を落とした。首からは血が噴き出し、清水の首は地面に転がった。
「あ、あぁぁぁぁ....!」
清水が死んだのを見て、畑山はふらふらと清水の死体の方に歩いて行った。俺はそれを横目に
見ながら園部の方に歩いて行った。
「園部、お前の判断は罪の無い多くの人を救った。その判断をした自分を、責める必要はねぇ。
もしも責めるんだったら、その判断をさせた俺を責めろ」
「水月先生....」
「....これ、お前にやるよ」
そう言って、俺はルーンを描いた鉱石が入っている袋を園部に渡した。
「これは....」
「俺の魔法を封じ込めた鉱石だ。投げたり置いたりすれば自動的に発動する」
「良いんですか....?」
「....ま、覚悟見せたから特別だ。無駄な使い方はすんなよ」
「....ありがとうございます」
「....おう。さて、仁村、相川。本当だったらテメェ等をぶん殴りてぇとこだが今回は
見逃してやる」
そう言って、俺は仁村と相川を見た。
「な、何で俺等が!」
「メルトに対する暴言。俺は地獄耳なんでな、よーく聞こえてんだよ。....次言ったら、
問答無用でぶん殴る。わかったな?」
俺ががそう言って殺気を向けながら睨むと、二人は気絶して地面に倒れた。
「はぁ....おい南雲! 白崎とユエと一緒に町に戻って襲撃が終わったことを報告してこい。
ついでにウィルを連れてこい。連れてきたらすぐにフューレンに向かうぞ」
「わかりました!」
そう言うと、三人は町の方に走っていった。
「(はぁ....コイツ等でこれだと向こうはもっとめんどくさそうだな....)」
~とある場所~
「バ、バカな....!?」
「(8万の魔物を一瞬で消滅....! それにスランが手も足も出せずに殺されただと!?)」
「何なのだ! 何だというのだあのイレギュラーは!」
「(何故だ! あのイレギュラーはあの勇者と同じ世界から来たのではないのか! それだと
いうのに何なのだあの強さは! それにイレギュラーの周りにいる女どもも!)」
「このままでは私の遊戯が....! どうする! どうすればいい!」