人理修復を成し遂げたマスターはありふれた世界じゃ最強に決まっている 作:アイリエッタ・ゼロス
「パイセン、満足しました?」
客席に着くと、俺は腕を持っているパイセンにそう聞いた。
「ま、余興にしてはまぁまぁね。70点ぐらいかしら」
「へーへーそうですか....」
「(ったく、満足したから良かったが....次は絶対断ろ)」
この決闘、勝負を終わらせようと思えば一分もかからなかった。だが、このめんどくさい
パイセンに一つ注文を付けられた。その注文とは相手を挑発して心を折れというものだった。
断ろうと思ったのだが、断れば余計に面倒な注文を付けられる未来が見えたため大人しく俺は
パイセンの注文を聞いてわざわざ時間をかけて決闘を行ったのだった。
「パイセン、腕」
「ん」
俺がそう言うとパイセンは斬った腕を投げてきた。俺はそれをキャッチすると、斬れた部分に
腕を押さえつけた。すると、斬れた部分と腕から血が溢れ出し、その血は糸の様に結びつき
ながら元に戻った。俺は腕を振ったりグーパーしながら感覚を調整した。
「こんなもんだな」
「はぁ....それにしても、何で誰も殺してないのよ! 賭けに負けたじゃない!」
「知るか! てか賭けんな!」
そう言ってしばらく言い争いをしていると、パイセンは落ち着いたのかこう言った。
「じゃ、そろそろ項羽様が恋しいから帰るわ」
「は....?」
そして、パイセンは目の前から消えた。
「ちょ....! 負けた分払ってもらってないんだけど!」
「相変わらず勝手な人だな....」はぁ
そうしてため息をついていると、今度はジャックの身体が光り出した。
「あ....おかあさん、わたしたちも時間みたい」
「そうか....ジャック、ナーサリー達によろしくな」
そう言って俺はジャックの頭を撫でた。
「うん! おかあさんにメルト! またね!」
ジャックはそう言いながら手を振ると光の粒子になって消えた。
「(....そういや清姫と巌窟王は消えないな。いつもなら一緒に来たメンバーはみんな同じ
タイミングで帰るのに....)」
「何でだ?」
そう首をかしげていると南雲達がこっちにやって来た。
「水月先生」
「腕を治しにって....もう治ってる!?」
白崎は俺の腕が繋がっているのを見るとそう叫んだ。
「あぁ。まぁ粉々になってなかったらすぐ治るからな」
「水月先生....自分の言ってることがヤバいことって自覚ないですよね....」
「ユエも俺と似たようなもんだろ」
「いや、それとこれとはまた別では....」
俺の言葉に南雲と白崎は呆れた表情をした。そう話していると、白崎達の後ろにいた八重樫が
話しかけてきた。
「あの、水月先生....さっきの決闘、本気出してないですよね?」
「ん? 当たり前だろ」
「あの、もし本気を出してたら....」
「秒で終わってる。あとあいつら全員死んでただろうな」
「そ、そうですか....」
そう言った八重樫はどこか複雑そうで引いたような表情をした。
「水月、ここにいたか」
すると、俺が来た道からメルドがやって来た。
「メルド。何の用だ」
「お前に頼みがあってな....無理を承知だ、ここに残ってくれないか」
「断る」
「考える余地なしか....」
メルドの頼みを俺はすぐさま断った。
「当たり前だ。俺は別に戦いたくもねぇしガキどもの面倒を見るのはごめんだ」
「こちらから対価を払うと言ってもか....?」
「あぁ」
「そうか....そうだな。すまない、今の話は忘れてくれ」
「....はぁ、おいメルド。これ受け取れ」
俺はそう言ってメルドに勇者のステータスを吸収したビー玉をメルドに投げた。
「これは....」
「勇者のステータスを封じ込めた玉だ。お前が勇者にふさわしいと思った奴かお前が使え。
普通に飲み込んだら勇者のステータスが飲み込んだ奴に加算されるはずだ」
「本当か!」
「あぁ。俺が持ってても足しにならねぇからやるよ」
「そうか....すまない」
「それと....本格的に戦争始めるってならガキどもに人殺し教えとけよ。じゃないとあの時の
二の舞だからな」
「っ! ....あぁ、分かっている」
「なら良い....んじゃ、そろそろと行くか」
「も、もう行くんですか!?」
すると八重樫が驚いた声を上げた。
「あぁ。本当ならもっと早く移動する筈だったがこれのせいで数日無駄にしたからな。これ以上
ここで時間無駄にするわけにはいかねぇんでな」
「そ、そうですか....」
俺の言葉に八重樫は明らかにへこんだ表情になった。
「....あの、先生」
「....言っとくが、戦う気がない奴は連れていけねぇぞ。余計なリスクを背負うことになる」
「っ、はい....」
俺はなんとなく白崎が言いそうな言葉が分かったのでそう言った。
「....ま、少しは気合見せたみたいだし。死なねぇように置き土産くれてやるか....」
そう言って俺は両手に魔法陣を出し、手を合わせて魔法陣を重ね合わせた。そして手を離すと、
俺の手の間には一本の刀が現れた。
「受け取れ八重樫」
俺は完成させた刀を八重樫に投げた。
「こ、これは....」
「俺のスキルで作った刀。強度はそこそこある。まぁ好きに使え」
「い、良いんですか?」
「ま、特別だ特別。お前は死なすには少し惜しいからな」
「あ、ありがとうございます....」
「おう。じゃ、行くとするか。精々死なねぇように頑張れよ八重樫。あとメルド、しっかり
やれよ」
そう言って、俺達は闘技場から出て次の迷宮に向かった。