断頭台…?せめて大司書って呼んでほしいじゃない。 作:システマチック発光ネズミ
陳情の内容は…前話を見ればわかると思います。
ポロリもあるよ!
七崩賢が一角、奇跡のグラオザームは苦労人である。
グラオザームの率いる部隊は、基本的に後衛…つまり味方の支援に特化した者たちが集まっている。グラオザーム本人やその側近クラスならある程度戦闘もこなせるものの、それ以外の者たちは正面戦闘は難しいと言わざるを得ない。魔族の常識における”魔法使いとしての誇り”を十全に発揮できない彼らは、たびたびほかの魔族から誹りを受けていた。そんな不満を多く抱える者たちをまとめるグラオザームは、七崩賢どころか魔王軍全体で見てもかなりの苦労人であった。
しかし、そういった者たちは自分なりの”魔法使いとしての誇り”を以て戦っていた。彼らはそれに満足はしないものの、ある程度割り切ってやっていたし、それで周囲ともやれていた。
…七崩賢に、軍勢のアウラが加入するまでは。
確かに、彼女の指揮は的確だ。ほかの部隊が作り出した小さな疵に、我らという毒を以て別の部隊がさらに傷つける。なるほど実に効率的な作戦だった。今まで統率の取れていなかった七崩賢達が”軍勢のアウラ”という絶対強者の下、達人が得物を振るうが如く作戦を遂行していく。それが得物側からの反感を買っていると知りながら。
"軍勢のアウラは魔族の誇りもない卑怯者"。これが最近のアウラに対する評判である。もっとも、アウラ自身は「自分の命くらいは惜しいもの、卑怯にもなるわ」と開き直っているらしいが。
しかし、事実として魔王軍内での不満は高まっている。現在の七崩賢(一つの席は諸事情で空白となっているので6名だが)のうち、実に4名が反アウラ派であるといえばその異常性も伝わるだろう。過去、魔王以外に大多数の魔族を束ねた者はいなかったが、アウラが真反対の方向性とはいえ魔族たちの方向性を一致させかけている。
ならば、
「珍しいわね?あなたがこんなところに呼び出すなんて」
「そうですね。確かにこういうことを言うならば、翌々日の会議で発言したほうがいいのでしょう。ですが、火急の要件でして」
「…聞くわ。どこかの戦線が突破されでもしたかしら」
グラオザームは柄にもなく緊張していた。
今から起こるのは、いわゆるクーデター。つまり、目の前にいるアウラの暗殺である。
「最近の貴女による作戦についてです。…配下の者たちに、不満を持たれているのはご存じですか?」
「知ってはいるわ。でもこれ以上の戦力の低下は許容できない。元の方針に戻すにしろ、後進の育成が終わってからよ」
「わかっています。ですが__」
目の前に立つは絶対強者。七崩賢加入の際に上位の実力を持つ2名を瞬殺したことは、今の七崩賢の面々には半ばトラウマとなっていた。今の七崩賢のうち最も長寿である不死なるベーゼが今回の話を耳に入れた途端に、ただ一言「やめておけ」とだけ言って不参加の意を示したといえばその凄惨さも理解できるだろう。
二つの影がアウラに近づく。魔力の漏出を極限まで抑え、目の前にいる猛獣に気取られぬように。
「__お前はやりすぎたんだよ、アウラ。」
今回のクーデターに参加した七崩賢は奇跡のグラオザーム、二重のオンブラ、万死のエルケーノン、黄金郷のマハトの四名。
そのうちの二名、二重のオンブラと万死のエルケーノンによる一撃。
あらゆる防御を貫くオンブラの拳と、エルケーノンの固有魔法による必中効果、加えてグラオザームによる意識の誘導。少なくとも、魔王軍中で最も確実かつ強力な一撃になる__はずだった。
「なっ!?」
「嘘、ありえない!?」
「…はぁ、呆れた。私が就任した時に戦力の整理ついでに固有魔法の内容も聞いたのを忘れたのかしら。エルケーノンの魔法は兎も角…オンブラ、あなたの拳の仕組みはわかってしまえば防御は容易い」
ゴウ、と一際強い風が吹く。いや、風ではない。全身に、鉛のような威圧感がのしかかる。
「魔力偽装…相変わらず誇りのかけらもない奴だな!」
「誇りで戦争に勝てるならもうとっくに
地面から黒い棘が飛び出す。とっさに飛びのいたグラオザームたちは、コレの厄介さと恐ろしさをよく知っている。特に、グラオザームにとっては相性が最悪の武器だった。
(…まずい)
直接の戦闘能力が比較的低いグラオザームは、幻術で表情を誤魔化しつつ、頭の中で独り言ちる。
(あの二人が初撃で失敗した以上、この砂鉄の嵐を突破できる方法は無いに等しい。私の魔法による精神干渉も、おそらく
グラオザームがアウラが七崩賢に就任した当初、一度だけ精神に干渉しようとしたことがある。もちろん、相手は若輩とはいえ七崩賢。手加減せず魔法をかけたはずだった。
ふと気づいたとき、グラオザームは真っ暗な空間にいた。いや、真っ暗というのは正確ではない。地平線は見えないものの、地面と言えるものは見える。何もないだけの、ただただ広い空間が広がっていた。
グラオザームが使う魔法"
違和感。ここはどこだ?先ほどまで、私はどこにいた?
違和感。魔力はある。いや、これは私の魔力か?本当に?
違和感。五感はある。温度は何度だ?足は地に着いているか?
違和感。
瞼が開く/先ほどまで目は開いていた。
横たわった体を起こす/先ほどまで直立していた。
声が聞こえる。
『意外と面倒なのね、あなたの魔法。つい
その一言は、状況の理解には十分だった。
自分がかけた魔法はまるでランタンの光を鏡に当てるかの如く反射され、しかし構築されるはずだった理想の空間は『面倒だから』とあの黒く広い空間に置き換えられた。それだけでわかる。このままではアウラに敵わない、と。
(だからこそ、さらに制限を課して強化したというのに…これでは近づけもできない)
魔法は制限を掛ければかけるほど、それに応じて強化される。
グラオザームがかけた制限とは、射程距離と同時に発動できる数だった。
以前まで、グラオザームは相手の全身が目に入る程度…つまり、15mは先から複数人に魔法をかけることができた。しかし、制限を掛けた現在は相手の視界内かつ3m以内まで近づかなければ発動できず、同時に発動できる数は1つのみ。
勿論かなりの弱体化をした代わり、莫大な恩恵も獲得できた。それこそ、魔王に手が届きかけるくらいに。
「"
「っ!何を…!」
思考が中断される。アウラは何と契約した?
新たに黒い棘が飛び出す様子はない。二つ名にある軍勢が急襲してくる予兆もない。
「私の魔法は魂レベルでの"契約"を結ぶ魔法なのは知ってるでしょう」
「それがどうしたっ…!」
「よいしょっと…これには面白い特性があるのよ。例えば…」
私よりはるかに低い魔力量の相手であれば強制的に契約を結べる、とか。
「なぜ今、ここでやったのかくらいはわかるでしょう?_遊びは終わりだ」
攻撃が重い。いや、前々から重くはあった。しかし、今になってさらに重くなっている。本気を出した、というよりかは…
(なにかの
「…貴女、私たちの弱体化と自身の強化をしたのね」
「無駄口を叩ける状況?"
魔力で編まれた鋭い糸が吹き荒れる。僅かとはいえ、それに掠ったオンブラとエルケーノンは片腕を切り落とされ、避け切れなくなったところを捕縛される。
幸いなことに、グラオザームは比較的遠巻きにいたために負傷はしていないが、しかしこれで決定打が無くなった。
「…結局貴様は気づかなかったな、アウラ」
「なに?」
「"釣り野伏せ"、だったか?俺とエルケーノンだけでは無理だとわかっていたさ。だから、次の策くらいは用意してある」
_ところで、アウラは気付いているだろうか。
七崩賢内での反アウラ派は4名。
ここにいる反アウラ派は、グラオザーム、オンブラ、エルケーノンの3名だけである。
…ならば、
「気づかなかったでしょう?私たちとの戦闘に集中していて、周りをなーんも見ていなかった。だから…
「"
(__あー、まずったわね)
完全に想定していない方角からの攻撃。黄金化こそされなかったものの、金ほどの高密度の物質が高速でぶつかれば、その威力はとてつもない。
空中に打ち上げられながらも、アウラは思考する。
(やっぱり、人型故の欠点。内臓と脊椎、右肋骨が数本に股関節にも…すぐ復元はできるからそれはいいや。それよりも…)
…はっきり言えば、七崩賢内での実力としてはオンブラとエルケーノンは下位である。その二人相手であれば、アウラは砂鉄の嵐など使わずとも制圧できる。
しかし、そこにグラオザームが入り込めば話は変わる。
グラオザームの魔法"
(過去に一度かかったことはある。その時は精神防御と反射で何とかなったけれど、同じ轍をグラオザームが踏むとは思えない。確実に何かしらの対策をしているでしょうね)
とはいえ、何を削って何を強化したかはわからない。である以上は、ひとまず距離を取っておくべきである。
…しかし、それをグラオザームは読んでいた。
「逃がしませんよ」
「っ"
「"
魔法の応酬の最中、アウラの意識は暗転する。
「…っはぁ、はぁ…どうにかうまく行きましたね」
「まったくだ。まさか俺の黄金でお前を飛ばすなどと、初めて聞いた時には耳を疑ったぞ」
冷や汗を滲ませ膝をつく
先ほどまで地上にいたグラオザームが、あの一瞬でアウラの眼前に踊り出た仕組みは簡単である。
「しかし、カタパルトといったか。人類の投石器とやらを参考にしたそうだが」
「ええ、少数の兵力の高速輸送には有効だそうです。…さて」
グラオザームの眼前にあるのは、倒れて脱力しているアウラと負傷した七崩賢二名、そして先ほどまでの戦闘の痕跡。
「オンブラ、エルケーノン。あなたたちは下がってください。少し北に戻ればトートが待機しているはず、治療を受けるべきです」
「そうするとしよう」
「ええ…マハト、しくじらないで頂戴ね?」
腕部の欠損は、いかに七崩賢とはいえ重篤な損害である。現時点で、七崩賢クラスの戦力2つの損失はまずい。それが理解できるからこその判断だった。
そのそばで、マハトは無言で黄金の剣を作り出す。目の前に横たわるアウラに、斬首という形で確実に息の根を止めるために。
「グラオザーム」
「…マハト、やってください」
黄金の凶刃が、振り下ろされる。
目を開く。
匂いがする。懐かしい、やわらかい木の匂い。
光が差している。おそらくは夕日の、あたたかなオレンジ色。
「_ん、ふぅ…あれ、ここって」
座りながら眠ってしまっていたのだろう、組んだ腕に沈めていた顔を上げる。
懐かしい、しかし異常な光景が目に入る。
「小学校の、図書室?にしては、広いような__」
あのとき、ほぼ毎日通った小学校の図書室。全体の構造から蔵書の位置、受付のテーブルの使い方、その後ろにある図書準備室の備品の種類と数さえ覚えているアウラには、ここは妙な違和感があった。
「あれ、この本って…いや、ここの図書室にはなかったはず。もしかして改築されでもしたのかしら」
しばらくの間、探索する。
図書の配置、階段の向こう、受付のテーブルから、半ば物置と化していた図書準備室まで。
「…すごいわね。ヴォイニッチ手稿の写本まである。ゴエティアに、こっちはメソポタミア神話の日本語訳?改築するにもほどがあるでしょうに。…ふふ」
思わずこぼれる笑み。若干の呆れと、確かな満足感に満たされたそれは、少なくとも魔族に転生して以来なかったものであった。
_そんな折、一冊の本に目が留まる。
「_『世界樹より』?タグを見る限り伝記小説のようだけれど…見たことないわね」
その本を手に取る。
まず確認するのは、筆者。見たことのない本の内容こそ気にはなるが、筆者の名前があれば同じ人の作品が見れるかもしれない。そんな一抹の期待を以て、表紙を見る。
「…書いていない?もしかして、ここの生徒が書いたものが紛れ込んだ?」
ないな、とアウラはすぐに結論を出す。なにせ、この図書室の本にあるタグというのは、本の納入時に教師陣が貼り付けるものだ。休日に人が遊びにこようが職員室を全開放するような職員はいないし、きっと誰かの私物か何かが混ざってしまったのだろう。
「目次はなし、前書きもない。どれ、どんなものかしら__え?」
最初のページを黙読する。ありえない。
次のページをめくる。あってたまるか。
獣が肉に食らいつくように、読み進めていく。記憶があいまいだ。
ページをめくる。ここが幻の中だって?
ページをめくる。おかしい。
『ありえない。あってたまるか。記憶があいまいだ。ここが幻の中だって?おかしい。まさか本当に?』
「うそ」
空白のはずだったページに、乱雑な文字が刻まれる。
「_あ、はは…ははははっ」
ページをめくる。文字が浮かび上がる。
『私は世界樹。あなたの創った最悪の発明品』
『あなたは今、幻の中にいる』
『そして現実では、あなたは死ぬ直前』
『私に
『私は、あなたを救える』
存在すら怪しい、一抹の希望。それは突き付けられた現実から目をそらさせるには十分だった。
「…どうすればいいの」
『一言。
「…
「__
文字が微笑むような錯覚。
瞬間、アウラの視界は白く反転する。
ザワリ、と。何か空気が変わったような感覚。
おそらくは殺気であろうが、明らかに異常だ。まるでこの空間そのものが自身を拒んでいるような錯覚を覚える。
「…っ!」
「_これは」
マハトの振り下ろした刃が止まる。アウラの首まで残り数センチ、あと少し力を入れれば容易に切断できる距離。しかし、マハトは恐怖を感じていた。
魔王軍を含めた魔族及び魔物は、ここにはいないはずである。シュラハトや魔王からの制止命令というのは聞いていないし、ここにいるのは倒れているアウラと、そのアウラを弑さんとするグラオザームとマハト、少し後方にトートとオンブラ、エルケーノンがいるだけのはず。
「まだ奥の手を隠していたというわけですか」
グラオザームは考える。今アウラは自身の掛けた魔法によって意識を失っているはず。それでいてなお、魔法が行使できるということは、にわかに信じがたいことだった。しかし現実として、魔法は発動している。
(まさか、失敗した?いや、それならばもう立ち上がってもいいはず。なのにまだ立ち上がらないということは__魔法に反応して自動で発動する魔法!)
相手が出す手段を予測する。黒い棘の嵐か?それとも軍勢?はたまた魔法による攻撃を狙ってくるか?それとも我々を道連れにする気か?
ひとまず距離を取るグラオザームとマハトだが、そこで一つ、環境の変化に気付く。
「これは…木々が白く染まっている?」
ここは北方の地であるゆえに、冬に木々が凍ることは珍しくない。
しかし、今は夏の終わりほど。決して凍るなんてことは無いし、グラオザーム自身寒さを感じているわけではない。
みるみるうちに、辺りが白一色に染まる。
木々が螺旋状に裂け、中から極彩色の瞳が覗く。
『停止*1』
「ま_」
「くっ」
視界が金色に染まる。
思考が停止する。行動が停止する。何もかもがとま_
「起きろ、グラオザーム」
「__ガハッ」
何が起きた?
腹部と右太腿に痛みが走る。
見れば、近くにはマハトのものだろう拳と右足に刺さった黄金のナイフ。
「随分と荒い気つけですね…ありがとうございます」
「礼は良い。それより、何が起こった?」
「…わかりません。しかし、私に対する対策かと。おそらくは周囲の木々と契約して軍勢としているのでしょう」
…というより、それ以外に説明がつかないのだ。
外から衝突音がする以上、何らかの形で攻撃が加えられているのは確かだろう。
少なくとも、あの極彩色の瞳に捕捉されれば最後。先ほどのグラオザーム自身のように行動不能にさせられる。
「なら、封じ込んで止めてしまえばいい」
莫大な魔力の高ぶり。マハトの二つ名が"黄金郷"である所以が振るわれる。
少しすると音が止まり、グラオザームたちがいた黄金の箱が開かれる。
「…さすがですね」
一面が輝く黄金と化した戦場。器用なことにアウラや後方に退避した者たちは避けているようで、周囲には無数の歪んだ黄金像があった。
周囲はマハトによって制圧された。しかし、さらに遠くは?
グラオザームは憔悴する。あといくつ策がある?あとどれだけ私たちを殺すすべがある?
「マハト、早くアウラを殺してください。黄金化でも斬首でもいい、この際手段は構っていられません」
「…了解した」
白い空間。
気付けばアウラはここにいた。
「…また?でも見覚えないわね、ここ」
『そりゃそうでしょうね。だってここ、さっき作られたもの』
「…え、わたし?」
『わかりやすいようにカラー変えましょうか』
困惑。アウラの脳内はただその一言に尽きていた。
いきなり視界が白く染まったかと思えば真っ白な空間に放り込まれ、目の前に自分とそっくりな何かが現れたかと思えば服と髪色が2Pカラーになったのだ。無理もない。…が、そんなことはお構いなしに目の前の存在は語り始める。
『改めて。初めまして、
アウラは少し考える。"世界樹"などと大層な名前の発明品などいただろうか?これまでにいくつか発明してきたアウラであるが、神話関連の名前は付けた覚えがない。せいぜいが個人的な想像で「宇宙関連は日本神話から取りたいなぁ」と考えていた程度である。
「…ごめんなさい、知らない子です」
『_それなら、素直に"あ号結実体"って言ったほうがよかったかしら。
「あ号…え、あの"あ号"?確かに自律収集はさせてたけれど」
呆れたように微笑む"世界樹"、もとい"あ号結実体"。
これこそアウラの"ズル*2"の正体である。
『ま、それ自体はどうでもいいわ。ねえ
「…覚えてるわよ。
『ま、そうよね。でも、そのおかげで自意識を獲得できた』
「…どういうこと?」
____
"あ号結実体"とは、アウラによって作り出された"代替食"の発生母体である。
そも、なぜ魔族は人を食らうのか。活動のためのエネルギー確保であるならば、それこそ豚や牛などの家畜や、リンゴなどの果実でもよいはずである。そのことに疑問を抱いた生後数年のアウラは、いくつか実験を行った。
一つ目は、魔族の食料について。
魔族は
いくつかのカテゴリに分けて食べ、魔族が本当に食べているものを探り当てた。
二つ目は、食料の培養。
判明した魔族の食料から、食料の培養には人間を用いるのが最適であると判断したアウラは、近辺で噂になっていた魔族たちから"分身の魔法"と"変化の魔法"を解析・模倣し、数百もの"ヒトとなった自分"を用いて代替食を生成した。
三つ目は、供給の安定化。
完成した代替食にはいくつか欠点があった。それは寄生型のものであることだ。死体や植物などに寄生して、一定量が内部に貯まるまで待たなければならなかった。
それを受け、アウラは安定供給するための母体を作り始めた。世界中に根を張り、あらゆる場所から"栄養"を収集できるように菌類をモデルにし、自身の立てた図書館計画、その予定地の地下深くに結実器官_つまりは"あ号結実体"を建造した。
幾千幾万もの"自分"を解体し、30年以上費やしたそれは、ついぞ完成したのだ。
…しかし。これらの発明品は、すべて
"螂ウ逾�"は困惑した。
はたして、
しかし、アウラの場合は構成する事柄が完全に同一なのである。
どうするべきかと悩んだ"螂ウ逾�"は、こうすることにした。
"これらは互いに『本体』と『分身』の関係である。ゆえに、記憶の共有などは起こらぬものの、しかし無意識下で繋がれているものである。"
このように定義された"あ号結実体"_もとい"世界樹"は、アウラが強い感情を抱くたび自我と呼べるものが構築されていった。
 ̄ ̄ ̄ ̄
『…で、私が生まれたってわけ。あ、そうだコレ。忘れる前にね』
「_何コレ。というかMD*3って、また古風な…」
『これ、
「…は?」
アウラの周囲は宇宙になった。比喩でなく本当に。
どうやら"世界樹"はミームやギャグが好きらしい。
『ちょうどさっきまであの魔法の解析してたの。何とか間に合ってよかったわ』
「_ちょっと待って、今現実ってどうなってるの⁉」
『
「うっそでしょ」
『マジなんだなこれが』とのたまう"世界樹"をよそに、アウラは辺りを探し始める。今の
『ああ、そろそろやらないとマズいかしら。後ろの大樹から現実にアクセスできるわよ』
アウラはすぐさま振り向き、大樹を視認する。
…いや、それは大樹とは言い難い。表すなら、樹状に伸びた数多のモニターとサーバーの集合体といったところだろう。
ともあれ、キーボードらしきものを見つけたアウラは、モニターから見える外の状況を確認しながら頭に浮かんだコマンドを入力していく。
「…時間流はこっち基準に100分の1といったところかしら。余裕があるのはありがたいわね」
『とにかく子機の復旧しなきゃ始まらないわよ。さっきとっさに本体は守れたけど、今かなりの数が黄金像になっちゃってるし』
生き残った子機から、解析した"黄金化を解く魔法"をかけていく。ねずみ算式に稼働できる子機が増えていき、反撃の手段が整う。
「さぁて__やりましょうか」
違和感を最初に感じたのはマハトだった。
自分のテリトリーが消されていくような、嫌な感覚。
攻撃しているだろう外の歪んだ木々をまとめて黄金化したとき、その感覚は一旦止んだ。おそらくは自身の"
問題は無くなった、と思っていた。
「な…!」
地面いっぱいの黄金が、一瞬にして剥がれ落ちた。
(まさか、解析したのか?たったあれだけの時間で__いや、ありえない。いくらアウラが優れた魔法使いだとしても、数分もせず解析されるような構造にはしていない)
周囲を見渡せば、黄金が剥がれた極彩色の瞳がこちらを向いていた。
不味い、と考える前に、視界が白くなる。
「大丈夫ですか、マハト」
グラオザームが、自分を脇に抱え飛んでいた。
幸いなことに、あの瞳はこちらを向いてはいるものの魔法を放ってこない。射程外なのか、あるいは標的ではないのかはわからないが、今のうちにと体勢を立て直す。
「礼をいう…まさか、俺の魔法が破られるとはな」
「ええ、完全に想定外です」
手元に生成したはずの黄金の剣が、半ばから消し飛ばされている。
かなりの広範囲に"
「…アレに効くかわかりませんが、精神魔法を試してみます。足止めはするので、その隙にアウラを」
「了解した。_行くぞ」
歪んだ木々がざわめく。
極彩色の瞳はきらりと輝き、
『モデル03、外敵の制圧行動を開始。"糸を紡ぐ魔法"を起動*4』
ゆら、ゆら。アウラが起き上がる。腕も使わず、足も使わず、落とした
剣戟が響く。打突が木霊する。魔法が行き交い、互いにダメージを蓄積させていく。
しかし撃破には至らない。
(…どれだけ剣を打ち込んだ?どれだけ盾をぶつけた?もう何分、いや何時間こうしている?)
まるで底が見えない。あとどれだけ戦えば削り切れる?
そうマハトが考えたとき、ふと嫌な予感がした。自身の何かが消されていく感覚ではない。それよりもっと、根源的な何か。
『モデル03の継続した失敗を確認。動作プログラムをモデル13へ変更。封印指定行使のため全リソースの集中を要請_承認*5』
相変わらず、マハトにはこの木々が何を話しているのかわからない。
しかし、今回だけははっきりわかっていることがあった。
(これは…これだけは不味い!)
とっさに黄金のタワーシールドを作り出す。できるだけ分厚く、できるだけ高密に。たとえ魔王の全力の一撃でも、決して壊れることの無いように。
『原初の宙』
アウラの腕が上がる。軍の指揮を執るように。
不思議と理解できる。木々が_アウラが、何を言っているのか。
『空想の海』
アウラの手が印を結ぶ。罪人に刑を宣告するように。
『幼き影は誰が為に』
アウラの腕が横向きに薙ぐ。ペンで文字を書くように。
必要最低限以外の全魔力を、飛行魔法に傾ける。
瞬間、マハトは腰から下の感覚を失った。
(いったい何_ガッ!?!?!!」
身を焼くような衝撃。過去に受けたことのある雷の魔法を、はるかに強くしたような痛みが走る。
視線が傾けば、目に入るのは両断された黄金のタワーシールド。
「気は済んだかしら馬鹿ども」
髪が少し白く染まったアウラが近づいてくる。
傷口が焼かれたのか、体の崩壊は起こっていない。しかし、すでにマハトには動けるだけの体力も魔力もなかった。
「全く、危うく死ぬとこだったわ。"
極彩色の瞳がこちらを向く。いや、自分だけではない。おそらくはこの場にいるすべての七崩賢に向いている。
「…これで良し、と。あー…後始末だるいわね。トート呼びましょうか」
魂が縛られるのを感じながら、マハトは意識を失った。
七崩賢が一角、奇跡のグラオザームは苦労人である。
「ほら寝ない!前線出ないなら書類仕事くらいやりなさい、いつまでたっても終わらないわよ!」
「あの…グラオザーム殿は大丈夫なのかの?目の下のクマがとんでもない事になっておるのじゃが…」
「いいのよエスティート、昔バカやったツケだもの。それまでは書類仕事なんて全部私が処理してたんだし、多少苦労を分けたくらいじゃ文句言わせないわ」
「…さすがに5日間休みなしでやらせるのはどうかと_」
「それ全体の3割ないわよ」
目前の紙の山を見て全体の量を推し量れば、なるほど文句は言えない。この作業がなければ魔王軍が円滑に動けないというのは既に嫌というほど味わっている。
「さ、前線行きましょエスティート。今日はいろいろ仕込んでいくわよ」
「う、うむ_がんばれ、グラオザーム殿」
新しく入った七崩賢_潰滅のエスティートを見送りつつ、また紙に向き合って文字を書き込んでいく。
「はぁ…憂鬱ですね。」
待たせたな読者諸君。
どーも作者です。今回は1万字超えの大作、とはいえ2週間以上も待たせてしまい申し訳ない。来週から長期休みに入るので、そこからペースを上げていきたいと思います。
ところで、やっと出せました七崩賢フルメンバー。過去編書く前に設定を諸々考えていたんですけれど、オリキャラはすぐに退場しちゃいましたね。
まずは"二重のオンブラ"。漫画ではマハトの後ろにいる子です。頭は多少回るけど自信過剰、速攻で腕がポロリしちゃいました。
次は"万死のエルケーノン"。漫画ではベーゼの隣で俯いてる子です。この子の魔法は対集団戦ではかなり強力なんですけど、そのせいで自信過剰になっちゃってます。個人的なイメージとしては原作アウラが近いです。
最後に出てきたのは"潰滅のエスティ―ト"。漫画ではアウラの隣にいる子ですね。個人的にオリキャラの中でこの子が一番好きです。…黒髪のじゃロリって、よくないですか?
次回は司書見習いちゃんの話を更新しようと思います。こうご期待。