真理と仲良くなったことをきっかけに、俺は生きる意味というものを、少しずつだが見出せるようになってきた。
徐々に流星塾の環境にも慣れてきて、何人か友達もできた。漠然とだが、里親が見つかるその日まで、こんな平和な日が続くんじゃないか、少なくともそれまでは、真理と一緒にいられるんじゃないか。そんな希望を持ち始めていた。
しかし。それがある日から、変わった。
「あっ……また教科書がない!」
「まりちゃん? ……まさか、またアイツが」
「くさかくん、どうしたの?」
真理のものが隠されたり、汚されたりする事件が起きるようになった。
犯人はわかっている、澤田だ。あいつは、真理にしてやられた腹いせに、こういう嫌がらせを働くようになったんだ。直接犯行の瞬間を見たわけではないが、いつも真理が困っている姿を見て、後ろの方でニヤニヤとしている。アイツ以外にあり得ない。俺ではなく真理を狙い、周囲にばれない方法をとるようになったに違いない。
真理は表向き、大して気には留めていなかったが……みんなが部屋に帰った後、教室の陰で泣いていたのを俺は見てしまった。そんな状況で、俺はとても冷静ではいられなかった。
「さわだ! ……もしまりちゃんの教科書のありかを知ってるなら、言え!」
「おいおい、やめてくれよ言いがかりは。君こそ、そのださんの気を引きたくてやったんじゃないか?」
「おまえ……!!」
……小学3年生の年齢になっていた俺は、うすうす気がついていた。澤田のヤツは、真理のことが好きになったのだ。俺と同じように。だが、俺とは逆に……好きな女の子だからいじめてやりたいという気持ちが、年頃の子供らしく起きていたのだろう。それがああいった行動につながったんだ。
同じ女を好きになった相手。
—————だが俺は、その全てが許せなかった。
(どうしてだ、どうしてお前までまりちゃんを好きなんだ)
真理との出会い以来、収まっていた黒い感情が心の奥底から湧き上がってくる。最近起きていなかった喘息の発作もぶり返しかけていたが、激しい怒りの前には、そんなことすら気にならない。
澤田……あいつは俺のことをいじめている悪いヤツだ。本人は木の棒を振り回しながらサムライだなどと言ってるが、その実は蜘蛛のように狡猾に、卑怯なことばかりする。
俺は何もしていないのに、あいつが俺をいじめた。
今度は、俺を救ってくれた真理まで傷つけようとしている。
俺が好きな真理を……奪おうとしている。
(まりのとなりにふさわしいのは、ぼくだ)
あんなやつに、真理は相応しくない。俺が、力をつけた俺が真理の隣にいるべきなんだ。あんな……罪を犯す奴なんかじゃない。澤田、お前は真理を泣かせた。それは……罪だ。
そして……罪には、罰が必要だ。真理のように、罪の犠牲になる人たちの代わりに、俺が……!
(おれが、必ず……澤田、お前にばつをあたえてやる……!!)
そこからの動きは、早かった。
上級生の卒業ビデオを撮りたいなんて嘘を言って、先生に頼んで、ビデオカメラを借りた。
友達に対して、あえて「真理が澤田のことが気になっているらしい」とうわさを流した上、この前の騒ぎもあまり気にしてないようなそぶりを見せて、澤田の次の犯行を誘った。
真理には、必ず犯人を見つけると約束して、代わりに俺が動くことについて口止めした。
特に信頼できるクラスメイトの木村沙耶を呼び出して、澤田の犯行を見たら伝えるようにお願いもした。
そして……一週間もたたないうちに、澤田はぼろを出して、その場面を『偶然』俺に撮影され、先生の知るところとなった。結局、真理は事の真相がわかっても、澤田のことを赦した。そんな優しいところが、彼女のいいところでもあり、悪いところでもある。俺はそれ以上、真理には何も言わなかった。
———だが、俺と澤田の間は、まだ収まらなかった。