俺が策を用意してから、一週間とたたないうちに、澤田はボロを出した。
みんなが教室を出た後、こっそりと真理の持ち物に嫌がらせをする場面を『偶然』俺に撮影され……奴のやったことは、クラスのみんなや先生の知るところとなった。ただ結局、事の真相がわかっても、真理は澤田のことを赦してしまった。そんな優しいところが、彼女のいいところでもあり、悪いところでもある。当の本人が澤田のことをそれ以上追及しなかったのだから、俺は真理には何も言わなかった。
だが、澤田と俺との間は、まだ収まらなかった。
当然だ、向こうだってただの馬鹿じゃない。俺が今回の件についてお膳立てをしていたのだって、気づいている。それでも、元々先に手を出し続けていたのは澤田の方だ。そのことがわかっているから、あいつは表立って俺の責任を問えないでいる。しかし、この年頃の男子というのは、それで収まるほど大人じゃない。案の定、澤田は俺を流星塾の裏庭に呼び出した。
子どもらしく、ケンカで決着をつけようというわけだ。妙に正々堂々としているあたりは、あの年齢だなと今でも思うが……なんにせよ、俺はその時ついに、あいつをケンカで負かした。人生で初めてケンカに勝った瞬間……あの時の地面に伏せて鼻血を出すアイツの顔は、いまだに痛快でよく覚えている。
(俺は……ついに勝ったんだ。この手で)
毎日誰にも見られることなく、続けていたトレーニング。図書室で空手の本を見て見様見真似で勉強した。わざと体育の時間に今まで通りのふりをして、澤田の油断を誘った。木の棒を持ってくることも予測して、対策を色々とたてたりもした。その結果が実ったというわけだ。
そう、俺は強くなっていたんだ。他人の力を利用したり、策を練るだけじゃない、少しずつだが、力そのものを身に着けていた。その結果として、勝った。母の死から何年も経って、ようやく俺は誰かに勝ったのだ。
その日以来、流星塾で俺がいじめれらることはなくなった。
そしてこの時から、俺は本格的に決意した。
もっともっと強くなってやる、と。いじめてくる誰よりも強くなって、真理を俺が守る。澤田よりもっと邪悪な奴が真理に襲い掛かっても守れるくらい強くなる。
俺は弱かったからいじめられた。俺が弱いから、真理に助けられなければいけなかった。だが、俺が強くなり、周りのみんなも味方してくれるようになれば、こうして勝つことができる。悪い奴の罪に対して、罰を与えることができる。
そう、俺がヒーローになれるんだ。真理にとっても、誰にとっても立派なヒーローになれる。この流星塾を作った父さんのように、弱い立場の人たちを俺がこの手で守るんだ。
しかし、これからというこのタイミングで、思わぬ事態が起こった。真理に里親になってくれる人が見つかったのだ。
「草加くん、長い間わたしとあそんでくれて、ありがとうね。わたし、あっちに行っても頑張るから!またいじめられたら、いつでもわたしを呼んでね?」
「もう真理ちゃんに守られる俺じゃないよ。真理ちゃんこそ、向こうでいじめられたらいつでも言ってくれ、飛んでいくよ」
「あはは!期待しないで待ってる……手紙、書くからね!」
流星塾のクラスメイトとは、それまでも何度か別れは経験してきた。それでも、真理との別れはかなりこたえて、俺は三日三晩枕を濡らした。
この時から、真理を守るという俺の目的、夢……むしろ呪いのような何かなのか。それは、『強くなって真理を迎えに行く』というものに変わった。それだけのために、そこからの人生が始まった。