やっと本章開幕です。
小説書くの難しい…。
第5話 変化
えーん、えーん。
11月11日未明、子供の泣く声が大部屋で目を引く。
突如として発生した死滅回游。好戦的な
幸いにも、それらを救おうと避難誘導を行う善意の泳者の活躍によって、20人余りの一般人が脱出せんと結界の縁へと向かっていた。
しかし交通インフラは機能せず、大勢での行動となると目を引いてしまう。その為ひっそりと目立たぬよう動く必要があり、結果として多くの気力や体力を消耗する。
そして夜には呪霊の動きが活発になるなどの理由から、現在彼らはある商業ビルの大部屋にて休息を取っていた。
そんな中での子供の泣き声。
日常の内ならば泣き止まさんと奮闘する大人も出るだろうが、しかし命を削る行脚の最中、尚且つ人が寝静まる夜中。疲労から怒りを挙げる声も無く、誰一人として動ける者はいなかった。唯一動いた親が止めようとするも、しかし一向に泣き止む気配はない。
おろおろと気弱そうな父親が顔を歪ませ、釣られて泣きだしそうになったその時。
「大丈夫だよ、ミカちゃん」
一人の男が声を掛ける。
透き通った川を思わせる清涼なその声は不思議と耳に入り、泣き続けていた子供――
そこには泣きボクロが特徴的な男が片膝を立ててしゃがんでいた。
彼は呪霊と思しき化け物から助けてくれた恩人であり、この大部屋にいる多くの一般人たちを助けんと動いている泳者その人であった。
彼は美華の泣き顔を見るや、整った顔立ちを悲しそうに歪ませた。
「あーあー、そんなに泣いてたら可愛い顔も台無しだ」
彼はポケットからハンカチを取り出し、ミカの顔を優しい手つきで拭っていく。そして、ほらチーン、とティッシュを差し出されたミカは釣られて鼻をかむ。
「うん、綺麗になったね」
心底嬉しそうに微笑みを浮かべたその顔に、美華は思わず赤面する。
感謝を述べる父親に気にしなくていいと笑った彼は、再び美華へと顔を向けて語り掛ける。
「そうだ、ミカちゃんはお花は好きかな?」
一泊置いて美華は答えた。
「…うん、好き。ミカ、大きくなったらお花屋さんになるの」
「そっか、それは良い夢だ」
すると、ふと何かを思いついたかのような顔をして男は立ち上がった。
「それじゃあせっかくの機会だ。特別に、世にも珍しいお花を咲かせて見せましょう!」
男はミュージカルのようなわざとらしい動きで大部屋の入口へと向かう。
彼の一挙手一投足は不思議と目を引き、泣き声で目を覚ましていた多くの人間が顔を向ける。
不思議と睡眠を妨害された事への負の感情が霧散し、何だろうという好奇心が沸々と湧いた。
そして彼は注目が集まった事を見計らったかの如く、緩慢とした動作で両腕を広げる。
「今からご覧に入れますは素敵なマジックショー。
皆様のいるこの大部屋に、綺麗で大きな花を咲かせましょう!」
左右に拡げた両手には何もなく、種も仕掛けも無いように見受けさせた。
その細やかな一挙一動で魅せる姿は、まるで本物の奇術師のようだった。
「綺麗で大きな素敵なお花…瞬き厳禁ですよ?」
いつの間にか、全員が男へと顔を向けて注目していた。
その視線の先にはスポットライトが当たっている光景を幻視し、誰かがごくりと生唾を飲み込む。
怖い夢を見て先程まで泣いていた美華は、その事を忘れたかのように彼の立ち姿に見惚れていた。
人々を守ろうと戦う姿。
人々を励まし、助けようとする姿。
――先程、自身へと笑い掛けたその姿。
美華は彼のことで頭がいっぱいになっていた。
ここから出たら、今度は自分がお花をプレゼントしようと心に決める。
一本の真っ赤な薔薇だ。
それがどういう意味かを、美華は知っていた。
近江美華という自らの名前。その上の名前を、彼の化野という名前に変えた文字列を想像し――
柏手が大部屋に響く。
一度だけ放たれたそれを契機に、美華はそこで思考を止めた。
否。
美華だけではない。
父親も、周りも、誰もかれもの全てが静止した。
衆目の前で拍手を鳴らした男――
彼の言葉は間違いではなかった。
世にも珍しい花。
綺麗で大きな花。
――
逃れた者はおらず。
理解した者はおらず。
誰もがその奇術の最中に眠りに着いた。
その姿は再生途中に止められた映像のような。
或いはガラスの中に作られた彫刻を思わせる、凄惨な一つの氷像だった。
一本の白い筋を描く空気が、空気中をゆったりと奔る。
それは緩やかに化野の下へと近付き――彼の白い吐息により霧散した。
誰も気付くことなく。
誰も認識することなく。
それは、静かに姿を消した。
『36点が追加されました。』
「お? 人数の割りには随分と多い…ああ、術師が混じってたのかな?」
コガネの通知に、一人残った化野が何事もなかったかのように呟く。
「総則に『結界を出られない』なんてものは無いからな。
大方、
否、もう一人が奥の廊下から歩き近付いていた。
「
「教えたことをポンポンと吸収してくお前に言われても皮肉にしか聞こえねぇっての」
「いやいや、純粋に褒めたつもりよ? 亀の甲より何とやらってやつだよ」
「本当に褒める気あんのかお前。
…術師のが配点高い以上、狙われるリスクは比較的上だ。コガネの通知を切って非術師の集団に紛れりゃ或いはって感じだろう。
ある程度戦って見たが、現代の術師は雑魚も良いとこだ。受肉した泳者の実力を考えれば、そりゃあ逃げに徹するわな」
羽場の時は慎重に成り過ぎたと朱堅が愚痴り、化野が興味なさげに相槌を打つ。
「それより、どうよ俺の術式! 中々上手く扱えるようになったんじゃない?」
先程とは打って変わり、キラキラとした目で大部屋の氷を指さし話題を転換する。
朱堅は僅かに目を細め、顔を大部屋に向けたまま答える。
「…まぁそうだな、十日近くで随分と上達した。この調子なら過去の術師が相手でもまず負けは無いだろうよ」
「マジか! やりぃ!」
「呪力操作の精度といい、本当にお前の才能には驚いてばっかだよ。だが、だからといって――」
「『慢心して良い理由にはならない』でしょ? 分かってるよ。
それに未だに真正面からだと朱堅に負け続きなんだ、気を引き締めるさ」
「それで良い。どれだけ強くとも、油断や慢心で死ぬ世界だからな。その調――」
その調子で行け。と、そう朱堅が言おうとしたその時。
「「!?」」
突如としてコガネが現れ、大きな鐘の音を響かせる。
『『泳者による死滅回游へのルール追加が行われました!!』』
『『〈総則9〉泳者は他泳者の情報――“名前”“得点”“ルール追加回数”“滞留結界”――を参照できる』』
「ルール追加…総則の何条かにあったヤツか」
「他泳者の情報ねぇ」
冷静に受け止め、二人は思案に耽る。
「どういう意図かは知らないけど、一先ず得られる情報が増えたと考えるか」
「いや、それは他泳者も同じだ。さっきの狩りみたいな、巻き込まれた泳者を殺る方法はもう使えねぇだろう。なにせ得点が知れるんだ、“念の為に”で調べられりゃ即アウトだ」
「つまり騙し討ちの手が取れなくなって、完全な不意打ちか正面からの戦闘くらいってとこかな」
「俺としちゃ良い機会だと思うぜ。お前も本格的に死線を潜る頃合いだろ」
「既に何回か潜ってんだけど…まぁそれもそうか」
と、そうこう話し込んでいるとコガネが割り込んだ。
『得点が100を越えました。100点を消費して、死滅回游にルールを追加しますか?』
「――そうか、もう100点取ったのか」
「頭数で言えば
コガネを呼びつけ、化野は現時点の持ち点を確認する。
「106点…ってことは、朱堅と会ってからジャスト100点取った訳か」
「どうする? 前に言ってた
「勿論」
十全な力を得てしまった怪物は、ニヤリと笑みを浮かべてコガネへと宣誓する。
「コガネ、ルール追加――」
〔side 呪術高専生〕
栃木県のとある立体駐車場跡地、その屋上にて。
「何にせよ、やることは決まったな」
「あぁ。獄門彊を解く鍵、天元様の言う“天使”を探しながら…」
「100点以上を持つ泳者。
突然のルール追加によって、封印された五条の救出への明確な筋道を見出していた――その時。
「な――」
「またぁ!?」
短時間で立て続き発生したアナウンスに驚きの声を挙げる
その姿を尻目に、コガネは機械的に新たな秩序を突きつける。
『泳者による死滅回游へのルール追加が行われました!!』
『〈総則10〉泳者の生命に懸けられた価値は、当人が所持する得点の分だけ加算される』
突如として追加されたその総則が意味するものとはつまり、泳者の価値の上昇。
それにより本来ならば発生しえなかった、所持得点の強制的な簒奪が可能となる。
それを意味する総則の追加が、一体どのような結果を齎すのかを高専生たちは即座に理解した。
――殺し合いが、加速する。
化野
_死滅回游エンジョイ勢。デスゲームでスコアアタックしてるヤベ―奴。
朱堅
_化野がどれだけ強くなれるかを知りたい。回游に関しては「とりあえずある程度の点は取っとくか…」という烏鷺と似たスタンス。自分が取る分は術師しか狙ってない。
近江美華
_近江→近くにいた。美華→美しい華になった。
虎杖たち
_やっと登場した原作のメインキャラ。
新しく追加された総則10で超焦ってる。
7/25追記。
総則を修正、及び一部文章を修正。
2025/11/26追記。
一部文章を修正。