死滅回游の一般泳者   作:モチゴメ

6 / 9
大変長らくお待たせしました(n回目)
これ完結まで数年くらい跨ぎそうだな…
あと文脈がちょっと納得がいってないとこあるので後から一部修正するかも
→修正しました(2025/11/25追記)


第6話 口火

「いるな」

「いるねぇ」

 

 11月12日、午前9時頃。

 化野(あだしの)朱堅(しゅげん)の二人は、根城としていた無人マンションにて泳者の接近を知覚していた。

 

「呪力が立ち昇った直後にまた微弱になる、こういうON・OFFがしっかりしてると手練れの傾向が高いんだっけ?」

「ああ。そして、室内(ここ)まで聞こえてくる爆発音から十中八九爆破系の術式ないし拡張術式の使い手だろうな――コガネ」

『は~い』

 

 朱堅が呼びつけると、間延びした声でコガネが現れる。

 

「半径150m圏内且つ、1分以内に点が動いた泳者(プレイヤー)を検索しろ」

『承知~』

 

 躾けた呪霊を近くで放し飼いしていた為、それを祓ったのだろうとアタリをつけた朱堅はその検索結果を見て確信に至った。

 

 黄櫨(はぜのき) 得点015 変更00回 

  (いおり) 滞留結界東京第1 

 

「黄櫨…こいつだな、どうする?」

「どうするって?」

「決まってんだろ。俺が殺るか、お前が戦るかだ」

「…あ~、思い出した、前に言ってた死線を潜れってアレね」

「そうだ。俺ならまず殺れるだろうが、これも良い機会だと思ってな」

「オッケー、じゃあ俺が戦るよ。あとついでに朱堅は日車(ひぐるま)の調査をよろしく」

 

 敵に対する動きを語っていたところ、突如ぶち込まれた100点保持者(ホルダー)の名に朱堅は訝しんだ。

 

「おい待て、何でそうなる」

「だって東京第一(ここ)で100点越えの泳者って、俺以外だとソイツだけじゃん。だから偵察頼みたいなって」

「いや、それは分かるが何で今なんだよ」

 

 黄櫨の後でも良いだろう――と朱堅が主張しようとするも、化野の浮かべる顔に息をのむ。

 

 いつも通り人当たりの良さ気な、穏やかな顔。

 泣きボクロが特徴的な、男でも色気を感じてしまう魔性の貌。

 しかし、そのどこかから得も言われぬ迫力を感じた。

 呪霊、悪鬼、異類異形。様々な言葉を想起してもなお表現しきれぬ化生の者のそれ。

 その圧力はまるで、かつて、平安にて相対した、かの――

 

「んー……うまく言えないんだけどさ」

 

 化野の悩まし気な声にハッと朱堅の意識が戻る。

 朱堅はその感覚から、化野の言いたい事をうっすらと理解した。

 

「多分、今じゃなきゃダメだと思うんだよ。

 俺が成長できるかどうか…多分、ここで決まる」

 

 ここが、分水嶺なのだと。

 


 

 約1時間後、東京第1結界某所。

 大通りを2人の男が練り歩く。

 

「ずっと考えてたんだよね」

 

 道形に歩きながら化野が吐露する。

 そのゆったりとした足取りは自然で、まるで散歩に興じているかのような穏やかさを感じさせる。

 そんな雰囲気とは裏腹に、無邪気ながらも汚泥のような悪意が紡がれる。

 

「得点を持った術師を殺しても、得られる点は5点だけ…これ、すっごいイヤじゃない? いっぱい点を取りたいのに、これだと尋常じゃない手間が掛かる」

 

 死滅回游において点とは、管理者が泳者の生命に掛けた価値を指す。

 そしてその価値の基準とは、術師か否か。いくら当人が点を所持していようとも、その価値が変動することは決して無い。

 その為、多くの点を得るには多くの人を殺害する必要がある。

 

「だからそれを変えた。高得点(ハイスコア)を狙う為に」

 

 赤信号でその足を止め、半身になり後ろの男へと振り向く。

 

「………」

 

 上裸にオーバーオールを直で着るという独特なファッションをしたその男は、左目を閉じて憮然とした表情を浮かべていた。

 

 死滅回游(しめつかいゆう)泳者(プレイヤー) 黄櫨(はぜのき)(いおり)

 所持得点(しょじポイント) 15点

 

「アンタ方も点の為に動いている訳でしょ、それと何が違う?」

 

 化野の問いかけに対し、黄櫨は不機嫌さを顕わにして返答する。

 

「俺達が点を取ろうとしてんのは先を見据えた保険だ。テメェみたく遊んでる訳じゃねぇ。

 だってのにテメェのせいで俺らも狙われるリスクが跳ね上がったんだ、見合った収穫が無きゃ割に合わねぇだろ」

「ゲームはフェアであるべきだ。自発的な縛りプレイならともかく、自分たちが優位じゃなきゃ嫌だってのは子供の理屈じゃない?」

 

 ピクリ、と黄櫨が眉を顰める。

 

「そうか、じゃあ一方的に非術師を殺戮してるテメェは子供か?」

「……? いや、それとこれとじゃ話は別でしょ。総則で肯定されている以上、非術師(あれら)は点だ。 泳者じゃないんだからそれは違くない?」

「…なるほどな、俺の友人が消しとけっつってた理由がよく分かったよ。噛み合わねぇ」

 

 黄櫨は口を噤み、話は終わりだと言わんばかりに呪力を高め臨戦態勢へと移る。

 化野も同じく呪力を回す。

 二人の距離は凡そ10メートル、双方ともに攻撃の射程範囲。

 ピリリと空気が張り詰める――。

 

「――ッ!!」

 

 黄櫨がズボンのポケットから片腕を抜拳。

 握りしめていた複数の歯を投げつける。

 それを見た化野は大きな前傾姿勢で走り出し、歯の弾幕の下を潜り抜けながら距離を詰めた。

 

「(速い!)」

 

 黄櫨の思惑が外れ、化野の後方で複数の歯が時間差で起爆、黒煙を撒き散らした。

 懐に入った化野は、お返しとばかりに黄櫨の頭部へ多量の水をブチ撒ける。

 そして即座にその水は凍り、頭部を覆う氷を砕かんと化野の拳が迫った。

 

「わお」

 

 しかし腐っても受肉型の術師。

 黄櫨はもう片方の手に握っていた左眼を放り、化野の両腕をガシリと掴んだ。

 

 ――黄櫨の術式「呪爆体(じゅばくたい)」は、自らの身体を爆弾へと変えるもの。

 デフォルトで組み込まれている自傷の縛りにより、その威力は並の術師を容易く屠ることが出来る。

 

 

 

 爆音。

 

 

 

 ダイナマイトを思わせる爆発の後、煙の中から現れたのは――。

 

 軽傷の黄櫨と、両腕が消し飛んだ化野の姿。

 黄櫨は爆発を受けても自らの呪力であるため傷が浅く、少ない負担で頭部の氷を対処した。

 そして化野も満身創痍ではあるが生存。両腕を捨てる即席の“縛り”、そして両腕分の呪力強化を他に回すことで爆発を凌いだ。

 

「いやぁエッグいバ火力で」

 

 化野がバックステップで距離を取る。

 黄櫨が即座に治した前歯を折り指で打ち出すも、口から高速で吐き出された水弾で軌道を逸らされる。歯はあらぬ方向へと飛んでいき、時間差で爆発した。

 

「(水を生みだし操る術式か? 氷は拡張術式かそれとも…いや、それより)」

 

 反転術式で両腕を生やし始めている化野を見やり、黄櫨は追撃せずに思案する。

 

「(部位欠損も修復できるほど高度な反転術式とはな。俺の場合は術式も兼ねた縛りで精度を底上げしてるが、コイツの場合は呪力操作の緻密さから恐らく純粋な技術…)」

 

 歴戦の経験で養った勘を働かせる黄櫨、そしてその推測は当たっていた。

 黄櫨のような縛りなしに、その治癒能力は純然たる才能によって培われている――それが表すことはつまり。

 

「化け物の域だな」

 

 両腕が生え揃った化野の姿に、思わず言葉が漏れた。

 

「(朱堅(もうひとり)がどっか行ったから攻めに来たってのに、トンデモねェ爆弾が見つかったもんだ。これ以上下手に動かれりゃ厄介だ、速攻でコイツを――狩る)」

「(なんてこと考えてそうだなぁ)」

 

 静かにギアを上げる黄櫨に対し、化野は冷静に淡々と思考する。

 

「(呪力操作(きほん)反転術式(かいふく)精神性(メンタリティ)…どれ一つ取っても一級品。自傷も即座にできるみたいだし、十中八九朱堅みたいな受肉型の泳者かな。

 もし覚醒型でも高難易度(ゲキムズ)なことに変わりないし、正味どっちでも良い話なんだけど。はてさて、どうしたもんか…あ)」

 

 戦況を分析していた化野の脳に一つの案が湧く。

 それを即決で採用した化野は、にんまりと悪戯っ子のような笑みを浮かべた。

 

「『まぁ初球は様子見で』」

 

 化野は静かに術式を発動し、掌の中に氷を生成。

 そして好きな漫画の適当な台詞を諳んじながらピッチングフォームを取る。

 

「『目指すは完全試合(パーフェクトゲーム)だ』…なんて、ねっ!」

 

 そのまま氷は呪力強化により剛速球となって黄櫨へと向かう。

 が、それでもたかが投球もとい投氷。なんなく飛ばされた歯に衝突し軌道を逸らされ――

 

「…あ?」

 

 歯を巻き込む形で()()()()

 

 爆弾と化している歯が、ではなく()()爆発した。

 その事実に黄櫨の思考が一瞬止まる。

 

「いいねぇ、即席にしちゃ上等だ」

 

 攻撃を防がれた化野の、しかし嬉しそうな声に黄櫨は即座に理解した。

 

「…なるほど。『水分の生成と操作』、それがてめぇの術式か」

「うーん、当たらずとも遠からず。50点!」

 

 惜しい!と残念そうな顔をする化野に苛立ち黄櫨は舌打ちした。

 

「『水分の操作』ってところは良い線行ってるよ。ただ、この水は呪力特性でね」

「…なるほどな。だが術式の開示に呪力特性を強化する効果はねぇぞ、下手こいたな素人」

「わざとだよ玄人きどり。言ったろ、『()()()()()()()()()()()()()』ってね」

 

 挑発と理解するも青筋が浮かぶ黄櫨を、化野は静かに見据える。

 

「(現時点の俺の実力を1、朱堅を5とするなら、今キレたこいつは2ってところだ。…もし領域を使えるなら3まで行くか?)」

 

 ――お前も本格的に死線を潜る頃合いだろ――

 

 その言葉を思い出し、そして実際に相対したことで明確になった力量差を測る。

 「自分の成長には必要なことだ」と朱堅を日車の下へと向かわせたものの、勝率は低い。

 凡そ60%の確率で、負けか相打ちという形で死ぬだろうと当たりをつける。

 いわば薄氷の上を立っているに等しい状況下。

 

 しかし。

 

危険(アクセル)なんて、踏み込んでなんぼでしょ」

 

 折角の殺し合い(ゲーム)で安牌なんてつまらない。

 そう言わんばかりの笑みを浮かべ、化野は楽し気に嗤うのだった。

 




化野
_地雷原での爆走を決めたエンジョイ勢。
 やっと術式の詳細をお披露目できそう。
朱堅
_化野に説得され、日車の下へ。
 話の都合とも言う。
黄櫨
_リングインした原作キャラ。
 術式名と反転術式が高精度な理由は捏造。

7/25追記
一部文章を修正。
9/1追記
同上。
2025/11/26追記
話タイトルと一部文章、及び黄櫨の得点と化野の術式についての説明を修正。
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