IS インフィニット・ストラトス BREAKERS(改訂)   作:raludo

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遅くなりましたが十一話です。


第十一話 教えて

一つ言っておけば、IS学園での紅牙の仕事は結構ある。任務として織斑一夏の護衛を受け負っていること以外にも、学園にいる代表候補生やそれに連なる生徒たちの動向。そして、襲撃者に対して迅速に対応できるよう各種警戒の任を負っている。

 

織斑一夏に集う様々な視線を分断させるために、紅牙も学園入学を果たした。それは思惑通り、彼一人に対する視線の量は焼け石に水かもしれないが確かに減り、こちらに引き付けることに成功している。

 

だが、同時にそれはイリーガルな手段を問わない組織にとっては格好のエサでもあるのだ。直接学園に乗り込んでくると言うことも考えられなくはない。目標がたった一つよりも、どちらか一方を確保するという方が簡単だからだ。

 

そのための紅牙でもあるのだが、いかんせん実際に戦うとなれば多勢に無勢。確実に防衛対象を守り切れるとは言い難い。IS学園の外からのバックアップがあるとはいえ、そういった襲撃者に対する準備はしすぎてもしすぎることはない。

 

故に紅牙は時間のとられるクラスの代表などなる気はさらさらないし、その旨はしっかりと担任である織斑千冬にも伝えていた。

 

「織斑君が良いと思います!」

 

「私は黒咲君!」

 

なんてことはない。授業が進み、クラスの代表者を決めるという話になった折りに、こう言った他薦の嵐が巻き起こっているわけだ。動物園ならまだしも、この珍しいからクラス代表にしてしまえと言う短絡思考は正直見ていて辟易してしまう。

 

「黒咲に関しては事情があってクラス代表は無理だ。推薦するなら他の者にしろ」

 

え~、というブーイングが巻き起こるものの、切り替えは早いのか他薦の嵐は一夏に集中していく。ある意味、彼に振りかかる視線を分断するという任務は失敗しているかもしれない。だが、あくまでも悪意ある視線ではないので、大目に見てほしいところだ。騒がしくなる教室で紅牙は遠くを見るような目でぼんやりと事の成り行きを見守っていた。

 

「いいか?もう一度説明するぞ。再来週に行われるクラス対抗戦のクラス代表を決めるのだが、この代表者には様々な仕事がある。対抗戦だけでなく、生徒会主催の会議や委員会への出席なども含まれるが、クラス代表は一度決まったら一年変更はないと思ってくれ」

 

再度クラス代表についての説明を行う千冬。どうやらクラス代表は何かと忙しい役職なのだろう。他薦する者はいても、自薦する者は出てこない。そういう部分に青臭さと言うか、学生の無責任さが表れているのかもしれない。

 

――と言っても、それが普通なんだろうな。

 

恐らく彼女たちはそこまで深く考えているわけではなく、純粋に面白そうという思いだけで選んでいるのだろうなと思うと、なんとなく寂しいような感覚に囚われる。

 

そんな純粋な心なんて、もう自分には無いと、そう思いながら。

 

すると、少し陰りのある心情を抱いていた紅牙は、すっと背筋を伸ばす。何か異変を感じ取ったのだ。

 

教室の一角だけ雰囲気が変わった。普通ならば気が付かないような変化だが、周りの浮ついた雰囲気とは真逆の雰囲気だったため、それが浮き彫りになる形で紅牙には感じられたのだ。

 

――面倒だ。

 

ちらりと覗けば、そこには形容しがたい表情を浮かべた金髪の少女がわなわなと体を震わせていた。それがこのクラスの意識の低さに対してなのか、単なる女尊男卑に染まった考えなのかは紅牙には推し量れないが。

 

そして、それはすぐに行動に現れた。

 

バンッ!!

 

教室の後ろ、つまり件の彼女の方から机を叩くような鈍い音が響いた。その音に騒がしかった教室はしんと静まり、皆視線を一か所に集中させる。

 

大きな音と共に立ちあがった彼女は体を震わせながらも、俯いており、長い髪のせいもあってその表情を読み取ることはできない。だが、少なくとも彼女が良い感情を抱いていないということは明確だった。

 

「みなさん、正気ですの……!?」

 

イギリス代表候補生、セシリア・オルコットは勢いよく周りを見渡し、怒りの表情を隠さずに、怒鳴り散らす。

 

「彼が男だからとか、珍しいからだとか、そんなもの珍しさだけで名誉あるクラス代表を任せるのですか!?クラス代表は文字通りクラスの代表。このクラスの顔でもあるのですよ。それを初心者に任すなど言語道断ですわ!!」

 

一度堰を切ってあふれ出た感情はもう止まらない。それは昨夜の刀奈の時と同じで、自分で止められるものではないのだろう。ただただその感情を爆発させるセシリア。その発言を紅牙を含め、クラス中の生徒たちが、まるで時が止まったように動かず、その言葉を聞いている。

 

「……わたくしは反対ですわ。そもそも織斑さん。あなたに覚悟はあるのですか?突然他薦させられたあなたにこれを聞くのは酷かもしれませんが、それ相応の覚悟が無ければ、わたくしは絶対に認めません。多数決であなたが決まるくらいなら、今ここでわたくしが立候補いたします」

 

少し落ち着いたのか声のトーンを抑え、一度深呼吸をするセシリア。開かれたその蒼い瞳は静かな炎を灯らせていた。

 

すると、今まで黙っていた一夏がゆっくりと腰を上げ、セシリアの方へと振り返る。いつになく真面目な表情に紅牙は彼と初めて模擬戦を行った時のことを思い出していた。

 

――同じだ。あの時と。

 

紅牙にとって今の一夏の表情は、一次移行を終えた時の決然とした表情の一夏と重なって見えた。強い意志を感じさせるような、自分には真似できない表情。

 

ISに関わってまだ短いが、着々と一夏の中では平凡だった日常から着々と何かが変わりつつあるのを紅牙は感じており、すぐに変わっていく一夏に少し羨ましい思いを抱いたのは、ここだけの話だ。

 

「オルコットさん……でいいよな?確かに俺は弱っちいし、ISの何もかもがまだわからない状態だ。オルコットさんって代表候補生なんだよな?自己紹介の時に言っていたけど、それってすごいことだと思うし、そんなすごい人からしてみれば、俺がクラス代表になるというのは憤慨ものなんだろう」

 

でも、と一夏は続ける。

 

「せっかく、みんなが推薦してくれたんだ。その理由は軽い気持ちなのかもしれないけど、これは俺にとってもチャンスなんだ」

 

ぎゅっと拳を握り、胸にそっと置く。大事なものを離さないかのように。

 

「俺は……強くなりたい。強くなる理由はまだわかんないけど、でも、それだけで何もしないのは嫌だから。だから、これを機会に俺は強くなりたい。さっきも織斑先生が言っていたけど、クラス代表って対抗戦に出たりするんだろ?なら、丁度いい」

 

確かに、クラス代表の説明をしている時にそういった話があったなと紅牙は思い出したかのように心の中で相槌を打つ。

 

「俺、織斑一夏は一年一組のクラス代表に立候補します」

 

深く決意を湛えた瞳がセシリアを射抜く。少し、それに動揺した彼女であったが、それを不敵に笑い飛ばし、左手を腰に当て右の人差指を一夏の方へビシッと突き付ける。

 

「ならば、決闘ですわ!!クラス代表の座をかけて、模擬戦をしようじゃありませんか。言っておきますけど、わたくしは自分でも男嫌いと自負しております。ですので、――手加減は一切いたしませんわよ?」

 

「上等だ。今の俺にできるすべてを君にぶつけて見せる!!」

 

バチバチと二人の視線が重なり合う。紅牙はこの出来事を終始傍観していたが、自分に火の粉が掛からなくて良かったとどこか他人事のような思いを抱いていた。

 

「待て、お前ら。こっちを置いて二人だけで話を進めるんじゃない。アリーナを貸しきるのも簡単じゃないんだぞ」

 

「「ご、ごめんなさい」」

 

最終的には、溜息と一緒に吐き出された千冬の言葉により、その場は一度締めくくられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「てことで、頼む紅牙。ISの練習に付き合ってくれないか」

 

朝の入学式から始まったこの日は、すでに終わりを告げようとしていた。授業がすべて終了した教室では、窓から差し込む暁が視界を紅蓮に染める。

 

目の前には両手を合わせ、深々と頭を下げている一夏。人がまばらになった教室でなされたそれは、僅かに残っていた少女たちの想像を膨らませる。

 

「俺は何も知らないぞ。聞いてもいないし、見もしていない」

 

紅牙は棒読みでカクカクとわざとらしく機械のような動きで顔を背ける。無表情と言うよりはジト目といった表情を張り付けて。

 

「そんなご無体な!!なあ、紅牙頼むよー」

 

顔を背ければ、背けた方に回り込んで再び両手を合わせてお願いのポーズをする一夏。左を向けば左に。右に向けば右にといった具合にだ。

 

「はあ……」

 

今日になって何回目の溜息だろうか。もはや後ろを向いて去ろうとしても、回り込まれるこの状況に紅牙は思わず額を抑えてしまう。

 

「あのな、俺はそんなに暇じゃないんだが……」

 

「そこを何とか頼みます、紅牙大先生!!あなただけが頼りなんですよ」

 

「知らん」

 

「そんな殺生な!!」

 

うわーんと泣き崩れるようなしぐさを取る一夏に再び溜息。

 

「織斑君いますかー?」

 

丁度その時、教室前方のドアが開き、そこから翡翠のような髪を揺らして覗き込む人物が一人。

 

「って、織斑君!?なんでそんな泣き崩れて……。まさか黒咲君?あなたが織斑君をいじめて……っ!!」

 

「待ってください、違います。俺は何もしていません」

 

面倒くさい事態になりかねないと判断した紅牙は、入ってきた人物――山田真耶に事情を説明する。

 

「……なるほど。それなら黒咲君、実技ではなく座学を手伝ってあげてはどうですか?あなたなら、問題なく教えられるのではないでしょうか。今日の授業も問題ないみたいなので。幸い、部屋も同じことですし、ちょっと教えるくらいの時間はあるのではないですか?」

 

「同じ部屋なのか……」

 

ちらりと一夏を覗き見れば、今度は両手で祈りを捧げるようなポーズで懇願する一夏。

 

――どちらにせよ、同じ部屋ならこうなる運命なのかもしれないな。運命なんて言う言葉を簡単に使うのは憚られるが。

 

そう思った紅牙は諦め表情を浮かべ、がっくりと肩を落とす。どちらにせよ、一夏の護衛を受け負っているのならば、いずれこうなることも把握していた。

 

せめて、もう少し日にちが経った後ならば、付き合ってもよかったのだが、いかんせん入学して初日からではこちらも対応できない。

 

「分かりました。それで山田先生はどういった用件で来たんですか?一夏の名を呼んでいたようですが……」

 

「あ、はい。というのも、用件は織斑君の部屋の番号を教えに来たんです」

 

真耶は一夏に視線を向けると、途端に顔を近づけて何事かを一夏に伝えると、一夏は顔を赤くしながらも慌てて顔を振り、否定の意を表す。

 

「そうですか……。あ、荷物などはあらかじめ織斑先生が運んでくださっているようなので、そこは心配しなくても大丈夫ですよ」

 

「あ、そうですか……。千冬姉、ちゃんと荷造りしてくれたんだよな……?」

 

「それは……私にはわかりません……」

 

二人とも千冬の隠された醜態を知っているのか、二人そろって不安そうな表情を浮かべる。それが何のことかわからない紅牙はその二人を不思議そうに見ていることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやくだ……」

 

薄暗い部屋に妙に気の抜けたような声が異様に響き渡る。

 

部屋の唯一の光源であるパソコンのモニターにはいくつものウィンドウが開かれており、それらを凄まじい勢いで読み漁っている、その男性はモニターの光で妙に輝く褐色の短髪が特徴的だった。

 

「確か、もう何年も前の話なんだよね~。〝あいつ〟がまだいた時の、あの天災様によって計画されたこれは」

 

口には一本の煙草を無造作に加えており、朧げながら淡い朱色の火を灯している。

 

「ようやく長い長い第一段階は終了だ。この第一段階だけで一体どれだけ時間が掛かったのやら」

 

カタカタとキーボードを叩く手は止めずに、ひたすらに画面に走る文字を凄まじい勢いで目が追っていく。そこに一つの名前が一瞬だが映った。

 

そこには〝凪城藍人〟と記されていた。

 

「さて第二段階始動のためのトリガーを引くとしますか」

 

そう呟くと、その男性は懐から携帯端末を取りだし耳に当てる。愉快な表情と共に。

 

 

 

 

「あ、氷華君?ちょっとした任務があるんだけど、今から執務室に来てくれないかな?」

 

 

 

 

 




あとがき

こんにちは、raludoです。

第十一話をお届けしました。

今回の話は少し文体が変わっているかもしれません。と言うのも、前半と後半で大分書き直しがあったり、そもそも忙しくて文を書いていない時が長かったり、ちょっとした影響を受けたりなど、色々とあるわけですが、変になってないといいなあ。

ようやく第一章も大きく動き出すところに来ました。今回はその布石も少し含めています。

それよりも紅牙が主人公していない件のほうが重大なのかな。いやあ、一夏って主人公させやすいキャラじゃないですか?

一応、表は一夏、裏は紅牙って感じでプロットは作ってあるんですが、やっぱり最初の方はどうしても一夏の方が目立ってしまう。(自分が主人公してる一夏を書きたいというのもあるのかもしれませんw)

ただ、キャラ改変はそのキャラの魅力を潰すようなことにならないかと少し悩み中です。今回のセシリアも、原作通り一夏にかみついたほうが良かったのかなと。

でも、セシリアが本当に代表候補生としての振る舞いを理解しているのなら、原作のようなことにはならないんじゃないのかなあなんて。その心に秘める思いがあったとしても。

まあ、結局は人によって分かれてしまう意見ですからね。うちはこの路線でやっていきます。

今回の話で何かおかしなところや、矛盾点などがございましたら教えてもらえればと思います。

それでは今回はここまで。

BREAKERSをご覧いただきありがとうございました。

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