IS インフィニット・ストラトス BREAKERS(改訂)   作:raludo

17 / 20
第十七話 ――には負けたくない

四月の暖かみのある日差しがアリーナのピットに差し込む中、織斑一夏は緊張で寒くもないのに体を震わせていた。生まれたての小鹿とまではいかないが、誰が見ても緊張しているのがわかるほどである。

 

「……しっかりしろ、俺。素数だ、こういう時は素数を数えるんだ」

 

「まったく、修業が足らん証拠だ」

 

まるで呪詛のように素数を唱えだす一夏。そして、そんな隣人の様子を見て、嘆息したように息を吐く篠ノ之箒。現在二人はセシリア・オルコットとの模擬選を行うためにピットで待機しているところであった。定刻まではあと十分を切っており、時計の針が進むごとに一夏の心臓は早鐘を打っていく。

 

「今更何を緊張するというのだ。できることはやったのだろう?ならば、あとは全力を出せるように肩の力を抜くことだ」

 

「そうは言っても、緊張するもんは仕方ないだろ?」

 

「はあ、まったく」

 

模擬戦。しかも自分の実力がこれからの自分と紅牙の立ち位置を決めかねない重要な試合だ。緊張するなと言うほうが無理な話かもしれない。

 

そんな一夏の状態をさすがに見かねたのか、箒が一夏に落ち着かせるためにいくつかアドバイスを送る。

 

「一夏。相手の――セシリアの機体はどのような機体だ?」

 

「セシリアの?全方位攻撃が可能な自立機動兵器〝ブルー・ティアーズ〟が主力の中・遠距離機だろ?どっちかというと中距離より遠距離の方に比重を置いているのかな」

 

一夏があらかじめ学園でのデータベースで閲覧したセシリアの専用機であるブルー・ティアーズの情報を頭に浮かべる。閲覧した時は箒も付き添っていたので、答え合わせのように首肯する。

 

「そうだな。IS学園には各国の専用機のデータ提出義務が存在する。その表層部分なら学生である私たちも閲覧可能だ。だが、それは向こうも同じはず。一夏。確か一度模擬戦をしたことがあると言っていたな」

 

「ああ、紅牙と一度、倉持技研でな」

 

「ならば、その時のデータは学園に送られているはず。お前の専用機……〝白式〟だったか?そのデータも当然相手は把握しているはずだ」

 

箒の言おうとしていることは一夏にはよくわかっていた。情報というものは戦いにおいては一番重要と言っても過言ではない。その言葉を最初に一夏に送ったのが紅牙であった。

 

『なあ、セシリアに勝つには何をしたらいいと思う?』

 

『技量不足は今更覆せない。なら、あとは情報を集めて対策を練るしかないだろうな』

 

『情報を集める?そんなことでいいのか』

 

『情報というものは戦いにおいて一番重要と言っても過言ではないからな。もちろんISを展開して訓練することも大事だが、しっかりと相手のことも調べておかないと勝てるものも勝てないぞ』

 

この日までに何度か紅牙に教えを乞いたが、その時の会話が一夏の脳裏を過ぎていく。言われた通りスペックデータに目を通し、相手の戦術に対する対策も一応立てた。

 

『お前の機体の強みは間違いなく零落白夜だ。それを起点に戦術を練るんだ』

 

『と言ってもなあ。確かに凄い能力だけどさ、所詮は一振りの剣だぜ?当たらなきゃどうしようもない』

 

『逆を言えば、当たればどうとでもなるということだろう。やりようはいろいろあるはずだ』

 

そう言われ、零落白夜での戦い方を考え、切り札と呼べるものも編み出した。訓練は一度も付き合ってくれなかったが、こういったアドバイスはしっかりとしてくれた紅牙には頭が上がらない一夏だった。

 

「大丈夫。白式のスペックデータなんて言っちゃあなんだが、〝たかが知れてる〟。武装に関しては一つしかないからな。まあ、単一仕様が知られているのはちょっときついけどやりようはあるさ」

 

「わかっているのならいい。――どうだ?少しは緊張が解けたか?」

 

「いや、まったく」

 

「はあ……」

 

ある意味でマイペースな一夏に箒がため息をつくも、やるときはやる男だと昔から知っているのでそれほど心配はしていなかった。ただこうやって試合前にあたふたとしているのが箒としては気に入らなかっただけである。

 

「織斑君、準備はできていますか?」

 

そして、ついにその時は来た。試合を始める前の最終確認として教師である山田麻耶が一夏のいるピットに訪れた。その後ろには織斑千冬の姿もある。

 

「そろそろ時間だ。覚悟は決めたか」

 

「うっ……もう出番なのか」

 

自信なさげに答える一夏の姿を一瞥すると、肩を落としながらため息をついた。

 

「……しっかりしろ。お前はやる時はやる男だろう?とりあえず、結果について今は置いておけ。先のことよりも今目の前に迫っているものを対処することに全力を注げ」

 

「千冬姉……」

 

「織斑先生と呼べ。……時間もない。準備を始めろ」

 

そう言うや否や、千冬は真耶を伴ってピットの上にある管制室へと向かって行った。それを見届けた一夏は少し俯き目を伏せる。

 

姉の言葉を心の中で反芻する。やる時はやる。彼女からしてみれば単なる励ましの言葉に過ぎなかったのかもしれないが、一夏にとってその言葉の意味は重く、深い。

 

――やる時はやる。それって少しは俺のこと認めてくれているってことなんだよな……?

 

自分のことをわかってくれる。理解してくれる。認めてくれる。それがこんなにも自分自身に力を与えてくれる。一夏はその感覚を噛みしめた。

 

「……ずるいや」

 

一夏は自身の手を目の前に持っていき、開いたり閉じたりし確認する。もう、その手は緊張で震えてはいなかった。

 

「――行ってくるよ。箒」

 

「――ああ、勝ってこい」

 

何かが変わった一夏は、少し頬を染めながらそれでも穏やかな笑顔を浮かべた箒を一瞥し、言葉を残す。それに応えるように箒も言葉を掛ける。二人の間ではそれだけで十分お互いの意思が伝わるのだから。

 

一度目を閉じ、気合を入れるように自身の頬を両手で強めに張る。パチンと引き締まるような音が響き、一夏はゆっくりと目を開ける。そこからは迅速に行動し始めた。ISスーツはあらかじめ制服の中に着込んでいるので、制服を素早く脱いでいく。ISスーツ姿になった一夏はピット内にあるカタパルトレーンまで走っていくと、右手を前に出し、その手首を掴む。掴んだ場所には白式の待機形態でもある、白いガントレットがはめられていた。

 

「行こうぜ。――白式。お前が何なのか、よくわからないけど。それでも今は――力を貸してほしい」

 

紅牙との模擬戦時に聞こえた不思議な声が未だに根強く頭に残っている一夏は、苦笑いするようにガントレットを見つめ、そして強く念じる。力を貸してほしい、ただその想いを。

 

すると、一夏の思いに応えるように、ほんの一瞬だけガントレットが青白く光り、ISが展開される。光を放ち、白い色彩が際立つ装甲が一夏の全身を包み、背部の巨大なウイングスラスターが羽開かれる。

 

「各部システム、問題なしっと。――よろしくな、白式」

 

『織斑君!準備はできましたか?』

 

「……はい、ISは問題ありません。いつでも行けます」

 

『わかりました。それではカタパルトに接続をお願いします。やり方はわかりますか?カタパルトに足を乗せるだけで大丈夫ですよ』

 

「わかりました!」

 

真耶の通信の通り、カタパルトに足を乗せる。すると、カシュッという音をたて足が固定される。一夏も射出の準備に入るため、事前に教わった通り前傾姿勢を取る。そのままの体制で射出されれば空気抵抗の餌食になってしまうからという理由だ。

 

ふと、ピットからグラウンドの方へと視線を向けると、ハイパーセンサーが反応し、グラウンドに佇んでいるブルー・ティアーズを認識する。

 

『カタパルト接続確認。では、もう時間ですのですぐ射出してください。タイミングはそちらに任せます』

 

ハイパーセンサーで読み取れるデータに自分が事前に得たデータと相違がないかササッと確認する。特に大きな差異はないと確認できた一夏は蒼く武骨な拳を握りしめ、一つ深呼吸。――そして。

 

「じゃあ、――行きます!」

 

『わかりました。カタパルト射出します』

 

カタパルトが少しずつ動き出し、やがて一夏を吐き出さんとばかりにグラウンドに向けて急加速していく。瞬間的に強烈なGを感じるが、ISに備わっているPICが瞬時にそれを最適化し、すぐに感じなくなる。足がカタパルトから離れる感覚を頼りに、そのまま空を飛ぶイメージを浮かべながらスラスターを吹かし、一夏は宙に踊り出る。

 

「っとと、何とか無事射出で来たみたいだな。何気にあれ結構不安なんだよなあ」

 

「あら、レディを待たせているのに、謝罪の一つもないのかしら?」

 

オープンチャネルで聞こえてきた声に、一夏は正面、その少し上を向く。

 

蒼、その一色が特徴的ISだった。超大なスナイパーライフルを片手に、両肩の自立機動兵器であるビットが装着された非固定ユニットは妖精の羽のよう。一夏は素直にそのISを美しいと思った。

 

「悪いな。なにぶん初心者のようなものなんだ。貴族様ならこの程度、笑って許してくれよ」

 

「当然ですわ。その呼び方は気に入りませんが、この程度で怒り散らすほど、英国貴族の器は小さくありませんわ」

 

お互いにニヤリと獰猛な笑みを浮かべる。両者とも言葉の応酬を楽しんでいる節があり、好戦的な姿勢をさらに加速させていた。

 

「まあ、ここで話していても始まりませんわ」

 

「それには同感だ。俺も言葉じゃなく、こいつで語りたいからな」

 

一夏は右手を高らかに掲げ、心中で己の得物である相棒の名を唱える。すると、右手に光の粒子が集まり、機械刀である雪片弐型がコールされる。

 

「あら、それでは、それを私に当てないと会話にもなりませんわね?」

 

「ああ、だから――」

 

 

 

 

「こいつをお前にぶつけて、勝ってみせるさ!!」

 

試合開始のブザーが高らかに鳴った。

 

「うおおおおっ!!」

 

ブザーが鳴った瞬間、一夏はウイングスラスターの推力を全開にし、セシリアへ向かって急加速を行う。スラスターからは溢れんばかりのブースト光が吹き出される。

 

「なっ、正気ですの!?」

 

一夏は急接近しつつ、セシリアの驚いたような表情に、ニヤリと笑みを浮かべ、自らの作戦の成功を確信する。近接武装しかない白式ではどうあがいても接近戦以外では勝ち目がない。多少被弾してでもここは接近しておきたかったのだ。

 

――向うのペースに乗せられたら、それこそ負けちまうからな!

 

機動力ではトップクラスを誇る白式。数瞬のうちにはセシリアの懐へと――。

 

「……とでも言えばよろしいですか?」

 

「……え?」

 

もう少しで剣の間合い。そのあと少しのところで、一夏の眼前には二門の砲門が並べられる。

 

「残念ですわ。あなたのISが近接装備しかないのは把握してますの」

 

腰部に装着していた弾道型ミサイルを射出するタイプのビット。それを腰だめに二門展開したセシリアは、容赦なく一夏に直撃させるようにここまで引き付けていたのだ。

 

「まっずい!?」

 

「ここまで来て逃がしませんわ!」

 

咄嗟に体を捻ろうとしても、もうすでに剣を振りかぶろうと動作を始めている段階。その段階での回避行動は無理に等しかった。

 

一夏は成す術もなくビットから射出されたミサイルと激突する形で直撃を受けた。轟音と爆炎、PICでも殺しきれない衝撃が一夏を襲い、吹き飛ばす。

 

「うあああああっ!?」

 

宙をくるくる回りながら地面に落下していく一夏。すぐさま体勢を整えるものの、追撃とばかりにブルー・ティアーズのスナイパーライフルである、〝スターライトmkⅢ〟の的確な狙撃が一夏を射抜く。

 

「な、ちょ、まっ!?」

 

スラスターを吹かせ、縦横へ飛び回るものの、行動を先読みするかの如く、一夏の進む方向に狙撃が飛んでくるため、避けきることができずにシールドエネルギーを消耗させていく。

 

「ぐ、最初のミサイルが痛すぎる!あれだけで三分の一近くは吹き飛んだぞ!!」

 

そう叫ぶ間にもじわじわとなぶるような狙撃でがんがんシールドエネルギーを減らされていく一夏。まだ相手のビットが展開されていないのに相手の流れにのせられつつあるこの状況に戦慄する。

 

「これが、代表候補生の……力っていうのか」

 

わかってはいた。自分とは技量が離れすぎていることぐらい。理解はしていた。素人の考えなど見通されていることくらい。

 

一夏は強く唇を噛む。悔しかった。相手との力量の差ではない。まるで言い訳のように、相手が強いから仕方ないという思考を浮かべてしまう自分が悔しくて仕方なかったのだ。

 

「それでも、俺はやらなきゃいけない……。千冬姉が言ってくれたんだ。やる時はやる男だって。今ここでやれなかったら、千冬姉にも認められなくなる」

 

――そんなのは……いやなんだっ!!

 

人知れず、自分の中で覚悟を決めた一夏はハイパーセンサーでスターライトmkⅢを拡大。射線図を可視化し、銃口に着目する。

 

「完全に避けることはできなくても、せめてこいつで防ぐことぐらい!」

 

ハイパーセンサーのアラートと共に可視化した射線図を遮る形で雪片弐型を構える。刹那、雪片弐型が弾かれたような衝撃が体に奔る。

 

「受け止められた……?」

 

少し驚きの混じったセシリアの声がオープンチャネルから聞こえてくる。その反応に一夏はさらに感覚を研ぎ澄ませていく。

 

――考えろ。動きを止めずに考えろ。どうすれば、あいつに近づける?どうすれば〝あれ〟を使える状況にできる?

 

二発、三発と落ち着いて雪片弐型で切り払うように狙撃を防ぎながら、一夏は思考を巡らす。

 

「信じられませんがどうやら対応してきているみたいですわね。ならばこちらも、防ぎようのない弾雨というものを見せてあげましょう。――さあ、踊りなさい。このブルー・ティアーズの奏でる円舞曲に」

 

ブルー・ティアーズの両肩部のバインダーに装着されているビットが展開。四方に散っていく。それを確認した一夏は内心で歯噛みする。

 

――どうする?ビットを使われると射線図を予測して防ぐのは俺の技量じゃまず不可能。シールドエネルギーもなんだかんだ半分以上持ってかれている。……考えろ。諦めるな。

 

「とりあえず、動かないとハチの巣だ!」

 

スラスターを全開にしてその場を離れる一夏。四方に散ったビットから光の雨が降り注ぎ、直撃は避けているものの手足に次々と被弾して装甲が削られていく。

 

「こんなレーザーのなかでどうやって近付けばいいんだ!!」

 

悪態をつきながらも、ハイパーセンサーでビットの位地を確認しては必死にその射線から逃れようと空を駆け巡る。基本的に全方位から攻撃してくるような配置になっており、簡単には抜け出せないようになっていた。

 

――く、こんな時に狙撃が来たらひとたまりもない。狙撃されていないから何とかなっているけど……。いや、……待てよ?どうして狙撃してこないんだ?ビットで翻弄している今が絶好の狙撃チャンスのはずだ。

 

ここで一夏は一つの可能性に気付く。

 

――そうか!ビット制御が必要だから、それに集中しているってことなのか。思えば、最初からビットと狙撃で一方的に潰せたはずなのに、どちらか片方しか使ってこない。

 

「そういう……ことなら!!」

 

まだ活路はある。それを見出した一夏は自分でも驚くほど瞬時に戦術を組んでいく。

 

――ビット兵器って言っても、エネルギーの限界はあるはず。絶対にビットを呼び戻すタイミングがあるはずなんだ。それを見逃さなければ……。

 

「今は少しでも被弾を少なくする!そのためには!!」

 

一夏は上空から地表付近へと一気に下降すると共に地面を這うように低空飛行で上空から降り注ぐレーザーを躱していく。下からの攻撃がないため、幾分か落ち着いて対処することができるようになる。

 

「何をするつもりですの……?上空のアドバンテージを譲るなんて」

 

セシリアの困惑する声が聞こえるが、それに返事はせず、ひたすらに地表から機会を窺う。

 

「一転攻勢を狙っているのなら、残念ですが……ありえませんわ」

 

エネルギーがなくなったのかビット回収する素振りを見せるセシリアに一夏は弾かれたように上空へと飛翔する。

 

「それを読んでいないとでも!」

 

ビットを回収すると共に、腰部のビットから弾道型ミサイルを二発、四発と発射し、続けざまに狙撃を行うセシリア。ミサイルの執拗な誘導が一夏に迫り、狙撃が逃げ場を潰す。そうして時間を稼いでいる間に、ビットのエネルギーを回復させる戦法なのだろう。だが――。

 

「俺だってそれは読んでいるさ!――全速で行くぞ白式!!」

 

一夏の言葉に呼応するように、ウイングスラスターのブースター光が一段と輝き、先ほど以上の加速力を一夏に与える。その加速力を持って、一夏はミサイルの誘導を直撃する寸前で振り切る。

 

「な、なんて加速力ですの!?」

 

「武器がこれしかない分、スペックは高いんだよ!」

 

一気にセシリアの方へと加速していき、その距離を縮める。

 

「で、でも、いくら近づこうと、先ほどの二の舞ですわ!」

 

「そうだろうな。試合には勝てないかもしれない。――でも!!」

 

追加のミサイルを次々と撃ち出すセシリアに、一夏は避けるそぶりを見せずに雪片弐型に思いを込める。

 

――零落白夜。

 

一夏は全身がエネルギーに包まれるのを感じ、力強く雪片弐型を握りしめる。すると、刀身が縦に分かれて縮み、中央の開いた部分からは蒼光のエネルギー刃が姿を現す。

 

「勝負には――負けたくない!!」

 

幾つものミサイルが一夏を食らい尽くそうと迫ってくるが、一夏はそれらを無視して、零落白夜を発動させた雪片弐型を逆手持ちにし、振り上げる。そこで一夏の視界は爆炎に包まれ、何も見えなくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

爆炎に包まれた一夏を見ながら、勝利を確信したセシリア。現に一夏のシールドエネルギーは三分の一を切っている状態であれだけのミサイルに当たり、エネルギー消費の激しい零落白夜を発動させていた。シールドエネルギーが残っているはずがないのである。

 

思えば、不思議な人だったとセシリアは思う。素人があんなにもビットを凌ぐとは思わなかった。自国でもそんな人物はいないのではないだろうか。

 

――試合が終わったら、もう一度彼と話してみましょう。

 

自分の知っている卑しい男性たちとはどこか違った印象を受けたセシリアは心にそう決める。

 

『勝者、セシリア・オルコ――』

 

ミサイルが着弾してすぐさま勝者を告げるアナウンスが入り、意識を試合から切り替えようとしたその時。未だ煙が晴れぬそこから、〝光る何か〟が飛来し、ブルー・ティアーズの右肩部のバインダーに突き刺さる。

 

セシリアがそれを認識した時には、満タンに近かったブルー・ティアーズのシールドエネルギーはごっそりと削り取られ、バインダーが爆発する。

 

「な、なにが……!まさか……これは」

 

爆散したバインダーの破片に混じって、一夏の愛刀であった雪片弐型が地面に落ちていくのを確認したセシリアは呆然とそれを見つめていた。

 

「着弾すると同時に……投げたって言うんですの……?」

 

「はは……、一矢は報いたぜ」

 

煙が晴れると、装甲が所々剥がれ落ちた白式を纏いながら地面の方へと下降していく一夏を見つけ、堪らずセシリアもその隣へと並ぶ。

 

「ミサイルが爆発する前に投げたらさすがにわかるから、爆発すると同時に投げれば煙で見えなくなるかなって思ったんだ。先にシールドエネルギーが尽きたのはこっちだから、負けは負けだけど。それでも、一太刀も入れられずに負けるのは嫌だったんだ」

 

セシリアの背筋が震える。かつて自分の周りでこんなにも勇ましい姿を見せた男性がいただろうか。根柢がひっくり返されるような衝撃。セシリアはそれを感じていた。諦めないという強い意志を灯したそのまなざしにセシリアはあてられてしまったのだ。

 

――少し認識を変える必要があるのかもしれません。必ずしも男性は卑屈で情けない者ではないのだと。

 

自身の頬が火照っていることにも気付かず、セシリアは内心で一夏のことを評価点するとともに、ここにいないもう一人の男性についても、少しの期待を持つ。

 

 

 

 

願わくはもう一人の男性も、彼のように勇ましくあるようにと。

 

 

 

 




あとがき

こんにちは、raludoです。

紅牙がいない間のIS学園ということで模擬戦のシーンを書かせていただきました。戦闘シーンは難しいですが、すごく楽しみながら書いていました。

雪片を投げることについては自分でも少し無理があるかなあと思いながらも、それっぽくなるよう意識して書きました。でもまあ、違和感だらけかな?

それでは今回はここまで。

BREAKERSをお読みいただき、ありがとうございました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。