IS インフィニット・ストラトス BREAKERS(改訂)   作:raludo

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第十八話 もう狼煙は上がっている

 

織斑一夏とセシリア・オルコット。両者がクラス代表の座を賭けて模擬戦を行ってから数日が経った。任務を終えた紅牙も学園へと戻っていた。

 

先日の亡国機業との一件で無事紅葉(くれは)を救出した紅牙は、彼女の立場を守るために奔走するはめになるだろうと考えていた。場合によっては下げたくもない頭を地面に擦り付けることも考えていた。

 

『私のために無理しなくても……』

 

『ふざけないでくれ。何のためにここまで準備して来たと思っているんだ。――――いいか?俺は君を助けに来たんだ。それを途中で放り出すものか』

 

『…………ありがと』

 

こんな会話を彼女と交わしたのも記憶に新しい。それからはどこか少し距離が近いというか、弾んだ声で話してくる紅葉(くれは)にようやく少しは打ち解けてくれたかと紅牙はほんの少しだけ頬を緩めていた。刀奈が聞けば発狂しそうな内容であるが。

 

そして、もう一人。自身を雪奈(せつな)とそう名乗ったもう一人の被検体。元々は彼女を救出するミッションだったのだ。彼女に関してもできるだけのことをしようと紅牙は考えていた。

 

――それにしても。

 

彼女とヘリコプターの中で再会した時は大変だったことを思い出す。その機内に足を踏み入れた途端、氷の世界を思わせる冷気が身を襲ったのだ。覚えのあるその冷気に紅牙はその主を宥めるのに相当の苦労をした。

 

その中でも一人元気に過ごしていた雪奈(せつな)に関してはもう考えないことにした。

 

『えっと、なんて呼んだらいいのかな……。えっと、おにい……さん?……でいいかな……』

 

首を傾げながらどう?と聞いてくる姿は本来ならばなごむところなのだが、唐突にこちらを射抜く視線の冷気が増したため、紅牙はすぐさまその感情を押し殺し、努めて冷静に彼女の相手をしていた。

 

 

話は逸れたが、彼女たちをあの男、凪城結弦の元へと連れて帰った。必要ならば、心底気に入らないあの男に対しても、頭を下げる気でいた紅牙。

 

――しかし、結果としてその必要はなかった。

 

それもそうだ。元々、出撃の際に彼女たちをどのように対処するかは任せられていたのだ。もちろんこの男もそれなりの準備をしているはずだった。

 

『最近、BREAKERSも人員増加をしようかと思ってね』

 

その一言で解決してしまったのだ。もちろん、即配属というわけにはいかず、しかるべき手続きを踏む必要があるが、その辺のやり取りはこの男の得意分野である。安心しきるわけにいかないが、ひとまず安堵したというところだろうか。二人に関しても、特に異存はないようで、

 

『…………わたしはあなたがいるなら……それで…………な、なんでもない!!』

 

『私に何ができるかわからないけど、おにいさん。助けてもらった恩を返させてほしいです……!!』

 

しっかりとこちらの目を見て、その旨を話してくれたので、紅牙としても特に異存はなかった。

 

 

 

 

こうして、IS学園に来てから初の亡国機業との接触、は終わりを告げた。しかし、これだけで終わるはずがない。それは紅牙や氷華、それ以外の関係者誰もがわかっていることであった。始まりの狼煙はもう上がっているのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふーん」

 

「まあ、詳しくは話せないけど、そういうことだったんだよ」

 

「ほーん」

 

「……話を聞く気があるのか?」

 

「へえ、へええ、そういうこと言っちゃうんだ」

 

――IS学園。その生徒の長である生徒会長に与えられる一室、生徒会室。そこで紅牙は流水の少女、もとい更識楯無と対峙していた。生徒会長机で頬杖を突きながら半目でじとーっと睨んでいる楯無と、その状態に少し納得がいかず困惑している紅牙。

 

「一応、私たち更識の方でも織斑君やあなたの警護、言い方は悪いけれど監視もしているの。あなたがここに来た目的もこっちは理解している。――だからこそ、お互いの協力が必要と思わないかしら?」

 

うっすらと青筋を浮かべている楯無もとい、刀奈。その話している内容が正論であるため、紅牙はなにも言い返すことができなかった。

 

「……まあ、なんだ。配慮が足りなかったようで、それはすまなかった」

 

「まったくよ。ついでに私に対する配慮も改めて欲しいところね」

 

「ちょっと待て」

 

「ちょっと待て、じゃないわよ!なんか私とあなたの好感度リセットされてない!?更識にいたときは、もっとこうラブラブだったじゃない!なによこのすっかり冷めきった関係は!?」

 

「なんの話だよ!!」

 

突然訳のわからないことを言い出した刀奈に紅牙も声を大にして言い返す。いや、言わんとしていることはなんとなく理解できるが、それをこうもはっきりと指摘されれば、反論もしたくなるというのが人の性。紅牙もその例に漏れないのは、普通の人としての反応を取り戻していることを意味しているのかもしれない。本人は全く気付かないだろうが。

 

「あなた、絶対私のこと避けているわよね?そうよね!?」

 

「そんなことはない……と思う」

 

「ほらっ!断言できないじゃない!!むーーーーっ!!」

 

駄々っ子のようにぺちぺちと肩を叩いて来る刀奈。それに困ったように紅牙は宥めていく。

 

「わかった、わかったから!!――――まあ、確かに避けている……と思わせてしまう節は俺にも思い当たる」

 

声音を下げて、少し弱ったように頭をがりがりと掻きながら、ばつが悪そうに話す。

 

「…………」

 

ピタリと叩くことをやめた刀奈はすっかりと落ち着き、聞く姿勢に入っていた。紅牙の若干の雰囲気の変化を察知したのかもしれない。

 

「……俺は君にどんな顔をして会えばいいんだ?何の話をすれば、君は喜んでくれるんだろうな。――考えてはいたさ。あの月夜の出会いから、ずっと……」

 

入学式前日のあの出会いから今この瞬間まで、会おうと思えばいくらでも機会はあった。それでも、彼女に会わなかったのは、自分の足がそちらへ動き出そうとしなかったからだ。あの月夜の出会い。あそこでお互いの距離は狭まったのは確かだが、未だにどうすればいいのかわからない不器用な人間が、ここに一人ぼっちで佇んでいるのだ。

 

――俺は彼女に甘えているだけだ。自分のことを信じていてくれる。それを良いことに彼女のことに蓋をして目の前の任務に没頭する。これは任務を言い訳にして、ただ逃げているだけだ。

 

「結局俺は何も変わっていない。わかったようなふりをして、でも実際、俺は君に何をしてやれる?何をしたら君は――――」

 

「――大丈夫」

 

「え……?」

 

いつの間にか、隣まで近寄ってきていた刀奈が紅牙の腕を抱くように、抱き付いてきていた。女性特有の柔らかい感触と花をも思わせる香りが鼻腔をかすめる。それにすっかり心は落ち着いていった。

 

「あなたはあなたのままで接してくれればいいの。何かをしなくちゃいけないなんて、そんなことは考えなくていい。――――あなたは、あなたのままが一番格好良いんだから」

 

すぐ隣で首をわずかに傾げ、優しさを満面に出した笑み。その嬋媛(せんえん)さをも感じさせる彼女に紅牙は心を大きく弾ませる。ドキリとすることは今までもあったが、これはそれとは違う、心地の良い鼓動。紅牙はそんな暖かさに包まれていた。

 

――きっと彼女は愛想を尽かすまで、俺を信じて、想ってくれるのだろう。それに今は甘えることしかできなくても、逃げることしかできなくても、いつかありのままのすっきりとした気持ちで振り向いてくれることを、きっと彼女は待ってくれている。

 

「…………はは、本当に君は俺の保護者か……?なんでもお見通しなんだな」

 

「ううん。保護者はいや。……私は…………あなたの隣に立ちたいだけ……」

 

体が少しずつ熱くなっていく。彼女から視線を逸らせず、お互い見つめ合う。――優艶、雅。そんな言葉では表せない彼女のその魅力的な微笑みに、紅牙は顔が引き寄せられるのも気付かず――――。

 

 

 

 

――――紅牙は一つ、優しさの形を知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

――夜。

 

生徒たちは寝静まり、煌々と光り輝く星と月。それが窓越しに生徒会室を照らす。そんな静寂で神秘的な場所に刀奈は一人、椅子に座り、物思いにふけるように虚空を眺めていた。

 

――どうして、彼はISを扱えるのかしら。

 

彼女の頭の中はそれでいっぱいだった。昼間の〝幸せ〟をも感じさせる時間から半日ほど。彼のことを考えれば考えるほど、幸せな気分は遠のいていき、残るは彼の謎ばかり。

 

「でも、紅牙に会ったら、そんな心の曇りなんて一瞬で晴れるんだから、私も簡単な女よね……」

 

惚れた弱みというやつだろう。こうしてお互いが少しずつ歩み寄っていける関係がとても好ましく、心地よい。それを思えば、今考えている彼の謎などどうでもよくなるくらいに。

 

――でも、それはダメ。普通の女の子ならそれでいいのかもしれないけど、私は〝楯無〟。その責務がある。

 

それに、普通の女の子が彼に釣り合うとも考えていない刀奈はすぐさま思考を切り替える。いつまでも暖かさにしがみつくような惰弱な女では彼の隣には相応しくない。

 

「やっぱり鍵は彼のISよね……」

 

ふと思い、生徒会長机のパソコンでデータを呼び出す。一瞬のうちに投影ディスプレイとして眼前に情報が表示される。

 

「〝ミスティック・クラッド〟。委員会が技術者を集めて独自に開発したIS。と公式発表ではそうなっているけれど、いくらなんでも委員会が専用機まで作り出せるなんて思えないわ」

 

基本的にIS委員会はIS運用協定に加盟している国から人員とISを招集していくつかの部隊を持っている。だが、これは常駐するのではなく、有事の際や、定期的な軍事演習の際に結成されるものである。だが、それ以外にほんの少数のコアを委員会は所有している。研究や開発、あとはその実働データ収集のための部隊など、それらにコアが充てられている。

 

「まさしくBREAKERSはそのモルモット部隊なのでしょうけど……だからこそやりたい放題できる」

 

研究により新しく開発された武装やIS、それらの性能テストを治安維持などの目的で性能テストを行っている。それが実験……モルモット部隊だ。中には性能テストを委託してくる外部企業も存在している。どこにも、こう言った闇の部分は存在しているのだ。

 

その中で活躍したのであろう、ミスティック・クラッドのスペックデータにサッと目を通す。バランスよく、全てが高水準に仕上がっているこの機体。だが、それが刀奈にはおかしく映る。

 

「普通に考えて、ここまで高スペック機を事前に情報を漏らすことなく作ることができるのかしら。いえ、そんなものは不可能。それは私がよくわかっていること。となると、可能性は一つだけ」

 

世界を変革させた、人の身を超えたなどと言われる稀代の天才、篠ノ之束。彼女の手が入っているのではないか。

 

「そう考えれば、彼の更識を去った後の謎の経歴も辻褄が合う。あの天才の手に掛かれば、新しいISを一機作り出すことくらい造作もないはず」

 

――問題は、何のためにISを彼に与えたのか、というところね。

 

彼女は身内以外には極端に辛辣と聞く。ならば、紅牙は彼女にとって身内も同然ということなのだろうか。

 

「――情報が足りない」

 

これは自身の勘だが、彼の幼少期に答えがあるのではないかと、そう睨んでいる。更識の手でもMS計画以前の経歴を探ることはできなかった。もしかしたらそこに答えがあるのではないか――。

 

 

 

 

「ふーん、さすがその年で更識の長をやっているだけあるね。他の凡人よりは思考が回るようだ」

 

 

 

 

「っ!!」

 

不意に背後から声を掛けられる。自分以外気配のなかった室内に突如として、ほんの少しの希薄な気配が背後に現れたのだ。刀奈は飛び出すようにその場から離れ、懐から水色の扇子を取りだし、声の主に向かって突き付ける。

 

――そして、その人物を認識すると同時に、ああ……と納得する。この人ならば、こんな超常の類もやってのけるだろう。そんな妙な確信が彼女の中にはあった。

 

「――――篠ノ之……束……」

 

「やあやあ、その通り私が篠ノ之束ちゃんだよ。――――次に『うわあ、その年で自分をちゃん付けかよ……』っていう顔をしたら、お前のこと分子レベルで分解するから」

 

「……気を付けるわ」

 

実際、かなり冷や汗が止まらない状況だ。楯無としていくつもの死線は潜り抜けてきているが、そんな自分の感覚が必死に叫んでいる。彼女には敵わないと。戦闘能力がどうとかそういうレベルの話ではない。その存在感に気圧されているのだ。

 

「……お会いできて光栄です、篠ノ之博士。――して、ご用件は?」

 

「いやあ、君にも一度会っておこうかとね。コウが世話になったみたいだし?」

 

――コウ。紅牙のことよね。ならやはり……。

 

「――やはり、彼は貴女と関係していたんですね」

 

「そんな、ちーちゃんのスリーサイズを調べるのと同じくらい簡単なこと聞かないでくれるかな」

 

ちーちゃん、恐らく織斑先生のことだろう。内心でそれは凄く難しいことではないだろうかと思ったが、言葉には出さない。今この場に無駄な言葉は必要ない。

 

「そう構えないでくれないかな。警戒心を持つのわかるけど、私は君と争いに来たんじゃない。話をしに来たんだ。――まあ、いいや。続けよう」

 

無表情から一転、ぽわぽわと笑みを見せて。

 

「まずはそうだなあ、一つ礼を。コウを助けてくれてありがとう。他にもコウを狙っている奴らはいたんだけど、比較的君のところはマシで助かったよ」

 

それは紅牙がMS計画の施設から救助した時のことを言っているのだろうか。そうなると、やはり紅牙は幼少期から彼女との知り合いということになる。

 

「――私はコウにしてあげられることは限られているから、手の届かないところはやっぱりあるんだよね」

 

「それだけ、貴女と彼の関係が深いと、そうとらえていいのかしら」

 

「好きにとらえるといいよ。さすがに私から言及はしないさ」

 

それから彼女はふむ、と腕を組み、何か閃いたように口を開く。

 

「……そうだ。これを渡しておこう」

 

パチンと指を鳴らすと、先程開いていたミスティック・クラッドのスペックデータを表示していた投影ディスプレイに一つのアドレスが表示される。

 

「これは……」

 

「私への連絡手段。まあ、どのように使うかは君の判断に任せるよ。君にはまだまだコウの傍にいてもらわないと困るからね。その意味で君には少し期待しているんだ」

 

そこで刀奈は我慢の限界だった。まるで自分の手の平で躍らせているような、そんな態度に感情が抑えられなかったのだ。

 

――私のことはいい。でも、彼を弄ぶようなことは許さない。……例え篠ノ之束でも!

 

「……彼に何を背負わせているんですか?」

 

「んー?」

 

「彼に、一体何をさせようとしているの!?彼の経歴は明らかに普通じゃない。それこそ、貴女がやったとしか考えられないような工作が随所にあるわ!」

 

「何を……かあ。君はまだ知らなくていいこと。……あはは、そんな怖い顔して睨まなくても、君はちゃんと知ることができるさ、――そのうち……ね」

 

そして、窓を開ける彼女。

 

「ま、待ちなさい!!」

 

「私と君、コウのことに関しては結構仲良くできると思うんだよね。お互い、護っていきたいものが同じなんだから……さ?」

 

「守っていきたい……?」

 

「微妙にニュアンスが違う気がするけど、まあ、いっか。君とはまた会うことになるだろうし――じゃあね!」

 

そう言い、窓からぴょんと飛び出す彼女。すぐ窓を覗き込み辺りを見回してみるが、人の影どころか気配さえ感じられなかった。

 

「守っていきたい……?何をやらせようとしているの……?」

 

弄んでいるわけではない。それはなんとなくわかったが、それでも謎な部分はいくつもある。だが、彼女がこうして自分の前に姿を現したということは、彼女にとって楯無という存在は何かしらの意味のある存在なのだろう。彼に関することでは特に。

 

言いようの知れない不安が心にのしかかると共に、その内側ではとてつもなく心強い味方を得たようなそんな気分だった。

 

 

 

 

――まるで、頭上に広がっている底なしの闇と煌びやかに光り輝く星月のように――――。

 

 

 

 

 




あとがき

どうも、raludoです。お久しぶりです。

遅くなりましたが、十八話お届けしました。

実は今回で第一章は終わりで次からは第二章になる予定なんですよ。実際はもう少し第一章で書くことが残っていたんですが、それは第二章でも書ける内容だったので、いっそのこと第一章は締めるか……という感じで、今回で第一章は終わりの予定です。

随分と更新間隔が不規則ですが、自分の都合というものもありますので、なにとぞご容赦ください。

それでは今回はここまで。

BREAKERSをお読みいただき、ありがとうございました。

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