IS インフィニット・ストラトス BREAKERS(改訂)   作:raludo

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第二十話 ヒョウカ・エンカウント

 

「それで?あなたは私の元から去った後、妹なんか作ってイチャこらしてたと……」

 

「誤解を生むような言い方をしないでくれ。そんなことは一言も言っていない」

 

「ふぅん?〝にいさまー!〟なんて呼ばれて、慕われているように見えたけど、あれは気のせいだったのかしらね……?」

 

「……なあ、これ激しく既視感なんだが……。前もこんな感じで詰問された覚えがあるぞ……?」

 

ここは彼女のホームグラウンドである生徒会室。以前と同じように紅牙は彼女にジトーっと睨まれていた。昼時の時間帯だが、おそらく従者(布仏)の誰かが買ってきたのだろう。サンドイッチといった軽食が持ち込まれている。本来なら一言二言話すだけだったのだが、この分だとどうも長話に発展しそうだ。

 

――まあ、一夏たちの方には氷華が行っているから大丈夫か。

 

中国の代表候補生と一夏が知り合いの雰囲気だったので、大丈夫だろうと思ったが、一応彼女に任せることにした。

 

「――――ねえ、あの子もそうなの?」

 

「ん?」

 

「――――あの子も、あなたと同じ……いえ、後継者なの……よね?」

 

チラチラとこちらの様子を伺いながら、非常に言いづらそうにぽつりぽつりと尋ねる刀奈に、紅牙はゆっくりと首肯する。

 

「――しがらみを壊して前に進む。そう言って更識から去った。だけど、一歩外に出てみれば、俺の想像を遙かに超える〝しがらみ〟が待っていたんだ。――何もしなかった、前へ進むことを放棄していた俺の怠慢が招いた結果なんだろうな……。どこかしらに残っていた俺のデータが応用され、少女たちに引き継がれた。――それがBF sistersだよ」

 

「BF sisters……。それが彼女……。でも、それじゃあ、あなたは…………っ!!」

 

胸を押さえ、何かを我慢するかのように深く息をつく刀奈。彼女は聡い。おそらく〝知らなくていいこと〟まで察してしまったのだろう。

 

「…………俺が背負うと決めたことだ。――そんな顔をしないでくれ。……この手からこぼれ落ちていった命は多いけど、それでも救えた命も確かにあった。決して義務感だけじゃない。俺自身がやりたいこととして、せめてその命だけは救うと決めたんだ」

 

氷華はもちろん、最近だと雪奈(せつな)紅葉(くれは)。責任だとかそういうものじゃない。自分が前に進むために、進みたいがために、やれることをやっているだけだ。

 

「――――強くなったのね。あの時のあなたとは大違い。無表情で簡単に〝死んでもいい〟なんて言っていた時に比べたら、――もう十分に前に歩き出している。私にはそう見えるわ、紅牙」

 

優しげな笑みを浮かべ、同時に少し寂しそうな表情を刀奈に紅牙は首を傾げる。

 

「……どうせなら、私の手であなたを立ち直らせたかった。あなたを直接支えたかった。あの時の私にそんな力はなかったけれどね…………」

 

――それはちがう。

 

反射的にその言葉を内心で否定する。厳しくも暖かかったあの場所は確かに自分に必要な場所だった。前を向いて歩き出そうと、そう思わせてくれるほどに、空虚な自分を満たしてくれたのは紛れもなく彼女だ。

 

「でも、今は違うわ」

 

「え?」

 

「そう言ってへこむのは簡単だけれどね?もうあなたの前では弱い私は見せないと決めたのです♪今の私はあなたの良きパートナーとなるべく、闘志を燃やしている一人の女の子。――――だから、私にも力にならせて。今回、えーと、氷華ちゃん?が来たのも、戦力補強のため。……何か起ころうとしているんでしょ?学園(ここ)で」

 

「――さすがの慧眼だ。恐れ入る。確かに更識の力を借りられるのは強いな。それ以前に委員会はなぜ今回の件で更識と協力体制を構築していないのかという疑問が残るんだけどな」

 

「いくら更識とはいえ、委員会の隠刀として知られるBREAKERSの全容なんて把握できないわ。その行動から目的を推察するだけ。――もちろん話せるだけでいいわ。何か力になれることがあったら言って頂戴。私にできる限りであなたを助ける」

 

じっとこちらを見つめる紅の瞳。情熱を湛えたように鮮やかなそれは、不思議と紅牙自身にもふつふつと滾る熱い何かが芽生えさせていた。

 

「――なんだか、こういう話をしていると、あの時が懐かしく感じるよ。……〝当主殿〟?」

 

「ちょっとやめてよ。名前で呼びなさい、名前で。その……二人きりの時は楯無じゃなくて…………ね?」

 

すっとこちらの胸に頭を預けるように身を寄せる刀奈。上気した頬をすりすりと胸板に擦り付け、上目遣いでこちらを見る表情はどことなく恍惚したようにも見える。そんな表情にさすがの紅牙も平静ではいられなくなり、心臓の鼓動が速くなるのを感じる。

 

この時だけは、自身がどうするべきか自然と思い浮かんだ。女性面に関しては疎いどころか、その概念すら持ち合わせているかどうかといった紅牙だが、こと刀奈だけに関しては、人並みにドキドキしたり、緊張したりするようになった。

 

「――――――――かたな」

 

これほど胸の鼓動を速く刻みながら彼女の名前を呼んだことがあっただろうか。それだけでも十分にこの学園に来た意味はあったと、上の空に近い思考でぼんやりと考えていた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「や、やっとたどり着けた……」

 

ぜえぜえ、と息を荒げて、入り口にもたれかかるように息を整える氷華。学園は広くこの食堂までたどり着くのに時間がかかってしまった。

 

――いえ、本当はクラスの皆さんが追いかけて来ただけなのですが……。

 

紅牙と別れた途端、狙い澄ましたかのように背後から奇襲する形で質問攻めを浴びせてきた彼女たちには、正直手を焼いた。最初に背後から飛び出してきた生徒につい癖で回し蹴りを食らわしてしまったが大丈夫だっただろうか。

 

「まあ、大丈夫でしょう。本気でやったわけでもありませんし。とりあえず、織斑さんを探しましょう。兄様の話では専用機持ちの方たちと一緒にいるとのことですが……」

 

キョロキョロと辺りを見回してみる。氷華の制服はどことなくゴシックロリータ風にカスタマイズされており、本来はかなり目立つ。だが、ここ食堂では他学年の生徒もおり、制服をカスタマイズしている生徒も多いので、別段注目されるようなことはなかった。

 

故に、堂々と食堂の中を歩きながら目的の人物を探していると――。

 

「……いましたね」

 

食堂の比較的隅の方。その一角に織斑一夏を含めた専用機持ちが集まって食事を取っていた。約一名、専用機持ちでもない少女もいるが。

 

――彼女が束さんの妹の……。

 

姉である束とは違い、清廉な雰囲気を漂わせ、大人しそうな少女。長い黒髪をポニーテールにしている様はその美貌もあって、壮麗さを感じる。

 

彼女のこともそれとなく気にかけておく。良いも悪いも彼女はあの〝天災〟を動かす材料となり得る。護衛の対象に含めるべきだろう。

 

「あ、そういえばお昼ご飯も持たずに来てしまいました……。えっと、注文する場所は……」

 

こういう食堂はどこも同じスタイルのようで、食券を求めてそれをカウンターに渡す。委員会本部にある食堂もこの形式であり、氷華も迷うことはなかった。

 

食券を買い求め、カウンターに並ぶ。手に握ったその券には〝明太子パスタ〟と書かれていた。特段意識して買ったわけではないが、なんとなくこれに惹かれたのだ。比較的米より麺の方が好きだからかもしれない。……少しだけ心が躍った。

 

――それにしても。

 

こうたくさんの生徒に囲まれていると、本気で自分も学生になった気分になる。今の自分の身分は半学生のようなものだ。成績は与えられないが、生徒たちと行動を共にできる。そういった条件でここに来ることになったのだ。

 

――それでも、人生に一度くらい、こういったスクールライフを送ってみたいと思うのは女の子の性ですよね。

 

それ自体偏見が入った考えであるが、氷華も〝昔〟と違って一人ではない。敬愛する兄もいれば、わずかだが支えてくれる仲間もいる。氷華のこういった若者らしい思考はその仲間の影響が大きい。氷華もまた失ったものを、日々取り戻しつつあるのだ。

 

カウンターにいるおばあさんに食券を渡し、ほんのり湯気立つパスタを受け取る。ピンク色の明太子はキラキラと光り、ほかほかのパスタによく絡んでいる。非常においしそうだ。

 

それを持ち、いそいそと一夏たちの元へと向かう。先程見た感じでは席が一つだけ余っていたはずだ。

 

「わたくしはイギリス代表候補生、セシリア・オルコットでしてよ!?ご存じありませんの!?」

 

「あー、あたし他の国とか興味ないから」

 

近づいていくと会話の内容が少しずつ聞き取れるようになってくる。それに混ざる形で氷華は彼女たちに話しかけた。

 

「――では、この際、私のことも一緒に覚えてくださいね?」

 

「え?」

 

「こちらの席、座ってもよろしいですか?」

 

「……誰よアンタ?」

 

「あー、えっとな、鈴、この人は今日俺たちのクラスに来た転入生なんだよ。名前は――」

 

「黒咲氷華です。以後お見知りおきを、――中国代表候補生、凰鈴音さん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん~♪おいしいです!つぶつぶの食感とほどよい塩辛さが最高ですね――――って、皆さんどうしました?食べないのですか?」

 

「いや、やけにテンション高いなって思ってさ……えっと、黒咲さん?」

 

「氷華でかまいませんよ。黒咲だと、兄様と混ざってしまうでしょうし」

 

「くろさきぃ?あんた、あの胡散臭い二人目の妹かなんかなの?」

 

「胡散臭いとはなんですか、胡散臭いとは。失礼ですね、全く」

 

「だって、あいつ委員会所属なんでしょ?それだけでもう胡散臭いわよ」

 

確かに自分たちの上司は胡散臭さ塊のような人物だが、それで兄が同じような評価を受けるのは納得がいかない。

 

「――ということは、お前も委員会の所属なのか?」

 

箒が腕を組み、まっすぐこちらに問いかける。そこで氷華は熟考する。

 

――ここにいるメンバーは今後の任務にも関係しますし、ある程度話しておく方が結果的に守りやすくなるかもしれませんね。

 

氷華は声を小さくし、話し始める。

 

「――ここだけの話にしてくださいね。私は委員会の意向でここに来ました。今年は代表候補生や専用機持ちが多いですからね。まあ、その護衛と捉えていただいて構いません」

 

「お待ちになってください。そこの篠ノ之さんは別としても、わたくしたちは仮にも専用機持ちでしてよ?自衛くらいはできますわ」

 

まるで心外だとばかりに拳を握るセシリア。見れば鈴も腕を組んでうんうんと頷いている。

 

――〝たかが〟代表候補生だというのに……。自信だけは一人前ということですか。

 

氷華はあからさまにため息をつく。彼女らはわかっていない。代表候補生がどれほどの力を持っているというのか。少なくとも氷華にとっては、人より少しISの操縦に優れているという認識だ。そこから様々な知識、技術、そして国を背負うという精神や覚悟を養って、それで初めて一人前になれるというのに。

 

だが、その氷華のため息が癇に障ったのか、鈴とセシリアは目を細める。どこかしら睨んでいるようにも見えた。

 

――自尊心も人一倍と……。

 

「オルコットさん、先の模擬戦のデータ拝見させていただきました。初心者に毛が生えた程度の織斑さんを一息で倒せないのは代表候補生としてどうかと思いましたよ?それも機体の相性は圧倒的にそちらが有利でしたのに」

 

「うぐっ!?そ、それは……」

 

「まあ、あれは織斑さんが善戦したということにしておきましょう。――そうですね。一度兄様と模擬戦をしてみることをおすすめします。自分たちの力量が少しは見極められるのでは?」

 

「はっ、そこまで言っておきながら他人頼み?あんた自身はどうなのよ」

 

「兄様に勝てたなら私が相手をしてもよろしいですよ。――これでも一部隊を預かる身。ですので、その際は容赦情けなくやらせてもらいますけど」

 

にこりと彼女に微笑みを送れば、ヒクヒクと顔を引きつらせ、若干後ずさる。

 

「紅牙かあ。俺は戦ったことあるけど、あれはなんて言うんだろうな。とにかく強い」

 

一夏がしみじみと自身の記憶をたぐり寄せるように言えば、周りの視線はそちらに集中する。

 

「と言っても、IS搭乗者のスタートはほぼお前と同じだろう?ISの操縦技術はお前と同程度ではないのか?」

 

「いや、あいつの場合、巧いんだよなあ。何回もそのときの戦闘データを見返したけど、どうも戦い慣れしてるというか……。――でも、わかったのは、難しい機動技術だとか、そういうものは使っていないんじゃないかってことだ」

 

意外と一番的を射た答えを彼が言っていることに少々驚く氷華。確かに兄はISを完璧に使いこなしているとは言い難い。そのあまりある戦闘スキルで補っているものの、操縦技術自体はそこまでたいしたものではないのだ。

 

そのことを肌に感じている彼が、もしかしたらこの中で一番現状を理解できているのかもしれない。

 

――そういえば、兄様が少し手ほどきをしたとか。そのおかげでしょうか?

 

それならば納得もいく。兄は戦闘のプロフェッショナルだ。例え口頭とはいえ、その手ほどきの価値は計り知れない。

 

「オルコットさんに、凰さん。私の実力を疑うようであればまず兄様に挑んでみてください。そうすれば、〝私や兄様が来た理由〟が少しは理解できるかもしれません」

 

だからこそ、彼女たちには理解してもらいたいのだ。自分の力はまだこの程度しかないのだと。

 

それでは、と空いた食器を持ち、その場を後にする。少しでもその高すぎる自尊心を抑えて、身の回りの脅威の可能性に目を向けてくれればと思う。そうすれば、今後起きるかもしれない戦いでも上手く立ち回ってもらえるかもしれない。

 

そんな淡い期待を胸に、氷華は食器を返すべく、カウンターの返却口へと向かった。

 

唯一の心残りと言えば、大好きな兄に面倒を押しつけることになってしまったことだろうか。それについてはしっかりと〝誠意〟ある謝罪をしようと心に決めた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――で、こうなったと」

 

『ごめんなさい、兄様。勝手なことをしてしまって。でも、これも任務を円滑に遂行するためと思い――』

 

「理屈はわかるがなぁ……。まあ、言っても仕方ない。正論と言えば正論だからな」

 

紅牙はそう言い残すと、眼前の光景を眺めた。

 

大きなグラウンドを眼下に、その周りには人が集まった観客席。目の前には華やかな青を基調にしたIS〝ブルー・ティアーズ〟。空は澄み渡る快晴……ではなく、日が傾いて、朱みが増した空。

 

「はあ……」

 

大きくため息をつく。セシリアはやる気満々といった風に、こちらが武装展開するのを待っている。もはや逃げ場はどこにもなかった。

 

「あなたとも一度こうして相対してみたかったのです。片割れの男性IS適合者」

 

「……氷華に上手く乗せられておいてよく言う」

 

「彼女は切っ掛けに過ぎませんわ。元々あなたの実力が見たいと思っておりましたし」

 

「――なら、仕方ない……か」

 

(零、――コンバットオープン)

 

(――了解です)

 

紅牙の纏っている蒼白銀のIS、〝ミスティック・クラッド〟。その頭部パーツが稼働し、目元を覆うほどの半透明のバイザーが下ろされる。視界はハイパーセンサーと同期し、零の補助を十分に受けられるようになった。

 

紅牙の目の前には様々なデータが映し出され、すぐさま戦闘姿勢へ移行する。

 

(あまり手の内を見せたくない。確か調整が終わったばかりのアレがあったな)

 

(はい、万全の状態です)

 

(なら、今回は〝それだけ〟だ)

 

「――――エクスイグザム、ジェネレート」

 

ぽつりと紅牙がそう口にすると、右手に光の粒子が集まり、一振りの大剣を作り出していく。片刃のそれは身の丈ほどの長さがあり、鍔の部分に何やら弾丸のマガジンのようなものが取り付けられている。

 

――特殊大型対艦刀〝エクスイグザム〟。その名の通り、艦船を両断するほどの性能を秘めた長剣にも近い大剣である。

 

「――あ、あなたも最初から近接武器ですのね……」

 

「なんだ?もしかして一夏の件でトラウマになったとか?」

 

「そ、そんなことありませんわ!ええ、そんなことっ!!」

 

「なら問題ないだろう。カウントスタートしてくれ」

 

「……わかりましたわ」

 

セシリアが何やら手元で投影ディスプレイを操作すると、両者の間、ちょうど真ん中に十のカウントがホログラムで出現する。今回は模擬戦と言っても、先に一定量までシールドエネルギーを減らすことで勝敗を決めるルールのため、管制室で取り仕切るほどの大がかりな試合ではない。このアリーナも本来は他の生徒にも開放されていたが、そこを善意で少しの間だけ借りているだけである。

 

カウントが減っていく。紅牙は自然体で特に武器を構えることもしていない。だが、一切の隙はない。集中力が研ぎ澄まされている証拠である。対してセシリアは大型のエネルギーライフルを紅牙に向けて構えていた。

 

――そして、カウントはゼロを刻んだ――――。

 

 

 

 




あとがき

どうも、raludoです。

書いていて、ちょっと氷華が高圧的かなーなんて思ってもいましたが、基本兄が関わっていなければこんなもんでしょう?(白目)

次回は戦闘とか書いて、その次はちょっと裏側の部分なんかもかければ良いなーと思っています。(この通りになるとは言っていない)

それから誤字報告をしてくださった方々ありがとうございました!目が節穴過ぎて恥ずかしい限りですが、今後も目に付いたらご指摘してもらえると助かります……。

それでは今回はここまで。

BREAKERSをお読みいただき、ありがとうございました。
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