IS インフィニット・ストラトス BREAKERS(改訂)   作:raludo

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3/10 一部修正


第三話 私のIS

 

倉持技研には二つの研究所が存在する。どちらもIS開発の研究所なのは間違いないが、普段第一研究所は立ち入り禁止にされている。そりゃ、研究所なのだから、関係者以外は原則立ち入り禁止だろうという言葉もごもっともなのだが、この第一研究所は倉持技研の研究員でさえ入れない。倉持技研の総責任者に許可を貰った者のみが入ることが許される、いわば技研の禁足地である。

 

その第一研究所では何を研究しているのか。それを知る者はそこに入れるもの以外は知らず、その研究所に入れる人物は一体誰なのかということも、総責任者と第二研究所所長を除いて知る者はいなかった。

 

そんな第一研究所の扉に人影一つ。その人物は丁度研究所から出てくるところであった。

 

「ん~、今日も色々と大変そうだなあ。……ヒカルノにはしっかりと言っておかないと。あの変態はどうしようもないからねえ」

 

大きく伸びをしながら外に歩き出すその人物はため息をつきながら、しかし晴れ晴れとした、子供のような笑みを浮かべる。――倉持技研、朝の始まりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

――いい加減我慢の限界だ。

 

――どうして私の〝打鉄弐式〟の開発が蔑ろにされているのだろうか。開発開始は断然こちらの方が早かったはず。なのに……!!

 

更識簪は頭の沸点を越えようとしていた。彼女は普段引っ込み思案な性格であるのだが、どうやらISのこととなると人が変わるようだ。

 

簪は更識家の次女であり、現当主である十七代目更識楯無こと更識刀奈の妹である。今年の春にIS学園に入学する予定の彼女は日本の代表候補生でもあり、専用ISである〝打鉄弐式〟の開発進度を確認しにここ、倉持技研に赴いていた。しかし、その〝打鉄弐式〟の開発が大幅に遅れることを開発担当から聞かされ、母親ゆずりの流水を思わせる内側に丸みを帯びた髪を逆立てる。普段かけている多目的眼鏡を外し、温厚で人見知りである彼女にしては珍しいほどの怒気を発していた。

 

「だから!!なんで〝打鉄弐式〟の開発が遅れることになっているんですか!!」

 

「あまり騒ぎ立てないでください。仕方がないことなんです」

 

必死の剣幕で倉持技研の職員に詰め寄る簪だが、当の職員は明らかに面倒くさいといった感情を隠すこともせず、ため息をつく。

 

一体、この人は私のISをなんだと思っているのだろう。簪はそう思わずにはいられなかった。それほどこの職員の態度は簪の神経を逆撫でするものであった。

 

「あなたも知っているでしょう?例の男性IS操縦者。その専用機体をうちが〝管理〟することになったんです。ですから、それに人員を割かれてしまい、あなたの〝打鉄弐式〟のプロジェクトを遅らせることにしたんです」

 

「なぜですか!私の〝打鉄弐式〟の開発のほうが先に始まっていたじゃないですか。なんでそんな……割り込まれるんですか」

 

簪の問いに職員が再び大きなため息をつく。その態度に再び怒りの頂点を超すところであったが、この問い自体、実は簪も答えがわかっていた。けれど、言わずにはいられなかったのだ。

 

「ふう、少しは考えてみてください。男性IS操縦者ですよ?おそらく国家機密レベルの貴重な人物の前で、我々の身内のことを理由に疎かにしてみてください。ここ、倉持技研は終わります」

 

職員からは簪の予想通りの答えが返ってきた。それが逆に腹立たしい。確かに理屈は分かる。貴重な男性IS操縦者の対応を迅速かつ早急に行わなければ、ここのメンツに関わってくる大問題になるだろう。だが、それと自分のISを無下に扱うことは別問題だ。自分のISが先に開発開始していたのにも関わらず、それがまったく考慮されない。簪にとってISは自分の半身といっても過言ではないくらい大事な存在だ。それ故この対応は自分のISが無下に扱われていると思うのも仕方のないことだった。

 

しかし、心では怒りを露わにしていても、こうもまっすぐに正論を叩き付けられてしまっては、簪は押し黙るしかない。簪の本来の性格は内気。一度押し黙ってしまったあとは、みるみるうちに怒気が失せていってしまっていた。

 

本当にこの性格、何とかしたい。簪はここにきてそれを痛感した。もはやここで折れるしかないのだろうか。

 

「――こらこら君、うちの大切なお客様をそう邪険に扱うものではないよ」

 

諦めかけたその時、簪の背後から女性の声が発せられる。思わず簪は驚き、肩をビクッと震わせる。

 

「あ、あなたは……」

 

職員は簪の後方を見て固まっている。一体誰だろうと思い、簪も後ろを振り向く。

 

長身の女性だった。研究用の白衣と黒いスカート、そこからすらっと伸びるストッキングに包まれたきれいな足。まさにスレンダーという言葉がお似合いな人だった。

 

その女性は、自前の水のように澄んだ翡翠の長髪を棚引かせながら簪の目を見て笑いかける。

 

「すまないね、更識さん。うちの者が無礼を働いて。まったく、ヒカルノはどういう教育をしているんだか。あとで言っておかないと」

 

「……あ、あの、……あなたは?」

 

いきなりの事態でいまだに頭の中が混乱している簪は相手の名前を尋ねるだけで手一杯だった。その簪の問いに、女性はそういえばと自己紹介の言葉を並べる。

 

「ああ、これは失礼。私は倉持柚葉(ゆずは)。倉持技研の第一研究所の所長で、技研の総責任者だよ」

 

女性――倉持柚葉の言葉に、簪は完全に頭の中が真っ白になった。自分の前に現れた人物がまさか倉持技研のトップだなんて、誰が聞いても驚く事態だろう。

 

「おーい、って完全に固まっちゃってる。まあ、仕方ないか。それにしても君、何もあんなに邪険に扱わなくてもいいじゃないか。この技研の品位が疑われてしまうよ?」

 

「す、すいません!倉持所長」

 

職員にとっても彼女の登場は驚愕の一言であった。先にも説明したとおり、倉持技研の第一研究所はもはや技研の禁足地となっている。そんな研究所の所長が今目の前にいる。職員にとってはそれだけで驚くには十分だった。

 

「はあ、まあ、うちにとって痛いのが、開発延期のその話が嘘じゃないところなんだよねえ」

 

柚葉は少し苦い顔を浮かべながら、視線を簪に戻し、深く頭を下げる。

 

「申し訳ない、更識さん。今回の事態は完全にこちらの都合だ。その点に関しては本当にすまないと思っている」

 

簪は訳が分からないうちに話が進んでいるように思えたが、この言葉で完全に意気消沈する。倉持技研の総責任者からこのように言われてしまえば、もう簪に反論はできなかった。

 

頭を上げた柚葉はそんな簪の表情を見て、少し思案する。手を顎の下に置き、考える。考え込んだのも数瞬、柚葉が発した言葉は簪にとって意表を突く言葉だった。

 

「更識さん。開発が遅れてしまうのはどうにもできないけれど、君が良ければだが、ISを自分で開発してみたくはないかい?」

 

自分で開発する簪は頭の中でその言葉を反芻する。そして、徐々に目を輝かせ、柚葉に問い返す。できるんですか、と。

 

柚葉がその言葉に笑みを持って頷こうとした矢先、その部屋に第二の乱入者が現れた。

 

「し、失礼します!いや、すみません!?ちょっと助けてくれませんかっ!?」

 

その人物はまさに今話題の男性IS操縦者、織斑一夏だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

時はほんの少し遡る。倉持技研に合宿に来た織斑一夏は職員に案内され、多目的ホールのような場所に案内された。

 

「では、ここで待っていてください。じきに所長が来ますので。あ、荷物は預かりましょう。宿舎に運んでおきますので」

 

「わかりました。ありがとうございます」

 

一夏は荷物を職員に渡し、礼を言う。その職員は一夏から荷物を預かり、笑顔でその場を去る……のだが、去り際に独り言のように言葉を残した。

 

――後ろは守ったほうがいいよ――

 

この言葉に一夏は頭に疑問符を浮かべたが、深くは考えなかった。今考えてもわからないことはそのうちわかるようになる。それが一夏のモットーだった。

 

職員が去った後、一夏はホールに用意された椅子に座る。しかし、きょろきょろと辺りを見回しては、落ち着きなさげにそわそわしていた。なぜなら、その内心はISを扱うことに対する楽しみと不安で二分されていたからだ。

 

「そういえば、もう一人はどこにいるんだろう。場所は別々なのか?」

 

一夏はこの場に〝二人目〟がいないことに頭をかしげる。せっかく会えると思っていたので少し残念に思う一方、同じ仲間がいるというのは心強いと考えていた一夏にとってこの状況は少し寂しいものに感じた。

 

「まあ、そのうち会えるか。俺を含め、世界でたった二人の男性操縦者なんだ。仲良くしたもんだよ、ほんと」

 

この先IS学園に入学するにしても、周りは女性だらけ。そんな中、もう一人と仲良くできないという事態は何があっても避けなければならない。自分の精神安定を考えても。もし、仲良くできなかったらと思うと、思わず背筋がゾッとする。

 

――カツ、カツ。

 

嫌な想像で軽い冷や汗をかいていた一夏の耳にハイヒールが床を叩く音が聞こえる。所長が来たのかなと思い、姿勢を正す。初対面の人と会うのだ。礼儀はしっかりしておかなければならない。

 

「やあ、待たせたかな」

 

扉を開け、足音を鳴らしていた人物がホールに入ってくる。一夏は立ち上がり、返事を返そうとしたところで、その人物の服装を見て唖然とする。

 

――白衣に……スクール水着!?

 

その人物――女性はスクール水着に白衣という何とも珍妙なファッションをしていた。実はスクール水着ではなく、ISスーツなのだが、IS初心者である一夏に二つの差がわかるはずもなかった。

 

それよりも、一夏はこの状況にどうしたらいいかわからず、必死に心の中で突っ込みの嵐を入れていた。

 

――白衣はまあ、分かるけど、スクール水着ってなんだよ!しかもなんか水が滴ってるし!うわっ、水中ゴーグルまでつけてる。どこのサバイバル生活から抜けてきたんですか、この人。しかも、しかもなんか妙に尻のあたりそわそわする!なんでかはわからないけど、ものすごく嫌な予感がする。

 

一夏は自身の尻を押さえながら、少しずつ後ずさりし距離を取る。もちろん表向きは笑顔を浮かべて、それとなく悟られないように行動する。

 

「ん?どうかしたかい?」

 

「いえ、何でもないです。今日から数日、お世話になります」

 

「はいはい、お世話をしちゃいますよ。私は篝火(かがりび)ヒカルノ。この第二研究所の所長だよ。……さて、さっそくだけれど、織斑一夏君。君にちょっとやらせてもらいたいことがあるんだ」

 

「な、なんですか?」

 

一夏はこの女性の目が怪しくキランと光るのを見逃さなかった。なぜかは知らないが冷や汗と悪寒が収まらない。思わず返事も戸惑ってしまった。

 

「――ちょっと、君のお尻を触らせてもらえないかな?」

 

一夏は脱兎の如く逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で?そのまま逃げ続けて、この部屋に逃げ込んだ……と、そういうことかい?」

 

「は、はい。もう言われた時は生きた心地がしなかったですよ。あの人のあの目、完全にヤる眼だった……」

 

柚葉は突如部屋に乱入してきた一夏に事情を聞いていた。その様子を簪はずっと見ていたが、内心穏やかではなかった。なんだか今日は怒ってばかりな気もするが、目の前には〝打鉄弐式〟の開発延期の原因、織斑一夏がいる。再度怒りの炎を燃やすには十分な理由だった。

 

「あー、もう。あのバカは……ごめんなあ、織斑君。あいつは変人でね。いや、科学者には私を含め、変人が多くてね。中でもあいつは群を抜いて変人なんだ。変態とも言うかな?」

 

柚葉さんは変人なのだろうか。そんなことはないと簪は思う。ルックスだって超絶美人で常識もある柚葉さんが変人とは信じられないのである。

 

「いーちーかーくーん!逃げないで、触らせておくれよー。減るもんじゃないし、ちょっとでいいからさあ」

 

「うおお、追いかけてきた!?」

 

部屋の外から間延びした声が聞こえる。ていうか、触らせるって何を?と怒りとは裏腹に疑問符を浮かべる簪。

 

「はっ、この部屋から男の匂いがする。いや、男の子の匂いが!!さては、ここに逃げ込んだのかな一夏君!もう逃がさないよ!」

 

「うわわ、どうしよう。入ってくる!?」

 

「……安心していいよ。私が何とかするから」

 

驚き、慌てる一夏に簪は男のくせに情けないと思う反面、そこまで取り乱す理由は何だろうと考えていた。――そして、その答えを知る。

 

「見つけたよ、一夏君!!さあ、お尻を触らせて……くれ……たまえ?」

 

「やあ、ヒカルノ」

 

「……」

 

無言が部屋を支配する。にんまりと目を線にして笑いかける柚葉と冷や汗をだらだら滝のように流すヒカルノ。この時、完全に時が止まった。

 

「……あの、社長」

 

先に声を発したのはヒカルノだった。その声ははっきりとしていたが、少し震えていた。

 

「なんだい?」

 

「――死ぬのは一夏君のお尻を触ってからでいいですか?」

 

「さよなら」

 

――バコッ!

 

柚葉はその場で綺麗な回し蹴りをヒカルノに叩き込んだ。んぎゃ、と潰れた蛙のような呻き声を残し、ヒカルノは部屋から蹴り出された。余談だが、回し蹴りの際、柚葉のスカートから下着が覗き見え、それを運良く見てしまった一夏は顔を赤くするのだが、それは幸い、誰にもばれることはなかった。

 

「さて、余計なモノも始末したし、更識さん、話の続きをしようじゃないか。――ああ、織斑君。君にも関係があることだから、聞いていってほしい」

 

「え?あ、はい、わかりました」

 

今の寸劇に思考が追いついていないのか、目を丸くし、扉から蹴り飛ばされたヒカルノと柚葉とを交互に見ながら返事をする一夏。その顔は明らかに困惑の表情が浮べられている。簪も頭の中でお尻を触らせてというキーワードがぐるぐる回っていたが、柚葉の声で我に戻る。

 

「では改めて、更識さん。IS開発を自分の手でやってみないかい?完成が遅れるのは避けられないけど、いい経験になると思うよ」

 

「……」

 

簪は考える。確かにこれは簪にとって魅力的な提案であり、是非ともやらせてほしいと思う反面、自分の技量で果たして完成させられるのかという不安も多大にあった。それゆえに即決というわけにはいかなかったのだ。

 

「あのー、それで、俺に関係あるっていうのは……?」

 

状況が読めない一夏は、つい柚葉にそう質問してしまった。一夏がその質問をした瞬間に簪はキッと一夏を睨みつける。お前のせいだ、と声に出しては言わなかったが、目でそう訴えかけた。

 

「ん?それは彼女のISの完成が君というイレギュラーが原因で遅れることになっているからだよ。君自身このことを知っておくべきだと思ってね」

 

「えっ――」

 

一夏はその言葉に驚愕し、簪を見る。そこで簪が自身を睨みつけていることを認識し、言葉を詰まらせる。何とも言えない罪悪感が一夏のなかでぐるぐると渦巻く。

 

「ほらほら、更識さん。そんなに睨みつけても仕方ないよ。彼が原因ではあるが、彼に悪意はないんだから」

 

「分かってます!……だけど、そう簡単に納得はできないし、許せないです」

 

許せない。その言葉が一夏の心にぐさりと楔を打つ。確かに簪のIS開発が一夏が原因で遅れることになった。柚葉の言う通り、それは仕方のないことで、一夏が悪いということではない。しかし、一夏はISというものの存在を強く意識していた。。姉が世界で一番を取ったのもIS。そんな姉の友人もISの生みの親。皆それぞれISで人生を変えている。なら、この少女にとってもISというものはかけがえのないものなのではないだろうか。一夏はたまらずその場で深く、頭を下げた。

 

「……!!」

 

「織斑君?」

 

簪と柚葉が驚いているが、一夏は気にせず謝罪した。

 

「ごめんなさい。えっと、更識……さん?俺のせいでISの完成が遅れることになって。ISって言うのは俺が言うのも憚られるけど、とても大切でその人にとって意味があるものなんだろう?本当にごめんなさい」

 

一夏は言うべきことは言ったと言わんばかりに、後は頭を下げ続けた。例え意図しなくても、他人の大切なものに自分が迷惑を掛けたなら、それはやっぱり謝らないといけないことで、それが自分の責任だというものだから。一夏はそう考えていた。その考え自体、姉と弟、二人きりで生活してきた所以だったのかもしれない。いつもまでも姉に助けらているばかりではいられない。そういう思いがあったからこそ、一夏は自分の行動に責任を持つということを考えていた。故に年齢にそぐわない、責任感というものを持っていた。

 

「……」

 

簪は正直面食らっていた。男性から、それも同年代からこのように深々と頭を下げられたことはなかったからである。正直、素直な人だなと思ったりもした。この人が悪いわけじゃない。それはわかっていたが、それでも迷惑を掛けたからと、頭を下げる人に対して怒りを持ち続けることはできなかった。同年代の少年がこんなに大人な対応をしているのだ。自分ばかりがずっと子供のように駄々をこねていても仕方がない。簪の胸中は自然と穏やかになっていた。

 

「あの……えと、頭を上げて?……あなたの気持ちはちゃんとわかったから」

 

それゆえにある意味晴れ晴れと気分でそう答えた。今にしてみれば恥ずかしいセリフだが、素直にそう思えたのだ。

 

「……ありがとう、更識さん。俺にできることがあったら何でも言ってくれ」

 

簪の言葉に一夏はその顔に笑みを浮かべる。その笑顔が簪にはあまりに眩しく、綺麗に映り

 

「……ん。考えとく」

 

と、思わず目を逸らしながらそう答えた。

 

「うんうん。いいねえ。これぞ青春ってやつじゃないの」

 

一人うんうんと頷いている柚葉に簪はそういうのじゃないと声を大にして言いたかったが、恥ずかしさのあまり、結局あうあう、と言葉にならない声を上げるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そのころ、すっかり仲間外れとなってしまっているもう一人の男性IS操縦者である黒咲紅牙は別の場所――第一研究所にいた。元々簪のいた部屋の隣にいたのだが、一夏が簪のいる部屋に突入する前に紅牙は別件でここに来ていた。

 

第一研究所の見た目は第二研究所と変わらず、内装も特に差異はない。研究室と実験用の小型アリーナとそこらIS研究所とたいして差はなかった。

 

「黒咲、こっちだ」

 

研究所内をうろうろしていた紅牙はその声に呼び止められる。

 

「……久しぶりですね、千冬さん」

 

「ああ、お前もな」

 

その場にいたのは、世界一のIS使い、織斑千冬であった。千冬はここではなんだからと言って、ついてくるよう紅牙に促がした。特に逆らう理由もないので、紅牙は千冬についていく。

 

「何年ぶりだろうな?」

 

「間違ってなければ、三年ぶりです」

 

そうか、もう三年も経つのか、と感慨深い声で密かに昔を懐かしむよう薄く笑みを浮かべる千冬。あいにくと後ろを歩いている紅牙には気づきようがないことだが。

 

会話もそこそこ、千冬は一つの部屋に入った。恐らく技研に借りている部屋がここなのだろう。謎に包まれている倉持技研の第一研究所の一室を借りるとはこの人の凄さが垣間見えると共に、紅牙はもう一つの理由にも気が付いていた。

 

「ここなら、誰かに聞かれる心配はないからな」

 

そう言って、千冬は部屋の中の椅子に座る。紅牙の予想通り、ここなら誰にも聞かれることはない。パッと見はわからないが、この第一研究所は他の研究所とは比べものにならないほどの厳重なセキュリティが施されている。その厳重度はIS学園にも匹敵するのではないだろうか。

 

「お前も座れ。呼び出したのはこちらなのだから」

 

「分かりました。じゃ、失礼して」

 

紅牙は促がされた通りに椅子に座り込む。今回紅牙をこの場所に呼び出したのは紛れもなく千冬自身であった。紅牙としては、あのまま隣の部屋の盗み聞きをしていたかったのだが、この人からお呼びが掛かってしまっては仕方ない。いったん簪のことは頭の隅に追いやり、こうして〝仕事の話〟をしにきたのだ。

 

「今回はまあ、迷惑を掛けたな、うちの愚弟のせいで」

 

「いや、気にしないでください。それに文句ならうちの上司に言っています」

 

「そうか。そう言ってもらえるとありがたい」

 

事実、紅牙は上司である凪城結弦を内心でボロクソに罵っていた。

 

「それでだ、もう愚弟には会ったか?」

 

「いや、まだですね。まあ、合宿中、一度くらいは嫌でも顔を合わせることになるでしょう」

 

紅牙の返答にふむ、と指を口元にあて、何やら考え込んでいる千冬。その姿を怪訝に思った紅牙が問いかけようとした時、千冬が意表をつく形で紅牙に声を掛ける。

 

 

 

 

「黒咲。〝凪城藍人(らんと)〟という名に聞き覚えはないか?」

 

――その名前が後々になって、重要な意味を持つことになることを、紅牙はまだ知らない。

 

 

 




あとがき

どうも、raludoです。

大変お待たせしました!第三話です。

今回はオリジナルというか改変要素が多いです。倉持技研の設定から所長、簪も改変が入っていますね。ヒカルノさん、どうしてこうなった……。

活動報告でも記しましたが、最近、リアルが忙しいですね。そのせいで第三話の投稿も遅れてしまって申し訳ないです。次話も十二月中に投稿できるかはわかりませんが、頑張って年内には投稿したいですね。あくまでも確定ではないですけど。その辺のお知らせは活動報告を利用して行おうと思います。

では、次回でまた会いましょう。

御拝読ありがとうございました。って言うくだりは実は間違った敬語の使い方らしいですね。なので、改めて。

BREAKERSをご覧いただきありがとうございました。

追記 ks828さん、評価していただきありがとうございました!
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