――――背後から追ってきているヴェサリウスのプレッシャーを感じつつも、遂に第八艦隊との合流に成功したアークエンジェル。
あらかじめ今後の見立てを話し合った首脳陣は良い感じに緊張感を保てているし、なんとかなるかなー、と思いながらもキラに良い感じにスパゲッティコードにしてもらったOSを眺めていた。
「おい坊主、こんな時くらい休んだらどうだ」
「マードックさん。まあ、第八艦隊と合流したらオーブ雇われのジャンク屋としてはこれでお役御免ですからね。最後くらいは真面目にやりますよ」
「そうか? まあお前さんくらいの腕があればどこでもやっていけるだろうがなぁ」
「まあコーディネーターですからね。地球軍以外で、ですが」
もちろんナチュラルそのものに隔意はないが、まあ無駄に争いの火種になることもない。そんな想いは伝わったのか、マードックさんもちょっと気まずそうになりつつ言った。
「ま、ともかく坊主のお陰で助かったよ。幼馴染の嬢ちゃんのために命懸けで戦うなんて、この艦でお前さんの男気を疑う奴はいねぇさ。……バジルール少尉も含めてな」
「ははは、まあそうだと嬉しいですね」
悪い人ではないのだ。経験が浅いのに加えてちょっと真面目すぎて融通が利かないだけで。たぶん本来なら上司の下でこれから立ち振る舞いとかを身に着けるハズだったのだろう。
「で、どっちが本命なんだ? 嬢ちゃんもだが、あのラクスって子もお前さんのこと好きなんだろう?」
「え? ………いやでもほら、なんかこういつの間にか自然消滅してそうな気が……」
「………あれでか?」
「えっと、まあ」
「………前に誰か別のヤツと付き合ってるときに浮気でもされたのか?」
「いやないですけど」
「もしかして坊主……交際経験ないのか」
「……色々複雑なんですよ、婚約者がいるくらいには」
そんなアホな話をしている間にラミアス艦長がやってきて。二股疑惑を食らったときとはまた別の趣の微妙な表情をされつつ言われた。
「何はともあれ、ありがとう。アレックス君。君のお陰で本当に助かったわ」
「仕事ですからね、依頼者のウズミ代表にどうぞ」
「それでも、よ。あの場にいたのが君で良かった」
「……じゃあ、受け取っておきます」
うん、やっぱりいい人なんだよな。
フラガ大尉とうまい事いって欲しいと思う。……一歩間違えればこの人だって、フラガ大尉だって無事には帰れなかった。もとい帰れない厳しい戦局が続くだろうし。
「………地球軍からの依頼は、受けるつもり……無いのよね」
「ええ、まあ。ザフトが穏当な路線を進む限りでは」
実際はザフト所属だし…。
一応は潜入任務の真っ最中なのだ。キラのためにここまでしたと知れたら父さんにはキレられそうだ。……一応、ザフトの“不穏分子”の調査という名目もつけてはおいたが。
ともかく無事にアラスカに着けばそれで終わり。
低軌道会戦さえ乗り切れば良かったのだが―――よく考えなくても地球軍の機密に、開発に関わったオーブのモルゲンレーテの委託(ということになってる)とはいえオーブの人間(じゃないが)が関わるのはよろしくなくて。
そのあたり義を重んじるハルバートン提督が、強制徴用も含めて一喝して否定してくれたので、アレックス・ディノはお役御免。
戦場をシャトルで降りるのはあまりにもアレなので、ゴネたらアークエンジェルでアラスカまで送ってくれることになったが。まあけっこうな特別扱いをしてもらった自覚はある。
――――――――
一方の味方艦と合流し三隻になったザフト艦。ヴェサリウスの格納庫では強奪された3機のGが出撃待機していて。ブリッツに乗る、顔の包帯が痛々しいグリフィンだが、その表情には深い憎悪があった。
「許せねぇ……なあシュラ、ちょうどいいだろう? ここらで俺たちの“目的”を達成する!」
「………まあいいだろう」
「キャハッ、そうこなくっちゃ!」
「あの隊長が出てくれば早かったのによ――――」
「やはり妙な勘の良さだ。だがそうであろうと俺たちを止めることはできない」
「戦場ならこっちのもん、ってさぁ!」
本来であればヴェサリウス含め、ザフト艦は大西洋連邦の良識派でもある第八艦隊との大規模戦闘は避ける方針だった。
が、この時ヴェサリウス以外の二艦が急に積極論を主張。
前に出る味方を放置するわけにもいかず、クルーゼはそっと自らの仮面に手を当てた。
「……ふむ、妙だな。アデス、味方艦に通信を繋げるか?」
「ハッ。……既にNジャマーが戦闘レベルですが、繋げます」
「聞こえるか、こちらヴェサリウスのラウ・ル・クルーゼだ。上からの命令はあくまでも牽制に努めることのハズだが?」
『―――…今ここで討たねば、後の禍根となる! これ以上ナチュラルどもの好きになどさせるものか!』
『ナチュラルなど我らにかかれば物の数ではない!』
どこか目がおかしい、とクルーゼは直感した。
話したところで止まるまい、とも。
「ふむ、まるで通じんな。……錯乱したか、あるいは――――」
「……如何なさいますか、艦長」
僅かに考える。
ここで第八艦隊を積極的に攻撃する意味――――誰がメリットを享受するのか? プラントではNジャマー散布をもっと積極的に行うべきという過激派もいるが、穏健派が着実に地球軍を締め上げていることでその声は徐々に小さくなっている。その思いとは裏腹に。
ここで第八艦隊を壊滅させるほどの打撃を与えれば、かなりの武勲になるだろう。同時に、過激派が力を盛り返す要因になるかもしれない。……代わりに、徐々にユーラシア連邦を締め上げて厭戦状態に持ち込むという穏健派の策略は潰えるかもしれないが。
(このまま穏健派主導での勝利をよしとしない派閥が動き出した、か―――全く、醜いものだな人間は。コーディネーターとてまるで変わらない)
特に部下として捻じ込まれたあの三人―――尋常のコーディネーターではないだろう。恐らくはかなりの業を詰め込まれた、そうして生まれた“結果”だろう。
思い出すだけで嫌気の差す環境から失敗作として放逐された自分と、そのまま外の世界をこれまで知らずに育ってきたのだろう彼ら。どちらの方が恵まれていたのやら。
(私に人類を裁く権利があるように、彼らもまたその権利を持つ可能性がある。―――まあ、言いなりのままでは変わるまいが)
研究所を離れた“スーパーコーディネーター”として考えうる限り最高峰の能力と業を背負わされた、ユーレン・ヒビキの娘であれば、あるいは自分と同じように世界を恨んでいるかもしれないが――――さすがに既に死んでいるか。
ともかく彼らは今のままでは所詮“開発者”の意のままに動く人形。
できればそんなものを生み出した者に相応の報いを与えたいところだが、裏でこそこそしている以上はそれも難しい。
(知れば誰もが望むだろう。それこそが人の夢、人の業―――だが、行きつく先はこれだ)
結局のところ、人類はその力を戦いに費やす。
コーディネーターという夢が、フラガの血が、結局のところ戦場で最も役立つのと同じように。
“アコード”とやらも何も変わらない。
優れているから人の上に立ちたがる。そのために人を妬み、傷つけ、敵を討つ。
(残念だ。君たちの
世界を破滅に導く一歩だったユニウスセブンへの核攻撃、Nジャマーの地球全土への散布。それらを防いだアスラン・ザラと、平和を歌うラクス・クライン。業の塊のような出自でありながら、あくまでも平和を願うその心は得難いが――――だがやはり、現実は歌のように優しくはなく。世界は闘争を求めるらしい。
「アデス、ヴェサリウスを前進させろ。味方を見捨てるわけにはいくまい?」
「……ハッ」
(人間は争う。妬み、憎しみ合い、その果てに滅びる―――止めて見せるがいい、アスラン・ザラ。止められるものならばな…)
―――――――――――――――――――――
『――――いや冗談キツイぜ』
「仕方ないのよ。本来彼は地球軍の所属ではないから……」
「………」
これまで獅子奮迅の活躍を見せていたストライクはパイロット不在のため格納庫にて待機。イージスで出撃準備しているフラガ大尉としても、こちらのG抜きでは勝負にならないというのは明らかと考えているようで。
『せめて俺だけでも出撃させてくれ、艦長!』
「……提督からの指示は待機よ。理由なく破るわけには……」
『――――全艦、密集陣形にて迎撃態勢! アークエンジェルは動くな、そのまま本艦につけ!』
『メビウス隊、発進! アンチビーム爆雷、用意!』
さすがに上官にここまで言われて勝手に動くわけにはいかない。
歯がゆい気持ちを抱えつつも、戦場を見守り――――ジンとG3機に一方的にメビウスが、そして艦艇がやられていく様子についにフラガ大尉が言った。
『見てられないっての! 艦長、なんとかしないとマジで全滅だぞ!』
「……っ、敵の狙いはアークエンジェル……なら、ここで――――フラガ大尉、出撃を許可しますが本艦はこれよりハルバートン提督に打診し大気圏突入シーケンスに入ります! フェイズ3までには必ず戻って下さい!」
『……ハハッ、了解だ艦長!』
メビウスならまだしもこちらもG、フラガ大尉なら―――そんな思いで出撃を許可し、そのままリアルタイム回線をつないだ。
――――――――――――――――――――
「やはり脅威になるのはストライクのみか」
『―――出てこいよストライク……!』
『キャハハハッ、弱い弱い弱い! 身の程が分からないかなぁ!?』
『闇』に呑まれたザフト艦の艦長は、イマイチ効果がないクルーゼ隊長以外威勢よく地球軍艦隊に向けて突っ込んでいく。
それを囮にしつつターキーシュートとしか言いようのない数だけは多い雑魚の群れを適当に落としていくと、不意に感じた気配に散開し。回避されたスキュラが空しく虚空を切り裂く。
『――――これ以上好き放題させて堪るかっての!』
「イージスか。ちょうどいい、ここで落とすぞ」
『チッ、ハズレかよ!』
『お前じゃ相手になんないって、わかんないかなぁ!?』
デュエルの(まともな)装備はビームライフルとサーベルのみだが、それでもシュラにとっては十分。あくまでもMA形態での一撃離脱戦法を取ろうとするイージスの回避先にビームを“置き”――――。
『いいようにやらせるかよ!』
「なにっ?」
『避けた、だとぉ?』
『生意気!』
どういうわけか見事に回避したイージスだが、心を読めば考えくらいはすぐに分かる。
こちらが動きを読むなら、読まれた後に動きを行き当たりばったりで変える―――そんなところか。
「涙ぐましい努力だな」
『ちっ、こちらの動きを見てから回避するつもりか』
『反射神経で、アタシらに勝てるかよ!』
『こちとら伊達に不可能を可能にする男じゃないんでな!』
再び突っ込んできたイージスに、今度こそとビームが集中し――――今度は逆に分かっていたかのように、イージスが変形して回避する。
「何だと」
『うおっ、何故だ!?』
『っ!? 危ないじゃないの!』
ついでとばかりにばら撒かれたビームがバスターの応急修理部分に命中。片足が爆散する。
(こっちにも意地があるんだよ! 坊主にばっかり頼ってられるか!)
どうやらなんとなく危険を察知して回避できる特技があるらしい。なんてふざけたパイロットだ。
「だが、いいのかな。こちらに集中して」
『敵艦、突っ込んできます!』
『ハルバートン提督…っ!』
「貴様の来るのが、遅すぎたのだ」
ザフト艦の特攻により、第八艦隊旗艦メネラウスが沈む。
しかしGをくぎ付けにしておかなければ被害が際限なく拡大することが分かっているイージスは残るしかない。
『くっそおおお!』
『――――ハハハッ! いい気味だな、イージスのパイロットォ!』
『あんたらもすぐお仲間に入れてやるよぉ!』
この日、第八艦隊は壊滅的な打撃を被り。
旗艦メネラウスはオーブ所属のジャンク屋とヘリオポリスの学生を含めた民間人を乗せて脱出させる予定だったシャトルを出すことなく撃沈。アークエンジェルはアフリカのザフト勢力圏に降下した―――。
その情報がプラントに届いたのは、アークエンジェルがアフリカに着いて早々”砂漠の虎”率いる部隊と出会った頃だった。
アスラン「戦闘前に降下するならまだしも、戦闘中に非武装のシャトル乗っていたら死にそうだから嫌です」
ハルバートン提督「(まあ戦闘が終わってから移ってもらえばいいかな)」
ラクス「はい? シャトルなんて出なかった…? ストライクも?」
キラ「………」