本日0時のやつを入れると2話目の更新です
―――――アークエンジェル周囲は、不気味なほどに静まり返っていた。
初回の威力偵察以降、全く仕掛けてくる気配のない砂漠の虎。
バルトフェルドからすればトンデモ火力のMSと無策でやり合いたくなく。
そしてアークエンジェルに接触しようとしたが砂漠の虎とアークエンジェルが本格的な戦闘にならないことから特に理由もなく、またストライクの圧倒的火力から敵対も避けたい『明けの砂漠』の面々。
そんな事情があったのだが、実戦経験が不足するラミアス艦長らはいつ襲撃があるのかと神経を張りつめさせていて――――。
「いやあ、流石に暫くは大丈夫なんじゃないか? 坊主があれだけ一方的に倒してたからな、無謀な戦いはしないと思うぜ。ま、俺も砂漠の虎と知り合いってわけじゃないが」
「……そう、ですか」
底抜けに明るいフラガ少佐に微妙にイラッときつつも、励ますためにそうしているということくらいはこれまでの付き合いから分かったラミアス艦長は特に何を言うでもなく、フラガ少佐、バジルール中尉、ノイマン少尉ら艦の首脳陣、そしてゲストのアレックスに順番に視線を向けた。
「やはり物資の欠乏は深刻です。特に水が足りません。現状のままでは砂漠地帯の突破は困難かと」
「幸い、エンジン部への損傷はないのでアークエンジェルの操艦には影響はないです」
水は…やはり足りないか。
アラスカに直接降りる予定だったこともあり、補給も最小限。何故渡されたのかよく分からないスカイグラスパーが偵察の役に立ってはいるものの、それはそれとして頭は痛い。
本来ならアークエンジェルの大気圏内の初航行、しかも砂漠地帯というのは不安しかないのだけれど、ノイマン少尉が大丈夫というなら大丈夫なのだろう。信じるしかない。
「砂漠戦は、まあ夜はなんとなりそうですが日中はもっとビームが曲がると思われるので、恐らくランチャーストライクで圧倒するのは難しいですね。砂漠の虎もそれは分かっていると思います」
「熱対流ね。……そうなると、接近戦で叩くしかない…?」
「砂上戦ならバクゥが有利です。気合でアグニを当てるのが早いですが、まあ無茶ぶりするならフラガ少佐にお願いします」
「いやなんでだよ!?」
「もし来るなら、全戦力の波状攻撃でアークエンジェルのエンジンを狙って砂漠で身動きとれなくして降伏勧告、ですかね。たぶん日中だと防ぎきれないと思います」
艦の最大戦力にして、ジャンク屋という実戦経験豊富?なアレックスの言葉に嫌な沈黙が降りる。
「ん-、なら坊主はなんで仕掛けてこないんだと思う?」
「さあ? 他に敵対勢力がいて全力を傾けられないとか、対アークエンジェルの装備か戦術を準備している、罠を張っている、こちらが物資補給に行く隙を狙っているとか色々考えられますが」
「うへー、えげつないな」
「フラガ少佐ならどうします?」
「俺かあ? うーん、俺なら補給を妨害して、ハラスメント攻撃を繰り返して消耗しきったところを狙う…かな」
「少佐の方がエグいのでは?」
「んなバカな。え、何この空気」
うわあ、という空気で全員から見られたフラガ少佐は「いや俺が虎だったらって話だぜ!?」と慌てているがまあ少佐ってそういうところあるよね、とアレックスは遠い目になった。
「というか俺が坊主を相手にするなら、だからな! 絶対坊主と真正面からやり合いたくねぇ!」
「「「……あぁ~」」」
「いや納得しないで欲しいんですが!?」
ちょっとアグニ連打して何もさせずに終わらせただけですが!?
ちゃんとバクゥの波状攻撃による物量ゴリ押し旗艦の機関狙いという対処法も出したのにその扱いは解せぬ、とアレックスが拗ねている間にも艦長らは頭を抱えていた。
「やはり問題は補給よね……」
「……大きな街でもないと、物々交換の余裕すら無いかと」
「どうやらバナディーヤという街があるようですが……ザフトの基地があります」
「あえて虎口に飛びこむ、ってか。いやぁ、できれば勘弁願いたいが……」
「そういえば俺、オーブの人間なので別に見つかっても平気ですが」
スッとオーブ製のパスポートを取り出すアレックス。
無言でそれを見つめる首脳陣。
「……けど、アレックス君がいない間に襲撃されたら」
「そもそも無事に帰ってくる保証が―――」
「坊主それちょっと貸してくれねぇ?」
「嫌ですよ、フラガ少佐はなんか悪戯しそうなので」
「坊主の中の俺の印象どうなってんの!?」
始まる侃々諤々の議論の最中、そういえばカガリ来なかったなぁ、とアレックスはちょっと間の抜けたことを考えていた。
――――――――――――――――――――――――――
―――――バナディーヤも所属しているアフリカ共同体は親プラントである。が、元々敵対する南アフリカ統一機構が親連合だから、というなんとも微妙な理由がある。
もちろん非プラント理事国だったためにプラントの独立運動で経済的な被害を受けないとか、色々な理由はあるが結局のところは民族的な問題が大きく。そのためレジスタンスも根強い。
幸いにもプラントが大西洋連邦を狙い撃ちにし、戦局を膠着状態にまで持ちこんだことで元々連合から然程いい待遇を受けていなかったアフリカの面々からはプラント(と大西洋連邦のプラント支配地)からの優先的な技術・資源供給もあってかなり住民感情は良かったりする。もちろんレジスタンス以外。
「あいや待った、ちょっと待った! ケバブにチリソースなんて何を言ってるんだ、ヨーグルトソースをかけるのが常識だろうが」
「はぁ!?」
「いや常識というより―――そう、ヨーグルトソースを掛けないなんてこの料理に対する冒涜だよ!」
「私の食べ方を、見ず知らずの奴にとやかく言われたくない!」
なんか始まった…。
大体予定していた物資の調達も終わり、せっかくだからケバブでも食べてみるか、なんて思ったのが不味かったのだろうか。
混んでいたので偶然相席になったのは、そこはかとなくキラにそっくりな金髪の少女で。チリソースをご機嫌で布教してくれていたところに砂漠の虎(グラサン装備)が割り込んでくるという控えめに行ってもカオスな状況。
というか、なんとなくこっちの顔を窺われているのでもしかしなくてもアスラン・ザラだとバレているかもしれない。必死こいてバルトフェルド隊は不殺で済ませようとしたのであんまりヘイトを稼いでいないと信じたいが。
「ぅんま~い! さあお前も食べてみろ、チリソースでな!」
「待て、彼まで邪道に落とすな!」
何も考えてなさそうなカガリの笑顔はまあ、アスランはこういうところに惹かれたのかなぁと思わないでもない。というか本当にキラが女の子だとカガリに似てるな。キラの方が儚げな美人、カガリの方が天真爛漫だけど。……キラは多分、(育ての)母親似なんだろうなぁ。
とか考えつつ、ケバブを半分にしてそれぞれ差し出す。
「俺は、実際自分で試してみる主義だ。人の言葉に惑わされる主張なんて、空しいと思わないか?」
「「……む」」
二人とも思い当るところがあったようで、両方のソースが節操なくぶちまけられるのは阻止された。
「というわけで半分ずつ試させてくれ」
「いいだろう、だが君も間違いなくヨーグルトソース派になる!」
「はぁ!? 勝手に決めつけるな、チリソース派に決まってる!」
「とりあえず食べて良いか?」
「ッ、――――伏せろ!」
結論から言うと――――その瞬間響いた銃声と、店に叩き込まれたミサイル弾に、それどころではなくなった。
バルトフェルドが机を蹴り上げて遮蔽物にするのを確認し、この中で真っ先に死にそうなカガリを庇う。
顔に白いソースがべったりついて見るも無残な感じだが、まあチリソースが目に入るよりはマシ……だろうか。
「無事か、君たち!」
「ええ、まあ」
連続して響く銃声――――遠くでも聞こえる射撃音に、恐らくバルトフェルドの部下がブルーコスモスとやり合っているのだろうと推測する。
が、襲撃を掛けたからには最初の一発で終わりというはずもなく。
「死ね、コーディネーター!」
「青き清浄なる世界のために!」
「何だ!? コイツら、ブルーコスモス!?」
「チィッ! こんなところで仕掛けてくるな!」
「いやぁ、悪いな。巻き込んだみたいだ」
悪びれない様子のバルトフェルドだが、多分見た目よりは申し訳なく思っている……んだろうか?
横倒しになったテーブルに隠れつつ、接近してきたブルーコスモス構成員にチリソースを容器ごと蹴り飛ばし。咄嗟に発砲してしまったことでソースがぶちまけられる。
目にチリソースが入った相手から銃を奪い取ると、そのままバルトフェルドを狙っていた銃を撃ち抜き――――そうこうしている間に、バルトフェルドの部下によってブルーコスモスが鎮圧されていく。
「お前……」
「ヒューッ、やるねぇ。ありがとう、お陰で助かったよ」
「ええ、まあ……」
感謝からだろうが、ここでサングラスを取ったバルトフェルドにより逃げ場がなくなるあたり、やはり食えない男だと思う。
「せっかくのお茶を邪魔したうえに、服も台無しにしてしまったからね。是非、屋敷に招待させてくれたまえ」
こうして、地球軍の軍艦に乗って最新鋭MSを操縦しているオーブ軍所属のジャンク屋ということになっているザフトの国防委員長の息子にして核攻撃を阻止しユニウスセブンを守った英雄のアスラン・ザラ。中立国オーブの代表首長でありながら地球連合と協力してMS開発を進めていたウズミ・ナラ・アスハの娘、現在は一時的にアフリカ共同体・ザフトに対するレジスタンス『明けの砂漠』に所属しているカガリ・ユラ・アスハ。そしてザフト軍所属の『砂漠の虎』アンドリュー・バルトフェルドという、とんでもなく複雑怪奇なお茶会が始まる。
――――――――――――――――
「いやぁ、実によく似合っているじゃないか――――で、君はなぜこんなところにいるのかな?」
「どういう意味だ」
開口一番、ジャブ替わりに牽制してきたバルトフェルドに露骨に反応してしまうのは白く酸っぱい液体でベタベタになった服を脱がされてドレスに着替えたカガリ。
「いやまあ。ドレスも実に着慣れているし、板についている感じだ」
「勝手に言ってろ。……そういうお前こそ、ほんとに砂漠の虎か? ドレスを着せてみたり、街でへらへら遊んでみたり」
「僕だって四六時中戦っていたいわけじゃないからね。街の人間だってそうだ。死んだ方がマシ、なんて連中もいるが大体の人間は平穏に暮らしていて、仕事と、パンと、たまの娯楽があればいい」
死んだ方がマシ、というのが暗にレジスタンスを指していると気づいてしまったのだろう、瞬時に頭に血が昇るカガリを見て何かとんでもない失言しそうだな、と心配になりつつも見守っていたら、バルトフェルドの矛先がこちらに向いた。
「で、問題は君だよ。地球連合の最新鋭MSのパイロット君?」
「はぁっ!?」
「いや、自分はオーブ所属のジャンク屋ですが」
「なんだとっ!?」
「「……」」
オーブ所属、という言葉に掴みかからんばかりに反応するカガリを、なんとなくバルトフェルドと二人で生温かく見守ってしまう。
が、それが余計に腹立たしかったのか、カガリが胸元に掴みかかってくる。
「―――お前っ! お前があのストライクの――――オーブ所属だと!? ふざけるなっ!」
思い切りグーでぶん殴ろうとしてくるカガリの一撃を片手で受け流し、「止めてよね、本気を出したらサイが僕に(以下略」のポーズで拘束する。
「クソっ、この! 離せ、この馬鹿ッ!」
「いや、誰も肯定してないんだが……」
「しかし見慣れぬ顔にあの戦闘力……無関係だと信じるほど、僕はお人よしじゃあないんでね」
「火に油を注ぐの止めてもらえますか?」
「というか君、ザフトだろう?」
「はぁ!?」
今度こそカガリも固まった。
愕然としているが、そんな顔されても困る。
「ザラ国防委員長の息子にして、ユニウスセブンへの核攻撃を防いだ英雄―――そして、地球へのNジャマー無差別散布を中止させた男でもあるアスラン・ザラ。いやー、前々から何を考えているのか話してみたかったんだ。コーヒー飲むかい?」
「じゃあアイシャさんのお勧めのヤツで」
「……そうかぁ」
ちょっとしょんぼりしている虎だが、この人のコーヒーが美味しくないのは界隈では有名だった。すごい納得顔で現れるアイシャさんが余計に哀愁を誘う。
「いい加減に、放せっ!」
「ああ」
手を放した瞬間掴みかかってきそうな勢いだったが、辛うじて踏みとどまったカガリが叫ぶように言った。
「―――っ、お前、ザフトなのかよ!?」
「ざっくり言えばヘリオポリスの戦闘に巻き込まれたオーブの友人を無事にオーブに送り届けるためにオーブの名前を借りてるだけだな」
「………なっ、いや…………その…………」
つまるところ、あんなところで連合とMS開発してたウズミが悪い。
カガリの脳内もその結論に至ってしまったのか、ものすごい苦渋の表情で暫く悩んだ末に言った。
「…………すまん」
「いや別に謝らなくてもいい、カガリはオーブに何の責任もないだろう?」
「そうそう、別にオーブの姫ってわけでもないんだし――――」
「お、お前らぁ! 絶対分かってて言ってるだろ!」
「何のことだ?」
「いやぁ、生憎ザフトなものでさっぱり」
バン! と地団駄踏んで怒るカガリを二人で眺めつつ、HAHAHAと男二人で微笑み合う。
「それで、君はどう思う? この戦いは、どうすれば終わると思う?」
「そうですね、本当ならこのまま大西洋連邦を締め上げつつブルーコスモスへの忌避感を煽って徐々にコーディネーターとナチュラルの対立を曖昧にしたかったんですが」
正直そこを逆手に取られた感じはある。
「第八艦隊の壊滅、プラントでは急進派が盛り上がっているし、ちょうど厭戦気味だったところにこの大戦果だ、まあこのままあわよくば、って思っちゃうだろうねぇ」
「そうなんですよね。コーディネーターと言えどもどうしても感情には流される」
だから必要なのだろう、コンパスが。
行きつく先はソレスタルビーイングというか、結局のところ抑止力頼りなのは歯がゆい限りだが……正直、人間を信頼しすぎるべきではないと思う。
止めねばならない。誰かが。泥をかぶってでも。
そしてそれは、優しすぎて折れてしまいそうなキラでは駄目なんだ。……まあ、あくまで個人的な感傷だが。それでも、それくらいはしてやりたいと思う。
「人は、同じ過ちを繰り返す」
「だからこそ――――ということか。旗印は、クライン嬢かね?」
「そうですね」
「ふむ……僕もダコスタ君に話を付けてみようかね」
「お前ら、何二人だけで通じ合ってるんだ……」
ちょっと気持ち悪いぞ、と素直すぎるカガリにわざと二人で呼吸を合わせて肩を竦めた。
「「いやぁ、第八艦隊を壊滅させたG兵器のせいで争いが長引きそうだなーと」」
「ぐっ…………お前ら遊んでないか!?」
「そんなことはないぞ、なあ!」
「なあ、盟友!」
そういうことになった。
カガリはキレた。