劇場版2回見ました
父さんにぶん殴られた。母さんには泣かれた。
ユニウスセブンと母さんが危ない気がして、と言ってみたらもう一発殴られた。『お前が死んだら何の意味もなかろう!』とのこと。
あんたそれ原作のアスランにも言ってあげてよ……。言葉が足りないのは父親譲りなのか、アスラン・ザラ。シンに一発殴られろ。
まああっちは母さん死んじゃったせいで限界だったんだろうけど。
とはいえ、軍隊なら銃殺役満レベルの大暴走だったのは事実。
世間的には英雄ともてはやされているが、上層部からすれば頭おかしいことをやって武勲を立てた困ったヤツである。
しかし核攻撃を防いだという功績でギリギリ相殺し、父さんからは真面目に士官学校に通って卒業すれば許すとのお達しが。……まあそれまで前線に出るなってことですね。ザフトじゃなければ即死だったので助かったけど、まあこれじゃザフトの規律も乱れるよね。
「アスランは、どうしてあのような無茶を?」
「……俺がやらなきゃと、思い込んでいたからかな。ラクスにも相談すべきだった」
というわけで、家に居づらいので仮初の婚約者ことラクスの家に避難していた。……実はエイプリルフール・クライシスこと地球へのNジャマー散布、未曾有の大虐殺が起こらないか偵察する意味合いもあるが。あれ、ラクスの父親の仕業なので。
ちょっと直視するとSAN値が削られそうなくらいに美少女であるラクスの顔をあんまり見すぎないようにしつつ、殴られて腫れた顔にぐるぐると包帯を巻かれていく。
ラクスは天然キャラの皮を被った普通になりたい天才……だと勝手に思ってるので、ミイラみたいに包帯巻いてくるのもきっと意味があるのだろう。『何を大暴走しているのですか』みたいな。
しかし顔がいい。
この子が婚約者とかアスラン・ザラって奴はよっぽどの幸せ者らしい。
「分かって下さるのなら、良かったです。私もアスランとはお友だちだと思っていましたのに……仲間外れは寂しいですわ」
「いや、戦いが嫌いなラクスを巻き込むのは気が進まなかったというか……ザフトならともかく、ブルーコスモスに伝手はないでしょう?」
「あら、ザフトに伝手ですか? 私もお手紙くらいならなんとかできますが……」
「え。最新鋭MSくらい奪取でき――――あ、すみません聞かなかったことにしてください」
にっこり微笑んだラクスに、包帯をこれでもかと引っ張られて口を閉じる。
どうにも気を許した相手には口が緩む。キラ相手なら何言っても大丈夫だろうが、よりにもよってラクス様にそれは不味い。
「アスランは……不思議な方ですわね」
「正直にバカと言ってくれてもいいですが」
「アスランは不思議なバカですわね」
「あの、ラクス? もうちょっと手心が欲しいんだけど……」
にっこり笑顔で罵倒されると流石に辛い。
というかラクスに罵倒されるって俺の株はいったいどうなってるの? 元々アスランが嫌いなシンとかもし出会ったら口もきいてくれなくなるのでは?
「ところでラクス、Nジャマーって知ってる?」
「……知っておりますが。なぜアスランがそれを?」
「いや、今後地球にばら撒かれて電力不足で未曾有の大虐殺になる……かなぁって」
「…………」
黙り込んでしまわれた。
いやあの、ラクス様? 今後シーゲル・クラインのやらかすこと、という知識があるとはいえちょっとまずかったですか?
「否定はできませんわね。哀しいことに―――とはいえ核攻撃が阻止された以上、実施はされない……と、思うのですが」
「まあ人間を信用するのは難しいですね。特に戦争中は」
煽るクルーゼもいるしね。
アオ・ル・クルーゼ……ありか?
「アスラン?」
「あ、すみません引っ張らないで下さい」
一応腫れてるので包帯を引っ張られると痛いです普通に。
「それで、アスランはどうしてご自分の危険も省みずに危険なことを?」
「自分ならなんとかできると思い込んでいたからですよ。……だから、ラスティは」
ラスティは死んだ。
原作キャラなら、“その時”まで死なないのではみたいな甘えがあった。
確かにイザーク、ニコル、ディアッカはなんとか生き残ったがイザークは負傷したしニコル機も中破。ディアッカも流石にボロボロだった。
言い出しっぺの俺は父さんに殴られたくらいで、のうのうと生きている。
そんな俺の内心を見抜いたのか、ラクスは心なしかいつも以上に優しい笑みを浮かべて言った。
「アスランは、よくやって下さいましたわ」
「……え」
そんなことはない。
上手くやれれば、ラスティは死ななかった。俺が巻き込まなければ。俺だけで行けば良かったんだ。それなら、“正史”以上に悪くなることなんて――――。
「貴方が……あなた方5人が、ユニウスセブンを守ったのです。20万人以上の人々を。それは、誰にでもできることではありませんわ」
「でも! それでも……俺がラスティを巻き込んだから! 守れなかったから!」
ラスティは、良いヤツだった。
こんなところで死んでいいヤツじゃなかった。俺が上手くやれば、もっとずっと生き残れたはずだった。少なくともこんなところで死ななかった。
どこか悲し気で、でも優しい笑みを浮かべたラクスから距離を取ろうとするも、細腕からは想像できない力でがっしりと包帯を掴まれている。
「アスランは、優しいのですね」
「……ただ、臆病なだけですよ」
「では、私が褒めてあげますわ。よしよし」
「……あの、ラクス。こういうのは気軽にやるべきではないかと……」
ぐいっと引き寄せられ、胸元に頭を抱き寄せられて撫でられる。
………なんかやわらかくて、いい匂いがするんですが。
ハーッ、こんないい子を貰うキラ羨ましいぞ畜生め。
「一大決心ですのに」
「ファンに火あぶりにされますよ、俺が」
「アスランなら火の中でも大丈夫そうですわ」
「キラみたいなことを……」
「……アスランはいつもキラさんのことばかりですわね」
ジトっとした目で、珍しく直接的に非難してくるラクス。
……キラ×ラクス推しが露骨すぎただろうか。
「まあ親友ですからね」
「では、婚約者のわたくしは?」
「………高嶺の花?」
「……………アスランの中のわたくしは、どうなっているのでしょう?」
「黒幕――――むぐぅっ!?」
「残念です。本当に」
そんな普段のようなコント?を繰り広げつつ、なんでかいつもより優しい気がする(いつも優しいが)ラクス。……まあ、ラスティの死を引きずってることくらいお見通しなのだろうが。ほとぼりが冷めるまで、という名目の謹慎処分が解けるまで暫くそんな穏やかな日が続いた。
……ところでラクスの歌最高では?
疲れた心に染みわたる……。
―――――――――――――
「というわけで、『チキチキ☆どうすればこの戦争は終わるんだろう討論会』開催だ」
「開催ですわ~」
というわけでまたしてもラクス邸(クライン邸だけどラクスだしヨシ)。
参加者は黒幕疑惑系ヒロインことラクス・クライン。C.E.で最もフリーダムな裏切り者ことアスラン・ザラっぽいもの。シホとかいうくそ可愛い子から好かれているけどラクスのファンなイザーク・ジュール。アスランっぽいものが抑え役じゃないせいで苦労人パワーが天元突破しているニコル・アマルフィ。中盤から株の上がる、狡猾で残忍な(公式)男ことディアッカ・エルスマン。
「おい、アスラン。貴様どういうつもりだ説明しろ!」
「ラクスが皆とおしゃべりしたいって」
「よくお越しくださいました。精一杯おもてなしさせていただきますわ」
「ラ、ラクス様………いや、その……おいアスランなんださっきのふざけた話は!?」
「俺は真面目なつもりなんだが……」
「お前ほどふざけた男がいるはずあるまい」
「わたくしもそう思いますわ」
ラクス!? ラクスは裏切った……。
「待ってくれラクス、こんなんでも一応婚約者だぞ。親が決めたこととはいえ」
「あら、まあ。………アスランは冗談がお好きですわね」
そりゃこんなのが婚約者とか冗談だと言いたいだろうけれども。
イザークには睨まれ、ラクスにはジト目で見られ、ニコルに「胃が痛いから止めてください」と目線で訴えられ、ディアッカが「グゥレイト! さすがアスランだぜ」しているので諦めて用意した資料を配った。
「じゃあこの資料を見てくれ。とりあえずコペルニクスのテロで国連の主要人物が暗殺され、クライン議長がシャトルの故障で難を逃れた―――このことから、プラントによるテロだとされたのが今回の開戦の直接的な理由だな」
「故障させられるのなら、それこそ事故を起こすことも不可能ではありません。お父様のシャトルに細工ができるのは、それこそお父様か……プラントでもそれなりに力のある人物しかいないはずですわ」
そうなんだよねー。
まあ多分クルーゼじゃないかと思ってるけど、コズミック・イラだし普通に濡れ衣かもしれない。意外とマトモだからね、クルーゼ。煽って人間を試してはいるけど自分の手で虐殺とかはしないし、ヤベーことしでかすのは基本周りの人間だし(情報漏洩除く)。
「つまり、プラント側に開戦を仕組んだ人物がいる。と…? アスラン貴様……」
「わたくしも同意見ですわ」
「ハッ……おいアスラン」
「止めろ睨むなイザーク。顔が怖いから」
「誰の顔が怖いだとぉ!?」
「ふふっ」
「クッ……」
ラクスが思わずといった風に笑ったことで怒るに怒れなくなったらしいイザークにドヤ顔で勝ち誇りつつ(テーブルの下で脚を蹴られた。痛い)、神妙な顔のニコルと、いつも通りのディアッカを見る。
「これは……でも確かに、今回のバレンタイン会戦ではプラントが地球軍を圧倒していましたね。……核ミサイルさえ考えなければ、ですけど」
「まあそもそも地球軍が無茶苦茶するからだろ? なんでもかんでもコーディネイターが悪いって。ナチュラルのくせにさ」
そう、問題はそこである。
地球軍からすれば自分たちが出資したプラントなんだから利益を寄越せというのは当たり前。でもプラントからすれば能力の劣るナチュラルなんていなくていいのになんで奉仕させられなきゃいけないのかという不満が爆発。S2型インフルエンザの流行がコーディネイターの陰謀とされたこともあり世間的な風当たりの強さもあって対立が激化しているのだ。
まあ禁止されてた食料プラントを自分たちで勝手に作ったプラントもプラントだし、暴利を貪っていた地球側も地球側だし、どっちもどっちなのだが。
「どっちもどっち、だとぉ……」
「明け透けすぎですよ、アスラン…」
「相手の立場になって考えてみろ。こっちからしたら許せないが、あっちからしても許せないだろう?」
「それってもうどうしようもないってことなんじゃ…?」
いいところを突くね、ニコル君。その通りだ。
コズミック・イラはまじでどうしようもない。
地球側も大抵問題ばっかりだし、プラントもそう。そうすると外部に敵を作って戦うくらいでしか纏まれないのだ、人間ってやつは。
「つまり俺たちが勝って終わるしかないってことだろ?」
「じゃあディアッカ、どうやったら勝って終われる?」
「は?」
「いや、どうやったら終戦すると思う?」
「そんなの………あー、本拠地を落とす…?」
「地球連合って大西洋とユーラシアと東アジアの三つがあるんだが」
「じゃあそれ全部落とせばいいだろ?」
「うん。そうすると勝ったプラントはどうする? 戦争が終わって負債がいっぱいだが」
大抵国力が負けまくってるプラントだ。
もし勝てたとして、それが相当の出血を―――あるいはそれこそエイプリルフール・クライシスのような手段を選ばない勝利なのは間違いない。
「そんなの勝ったんだから賠償金貰えばいいだろ」
「そうだな。そして国民が納得するくらい貰うと、どうなると思う?」
「…………」
「ちなみにプラントの国力からして、宇宙から色々やって地球全土に大飢饉を起こすくらいじゃないと勝ち目は全くない。その憎しみが、負けたからといって終わると思うか?」
ぜったい無理だ。
実際デスティニーではブレイクザワールド……ユニウスセブンの残骸を地球に落とすという大規模テロでとんでもない被害が出ているが、これは第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦の結果が納得いかなかったザラ派の仕業だ。が、地球軍が負けたら今度は地球軍が何かやらかすだろう。
例えばゲリラ的にブルーコスモスがプラント支配区域を襲撃したり……劇場版かな?
「つまりもう詰んでいる、と…?」
「国力からして、プラントに勝ち目はないからな。それこそ、地球で大虐殺か未曾有の大災害でもない限りは」
さすがのイザーク、ディアッカもこれには言葉もない。
神妙な顔を5人で突き合せて、それからラクスが口火を切った。
「やはり早期の停戦しかありませんわね。……幸いあなた方と、そしてラスティ様のお陰で核は防がれ、憎しみの連鎖はまだ大きく広がってはおりません」
「問題は何処を落としどころにするか、なんだよな。核攻撃を“しようとした”名目だけでプラント側の不満――――いや、恐怖と不安は高まっている」
「それと別に、コペルニクスのテロの首謀者は戦争を望んでいる……かもしれないんだろ? しかもプラントの上層部で」
「勝てないと分かっている戦いで、ですか…?」
「つまりナチュラルどもを滅ぼすことが目的ということだな?」
あー、まあ普通のコーディネイターならそう思うよな。
でもクルーゼは違う。
「いやでもその場合、プラントが真っ向から地球軍に勝てると思ってる余程のアホか、どっちもボロボロの共倒れになってほしいかじゃないか?」
「…………おい、いくらなんでも悲観主義が過ぎるんじゃないか?」
「いえ、わたくしも違和感がありました。確かに、ナチュラルを滅ぼしたいという方々は少なくありません。ですが、あまりにも捨て身が過ぎるような―――」
沈黙が重い。
核攻撃、しかも軍事施設でもない農業プラントへの無差別攻撃の意味はあまりにも重い。コーディネイターを滅ぼすつもりで放たれた刃に対して、どう応えるか。コーディネイターだって自分の感情からは逃れられない。恐怖からも、大切な人を守りたいという想いも、脅威の前では暴力に容易く変わる。
「再度の核攻撃があったとして、防げなければプラントは終わるかもしれない。阻止できるとすれば、核分裂を防ぐNジャマーを地球にばら撒くくらい…か」
「Nジャマーだと? ………そんなものがあるのなら、使えばいいではないか」
「いや待てイザーク。無差別に核を抑制するとしたら――――」
「もしかして、発電も?」
苦々し気なイザーク、ディアッカ。顔色の悪いニコルの出した答えに頷く。
「数個ばら撒く程度なら排除されて終わり――――地球軍が掘り返そうと思っても諦める程度には撒くだろうな。地球全土で電力不足が深刻化するくらいには」
「ナチュラルがそんな状況に耐えられるはずがあるまい」
「あー、それでさっさと降伏する可能性もあるんじゃないか?」
「……それで、降伏しなかったら?」
始まるのは憎しみが憎しみを生む、泥沼の戦場。
が、アニメ冒頭でも言われている通り『誰もが疑わなかった数で勝る地球軍の勝利』なのだ。それこそ宇宙世紀におけるコロニー落とし同様に、なければプラントの敗北は目前だ。
「―――だから、わたくしたちは見定める必要があるのです。何と戦わねばならないのか……どうすれば、この戦いを終えることができるのか」
「お前たちなら信頼できる……背中を預けられる。協力してくれないか。イザーク、ディアッカ、ニコル」
「…………誰が貴様に協力などするか」
「……」
「イザーク、今はそんな――――」
「――――俺は! あくまでラクス様に協力するんだからな! 貴様はそのついでだ!」
「ハハッ、じゃあ俺もそれで」
「………僕も、是非手伝わせて下さい」
「ありがとう、みんな」
「アスランのお友だちは良い方ばかりですわね」
何も解決はしていないけれど。
それでも同じ方向を向いてくれる仲間がいる―――その事実に、ラクスと顔を見合わせて微笑み合った。
何も解決してないけど!