本来であれば地球連合軍と足並みをそろえるのが望ましいのだが。
残念ながらフリーダムもジャスティスもザフトの機体であり、識別もザフト特務隊のものである。ので、中立であるオーブ軍と「たまたま」横並びで戦闘に入るのがせいぜい。
アークエンジェルは……まあ、うん。
幸いにも軍を動かすのはそう簡単ではないので、最低限の準備の時間はあり――――ナチュラル用OSとまではいかないが、まあ使えなくもない程度のものをフラガ大尉用の奴を調整してキラがでっち上げてくれた。
こちらの戦力はオーブのクサナギとM1アストレイが9機(と予備機1)、アークエンジェルにフリーダム改とジャスティス改、そしてなんとか修理が間に合ったストライク。あとオーブに置いてあったストライクルージュも一応持ってきている。
以上。
……いやオーブってもっとこう脅威のメカニズム的なものないの!? と思ったが無いのである。ジャスティス改だけよりは圧倒的に充実しているが多分俺とキラだけでもオーブは落とせる。―――いやこれ無理だな。せめてミーティアがあれば……それでも無理だろうけど。
手が足りない。時間が足りない。
ストライクフリーダムならまだ防衛戦もできると思うが、ジャスティスって基本的にフリーダムほどは多数を相手にする想定じゃないし。
あれよあれよという間にマスドライバー、カグヤで宇宙へ。
未だにザフトにいるはずの味方との連絡は取れず、ラクスも音信不通。
Nジャマーの妨害を受けつつも、地球とプラントのあるL5の間に向けて前進していた俺たちに見えたのは、広域レーダーを埋め尽くすレベルのザフト艦だった。
「ナスカ級を中心とした艦隊、約20隻と推定! 恐らくNジャマーと思われる装置を防衛しています!」
「多いな…」
本当はマスドライバー攻略作戦用の戦力ではなかろうか。
それをそのまま転用したから早いのか、なんとなく腹立たしいことの手際は良い。
『こちらはオーブ首長国連合の代表首長ウズミ・ナラ・アスハである! 我らオーブは、オーブに対する敵対行為を見過ごすわけにはいかない! 直ちに転進されたし!』
『我々の目的はブルーコスモスの盟主、ムルタ・アズラエルである! コーディネイターを迫害し、核でプラントを焼こうとする暴挙を許すわけにはいかん! Nジャマーによってプラントを守るのだ!』
『オーブはブルーコスモスを認めていない! あくまで強行するのであれば、迎撃する!』
『プラント防衛を邪魔するのであれば、実力で排除する! 直ちに道を開けよ!』
『やむを得ぬ。迎え撃て!』
至極あっさりと、開戦は決まった。
あまりにもあんまりな言動に、何処か重なるものを覚えたのは――――やはりアコードの一件だろうか。
SEED FREEDOM冒頭の、ミケールがいると言ってやたらと戦闘したがる兵士たち。
アコードが糸を引いているとして、どうするべきか――――もう、迷う時間すらも惜しいのだが。
『MS隊を発進させて! 敵右翼の中央を突破します! クサナギはアークエンジェルに続いて下さい!』
『ジャスティス改、発進どうぞ!』
「――――ジャスティス、アスラン・ザラ出る!」
背負った強化リフター、左右に装備された通常の盾と、黄金の盾。
ビームライフルは二丁持ちと完全武装ではあるが、大軍相手でどこまで粘れるか。
『続けてフリーダム改、発進どうぞ!』
『キラ・ヤマト、フリーダム行きます!』
『ストライク、発進どうぞ!』
『ムウ・ラ・フラガ! ストライク行くぜ!』
Nジャマーの影響を受けた画面でも、ザフト軍の識別で埋め尽くされる視界。
感じていたのは無力感だろうか、怒り、困惑――――ラクスなら、こんな時でも戦いを止められるのだろうか。などと。
あるいは、父さんなら。
砲火を交えるまで、残り数秒も無かっただろう。
決心がつくのは遅かったが、遅すぎはしないと思いたかった。
「――――こちらはザフト軍特務隊、アスラン・ザラだ! 独断専行するザフト艦隊、直ちに行動を停止せよ! お前たちの行動は最高評議会の、そして国防委員会の承認も得ていない! 直ちに持ち場に戻れ!」
返答は砲火―――ではなかった。
いつ砲撃が始まってもおかしくない状況であり、ジャスティスの隣で油断なく構えるフリーダムもいたが、果たして返答はあった。
『何故止める! プラントを守るには、ブルーコスモスを討たねばならんのだ! 何故それが分からん! この戦争だけではない、これまでどれだけの同胞が傷つけられてきたと思っている!』
「Nジャマーはブルーコスモスだけを焼く都合のいい兵器なんかじゃない! お前たちの落とすそれは、地球の全ての人々を苦しめて殺すものだぞ!」
『それでも、我らザフトがプラントを守らねばならぬ!』
「ふざけるな! だから俺の父を――――パトリック・ザラを排除したのか! 殺したのか!? 言ってみろ! 同胞を殺し、それで何を守るというんだ!? お前に従うものだけが同胞だとでも言うのか! この、馬鹿野郎ッ!」
『ええい、撃て! 討ってしまえ!』
『――――こちらはクルーゼ隊、イザーク・ジュールだ』
―――――――――――――――――
「久しぶりだな、アスラン。お前の言い分だが、一つだけ間違っているぞ」
『……何だイザーク』
ヴェサリウス艦内から見る景色――――あわや激突寸前のザフトとアークエンジェル、ついでにオーブ艦は心臓に悪い光景だったが、なんとか間に合ったらしかった。
横にズレたイザークの代わりに、今は画面に映っている不機嫌顔の英雄そっくりの国防委員長が、ザフトにも見えていることだろう。
「こちらはザフト国防委員長、パトリック・ザラだ――――国防委員長と」
「シーゲル・クライン最高評議会議長の権限を持って命令する。不当なクーデター勢力の命令に従う必要はない! ザフトは直ちに行動を停止し、本隊に復帰せよ!」
今度こそ、ザフト艦隊が動いた。
中心に陣取っていたナスカ級以外の、8割ほどの艦がゆっくりと艦隊の隊列を乱してゆっくりとプラント方面に向けて移動を始める。
これでなんとかなるか――――その意識の間隙を突くように、オペレーターが悲鳴のような声で注意を促した。
「本艦に向けて急速に接近する機体あり! 識別――――地球連合の機体です! 地球連合のMA―――いえ、MSが急速に接近!」
『―――――ひゃはぁ! ――――滅ッ殺!』
黒い鳥のような、不吉なMS――――レイダーは、フリーダムとやり合えるほどの推力で一気に接近。そのハンマーをヴェサリウスの艦橋に叩きつけ――――。
「――――ニコル、ディアッカ!」
『させません!』
『好きにさせるかよ!』
ミラージュコロイドで隠れていたブリッツガンダムが姿を現し、放ったランサーダートがレイダーを僅かに弾く。ついで放たれたバスターの狙撃は鉄球ことミョルニルで防がれるが、距離は取れた。
「――――デュエルを出すぞ! ザラ委員長、この場はお願いします!」
プラント艦隊も一部慌ててこちらに向かっている。アークエンジェルからもジャスティスとフリーダムが向かってくるのが見える。だが、ギリギリレーダー通信が可能なくらいにしか距離を近づけていない。間に合わないか。
『へー。隠れてたんだ』
『その艦、落とせって命令なんだよね』
『オラ、さっさと沈め!』
「更に新型MS二機、急速接近!」
「回避!」
『くっ、これは――――』
『嘘だろオイ! 急げ、イザーク!』
カラミティ、フォビドゥン、レイダー。
新型Xナンバー三機のうち、まずカラミティの砲撃がヴェサリウスに迫る。それをブリッツが盾で受け止めるも吹き飛ばされ。
レイダーの放った鉄球に狙撃を当てるが、全く効果がないことを悟ったバスターが左腕を犠牲に鉄球を逸らし。
フォビドゥンがその鎌を振り上げて――――。
『――――父さん!』
ジャスティスの放ったビームは、フォビドゥンのエネルギー偏向装甲によってあらぬ方向に曲がり。そのまま振り下ろされて――――――。
『――――やれやれ。人の留守に艦を傷つけないでもらいたいのだがね』
至近距離から放たれたビーム、ドラグーンシステムによる攻撃に流石に回避したフォビドゥン。が、回避した先にちょうどバスターにトドメを差そうとしていたレイダーがおり激突。
『何やってんだ邪魔だシャニ!』
『痛ぇ、何すんだオルガ』
『チィ、コイツ……うぜぇ!』
その間に、特徴的な無数のドラグーンシステムを背負ったジャスティス、フリーダムと並ぶプラント守護のために開発された機体―――プロヴィデンスが悠々と立ちふさがった。
『ク、クルーゼ隊長…?』
『ああ、すまないなアスラン。本来この艦を守るのも私の仕事だが――――少しMSを受領していた関係で遅れてしまった』
ジャスティスもヴェサリウスと三馬鹿の間に入れて。僅かに一息ついたその間隙に、今度はフリーダムが新型Xナンバーを強襲する。
『――――当たれぇッ!』
『ぐわああああぁぁ!?』
『なんだコイツ――――うおおおお!?』
『チクショウ……つぇぇ』
――――――――――――――――
キレたフリーダムが凄い勢いで三馬鹿に突っ込んでいったかと思うと、ビームライフルで狙撃するわ蹴るわサーベルで切り払うわ、援護に困るレベルの暴れっぷりを遠目に見つつ、的確過ぎていやらしいレベルでドラグーンシステムを使って敵を追い詰めるクルーゼ隊長にちょっと……いやかなり困惑する。
「……いいんですか」
『人は滅ぶ、滅ぶべくして―――そう思っていたのだがね。しかし……他人が『最後の扉』を開くのを見るというのは、思った以上に詰まらなくてね』
それ「滅ぼすのは自分でやりたいんだよね」ってことじゃないですか隊長…。
「それに洗脳能力というのもあまり面白みがない」とのこと。いやまあ、アンタは人が自分の業で破滅する方が好みだろうね…。
『平和の歌も、届かなければ虚しいものだが。……私も存外、嫌いではなかったようだ』
「隊長―…」
『――――む。気を付けたまえ、何か来るぞ』
「へ?」
瞬間、放たれたビームがヴェサリウス、アークエンジェル、クサナギに命中する。
あの黒いMSは――――ブラックナイツ!? いや、ぱっと見でもビームマントがないのでただの黒いMSにしか見えないのだが。
「不味い、気を付けろキラ!」
『――――消えろ、アスラン・ザラ!』
―――あ、こっちか!
そういえばラクスの婚約者ってキラじゃなくて俺だった。
どことなく黒いブラックナイトスコードカルラっぽいMSから放たれる、多数のドラグーンがジャスティス改を囲むようにビームを放つ。
対してジャスティス改は簡易ドラグーンである左右のシールドを放ち。
角度をつけて設置した通常のシールドはいつぞやのインパルスのようにビームを曲げ、金のシールドはそのまま跳ね返してドラグーンを撃墜。それでも防ぎきれなさそうな数のビームもあったが――――迷わず放たれていたフリーダムのドラグーンシールド2枚もあって、間一髪包囲網を抜ける。
が、それを読んでいたように接近するのは、大量のビームサーベルを装備した機体であり――――クルーゼ隊長操るプロヴィデンスのドラグーンと、ブラックナイトスコードカルラのドラグーンが熾烈なデッドヒートを繰り広げる中、恐らくシヴァであろう機体とジャスティスが激突する。――――とはいえ、ビームサーベル同士は今現在では干渉しないので呼び戻した二枚のシールドが頼りだが。
『なかなか厄介やヤツだな、君も』
『―――ラウ・ル・クルーゼ……貴様、邪魔をするのか!』
『ふむ。そうだと言ったら?』
『――――消えて貰う!』
『くっ、こいつら……アスラン、大丈夫!?』
「心配ない! キラも気を付けろ、こいつらこちらの動きを読んでいるぞ!」
フリーダムは中破したバスター、小破のブリッツを庇いつつも2機のブラックナイトスコードに善戦。アークエンジェルとクサナギ、フラガ大尉のパーフェクトストライクとM1アストレイ部隊は二機のブラックナイトスコードになんとか食らいついている状態。
『さあて、ちょうどいいところにいるじゃねぇか――闇に堕ちろ!』
『……うわああああ! 滅殺!』
『どけよ、お前ら!』
『ぐっ……いい加減邪魔なんだよ!』
『きゃぁ!?』
どちらも攻撃する構えだったレイダー、フォビドゥン、カラミティが、何かに操られるようにフリーダムに攻撃を集中させる。
通常のフリーダムより運動性に特化しているフリーダム改は、二枚の簡易ドラグーンシールドのうちヤタノカガミでフォビドゥンのビームを反射、咄嗟にカラミティにぶつけるという神業で対処しつつ、レイダーの鉄球をなんとか通常の盾で受け止めようとするが弾き飛ばされる。
『邪魔だ、どけと言っている!』
『――――最強は俺だッ!』
チッ、余計なことを考える余裕も無いか!
こうしていると、カガリが補助してくれていたからあの戦術を使えたのだなと実感する。
シールドバッシュで無理やりシヴァを払いのけ、リフターを射出することで吹き飛ばそうとするが後方に宙返りするように回転したシヴァの脚部ビームサーベルがこちらに襲い掛かり。
『―ーーーさせない!』
「っ、キラ――!」
フリーダムの簡易ドラグーンシールドが割って入り、その隙に離脱。
代わりにシヴァに回避されたリフターをフォビドゥンに激突させて左肩の偏向装甲を損傷させる。
『ふむ、ビームは効かないか。――後ろだ、アスラン!』
プロヴィデンスとの壮絶なドラグーンの撃ちあいに業を煮やしたのか、ビームを装甲で受けつつサーベルを抜いてカルラが突っ込んでくる。
(―――避けきれないか!)
ならせめて反撃を、とこちらも全身のサーベルを起動させ。
『油断するな、馬鹿者!』
割って入ったデュエルが盾で受け止めると、アサルトシュラウドの一斉射撃でたまらずカルラはドラグーンでミサイルを撃ち落としつつ距離を取る。
「来るのが遅いんじゃないか、イザーク」
『貴様が先走りすぎなんだ! ラクス様に心配をかけおって!』
え、ラクス!?
その言葉に思わずカルラと揃って動きを止めてしまうが。
先ほどの父さんと同様に、どこからかの広域通信で、今度はラクスが映し出される。
『ザフトの皆様、聞いてください。わたくしはラクス・クラインです』
「ラクス!?」
『今回のクーデターで、わたくしたちが何と戦わねばならないのか、不安の中にいることと思います。ですが、思い出してほしいのです。私たちが何故戦うことを選んだのか――――この度は願う未来の違いから、道を分かつことになってしまいましたが』
『平和を、プラントの安全を。そのためにしなければならないのは、地球の人々を滅ぼすことですか?』
『平和のために刃を取る、そのこと自体が誤りかもしれません。ですがどうか、争いを止めるために――――わたくし達に力を貸してください』
こうして声を聞いていると、やはりラクスには人を纏める天性の魅力があると思う。
けれど、それが好ましいと思うのは。
ラクスは自分のためだけではなく。誰かのために歌えるからだと、俺は感じた。
のだが。
ちょっとキレ気味のイザークが続けて叫んだ。
『―――――ザフトの兵よ! ラクス様の気高い理想は決して絶やしてはならない! バレンタインの悲劇を防いだプラント守護の理念は! 正義は此処にある! アスラン・ザラの、ジャスティスの元に集え!』
『イザーク!?』
『ジャスティスだ……!』
『アスラン・ザラの魂!』
『ラクス様の理想のために!』
『『『アスラン! アスラン!』』』
『ハハハハハ!』
うおおおお!? なんかいっぱい来た!?
大量のジンを中心にした部隊が、流星群のようにクーデター艦隊を制圧しつつこちらに突っ込んでくる!?
あとキラお前さりげなく叫ぶな!? 俺が動揺して操作誤りそうなんだけど!
隊長はめちゃ楽しそうに爆笑してるし! 気が散る! 神経がいら立つ!
『わたくし達もアスランの元に集いましょう。エターナル、突貫して下さい』
『よし、行くぞ! エターナル、全砲門開け! ミーティアと例の物も用意してあるな!』
いや突っ込むなラクス! 半分悪ノリしてるよな!? 頼むから大人しくしていてくれ!?