C.E.で最もフリーダムなアスラン   作:アマシロ

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エイプリルフール・クライシスだったもの

 

 

 

 

 

 

 血のバレンタインの悲劇が起こらなかったことによる一番の違いは何か、それはきっとザフト軍の士気だろう。復讐心もあり、危ういほどに高かった本来の士気は良く言えば落ち着いており。悪く言えばそこまで高くない…はず。それでもやっぱりナチュラルとの確執は根深いんだけど。

 

 連合の支配する月、そこへ向かうための中継地点となるL1に存在するコロニー『世界樹』。

 

 

 

 その攻防戦ではNジャマーが遂に実戦投入され――――一定の成果は上げたものの、ザフトにも相応の被害をもたらしてコロニーは崩壊。

 俺たちはというと、大人しく士官学校で勉強していたので流石にできることはなかった。

 

 

 

 損害比で言えば圧倒的にザフト側が有利だが、そもそもの国力が違いすぎる。

 対話のテーブルに付こうとしない連合。ジリ貧になることは目に見えている戦局。

 

 

 

 

 続けてのビクトリア攻略作戦は失敗。

 

 最早先は見えつつあり、座して屈するのを待つことしかできないザフトに残されていたのは、Nジャマーという鬼札だけ。

 

 

 

 ヴィクトリア基地の攻略失敗そのものは地上戦力の不足が原因と考えられたが、もう後がないザフトは地上戦力の拡充と地球軍の地上への封じ込め、そしてNジャマー散布の三つの柱からなる『オペレーション:ウロボロス』を発令。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それを止めることができるだけの力を、俺もラクスも持ち合わせてはいなくて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――それでもラクス、ニコル、イザーク、ディアッカ、一応俺と評議会議員の身内が集まっていたこともありなんとか条件の緩和には成功したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「――――だから、そのリスクがあまりにも大きすぎると言っているんです! Nジャマーを地球全体に散布した際の餓死者予想を見ていないのですか!?」

「プラントを守るためだ! 奇襲に二度目はない! Nジャマーの対策を取られてからでは遅すぎるのだ! 貴様こそザフトの死傷者数を、部隊損耗を見ていないのか!?」

 

 

 

「それでは核を放った地球軍と、何が違うのです!? 野蛮なナチュラルと揶揄しておきながら、それを遥かに上回る人類史上最悪の虐殺者になることが優秀な証拠だとでも!?」

「奴らが降伏すればいいだけの話だ! そうすれば支援物資もある程度の発電の支援も出す!」

 

 

 

「それで降伏したところで、憎しみからテロに移るだけです!」

「だからそれが出来ぬほどの力を削ぐしかないのだ!」

 

 

 

 

 

 Nジャマーの地球散布を含む、オペレーション・ウロボロスのための会議。

 それが終わってすぐに乗り込んだわたくしたちは、ご自分のお父さまに掴みかからんばかりの勢いのアスランに圧倒されていました。

 

 

 

 

 

「そんな方法を取ればもう二度と和平などできなくなります! 極端すぎると言っているんです!」

「ならばどうするというのだ! 我々には、プラントを、国民を守る義務がある! 核だぞ!? 抵抗すらできぬ農業プラントに核を放ったものどもと、どうして和平などできる!」

 

 

 

「地球にコーディネイターがいないなどとは言わせませんよ! 向こうからすれば多くの家族を、友人を餓死させた悪魔に我々がなるんです! 敵でなかったものまで敵に回して、全てが滅ぶまで戦い続けるんですか!? そんな癇癪にプラントの国民を巻き込まないでいただきたい!」

「そうだとしても、プラントを守り抜くのは我々の役目だ!」

 

 

 

「そんな方法では守り抜けないと言っているんです! せめて敵にならないよう相手を分断するべきだ!」

「言うだけならば容易かろう」

 

 

 

 

 お二人とも、相手の言葉にも理があることは十分に分かっておられるのでしょう。

 肩で息をして、互いに全く納得していなさそうでありながら手は出さない。

 

 盛大な親子喧嘩とでもいうべき光景でありながら―――でも、どこか眩しかった。

 

 

 

 

 わたくしは、恐れていたのかもしれません。

 プラントの歌姫―――そう呼ばれるようになって、人々に喜んでもらえることは嬉しくとも。あまりに容易く人の心を動かしてしまうことに。

 

 

 だから、この戦いへの懸念があってもお父様に話せなかった。わたくしが言ったことに従っていただいて、それが間違っていたら? その責任を背負えるなんて、とても思えなくて。

 

 でも、アスランは――――英雄になり、周囲の人々の見る目が変わっても、変わらなかった。わたくしの話にも、きちんとご自分の意見を出してくれた。そして、期待してもくれた。

 

 

 

 

『俺にできることなんて、父さんに喧嘩を吹っ掛けるくらいです。とりあえず最初に無茶な要求を出すので、ラクス達に妥協案を出してもらう……というのでどうでしょうか?』

 

 

 

『大丈夫、ラクスならできますよ。少なくとも、俺よりはずっと。何かあれば父さんをぶん殴って有耶無耶にしますからご安心を。あ、もちろん話し合いも手伝いますからね』

 

 

 

 

 アスランは、もう既に踏み出した。

 だから、進まなければ。正しいと信じる道を―――探すための一歩を。

 

 

 

 

 

「――――“わたくし達”からは、Nジャマーの『限定的な散布』を提案させていただきますわ。地球全土への無差別散布による地球軍への効果と民間への被害との比較がこちらの資料です―――大西洋連邦に対してのみ散布することで―――――」

 

 

 

 あらかじめ決めておいた部分を語り終えて、ニコルさま、イザークさまに交代する。

 こうすることでわたくしだけが決めたことでも、アスランだけで決めたことでもない。『わたくし達の意志』なのだと伝えるために。

 

 

 

 

「―――それに伴い、オーブ等中立国を通じて停戦への働きかけを。Nジャマーの限定散布はまだ落とされていない国に対する『抑止力』になり得るはずです」

 

 

 

 

「地球連合も一枚岩ではありません。盟主の一つである大西洋連邦の衰退は、決してユーラシア連邦、東アジア連邦の危機感のみを煽るものではないと思われます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プラント評議会議員でもないわたくしたちの“声”を、彼らが聞く必要なんてない。

 けれど、それでも。

 

 今、この時に、わたくし達が彼らの子として生まれて来たことにも、意味があったのではないか――――そんな風に思えました。

 

 

 

 

 

 

 全て聞き終えて、議長であるお父様は議員の方々を見渡し。

 

 

 

 

 

「………私は、プラントの評議会議長だ。例え我が子であろうと職責に余人の意見を交えることはできない。プラントのことは、評議会で決める。それがルールだ」

 

 

「……っ」

「アスラン」

 

 

 

 

 思わず前に出ようとしたアスランの袖を軽く引いて制止する。

 お父様はそれを見て僅かに微笑むと、もう一度周囲を見渡して呼びかけた。

 

 

 

 

「――――だが、我が子のみであればまだしも――――未来を担う若者らの意見を話も聞かずに切り捨てたくもない。すまないが、会議の時間を延長しても構わない者は?」

 

 

 

 

 視線の先。

 Nジャマー散布が限定的になれば最も苦しくなるだろう国防委員長―――パトリック・ザラは、疲れた顔で椅子に座りなおした。

 

 

 

「……まあ、国家の大事ですからな。だがレノアにはお前が説明しろ、アスラン」

「それは父さんの仕事ぶり次第ですね」

 

 

 

「ならば問題あるまい。議長、お願いいたします」

「わたくしも問題ありません」

「私も」

「仕方ありませぬな」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――そうして、大西洋連邦に集中的に散布されたNジャマーによる『エイプリルフール・クライシス』は当初の予想されていた効果を大幅に下回り――――それでもなお、地球連合を大いに困窮させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――これにより大西洋連邦は地球連合における盟主の座が危うくなり。それどころか食料・軍事支援からユーラシア連邦、東アジア連邦に大きな負債を抱えることになった。

 

 そしてそれは、大西洋連邦を牛耳るブルーコスモスの軍内部での発言力低下にも繋がるのだった――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

C.E.70、バレンタイン会戦に端を発した地球・プラント間の本格的な武力衝突。誰もが疑わなかった戦力で勝る地球軍の勝利。が、戦局は疲弊したまま、既に11カ月が過ぎようとしていた――――。

 

 

 

 

 

 

『激戦の伝えられた、カオシュン戦線のその後の模様です。新たに届きました情報によるとザフト軍はカオシュンの東6kmの――――』

 

 

 

 

 オーブ所属のコロニー、『ヘリオポリス』。

 そこで暮らす学生であるダークブラウンの髪の少女は、なんとなく幼馴染のその後の動向が気になっていつもの癖でニュースを聞き流しつつノートPCでゼミの課題をこなしていた。

 

 

 

 

「うーん、これで終わり…かな」

『トリィ! よくやったな、キラ。少しは休めよ』

 

 

 

「……時々うるさいだけじゃないの、ズルいと思うんだけど」

 

 

 

 

 そんなところまで本物のアスランに似ちゃってさぁ……とちょっと微妙な顔になったキラだったが。

 

 

 

 

「―――キラ! こんなとこにいたのかよ。カトウ教授がお前の事探してたぞ」

「またぁ…?」

 

 

 

「見かけたら引っ張ってこいって。なぁに、また何か手伝わされてるの?」

「うん。……昨日渡されたのだって、まだ終わってないよ?」

 

 

 

 

 一番仲のいい友達のミリアリアと、その恋人のトール。

 特に話しやすい二人にキラも表情を緩めて、それからいかにも面倒ごとの予感しかしないカトウ教授からの課題にがっくりと肩を落とす。

 

 

 

 

「まあ、キラなら本気出せばすぐ終わりそうだからなぁ…」

「だってこの、OS? ぜったい厄介事だよ。こういうの真面目に手伝うなって幼馴染にも言われてるし……」

 

 

 

 こんな大規模で面倒な課題。よほど複雑な、それこそMSでも動かすのかと言いたい。

 しかもそれを機密保持のためなんだろうけどバラバラで渡してくるから非常に面倒くさい。嫌がらせの仕返しも兼ねてそのまま使おうとすると無駄だらけのポンコツになるように組んである。まあ、直せるのは癖をよく分かってる自分自身かアスランくらいだろう。

 

 

 

 

「あっ、キラの大好きなアスラン君ね」

「……ミリー、別にその、大好きってほどじゃ……」

 

 

 

「えー、そんなにトリィを大事にしてるのに?」

「………ぅぅ。それは、そうかもだけど……だって、そういうの良く分からないし……」

 

 

 

「初恋だもんねー」

「ミリー!」

『トリィ! いい仲間ができたな、キラ……』

 

 

 

 

「あ、今日はマトモだ」

 

 

 

 

 トールの呟きもごもっともとしか言えない。

 トリィがかなりカッ飛んでる影響で、なんとなくアスランのことが、その―――なのが恥ずかしいように思えてしまう。

 

 

 

 

「……本物のアスランは、もうちょっとマトモだもん」

「ちょっとなのか」

「こら、トール」

 

 

 

 

「そ、それに困ってる時とかはすぐ助けにきてくれるし……そういう時はカッコイイんだよ?」

「「うんうん」」

 

 

 

 

「なんで生暖かい目で見るのぉ!?」

 

「キラって小動物っぽいよな」

「ねー。すごい可愛い」

 

 

 

『トリィ! いつもすまない……キラのことを頼む』

「アスランっ! じゃなかった、トリィ!」

 

 

 

 

 カオシュンでの戦闘の話は、『オーブは中立だから』という話でそのまま流れる。

 とはいえアスランがいつも言っていた通り、ナチュラルとコーディネイターの戦争となったこの戦いで果たして本当に最後まで中立でいれるのか――――そんな不安に苛まれながら、アスランの顔を思い浮かべる。

 

 

 

 

『本当なら、プラントに来いと言いたいんだけどな……とても安全と胸を張れる状況じゃない。お前だってブルーコスモスに目を付けられたらどうなるか分からないんだ、本当に気を付けてくれよ。頼むから』

 

 

 

 

 送られてきた手紙は大事に取ってある。

 ゼミではまあ、いつの間にか能力が少しバレている気配はあるもののしっかりと手は抜いている。コーディネイター混じりと思われている程度だろう。たぶん。

 

 

 

「キラ?」

「ひゃぅ!?」

 

 

 

 と、急にミリアリアが顔を覗き込んできたのでひっくり返りそうになり、卓越した反射神経を無駄に活かしつつバランスを取り戻す。

 

 

 

「あー、これはまた愛しい幼馴染のこと考えてたわね」

「だな」

 

 

 

 

「い、愛しいとかじゃ…!」

 

「考えてはいたのか」

「語るに落ちたわね」

 

 

 

 

 

 ミリーとトールのこういうところはちょっと苦手で。でも、嫌いじゃなくて。

 こんな穏やかな日々が、もう少しだけでも続いて欲しいと願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「これ預かってる。追加とかって」

「ぇぇ~……」

 

 

「何なんだ? どうせモルゲンレーテの仕事の方なんだろうけど」

 

 

 

 カトウゼミに到着すると、フレイの婚約者であるらしいサイ・アーガイルが教授から預かったらしいディスクを渡される。

 

 

 

 

「フレーム設置モジュールの改良、プログラムの解析だって。……ぜったい学生にやらせることじゃないよー…」

「まあキラは優秀だからな」

 

 

『トリィ! いい加減にしろ! キラは便利屋じゃないんだぞ!』

 

 

 

 

 

 そんなこんなでゼミの仲間とワイワイ騒ぎながらパワードモジュールを弄っていた、その時だった――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――爆音、そして不気味な振動。

 

 

 

 

 

 

 明らかに普段の生活では感じることのない規模のそれに、遂に何かが始まってしまったような――――そんな予感があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




こっそりNジャマーの投下先を大西洋連邦に修正してます
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