「キラ様は戦うには優しすぎるのだと――――けれど、優しいからこそ。追い詰められれば誰かのためにその手に剣を取ってしまうと、アスランが言っておりましたわ」
ジャンク屋を名乗るプラントのお偉いさんと思われる少女。
ラクスはアスランのことを心配していて――――そしてそれはきっと、私が無意識に甘えてしまっていた部分だった。
アスランがなんとかしてくれる。自分のために戦ってくれる。
誰よりアスランが強くても。それでも、絶対に安全なんてことはないと、分かっているはずなのに。
「アスランは私の歌を好きだと言って下さいますが―――けれど、気を使わせてしまうのも事実なのです。『良い婚約者であろう』として下さっていますから。……全く女性としては意識していただけておりませんが」
「それは、私も……その、ヘリオポリスで会うまで男の子だと思われてて」
「まあ。……それで私とキラ様が仲良くなるように、と……?」
「………」
なる、ほど?
つまり自分の婚約者と私をくっつけようとしてたのか。アスラン。アスラン…? アスラン……! 私は、私たちはどうやらアスランをまだ甘く見ていたらしい。
二人して見つめ合い、なんとなく沈痛な空気が流れた。
二人とも、まっったく、これっぽちも相手にされてなかったという現実を突きつけられたためである。
こんな美人な子でもダメとかアスランは本当に男なんだろうか。
ミリアリアとトールは……うん、けっこうアレだし、カズイもたまに目線がアレだし、サイなんてフレイのこと……まあともかくアスランはおかしい。
「わたくしは不要だったのでしょうか……」
「そ、そんなことないですよ! ほらアスランも『美人すぎて直視できない』とか言ってました…!」
「やはりアスランを癒せるのはキラ様しか……」
「……男友達とメカを弄るノリだと思うんですけど」
『トリィ! お前が欲しかったのは、本当にそんな力か!? トゥ! ヘァーッ!』
「……」
「……」
「やはり仲が良さそうですわ……」
「やっぱりふざけてるだけだよ……」
いやいやここはラクスさんが、キラ様が……と譲り合った結果。
なんやかんやでアスランのカッコイイところを挙げ合ったりして。
「その時、熱心なファンの方をアスランが上から降ってきて止めてくださって……」
「アスラン上から降ってくるの好きなのかな」
「アスランならあり得ますわ」
「私の時は、独りでいると必ず声を掛けてくれて……男の子にも女の子にも馴染めなかったから、嬉しくって」
「アスランはそういうところが気が利きますわよね」
「普段はダメダメなのにねー。肝心な時にカッコイイというか」
ラクスは優しくて、遠まわしにアスランに不満をぶつけつつも、その不満も本当にアスランが好きだからなんだろうな、って思うとなんとなく可愛らしくて。
いつの間にか二人とも呼び捨てで呼び合うようになって。
「キラが男の子だったら、とても仲良くなれた気がいたします……」
「あはは。ありがとう、ラクス。そうしたらアスランが拗ねちゃうかもね」
そんな冗談はしかし、『アスランなら喜ぶだろうな』と二人で通じ合ってしまい一緒に溜息を吐いた。
―――――――――――――――
「なあ、キラ。プラントに来ないか?」
「えっ?」
今後のことを話し合うから、と呼ばれてみれば、何故か途中でラクスと合流し。
珍しく真面目な顔をしているアスランを見ながら急にこの話になった理由を考える。
(アスランからすると戦艦は危ないから安全なところにいてほしいんだろうけど……)
「いや、悪い。『俺が、キラに、プラントに居て欲しい』んだ」
「……どうして?」
「危険だから、じゃあ納得してもらえないか? もちろん、キラの友達は無事にオーブに帰れるように全力を尽くす。……必ず、とは言い切れないのが心苦しいが」
「それじゃ、アスランも――――ごめん」
わざわざ危険をおかしてまで戦ってくれるのは、私のため。
戦えないのに、いても負担になるだけだろう。……ちょっとくらいは、アスランの帰る場所になりたいって気持ちはあるけれど。
でも、思うに。
OSを書き換えたときの感触から言うと操縦くらいはできるような―――。
「駄目――――いや、それは嫌だ」
「嫌って……」
「第一、地球軍の機密だぞ。触るなら地球軍に入ると―――俺と戦う覚悟が、お前にあるのかキラ」
「……アスランも触ってるじゃん」
「俺は! ほら、ちょっとオーブのアスハ代表を脅しておいたからな」
「何してるのさアスラン」
「ラクスに頼めばクライン議長も脅せるぞ」
「わたくし達の言う事を聞いて下さらないのなら、お父様のことを嫌いになってしまいますわ…」
「容赦ないねラクス……」
たっぷり情感の籠ったついでに流し目まで添えて、同性であるキラでもちょっとクラっときた。茶目っ気たっぷりだねラクス。しかしアスランにはこうかがないみたいだ…。
「父さんは俺が殴ってなんとかする」
「レノアさんに怒られるよ」
「……母さんに怒って貰えば父さんも一発だな」
本当にアスハ代表を脅したのだろうか、アスラン。こういう冗談は言いそうにないのがちょっとだけ怖い。
「私だって、アスランに何かしてあげたいんだけど……」
「じゃあ、プラントに行ってくれ」
そうじゃなくって!
でも何て言えばいいのだろう。慰め……いやいやいや。
ちらりとラクスの顔色を窺うと重々しく頷かれた。「GOですわ」とのことらしい。
「もっと、こう……その、ハ……ハグとか!」
「………ハグ?」
「そ、添い寝とか!」
「いや、キラ。女の子があんまりそういうのは良くないぞ」
「……………もっと、こう、お礼というか。アスラン、命の恩人だし……」
「お前が元気ならそれでいい。あ、ロールキャベツ美味かったぞ」
ううぅ……それは、すっごく嬉しいんだけど!
でもやっぱりなんだか貰いすぎだと思う! 命の恩人に!
「………アスランは、女の子に興味とかないの?」
「そりゃあるさ」
「「ある(んです)の!?」」
じゃあなんでラクスと何にもなってないの!?
私とも戦闘後にこう、なんかいい雰囲気になったよね!? 抱こうと思えばその………いけそう、だったよね!? 実際どうするかはさておき!
「なんで驚くんだよ、そこで…―――俺だって年頃の男子だぞ。四六時中エロいことしか考えてないぞ。……流石に戦闘中はしないが」
「「四六時中!?」」
「男ってのはそういうものなんだよ……」
嘘だ!
「じゃあなんでラクスと何もしないの!?」
「キラ、ラクスは婚約者で、プラントの歌姫なんだ。ファンっていうのはアイドルに潔癖なんだよ」
「じゃあどうしてキラと何もしないのですか」
「そりゃあ婚約者がいるのに幼馴染に手を出すとかダメだろ、どう考えても」
「「………」」
「戦争も守るべきルールがある。恋愛もそうだろう、キラ」
アスランはさぁ、本当にさぁ!
こういうところ真面目で頭が固くて頑固なのがアスランだった! 確かにこれで喜んでそういうことをしようとされたらちょっと嫌だけど、でももうちょっと靡いてほしいというか……悩んでほしい、というのは贅沢なのだろうか。
と、何か納得したように頷いたアスランがふいにこちらに近づき――――。
「そうか。気が利かなくてすまない、キラ。お前も怖かったよな」
「えっ」
アスランの顔が―――ち、近いっ!?
思っていたよりも太くてたくましい腕で、ぎゅっと抱き寄せられる。
思考が止まって、コーディネイターとかもうそんなのは関係ないくらいには呆然としたまま、ただ温もりを感じていた。
(あ、ダメだ。これ――――ちょっと、幸せすぎる…かも)
おずおずとアスランの身体に腕を回して抱きしめ返す。
「ごめんな、あの時助けに入るのが遅くなって」
「………………うん」
「けど、キラを助けられて良かった」
「……………うん」
「ロールキャベツ、ありがとうな」
「………うん」
「キラ、プラントに先に行っておいてくれるな?」
「……うん」
「よし、じゃあキラ。またプラントで会おう」
「うん?」
「じゃあラクス、頼んだ」
「ふふっ、良かったですわね。キラ」
すっ、と腕を広げてハグの姿勢を取ったラクスに、アスランは胡乱な目を向けた。
「何してるんですか、ラクス」
「キラだけズルいですわ。わたくしも、アスランとハグがしたいのです」
「えぇ……まあいいですけど、ちなみにキラとハグでは―――」
「駄目なのです。アスランでなければ」
自分から抱き着きにいったラクスを、なんかちょっと嬉しそうな顔で抱き返すアスランの脛あたりを蹴り飛ばしたくなった。
アスラン(そういえば昔から寂しがり屋だったな、キラは。女の子だったからと距離を置いた分、離れたように感じたんだな……すまない)
ラクス(アスランがどう見ても慈愛に満ちた優し気な顔をしてますわ)