機動戦士ガンダムSEED-アネモネの花言葉- 作:ピーチフィズ
トントントントントントントントン···。
ザフト軍基地、執務室にて──。
イザークは書類片手に内容を理解しながらも、しかし持っている書類には若干のシワと、右手の人指し指は机の上をひたすらつついていた。
心ここに在らず。
婚約者のカシスが姉の護衛の為にと、軍を休暇中ともあり、イザークは心配で心配で仕方がない、と言った感じだ。
同じく執務室にいたアスランとディアッカは互いに目配せしたかと思えば、苦笑いを浮かべて首を振った。
「イザーク」
「················」
ディアッカがイザークに問いかける、が返事は無し。
「イザーク!」
「···、何だ」
次に強めの口調で問いかければ、相変わらず眉間に皺を寄せたイザークがディアッカを捉えた。
「はぁ。婚約者が心配なのはわかるけどさぁ。それ、そろそろ止めない?」
ディアッカが指さしたのはイザークの右手だった。
苛立ちと心配で無意識に机の上をトントンしていたらしい事に今更ながら気がついたイザークは小声で「すまん」と言ってから席を立った。
どうやら頭を冷しに行ったらしい背中を、ディアッカとアスランが見守る中、イザークと擦れ違いでニコルが入って来た。
「イザーク、どうしたんです?何か思い詰めた顔してましたけど」
不審に思ったニコルは2人に問いかけた。
「イザークの婚約者絡みの話。ラクス嬢の護衛にカシスが付いて行くの今日だろう?で、イザークが心配でたまんないってわけ」
「あぁ。なるほど、けれどカシスなら大丈夫だと思いますが」
「だろう?俺もそう思う。まぁ、好いた奴の弱みってやつさ」
ディアッカはやれやれと両手を広げ首を振った。
「アスランは、···あんまり心配してそうにはいませんね」
ニコルはパソコンに指を走らせるアスランを見て、呟いた。
アスランと言えば普段通りに仕事をこなしていた。
アスランとラクスの関係と言えば、イザークやカシスに比べれば淡白な関係だった。
と言っても、イザークとカシスの関係はイザークが一方的にカシスを好いているが為に、片時も側から離れたくは無いと言った感じだ。
カシスはそれに気付いているのかいないのか、カシスもまた姉のラクスのようにマイペースな部分がある為か、カシスの内面までは皆見抜けないでいた。
「ま、お前も婚約者が出来ればイザークの気持ちもわかるんじゃないか?」
「·····、余計なお世話です」
*
「さぁ、お姉様」
シルバーウインド号。
搭乗口にて、妹のカシスはラクスに手を伸ばした。
「·····」
「どうしました?」
カシスの手のひらに乗せられたてをやんわりと引いたカシスの手を、ラクスは離さぬままカシスをジッと見つめた。
耐えかねたカシスはラクスに問いかけると、予想だにしなかった返答が返って来た。
「····ジュール様には私服でと仰られたのでしょう?何かあった時に、民間人だとわかるように」
「···はぃ?」
どうやら、ラクスはカシスの格好がお気に召さなかったらしい。
カシスの格好と言えば、黒いネクタイにスーツ姿の、明らかにガードマンです、と主張しているような格好だった。
もちろん、初めは私服で行く予定ではあったけれど、クローゼットの中の服はお嬢様です、と主張しているような物しかなく、無難な黒いスーツ姿に落ち着いたと言った所だ。
それに軍服までとはいかなくとも、この方が動きやすいし拳銃もしまいやすい。
ちなみに拳銃は胸に一丁、腰に一丁ホルダーにしまっている。
「お姉様、私達は追悼慰霊の為の調査に行くだけです。それに、何かがあった時のその為の装いです。守れなければ、意味がないのです···一番いいのは、何事も無く帰ってくる事ですけれど···」
この広い宙の中、地球軍と出会う可能性もある。
追悼慰霊、民間の艦だと言えど解釈の違いから戦火に繋がる事もあるかもしれない。
「お姉様。今は私の事よりも、亡くなられた方々が安らかに休める事を祈りましょう?」
カシスは頭を切り替える。
そう、今の目的は追悼慰霊の調査なのだから。