機動戦士ガンダムSEED-アネモネの花言葉-   作:ピーチフィズ

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episode:07 分かれた道

 

部屋に戻ったラクスに、カシスは問いかけた。

 

「お姉様、何処かお怪我はありませんか?」

 

「わたくしなら、大丈夫ですわ···」

 

ラクスは少し寂しげな声で答えた。

きっと、先程ブリッジでのフレイの事が心に残っているのだろう。

自分は人質に取られたと言うのに、他人の気持ちを汲んでしまう。

 

『ハロハロ!てやんでぇい!ラ〜ク〜ス〜!』

 

カシスはラクスに向けてピンクちゃんをぽーんと投げた。

一度床にバウンドしたハロを、ラクスが手の平で受け止めるとハロはパタパタと耳を振った。

 

「お姉様が落ち込まれていると、きっとハロも落ち込んでしまいます」

 

「カシス···」

 

つかの間の静寂。

ラクスが人質になった事で戦闘は一時的に停止し、艦の中は静まり返っていた。

 

ヘリオポリスの民間人も乗っている艦は、ラクスのおかげで助かった反面、姑息なやり方にはカシスは苛立ちを腹に隠していた。

 

「ねぇ、カシス」

 

「はい」

 

「少し、お散歩しませんか?」

 

「···、はい?」

 

 

 

 

先程とは打って変わって静かな艦内を、ラクスとカシスは無重力の艦の中を移動していた。

 

散歩という名の脱走。

見つかったらタダでは済まされなさそうではあるが、ラクスは今や重大な人質だ。そう簡単に殺されやしないだろう。

 

が、心配なものは心配である。

 

「···お姉様、やはり戻り···」

 

──うわぁぁああぁぁ···。

 

「戻りましょう」、カシスが言いかけた所で泣き叫ぶ苦しげな声が響いていた。

向かった先には、デッキで背中を丸めてガラス越しに泣き叫ぶキラの姿が。

 

「どうしましたの?」

 

ラクスはふわりと床を蹴って、キラの元へ。

長いピンクの髪が揺れて、慈悲を浮かべたラクスの笑みにキラは数秒ほど見とれた。

 

キラの流した涙の跡に気がついたラクスが手を伸ばすと、即座に目尻を拭うキラ。

 

「な、何やってんですか。こんな所で」

 

信じ難いものを見るように、キラはラクスに問いかけると、ラクスは笑みを浮かべたままガラスに手を付いて、後ろにフワッと下がった。

 

「お散歩をしていましたら、こちらから大きなお声が聞こえたものですから、ね?カシス」

 

キラはカシスに視線を向けると、2人の女の子に見られていた事を知り、恥ずかしさから一瞬だけ顔を赤くした。

 

カシスと言えば、律儀にお辞儀をして返しただけだった。

 

「ダメですよ。こんな所にいちゃ。スパイだと思われますよ?」

 

クスッとラクスが笑うと、ラクスはキラの元へと飛んだ。

 

「あら、でもこのピンクちゃんはお散歩が好きで···、と言うか、カギがかかっていると、必ず開けて出てしまいますの」

 

「···、とにかく、戻りましょう」

 

ハロに視線を向けた後で、キラはラクスを心配して手を差し伸べたが、ラクスはクスッと笑みを浮かべたままだ。

 

「戦いは終わりましたのね?」

 

「ぁ、···えぇ、まぁ。あなたのおかげで」

 

キラはラクスを人質にした罪悪感から、表情を苦しげに額に眉を寄せていた。

 

ラクスを助けたのは、人質にする訳じゃなかったのに。

 

「なのに、悲しそうなお顔をしてらっしゃるわ」

 

「···僕は、僕は本当は戦いたくなんてないんです。僕だってコーディネーターなんだし···アスランは、とても仲の良かった友達なんだ」

 

「アスラン?」

 

(···アスラン?)

 

キラの口から出た『アスラン』の名前に、ラクスとカシスは各々反応を見せた。

 

「アスラン・ザラ。彼が、あのMSのイージスのパイロットだなんて」

 

「そうでしたの」

 

ラクスが包み込むような声色で、キラを見つめた。

 

「彼もあなたもいい人ですもの、それは悲しい事ですわね」

 

「アスランを知ってるんですか?」

 

逆にキラはラクスがアスランを知っている事に驚いているようだった。

 

「アスラン・ザラは、わたくしがいずれ結婚する方ですわ。優しいのですけれど、とても無口な人。でも、このハロをくださいましたの。わたくしがとても気に入りましたと申し上げましたら、その次もまたハロを」

 

尚、そのおかげでクライン邸はカラフルなハロで溢れまくると言う事態になっている訳だけれど、何処か不器用なアスランの姿を思い出し、カシスはクスクスと肩を静かに震わせた。

 

「そうか、相変わらずなんだな。アスラン」

 

キラも何処か思い出す所があるのか、ラクスと話をしていた彼は徐々に元気を取り戻して行くようにも見える。

 

「僕のトリィも、彼が作ってくれた物なんです」

 

緑と黄色い小さな小型のペットロボットを思い浮かべながら、楽しそうに話すキラ。

 

「まぁ!そうですの」

 

「···でも、」

 

キラは悲しげに瞳を伏せた。

 

「···お2人が戦わないように済むようになれば、いいですわね」

 

カシスはカシスで、婚約者であるイザークを思い浮かべていた。

帰ったらきっと、この頭の傷について言及されるのかと思うと、小さくため息を吐いた。

 

 

 

 

 

「やっぱりダメだよ。こんなの···」

 

薄暗い部屋の中で、先程のラクスとのやり取りを思い出していたキラは、トリィを指先に乗せて呟いた。

 

意をけしてキラは部屋から出ると、ラクス達のいる部屋へと向かった。

 

──シュンッ。

 

『まいど!まいど!』

 

いち早くドアが開くのを察したハロが耳をパタパタと開閉し揺れる。

 

「まぁ、なんですの?キラ様、どうなさいましたの?」

 

ラクスは寝ぼけ眼でキラに視線を向けた。

カシスはスっと立ち上がり警戒しながら姉であるラクスの横へ。

 

「シー。黙って一緒に来てください。静かに」

 

ラクスとカシスは顔を見合わせた。

 

「キラ様、これはどういう」

 

「あなた達を、ザフトに渡します」

 

「え···?」

 

「僕は、人質にする為に助けた訳じゃありませんから」

 

デッキでのやり取りで、キラは優しく強い芯を持つ者だと言う事はわかった。

 

これも、彼個人で決めた事なのだろう。

 

意志を持った紫色の瞳が真っ直ぐにラクス達を見ていた。

 

艦内を移動中、同僚であるサイとミリアリアを見つけたキラが、ラクスを壁際に隠そうとしたが、ラクスが出て来て見つかる羽目になってしまった。

 

にこやかに笑うラクスに、サイとミリアリアは驚いた表情を浮かべた。

 

「何やってんだ、お前」

 

サイからの当然の質問である。

 

「彼女を、どうするつもり?···まさか!」

 

ミリアリアも神妙な面持ちでキラに問いかける。

 

「······、黙って行かせてくれ。サイ達を巻き込みたく無い。僕は嫌なんだ、こんなの!」

 

「ま、女の子を人質に取るなんて、本来悪役のやる事だしな。手伝うよ」

 

サイはガシガシと参ったと言うように搔いた後で、意を決めて手伝うとの申し出に、ミリアリアもかいよく引き受けた。

 

 

 

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