鈍感な彼と自意識過剰な彼女の学園物語   作:沙希

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(『……………………』)

 

(『……………………』)

 

 何故だろうか。顔には出していないが織斑が酷く不機嫌である。

 土曜日が訓練で潰れた怒りなのか?いや、織斑が訓練をすること自体に不機嫌になるのだろうか?私が誘った訳でもないが、ポニーやツイン、ドリルが織斑を訓練に誘ってから不機嫌だ。

 

「凄いね一夏は。ISに触れて3か月くらいなのに、代表候補生のオルコットさんや凰さんを圧倒するなんて」

 

「……………サンキュー、シャルル」

 

「………なんか機嫌悪い?もしかして、今日は何か用事とかあった?」

 

「………………………………………………いや、用事はない。用事は」

 

(……………やっぱり機嫌悪い?)

 

 オスカルが一夏の反応を見て察したように苦笑いを浮かべる。

 そこまで私とショッピングモールを行くのが楽しみだったのだろうか。

 まるで大好きな母親と一緒に買い物に行けなかった様な子供といった感じだろうか。

 

「くっ……箒さんは兎も角、代表候補生であるわたくしと鈴さんがこうも簡単に負けるだなんて!」

 

「つうかアイツ、全然汗かいている様に見えないんだけど!?」

 

「私達は、かなり汗を流しているのに………………」

 

 それもそうだろう。

 何せ私が直々に指導して鍛えたのだ。

 最近はレベルアップさせて錘が入ったリストバンドをさせている。

 基礎体力は代表候補生の倍以上はあり、操縦技術と経験は洞察力と反射神経で補っているので代表候補生であるツインとドリルでは歯が立たないだろう。

 

 

 あれ?小説では織斑って、ここまで強かったかしら?

 白式の燃費の悪さで未だツインに負けていたような覚えがあるのだけれど。

 

(『………………………』)

 

(『なんでそこまで不機嫌なのよ。そんなに私と買い物に行きたかったわけ?だとしたらあの3人に八つ当たりする様に攻撃したわけ』)

 

(『別に、八つ当たりなんてしたわけじゃ…………………』)

 

(『私は八つ当たりしていた様に見えたわよ?』)

 

(『…………………』)

 

 黙ると言う事は、多少八つ当たりはあったという事ね。

 まぁ、分からなくもないのだけれど。

 何せ織斑は外出届を貰いに教員のいる部屋に向かったのだ。

 

 

 向かう途中、ポニー達が織斑を訓練に誘いはじめ、織斑自身は外出するので断ったのだが、3人は織斑の意見を聞き入れず無理やりアリーナに連れて来たのだから。

 ついでだけど、オスカルが居るのはあくまでオマケであり、織斑の戦いを見てみたいという理由だそうだ。

 

 

 まぁ、私だったら間違いなくキレてたわね。

 訓練自体やるのはいいが、用事があるというのにも関わらず「お前はまだ弱い!」「わたくしが鍛えて差し上げますわ!」「初心者のアンタにあたしが教えてやるわよ!」などと言われるなら八つ当たりもしたいだろう。

 好意を持つのは大いに結構だが、少し相手の事を考えないのだろうか。

 というか、アンタらに鍛えられるほど織斑は弱くないし、むしろ織斑から教えてもらうのはアンタら三人なんだけれどもね。

 

(『織斑君、よく聞きなさい。怒るのはもっともだけど、八つ当たりするのは止めておきなさい。彼女たちは貴方の事を(多少?)考えて言っているのだから。絶対にあの子たちの好意を無下にしないこと。』)

 

(『…………………白鳥さん』)

 

(『それに、別に今日じゃなくてもいいじゃないでしょ。散歩なんて何時でも出来るのだから。貴方が言ってくれれば、いつでも散歩に連れて行ってやるわよ』)

 

 まぁ、私が気分じゃないときは別だけどもね。

 すると織斑は少し困った様に笑みを浮かべるのであった。

 

(『…………すいません。俺、本当にバカですよ。子供みたいに、我儘になって八つ当たりして………箒たちが悪い訳じゃないし、きっぱり断れなかった俺のせいなのに』)

 

(『私に謝られても困るわよ。私が八つ当たりされた訳じゃないのに、怒るのはお門違いよ。謝るならあの3人に謝ってきなさい』)

 

(『はい。そうします』)

 

 全く、本当に世話の焼ける男ね。

 まぁ、こういう人間は学生時代の後輩によくいたものだ。生徒会長だった私は、色々と相談まで請け負ってたのでこういった人間を見るのは初めてではない。

 主人公と言えど、私からすれば学生時代の後輩と何ら変わりないものよ。

 

(『よし。訓練が終わった後、箒たちに謝りに行きます』)

 

(『一発は覚悟しておくことね。八つ当たりしてたなんて言われたら、間違いなく怒るわよあの子達?』)

 

(『は、ははは。理不尽な怒りは慣れてますんで』)

 

 それはそれで嫌な慣れよね。

 まぁ、この男が天然だからそうなるのは仕方ないのだけれども。

 

 

 そして気分を変えて、訓練を再開し始めようとしていた織斑。

 まぁ、毎週平日頑張っているんだし、少しはご褒美をあげないとね。

 

(『織斑君、ちょっと待ちなさい』)

 

(『はい?なんですか、白鳥さん?』)

 

(『今日の夕方7時に、音楽室に来なさい。8時まで学校は空いているから入れるわ』)

 

(『?? なんで音楽室に………………(は!?もしやこれは!)』)

 

(『待ってるわね。まぁ興味がないなら無視して別に構わないけど』)

 

(『いえ、そんなことないです!必ず来ます!絶対に来ます!!』)

 

(『そ、そう…………なら、音楽室に入る前にノックして自分の名前を言いなさいね。じゃあ、私は少し学園を散歩してくるから』)

 

(『はい!絶対に来ますね、白鳥さん!!』)

 

 なぜ急にテンションが上がったのだろうか?

 まぁ、なんにせよ機嫌が良くなったのだから、良いとしますか。

 とりあえず物体に触れるようになったし、パソコン室に忍び込んで情報収集でもするとしましょうかね。

 

 

 

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 訓練を終えた後、俺はすぐさま制服に着替えて走って学園へと向かった。

 箒たちに会うと、また面倒事に巻き込まれそうなので俺は急いで音楽室へと向かう。

 シャルルには先に戻ってくれと言っておいたし、箒たちには学園に呼ばれたと言っておいてくれと伝えておいた。

 

 

 え?ボーデヴィッヒはどうしたかって?

 いまはそれどころじゃねぇ!

 こっちは1秒でも早く白鳥さんに逢いたいんだよ!

 音楽室で、しかも7時の夕暮れ時に待っていると言われたんだ。

 これは間違いなく告白に違いない!

 

 

 漫画でそう言ったシーンを良く見たし、雑誌にだって書いてあったんだ。

 これを逃したら、間違いなく後悔する!

 例え誰であろうと、千冬姉だろうと俺は止まるつもりはねぇ!

 

「つ、ついた……………」

 

 音楽室前に着くと、俺はいったん息を整え落ち着かせる。

 別に疲れた訳ではない。いくら学園の隅にあるかと言って、あの程度の距離でバテル程、生易しく鍛えられていないのだから。

 これは、そう………………あれだ!告白だと考えると胸がドキドキしているせいだ!

 

(落ち着け、落ち着くんだ織斑一夏。俺は男だ。男なんだ。気を引き締めていくんだ!)

 

  コンコンッ

 

(『織斑です』)

 

 白鳥さんの忠告どおり、俺は扉をノックし名前を言う。

 それと同時に音楽室から聞こえてくるピアノの音が止まった。

 

(『入ってきなさい』)

 

 白鳥さんから許可を得られたので、俺は音楽室へ入る。

 扉を開けると、音楽室は窓から差し込むオレンジ色の光で照らされている。

 太陽が沈む位置に音楽室があるので、少し眩しかった。

 白鳥さんがどこに居るのかとあたりを見回していると、白鳥さんはピアノの傍に立って待っていた。

 

「白鳥s――――――――」

 

(『念話で話しなさい。盗聴器があるから聞かれるわよ』)

 

「………………」

 

 白鳥さんがそう言って指を唇に近づけ、静かにしてと意思表示をする。

 その動作をする白鳥さんは片目を閉じていて、お茶目な女の子の様だったので可愛らしいとも思ってしまった。

 そ、それよりも今はそれどころじゃなかった。

 

(『あ、あの、白鳥さん!それで、用っていったい…………』)

 

(『まぁ、用って程でもないのだけれどね。日頃貴方が頑張っているようだから、私になりに貴方にご褒美をあげようと……………なにそんな悲しい顔をしているのよ』)

 

(『いえ、ただ………………自分の勘違い程、アホらしいものはないと思って』)

 

(『?? まぁ、それには同意できるわね』)

 

 …………告白でなく、ご褒美の方だったとは。

 いや、ご褒美でも嬉しいんだけども………………少し期待してしまったなぁ。

 でも、白鳥さんのあの時の表情が別段照れているようでも恥ずかしがっているようでもない表情だった。

 

(『それで白鳥さん。そのご褒美って言うのは…………』)

 

(『そうね。……………光栄に思いなさい、織斑君。いまから私が、『本気』でピアノ伴奏を弾いてあげるから』)

 

(『ピアノ伴奏………セシリアの時にしたみたいにですか?』)

 

 確かセシリアから、グロテスクで美しくと聞いた。

 いや、グロテスクってなんだグロテスクって。

 でも、セシリアが美しいと言うのだから、きっと美しいのだろう。

 

(『あの子にしたのとは少し違う。私は『本気』で演奏すると言ったのよ』)

 

(『セシリアの時は、違ったんですか?』)

 

(『あの子の時は本気で演奏してないわよ。私が本気で弾くときは、歌うから。それで織斑君。いまから私はこの世界に存在しない曲を演奏するわ。心して聴きなさい』)

 

(『は、はい!!』)

 

 白鳥さんは座席に座り、目をすうっと閉じる。

 集中しているのか、表情が真剣そのものだった。

 それにこの世界に存在しない曲というのが気になる。

 いったいどんな曲なのか、俺は少しワクワクしながら演奏するのを待っていた。

 そして白鳥さんは目を見開き、音楽を奏で始めた。

 

 

 

 

 

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

 私は、ただ鍵盤に指を当てて歌いだした。

 演奏している曲は、ただ何気なく気に入った歌をピアノ伴奏しているだけ。

 特に思い入れなどない、知り合いから借りたアニメのDVDを見て偶然気に入って、ストレス発散にと思って覚えただけの曲。

 

 

 でも、なぜだろうか……………………。

 

 

 なぜ、私は織斑にあんな事を言ったのだろうか。

 私が本気で、誰かのために本気になって何かをしてあげようとしている。

 この世界に来て、織斑一夏という存在に出会って私は変わったと自覚はしていた。

 他人の為に本気でどうこうしようなどと、考えたことなどなかった。

 

 

 しかし、いまはどうだ?

 私は織斑の為に歌い、指を動かし演奏している。

 頑張ったご褒美だと言っておいたが、本当にそれだけなのか?

 

 …………………違う。

 私はそんなつもりなどない。

 私は孤高にして完璧な女だ。

 常に誰かの上を行き、誰かを見下し、誰かを嘲笑っているのが私だ。

 

 

 周りに期待され、相談され、頼りにされようとも私は誰かのために本気になどなったりはしない。

 全て自分の為にやっていることだ。

 自分を美しく見せたい。

 自分を頭脳明晰だと知らしめたい。

 自分を雲の上の存在であると理解させたい。

 なんの気の迷いか知らないが、結婚をしてしまったがそれでも全てを見下していた。

 

 

 私は、自分の意見や考えを覆さない。

 だから私はこのままで居ようと思っていたのだ。

 しかし――――――――――――――

 

 

(ホント、なんでなのかしらね…………………)

 

 

 こうやって本気で誰かのために歌い、誰かのために演奏をするのが嫌じゃない。

 織斑一夏という存在の性格は、嫌というほど理解している。

 バカで阿呆で、前向きなのか後ろ向きなのか分からなくて、それでいて子供っぽくもあって、でも………………真っ直ぐな男だ。

 

 

 

 彼との出会いが私を変えたのだろうか。

 だとすれば、バカげた話である。

 結婚した夫よりも、見ず知らずの小僧を信じているのだから。

 そしてそれ以上に私は……………………。

 

 

(皮肉よね………………ホント、皮肉)

 

 

 私はそれ以上考えるのを辞めて、ただただ鍵盤を叩き、歌を歌う。

 ただただ全力に。

 

 

 

 

 

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

(『………………』)

 

 セシリアの言う通り、白鳥さんの演奏は綺麗で、美しかった。

 余りの凄さに俺は驚いて言葉も出ない。

 音楽の授業評価は普通だった俺でも白鳥さんの歌と演奏を聴いて、白鳥さんが凄い事は理解できる。

 

 

 ピアノから出される音と、白鳥さんの透き通る歌声が混じり合い美しいハーモニーを奏でている。

 

 

 でも何故だろうか。

 聴いていて美しい、綺麗だと思ったのは事実。

 しかし、それだけではない。綺麗で、美しても、それだけじゃない。

 なんというか、『とても儚い』と感じた。

 

 

 そして白鳥さんは歌うのを止め、演奏を終える。

 俺も白鳥さんも、言葉を発さない。

 ただ静寂な時間が続くだけであった。

 

(『…………………………』)

 

(『…………………………』)

 

(『……………………凄く綺麗でした。俺、とっても感動しました』)

 

(『…………………そう』)

 

(『こんな歌があるなんて、ビックリです。もしかして、白鳥さんが作曲したりして』)

 

(『さっきの曲は別の人が作った歌で、私じゃない。この曲を演奏したのは…………………ただ貴方に聴いてほしかっただけよ』)

 

 そう言って椅子から立ち上がり、窓の外を眺める。

 白鳥さんの様子が、少しおかしい。

 怒っている訳でも無いし、悲しそうな表情でもないはずなのに、どこかおかしい。

 何故だろう。俺は………………彼女の手を取らなきゃいけない気がする。

 

(『…………………あなたの手、暖かいのね』)

 

(『…………………白鳥さんの手が、冷たすぎるんですよ』)

 

 まるで氷、いや氷以上に冷たい。

 触れたことはないが、まるで南極の海に触れた様な冷たさだ。

 脈だってないし、そもそも霊体なので生きているわけではないのだから。

 

(『…………………あの曲は、昔私が知り合いから借りたアニメのDVDでオープニングとして使われていた曲が元なの。歌詞や演奏がわたし好みで、ついついピアノで練習するようになってたのよ』)

 

(『へぇ、そうだったんですか。思い入れがある曲だったんですね』)

 

(『ふふふふ。それほど思い入れがある曲って訳じゃないのよ。言ったじゃない、ただ貴方に聴かせたかっただけだって』)

 

 じゃあ、なんのために?と、俺は白鳥さんに問いかけようとしたが、白鳥さんは握っていた手をするりと解き、入口の方へ歩いて行く。

 

(『帰りましょう。8時は直ぐなんだし、教師が学園を閉じはじめるわ』)

 

(『あの、白鳥さん!!』)

 

(『また聴きたかったら言いなさい。気分次第だけど、また歌ってあげるわよ』)

 

 そう言って白鳥さんは音楽室を出て行った。

 また歌ってあげるわよ……か。

 俺は白鳥さんが消えた入口をただじっと見つめながら考えていた。

 

 

 いったい白鳥さんは、俺に何を伝えたかったのだろうか。

 どうして、俺は白鳥さんの手を取ったのだろうか。

 あの歌に、なんの意味があるのだろうか。

 

「たった一つの想い…………………」

 

 しかし、これだけは分かった気がする。

 さっきの言葉と白鳥さんが歌っていた歌の曲名が、きっとこれではないのかと。

 とりあえず、時間を見るとギリギリになりそうだったので俺は音楽室を出て白鳥さんを追いかけるのであった。

 

 

 あの歌になんの意味があって、白鳥さんが何を伝えたかったのか分からない。

 だが、なんだこの不安な気持ちは?

 なんで俺、こんなにも不安になっているんだ?

 

 

 歌を聞いてから、俺の中に溢れ出てくるこの不安な気持ちはいったいなんなんだ?

 白鳥さんは俺にこの歌を聴かせたかったと言っていたけど。

 本当に何を伝えたかったのだろうか。

 

 

 

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