昨日は織斑に怒ってしまった私は、私らしくなかった。
なぜ私はあの時、織斑に怒ってしまったのだろうか。普段の私なら、例え少し付き合いが長い相手だろうと知った事じゃない。
常に完璧であり続けるために、余計な時間を割いている暇などない。
これも織斑と出会ったせいなのだろうか。
それとも幽霊になって、やる事がなくなったせいだろうか。
いや、それともまた別の―――――――
(『白鳥さん。昨日はすいませんでした』)
(『…………………それはどういう意味で謝っているのかしら?』)
(『俺、白鳥さんに甘えてばかりで、白鳥さんに『自信を持て』、『自意識過剰になれ』って言われたのに、俺は……………だから、本当にすいません』)
…………………多少は理解できているようね。いまの様子だとまだまだだけど。
しかし、これで少しは変わったのであれば良い進歩だと褒めるべきだろうか。
彼は少し自分を卑下したり、自分を守る事を忘れている。
他人ばかりを気にしていたせいで、彼はどこか自信を出せないでいるのだから。
(『少しはましになったじゃない、織斑君。これからもその調子で成長する事ね』)
(『はい!』)
しかし、話は変わってしまうけど織斑に話しておきたい事があるのだけれど今言うべきかしら?周りは生徒だらけだし、出来れば人気のない所で話したいのだけれど。
まぁ、トーナメントが終わった後でもいいでしょうね。
(『それと白鳥さん。聞きたい事があるんですけど』)
(『何かしら。下らない事だったら貴方に憑依して、片っ端から学園の女を口説きまくるわよ?』)
(『やめて!そんな事をしたら俺が節操なしって噂が学園中に広まってしまいます!』)
(『で、聞きたい事ってなんなの?』)
(『えっとですね。昨日、シャルルに夕食を食べさせてほしいって―――――』)
(『とりあえず口説き確定ね』)
(『なんで!?とりあえず最後まで聞いてくれませんかね!?』)
(『どうせあれでしょ?オスカルに夕食を食べさせてほしいって上目遣いで言われて、渋々引き受けたんでしょ?』)
(『おおむね合ってます。もしかして、見てました?』)
(『見てないわよ。それより、態々そんな事を自慢するために質問してきたわけ?とりあえず教師陣も含めておくわね』)
(『俺を殺す気ですよね!?ちょ、まだ途中ですよ!話を聴いてください!』)
何よ、まだあるわけ?
オスカルは陥落させて今度は眼帯を陥落させたの?
この無自覚の節操なしは、どこまで女を困らせればいいのやら。
(『えっと、シャルルに夕食を食べさせてほしいって上目遣いって言われたんですけど、あれってどういう表現ですっけ??』)
(『言葉の意味が分からないわね』)
(『だからその……………あぁもう!なんて言えばいいんだ!』)
訳が分からないと言う顔をしているようで悪いけど、こっちも訳が分からないから。
まったく、この男は無駄な時間を過ごすのがお得意なのかしら。
「あ、一夏。おはようっ」
「お、シャルルか。おはよう」
「昨日は本当にありがとうね。一夏のお蔭で、楽になった気がする」
「それは何よりは。困ったことがあったら、またなんか言ってくれよ。頼りないだろうけど、俺が出来る範囲で手伝うから」
「ありがとう………………そ、その。また、昨日の様にしてくれると嬉しいな」
「お、おう」
そう言ってオスカルは上目遣いで織斑を見上げる。
織斑も思わず、困った様に答える。
(『『こいつはくせえッー!あざといピースのにおいがプンプンするぜッ───ッ!』って感じね。あざとい。さすが黄色。あざとすぎる』)
(『あぁ、そうです!『あざとい』ですよ!いやぁ、昔友人から借りた漫画でそんな単語がありましたからね。忘れていましたよ』)
(『因みにピンク髪の女は淫乱よ』)
(『マジですか!?あと、あざといピースってなんですか?』)
(『調べれば出るわよ』)
(『はぁ、そうなんですか』)
ついでに言わせれば金髪お嬢様はチョロ……………やめておきましょう。
色々な奴らから怒りを買いそうだし、面倒になるわ。
しっかし、織斑も織斑で意味は知らないにしろ何気に単語だけは覚えているのね。
これ以上、ネタ的な単語を覚えたら人間不信になりかねないでしょうね。
でもそれはそれで面白そうだわ (おいやめろ)。
あと、一つ言い忘れていたけど2人して教室でそんなやり取りをしてるとホモなのかって疑われるわよ?
(『…………なんか女子からスゲェ好奇な目で見られてるんですけど』)
(『おめでとう。織斑君はホモに進化したわ。これで貴方はホモと認定されたわね』)
(『シャルルは女ですよ!それと何度も言いますけど俺はホモじゃないですからね!?』)
(『周りはそうは思っていないでしょ?それにオスカルの性別は、貴方以外に知らないだろうし』)
(『うがぁああああああああああああ!最悪だあああああああああああ!』)
(『因みに学園では貴方の同人誌が作られているわよ。織斑×オスカルだったり、女版織斑×女子生徒のテーマが多数だけど』)
(『腐ってやがる。遅すぎたんだ………………』)
(『一応花の女子、しかもお嬢様もいるのだから仕方ないんじゃない?男なんて身内以外で殆ど無縁だった子だっているだろうし』)
(『でも知りたくなかった事実ですけどね。俺、明日から学校行きたくねぇ』)
休んだら休んだで、幼馴染や姉から強制連行されるでしょうね。
しかし、実際お嬢様学校に通ってても此処まで腐るものなのだろうか?
私の世界の女子高でも、ここまで腐った女は知らないのだけれど。
まぁ、私が知らないだけなのでしょうね。
…………………いま思ったけど、女として腐ってるって言う意味を知ってる私って何気に腐っているわよね。
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放課後、今日はいつも通りISの訓練を行うためにアリーナへ向かう。
両隣には箒とシャルルがついており、目の前に白鳥さんがいる。
くそ。白鳥さんは浮いてるから、お尻をこちらに向けている。
めっちゃ触りてぇ………………。
(『貴方から邪な視線を感じたのだけれど、気のせいかしら?』)
(『き、気のせいですよ!白鳥さんをそんな下種な目で見れるわけないじゃないですか!』)
(『ふ~ん。それもそうね。あと、貴方は何気にヘタレだから無理よね。失礼したわ』)
ぐはっ!?
ヘタレって、白鳥さん。
いや、確かに未だ告白できないからヘタレですけども。
実際に言われると此処まで傷つくとは思ってもみなかった。
早く、早く白鳥さんに想いを伝えなければ!
「一夏は代表候補生を相手に圧倒するくらい毎日訓練してるよね。やっぱり強くなった秘訣って、毎日の訓練?」
「へ?あ、あぁ、そうだな。毎日欠かさず朝のトレーニングと放課後のISの特訓は欠かさないな。そのお蔭で強くなれたけど」
「ちょっと待て一夏。朝のトレーニングとはお前、朝早く起きてトレーニングをしていたのか!?」
「あぁ、やってたぜ?セシリアとの試合から二日くらい経った後からだけど」
「なんで私を誘わなかったのだ!!」
「いや、無理に起こす必要ないだろうと思って」
(それに白鳥さんと二人きりになれないからな)
「へぇ、だから僕よりも早く朝早く起きてたんだ。朝はどれくらいやってるの?」
「グラウンドを十数、もしくは数十周を一定の速度のままランニングと、その後に5分かそれ以上を挟んで休憩した後に基礎的な筋トレ100回を三セットだったかな。2週間前からウェイト入りのリストバンドを両手両足にしてやってるけど」
「そ、それは凄いね……………というか、よく朝に全部熟せれるね」
「だ、だから私達と戦っても汗をかかなかったわけか…………」
そりゃあ、白鳥さんのお蔭だからな。
お蔭で体力は中学の時以上についたし、体育の時のランニングじゃ全然汗なんてかかなくなったからな。ウェイト入りが慣れたら、次はどうするんだろう。
筋トレの回数が増えるのかな?
まぁ、白鳥さんの事だから自主的にやってみろって言いそうだけどさ。
(『織斑君、少しいいかしら』)
(『あ、はい。なんでしょうか?』)
(『誰かがアリーナで模擬戦をしているわよ。周りの様子は少し慌ただしいけど』)
(『アリーナで模擬戦?誰と誰でしょう』)
白鳥さんの言葉に、俺はアリーナの観客席のゲートへと走る。
シャルルと箒が背後から何か叫んでいるようだったけど、俺は気にすることなくアリーナへと向かった。
ドゴォォオオンッ!!
「っ、鈴!セシリア!」
なんと鈴とセシリアがアリーナの壁まで吹き飛ばされた直後だった。
エネルギーシールドによって観客席に被害は出ていない様にされてあり、声も届かない。
それによく見ると、二人はボロボロの状態だ。
苦い顔をして二人は中央を見ており、俺もつられて中央に視線を向ける。
そこにいたのは漆黒のIS『シュヴァルツェア・レーゲン』を纏うラウラがいた。
(『二人のISの機体ダメージレベルはCギリギリに行くか行かない所よ。あの眼帯、二人を相手に此処まで追い込んだということね』)
(『そんなっ!代表候補生の鈴とセシリアの二人を一人で追い込むなんて、アイツなにもんだよ…………………』)
(『あの子自身のスペックもそうだけど、一番の理由は機体の性能。いえ、性能と言うよりも特殊能力と言えばいいのかしら。あのISは全てを停止させるバリア、AICがあるわ』)
(『アクティブ・イナ―シャル・キャンセラー?なんですかそれ?』)
(『ISに搭載されたPICを発展させたシステムよ。対象を任意に停止させるシステムで、1対1じゃ反則も良い所のシステムね』)
だとすれば、そのシステムで二人はっ!
白鳥さんの言葉に視線を戻した途端、セシリアと鈴がラウラに圧倒されている。
もう二人は弱っているのに、このままじゃ嬲り殺しのようなものだ!
(『白鳥さん!』)
(『分かっているわ。行きたいのでしょ?貴方がそうするのなら、私は止めないわ』)
(『ありがとうございます』)
俺は白式を展開したと同時に零落白夜を発動させる。
流石にアリーナのバリアを白雫で切り裂くことは出来ないだろう。
零落白夜を発動させ、蒼白い刃でシールドを切り裂く。
アリーナ内に入り、俺は二人の元へと飛ぶのであった。
「その手を離せーーーっ!」
「ふん……………。感情的で直線的。絵に書いたような愚図だな。こんなのが学年最強だとは、笑わせてくれる」
セシリアと鈴を掴んでいたラウラは斬りかかる俺に手を翳す。
すると俺の動きがピタっと停止し、自分の意思で動くことが出来なかった。
「な!?く、くそ!!」
「やはり敵ではないな。この私とシュヴァルツェア・レーゲンの前では、貴様は有象無象の一つでしかない。消えろ!」
「まずっ―――――――――」
(『世話を焼かせるんじゃないわよ』)
すると白鳥さんの呆れた声が聞こえた。
それと同時に白式の翼が動き出し、スラスター口をラウラの方角へ向けて噴射する。
スラスターの噴射のお蔭で俺はラウラから距離を取る事が出来た。
(『AICがあるって言ったでしょ。少しは観察して戦いなさいって前から言っていることだけど?』)
(『すいません…………………』)
(『でも、これで分かったわ。AICには致命的な弱点が複数存在することに』)
(『え!?本当ですか!?』)
(『でも教えないわ。これも教訓の一つよ、織斑君』)
(『あ、あはははは。こんな状況なのに、厳しいっすよ白鳥さん』)
(『そんな状況なのに笑ってるあなたに言われたくないわよ』)
違いないです。しかし、白鳥さんの言う通りだ。
白鳥さんばかりに頼っていては、どうしようもない。
それに甘え続けないと決めたのだから、これくらい自分でどうにかするしかない。
「ちっ。どうやってか知らんが私の結界から抜け出すとは。伊達に学年最強などと言われているわけではないようだな」
「学年最強?初めて聞いたぜ、そんなの。まぁ、そんなもんは今の俺には似合わねぇけどな。で、どうしたラウラ?攻撃してこないようだが、ビビってんのか?」
「ほざけルーキー!!」
するとラウラはワイヤーのついたブレードを放つ。
俺はそれを回避し、白雫で弾き返しながら考える。
ラウラに備わっているAICには致命的な弱点があると白鳥さんは言っていた。
あの結界はラウラの任意で発動できる。表情を見る限り、体力の消費は今の所は見られない。でも、少しだけだったが鈴とセシリアとの戦いでは多用はしなかった。
(!…………そうだ。白鳥さんはAICを1対1の戦いでは反則的な能力だと言っていた。つまり、逆に云わせれば多対一じゃ効果は発揮しにくい事を指す。でも、いまの現状は一対一だ。今更そんな事が分かっても意味がない。複数と言ったから、あと一つや二つくらいはあるはずだ)
「捉えた!」
「っ!?…………だけどっ!」
「くっ!?」
ワイヤーが腕に絡まり付き、引っ張られそうになったが俺はスラスターの噴射を逆に利用し、ラウラを引っ張る。
力負けしてこちらに飛んでくるラウラに俺はスラスターの向きを変え、白雫を握りしめ、飛んでくるラウラへと向かう。
「これならどうだっ!」
「ふんっ、甘いな!!」
「またかっ!」
「今度は逃がさんぞ」
そう言って肩の大型ノカンが接続部から回転し、ぐるんと俺へと砲口を向ける。
まずいっ、考え過ぎたせいで油断した!
「一夏、離れて!!」
シャルルからの個人間秘匿通信が聞こえ、同時にアサルトライフル二丁での弾雨が降り注ぐのである。
「ちっ……。雑魚が………」
ラウラは俺から離れ、シャルルの攻撃を回避する。
俺はその隙に倒れた二人の元へと向かい、二人を抱きかかえて安全な場所まで運ぶ。
白式が二人のバイタルを表示するが、死ぬような怪我していないので安心した。
しかし二人とも腕に罅が入っており、少しの間ISを使う事は出来ないだろう。
くそっ、こんな風になるまでやらなくてもいいだろ!
「一夏、二人は!?」
「安全な場所に置いてきた。シャルルは二人が爆風とかで巻き込まれない様に守ってくれ」
「で、でも、それじゃあ一夏がっ――――」
「俺は大丈夫。頼む、シャルル」
「うぅぅ………………分かったよ」
シャルルは渋々鈴とセシリアの元へと向かう。
俺はシャルルが二人の元へと向かったのを確認すると、ラウラの方を睨み付ける。
「ふんっ。態々一人で挑むとは、無謀な」
(弱点を、あの結界の弱点を早く見つけないとっ…………)
白鳥さんが白式のスラスターをラウラ側に向けて噴射したお蔭で助かった。
だが、それが何度も何度も通用する訳がないだろう。
どうする。どうすれば―――――――――――
(―――――――――――スラスターを逆噴射。そうかっ!)
「うぉおおおおおおおおおおおおお!!」
「直線的だな!やはり貴様は愚図だな!」
俺はラウラへ向かって飛び出した。
すると次の瞬間、俺とラウラの間に影が割って入ってきた。
ガキンッ!!
金属同士がぶつかり合う音が響いて、ラウラはその影に目を見開く。
「やれやれ、これだからガキの相手は疲れる」
「千冬姉!?」
その影の正体は、予想外の人物だった。
しかもその姿は普段と同じスーツ姿で、ISどころかISスーツさえ装着していない。けれどその手に持っているのはIS用接近戦ブレードであり、一七〇センチはある長大なそれをISの補佐無しで軽々と扱っている我が姉の千冬姉だった。