鈍感な彼と自意識過剰な彼女の学園物語   作:沙希

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 6月の終わりに行われたトーナメントの初戦である織斑&オスカル対眼帯&ポニーの試合は少し呆気ない幕切れに終わった。

 あまりの織斑の強さに、代表候補が手も足も出せないまま終わりを迎えたのは少し予想外ではあったが、織斑がそれだけ成長しているということなのだろう。

 

 

 まぁ、なにせこの私が鍛えたのだから勝って当然である。

 しかし、試合は勝ったのはいいものの試合終了後にアクシデントが起こった。

 何やら眼帯のISが形を変えて、織斑に襲い掛かる事態になったのである。

 後から調べたが、眼帯のISにヴァルキリー・トレースシステムというシステムが搭載されていたらしく、それが暴走したとのこと。

 眼帯の肉体的精神的疲労と強い力への執着により発動するらしいのである。

 

 

 だが、そんな事態にも織斑は主人公ばりの聴いてて恥ずかしいセリフを連発し、暴走した眼帯のISを戦って停止させたので被害は0に済んだ。

 この出来事に教師陣は織斑をかなり褒めており、大絶賛である。

 しかし、当の本人はというと――――――――――――。

 

(『……………………』)ズゥゥゥゥウウウンッ

 

 私まで気が滅入りそうなくらい全身から暗い雰囲気を出していた。

 なぜ織斑がこの状態なのかと言うと、眼帯のISが暴走した事によりトーナメントは中止となってしまい、全ての一回戦を行うと知らされた途端に表情が沈んでしまった。

 そんなに優勝したかったのだろうか。

 

(『何時まで落ち込んでいるのよ織斑君。シャンとしなさい』)

 

(『だって、だって…………………優勝、出来なかったんですもん』)

 

(『仕方ないでしょ。眼帯のISが暴走したんだから、中止になってもおかしくないわ。恨むなら、眼帯のISを暴走させた原因を恨む事ね。』)

 

(『はぁ……………………優勝……………』)

 

 話を聞いていないようね。

 全く、そんな優勝したかったのかしら?

 確かに負けるのは嫌だろうし、私だって操作してないけど仮にもパートナーとして織斑には負けてほしくないとは思った。しかし、別段大会が中止になっても一回戦目は勝つ事が出来たから、喜んでもいいと思うのだけれどもね。

 私はそんな事を考えながらため息を吐き、織斑の手を掴む。

 

(『白鳥さん?』)

 

(『立ちなさい。案内したい場所があるの』)

 

(『案内したい場所って、っとと、白鳥さん!急に引っ張らないで――――――――』)

 

(『ほら、行くわよ』)

 

 試合が終わったら教えるつもりだったから、丁度いいかもしれな。

 私は織斑の手を引きながら、ある場所へと向かう。

 

 

 

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 今日は今まで以上に厄日だと、俺は気を落としながら思った。

 トーナメントで優勝して、白鳥さんにご褒美をねだろうかと思っていたのに、試合には勝ったのだが初戦で終わってしまった。

 その理由がラウラのISが暴走したことが原因となり、暴走を治めたにしろトーナメントは中止で終わってしまった。後に教師陣から根掘り葉掘りと事情聴取を受け、シャルルと一緒に学食へと戻れば箒が約束の事で話しかけられて、買い物の事だろ?と言った途端に腹を蹴られた。

 

 

 なんだ、この理不尽すぎる展開は。

 流石の俺でも、こうも不幸続きだとグレてしまいかねない。いや、もうグレそう。

 山田先生から男子も風呂に入れると知らされても、流石に気分が乗らなかった。

 なので一番風呂はシャルルに譲り、俺は白鳥さんと一緒にいつもの人気のないベンチで話し込むことにした。うん、白鳥さんと居る時が唯一の癒しかもしれない。

 

(それにしても、いったいどこまで行くんだろうか)

 

 俺は白鳥さんに手を引かれ、ただ足を動かす。

 案内したい場所あると言っていたが、さっきから寮から遠ざかっていく。

 段々と学校の方へ近づいて行き、そして白鳥さんは学校の隣に位置する大きなビル様な建物へと俺を案内する。

 

(『はい。目的地に到着よ』)

 

(『ここって………………』)

 

 見るからに少々年季が入った建物だと第一に思った。

 しかし、遠目から中を覗いてみたが結構きれいにされてある。

 

(『さ、行くわよ』)

 

(『え!?ちょ、いいんですか!?ここって、立ち入り禁止とかじゃ』)

 

(『だったら立札かテープを張ってるわよ。問題ないわ』)

 

 うわぁ、白鳥さんの『問題ない』を聞くと何故か少し安心できる。

 とりあえず、先に進む白鳥さんの背中を俺は追いかけるのであった。

 

 

 建物の中は遠くから見たときと同じで綺麗にされている。

 多少足跡が目立ったところもあるが、天上や壁などは外側と比べて新築のようだ。

 一室一室の扉に張ってある札に廃材、資料などと言った文字が書かれてある。

 どうやら此処は物置代わりみたいだ。

 

(『ここよ』)

 

(『…………………どういう事ですか?』)

 

(『だから、ここって言ってるじゃない』)

 

 白鳥さんがそう言って指を指す。

 指が示すものは壁である。

 はて、白鳥さんは俺にどうしてほしいのだろうか。

 はっ、まさか!?壁に顔をぶつけろと言いたいのだろうか!?

 

(『白鳥さん、あの、俺……………自分で自分を痛めつける趣味はありませんし、懺悔しなきゃならない罪を犯した覚えはないのですけど』)

 

(『は?何を言っているのかしら、貴方は?とりあえず、壁を押してみなさい』)

 

(『?? 壁をですか?それじゃあ――――――』)

 

  ガタンッ!!

 

「のあっ!?」

 

 とりあえず、白鳥さんが示した壁に手を置き、軽く押す。

 すると壁が急に無くなり、俺は思わず態勢を崩してしまい倒れる。

 次の瞬間、バタンと扉が閉まる音がして辺りが真っ暗になった。

 

「と、閉じ込められた!?白鳥さん!白鳥さん、どこにいますか!?」

 

『ここに居るわよ』

 

 白鳥さんの声がした途端に明かりがつき、目の前に白鳥さんが浮いていた。

 倒れていた俺は立ち上がり、制服の埃を落として辺りを見回す。

 彼方此方にテレビやら山積みになったDVD、古ぼけた資料やノート、冷蔵庫などが置かれている。他にも電子ピアノやら少し前の世代のパソコンなども置かれていた。

 

「ここって……………それに、このDVDの山は」

 

 俺は山積みになったDVDの一つを手に取り、ディスクに記された文字を見つめる。

 そこには人の名前らしきものが書かれているのであった。

 

『全国の国家代表と候補生、そして有力なIS操縦者の戦闘記録が記されたものよ』

 

「え!?これ、全部ですか!?じゃあ、千冬姉のも」

 

『あるわよ。他にもナターシャ・ファイルス、イーリス・コーリング、クラリッサ・ハルフォーフなどなど。様々な操縦者の戦闘記録がDVD一つ一つに記録されているわ。机の上にある古い資料やノートには、全員の癖や戦い方、対抗策が書かれてあるわよ』

 

 山積みのDVDの傍に置いてあるノートを俺は手に取り、中身を確認する。

 するとそこには白鳥さんの言う通り、操縦者の癖やISの弱点などが細かく書かれてある。俺は少し好奇心で千冬姉の事が書かれてあるページを捜し、そして見つけた。

 

「織斑千冬。専用機は暮桜。機体の弱点はエネルギー消費が激しい為長期戦が有効。しかし、操縦者である織斑千冬の実力が人間離れしているため、長期戦どころか短期決戦に持ち込まれて一撃で敗れてしまう。なので攻略はほぼ不可能。あ、やっぱり無理だったんだですね、千冬姉だけは」

 

『仕方ないわ。DVDを見たけど、射撃特化型ISの弾丸を全て切り落とすわ、接近戦に持ち込んでも剣術によって秒殺するのよ?攻略するのは不可能に近いわ。ほんと、貴方の姉って実は別の惑星から来たって類じゃないわよね?』

 

「いや、さすがにそれはないですって………それにしても、こんな部屋があるなんて思いもしませんでした。映画やテレビで見た回転する隠し扉みたいな構造でビックリですよ」

 

『古くなった資料を見る限り、学園が出来て少し後くらいかしら?』

 

「それだと千冬姉世代の誰かが作ったんでしょうね。というか、よく見つけましたねこんな場所」

 

『散歩していたら偶然ね。因みにこの部屋は防音で音漏れしないし、内側から鍵を掛けられるようだから、好きな女の子を連れてヤれるわよ?』

 

「そんな破廉恥な事には使いませんよ!」

 

 いや、白鳥さんとなら別にいいんですけども。

 しかし、白鳥さんが案内したい場所はこんな場所だったのか。

 でも、どうして俺をこんな場所に連れて来たんだろうか。

 

 

 ……………………もしかして、あれだろうか?

 誰にも邪魔されず、俺と二人きりになりたかったとか?

 いや、白鳥さんに限ってそれはないだろう。

 何せ前に同じことを言ったら『ぶち殺すぞヒューマン』と言われたからな。

 だとすれば、いったいどういう理由で……。

 

「あの、白鳥さん。俺を此処に呼んだ理由って、なんですか?」

 

『そうね。これから貴方に必要だと思ったからかしら?』

 

「俺に、必要?この部屋がですか?」

 

『えぇ。もし貴方がISの大きな大会や御前試合とか受けるのであればの話だけどね。資料やDVDを見て、相手の動きを参考にしたり出来るはずよ』

 

「……………………」

 

 大きな大会、モンドグロッソか。確かに専用機を持っているのだから、それくらいの大会に出て腕試しをするのもいいかもしれない。

 でも、絶対に出る!って決めている訳じゃないんだけどな。

 

『それに……………もう私が教える事なんて、無いから』

 

「え?」

 

 それって、どういう事なんだ?

 もう、教える事は無いって……。

 

『私は貴方にやるべき事を全て教えたわ。もう貴方は自分で自分を管理し、強くなれる男へと成長した。だから私は貴方に教える事はないわ。褒めてあげるわ、織斑君。貴方は私ほどないにしろ、才能に恵まれた男よ』

 

 ………………………素直に嬉しい。

 白鳥さんが笑みを浮かべて褒め言葉を言ってくれたのが、何よりも嬉しい。

 トーナメントが中止になって憂鬱だったけれど、今日は今までよりも一番嬉しい事があった日だ。

 

「じゃあ白鳥さんはこれからどうするんですか?」

 

『そうね。やる事が無くなったんだし、美術室や音楽室で絵を描いたり楽器を演奏したりしようかしら………………ふふふ。生徒が泣き叫ぶ顔が目に浮かぶわ』

 

「はははははっ。ほどほどにしてくださいね、白鳥さん」

 

『それは気分次第よ』

 

「その気分次第で、どれだけの女の子が泣かされるのやら」

 

 白鳥さんと雑談を交わし、笑いが漏れる。

 なんだかこんな風に人目を気にせず言葉にして話したり、笑ったりするのは久しぶりだろうか。いままでずっと頭の中で話し合っていたので、この場所を見つけてくれた白鳥さんに感謝したい。

 

(………………でも、このままじゃ進まないよな)

 

 今まで以上に頬を緩ませ、笑っている白鳥さんを見つめそう思った。

 この時間が続けばいい。白鳥さんとこの関係を留めておきたい。

 でも、俺はそれ以上にも白鳥さんとの仲を発展させたい。

 

 

 一緒にいるだけで胸の鼓動が早くなり、手を繋ぐだけで恥ずかしくて若干顔を背けてしまう。でも、それだけではダメなのだ。

 俺は、俺はもっと白鳥さんと……。

 

 

 

 

 

 

『や、やめなさい織斑君!』

 

「白鳥さん、俺は!!」

 

『こ、こら!離しなさい、このっ!ひゃっ!?ど、どこを触っていやっ!』

 

「白鳥さんの胸、とっても柔らかいです。それに…………」

 

『だ、ダメっ………いやっ!そ、そんな所を………舐めちゃ……んぁっ!』

 

「気持ちいいんですね。じゃあ、次は」

 

『いやっ!!入れないで、お願いだから!ダメーっ!』

 

 

 俺は、白鳥さんの全てを―――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『織斑君?どうかした?』

 

「っ!………………なんでも、ありません」

 

『そう?ボーっとしているようだけど、疲れたのかしら?部屋に戻る?』

 

「いえ、大丈夫です。もう少し、ここに居ましょう」

 

『まぁ、そう言うならいいけど』

 

 ……………………俺は、いま何をしようとした?

 何時の間にか白鳥さんに手を伸ばしていた。

 いったい俺はこの手で何を掴もうとした?

 俺はいったい白鳥さんに何をしようとしたんだ?

 

 

 頭の中で、白鳥さんに襲い掛かる俺が映し出された。

 抵抗して暴れ回る白鳥さんの腕を押さえつけ、白鳥さんの身体をいやらしく撫でまわしていた。涙目になって懇願しても、それでも俺は止まることなく白鳥さんの可愛らしい声に興奮し、犯そうとしていた。

 

(最低だ、俺は…………妄想でも、白鳥さんの嫌がるような事をして喜んでいるなんて………………俺は、最低だ)

 

 しかし、最低と思いながらそれでも白鳥さんを『襲いたい』という気持ちは否定できない。凛として表情に、低い身長とは反比例する大きな胸もそうであるが偶に見せる可愛らしい笑顔と照れた仕草が更に『襲いたい』という感情を駆り立てる。

 誰かにこの事を話したら、間違いなく気持ち悪いと言われるだろう。

 

 

 だけど仕方ない事だ。男である以上、好きな人を抱きしめたい。

 交わりたいという気持ちを抑えることなど出来ないのだ。だから俺は、この気持ちを無理やり押さえ込むように、白鳥さんに一つだけ頼み事をする。

 

「……………あの、白鳥さん。一つ、頼みたい事があるんですけど」

 

『何かしら。名前で呼んでほしいとかだったら、無理な話よ』

 

「それもですけど、分かってます。俺が頼みたい事は、全く別です」

 

 俺は部屋の隅に置いてある電子ピアノを持ち上げ、移動する。

 そして白鳥さんの前に電子ピアノを置き、コンセントを電源に繋いでスイッチを入れる。

 長年放置されていたにも関わらず、鍵盤を一つ一つ叩くと音が鳴り出した。

 どうやらちゃんと動くようである。

 

「白鳥さんの演奏が、聴きたいんです。お願いできますか?」

 

『……………まぁ、それくらいなら別に構わないわよ?』

 

「ありがとうございます」

 

 これで、少なくとも白鳥さんを襲わなくて済む。

 白鳥さんは俺に異性として見ていないのだから、襲ってしまえば嫌われるのは間違いなしだ。だから、これでいいんだ、これで。

 ………………いまは、これで。

 

『あ、そうそう。因みに曲の雰囲気はどんなのがいいのかしら?出来れば貴方のリクエストに答えてあげるけど?』

 

「白鳥さんの演奏なら、なんでもいいですよ。白鳥さんの演奏だったら、なんだって綺麗な音楽になりますから」

 

 白鳥さんは分かったわと言って鍵盤に指を置く。

 前の聴いたときと同じで、譜面など一切使わない。

 そして集中し終えた白鳥さんは、鍵盤を叩き始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 今回の白鳥さんの演奏は、agonyという曲だった。

 Agonyの意味は苦悩、もがきといった意味であり、なぜこの曲を弾いたのか聞いてみると、俺の顔が苦悩を抱えている顔だったと言われた。

 白鳥さんは俺の妄想の事に気づいていないようだったけど、勘が鋭い

 でも、そんな白鳥さんも俺は好きなのだ。

 

「白鳥さん」

 

『何かしら、織斑君』

 

「また今度、聴かせてください」

 

『えぇ、構わないわ。その時は電子ピアノじゃなくて、音楽室のグランドピアノで演奏してあげるわ』

 

「へへへ、ありがとうございます」

 

 白鳥さんの態度は、前よりも軟化してきている。

 このまま少しずつ少しずつ、白鳥さんが俺の事を好きだと思ってもらいたい。

 そういえば、もうすぐ臨海学校だったかな。

 なら、次の休みの日は白鳥さんとショッピングモールにデートにしに行こう。

 

 

 

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