カポーンッとそんな音がした気がした。
女子があがった後、俺はタオルと下着を持って風呂場に向かう。
着物を脱いで、タオル手に風呂場に来ると中はかなり広かった。
「あぁぁ……………生き返るなぁ…………」
まず俺は最初に露天風呂へと向かい、お湯につかる。
丁度良いくらいの熱いお湯が、俺の今迄の疲れを癒してくれる。
学園の大浴場とは違って、露天風呂もいいものだ。
「…………筋肉、本当に付いたよな」
力瘤を作り、改めてそう思った。体力も昔より大幅に伸び、ISの操縦技術も格段と上がったお蔭で俺は周りから1年最強だのと言われ始めている。
これも全て、白鳥さんの助言のお蔭だ。俺一人ではどうにもならなかっただろう。
「もっともっと強くなって、白鳥さんに褒めてもらわなきゃな」
白鳥さんから何も教える事が無いと言われたので、俺はこれからも強くなるつもりだ。
白鳥さんに褒めてもらうために。白鳥さんを守るために。
てか、俺って本当に変わったな。
セシリアとの戦いでは、千冬姉を守ってみせるって公言したけど、優先順位が白鳥さん一択になってきている。
勿論、家族である千冬姉も守りたいし幼馴染である箒や鈴、仲間であるセシリアやシャル、ラウラ達を守っていくつもりである。
でも、やはり一番守りたい人は………………白鳥さんかな。
「だけど、強くなるって決めたけど、白鳥さんとの好感度も上げないとな………」
白鳥さんには知られていないだろうが、俺は本屋で剣術の本を買ったついでに恋愛に関しての本も購入している。
白鳥さんが寝静まっている頃に起きて、買った恋愛本を遅くまで読んでいるからな。
「しっかし、本当に気持ちいいなぁ。箒たちに買い物や訓練に付き合わされたり、追っかけられているから結構疲れてたんだよな」
身体的にでなく、精神的だけど。
だって理由もなく喧嘩して、俺が止めようとしたら何故か俺に矛先を向けるんだぜ?
勘弁してくれよ、マジで。
訓練や買い物もそうだけど、皆仲良く一緒に行けばいいじゃねぇか。なんでそれで怒られるんだよ、俺が……………。
「ホント、これからやっていけるだろうかなぁ…………」
『なにをかしら?』
「学園生活ですよ――――――――――え?」
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一夏が風呂を満喫している間、一夏と千冬の部屋では千冬以外に箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラといったメンツが千冬に対面する様に正座している。
5人の前にはそれぞれ飲み物が置いてあり、部屋にあった飲み物を千冬が5人に差し出したのだ。因みに千冬はビールを飲んでいる。
「お前ら、あいつのどこがいいんだ?」
千冬がそう質問すると、5人は少し肩を震わせる。
しかし、千冬はあくまで『あいつ』と言っただけであり、特定の人間を指していないのでいったい誰の事を言っているのか?と聞き返すはずだが5人の頭の中には一夏の事だと断定している。
「わ、私は別に……………以前より腕が落ちているのが腹立たしいだけですので」
「いや、オルコットの試合以降から格段と成長しているぞ」
「うぐっ」
千冬の冷静なツッコミに、箒は黙る。ご存じのとおり、一夏は箒やIS学園に在籍する1年の代表候補生の殆どに勝利している。
体力やISの操縦技術、ついでに剣の腕は学年1とも言えるだろう。
「で、お前らは」
「あ、あたしは腐れ縁なだけだし」
「わ、わたくしはクラス代表として実力は兎も角としてしっかりしてほしいだけです」
「ふむ。そうか。では一夏にそう伝えておこう」
「「言わなくていいです!!」」
セシリアと鈴をからかい、空になったビールを置いてもう一本開け始める。
どうやら少し酔いが回っているようだ。
そして千冬はシャルロットとラウラに視線を向けると、2人はついに自分の番が回ってきたと焦り、答える。
「僕―――――あの、私は…………やさしいところ、です……」
「あいつは誰にでも優しいぞ」
「そ、そうなんですよ…………そこがちょっと、悔しいかなぁ」
あははと照れたように笑うシャルロットとは対照に、前述三名はじーっと押し黙ってシャルロットを見つめる。
男装の一件から、シャルロットが優位じゃないのかと疑っているのだろう。
だがしかし、一夏の視線の先は白雫(しろな)に向けられているので一番優位なのは白雫であり誰もそれを気づいていない。
というより、一夏が白雫の存在を教えていないので分からない。
「で、お前は?」
「つ、強いところです………もちろん、力もそうですが精神も」
「まぁ、そうだな。アイツは昔よりも強くなったからな。だが私はそこが分からないのだがな」
「分からない?それは、どういう事なんでしょうか?」
箒の質問に、千冬は手に持っていたビール缶を置いて黙る。
5人も千冬の雰囲気を察して、口を開かなかった。
そして千冬が眉を顰め、口を開く。
「アイツは確かに強くなった。しかし、アイツが此処まで的確に自分の弱点や必要な訓練を考える様な奴に見えるか?」
「「「「「見えません」」」」」
5人全員がハッキリ断言する。
哀れ、一夏。好かれていても、そこまで想われたら涙が出るだろう。
勿論、この場にいて聴いていたらの話であるが。
「オルコットの試合後からアイツは変わった。独自に自分のISの特性や弱点を理解し、尚且つ自分の弱い所、ダメな所、必要なものを見出して鍛えはじめた。まるで何かに憑かれたかのようにな………………」
「そ、それってもしかして、幽霊…………」
「最近噂になっているらしいな。『誰もいない音楽室のピアノが鳴り始める』、『美術室のキャンバスに有名画家並の絵が描かれてある』だろ?オルコットと凰は確か幽霊の声を聴いたそうじゃないか」
「「は、はい…………………」」
「最近聞くよね。でも、それって一夏とかには関係ないんじゃ。夜の学園は閉鎖されてあるし、侵入したとしてもカメラに映りますよね?」
「そうだな。………………だがな。アイツはオルコットの試合前に、専用機と対面したとき幽霊が見えると言っていた。篠ノ之は覚えているだろ?」
「はい。ですが…………幽霊などという非科学的な存在などいないのでは?」
「それは私も同意見だ。だが、アイツのあの異常なまでの行動を思い返すと…………とてもそう思えなくなるんだ。アイツは本当に見えているんじゃないかって」
「嫁には、問いたださなかったのですか?」
「問いただしたさ。だが、アイツは何ともない様に『疲れてただけでした』と言っていた。嘘はついていない様だったぞ」
「じゃあ、いったい誰が………いえ。何が一夏をあそこまで」
「「「「「………………………」」」」」
誰もが頭をひねり、悩みだす。
実は千冬に問いただされた時、『憑かれていただけでした』という二つの意味も含まれていたことなど気づいていないだろう。
この場に居る全員は考えても考えても結論に到達しないので一旦考えるのを止めた。
「まぁ兎も角だ。アイツは強い。それに家事や料理もなかなかだ。付き合える女は得だな。どうだ、欲しいか?」
「「「「「くれるんですか!?」」」」」
「やるかバカ」
えぇ~…………と、心の中でツッコむ女子一同。
「女なら、奪うくらいの気持ちでいかなくてどうする。自分を磨けよ、ガキ共」
そう言って3本目のビールを口にする千冬は、楽しそうな表情でそう言った。
5人は千冬の言葉に焚きつけられたか、燃えている。
この場に居る5人の様子からするに、これからの一夏の対応が変わるだろうが今更強気になろうともすでに遅い。
何故なら―――――――――――
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ポチャンッ
『………………』
「…………………」
湯船に水滴が立てて落ちた音が良く響く露天風呂で、俺は内心ドキドキしながら湯船に浸かっている。腕に柔らかいものを感じながら、出来るだけ隣を見ない様に必死になっていた。
『久しぶりだわ、温泉に入るのも』
「そ、そうなんですか………………」
そう。隣には白鳥さんがいるのである。
それも、裸でだ。
なぜ白鳥さんが風呂に?と疑問だったのだが、白鳥さんは何も言わずに俺の隣に座り、湯船に浸かってきたのである。肌と肌が密着するくらいの距離であり、腕には白鳥さんの滑らかな腕が当たっている。
最初は冷たかったのだが、お湯の熱で体温が上昇したように暖かくなっている。
「うひゃっ!?」
すると白鳥さんは俺の肩に頭をあずける様に傾ける。
白鳥さんの柔らかい髪が俺の肩に当たると、思わず変な声を出してしまった。
『あら、ごめんなさい。嫌だったかしら?』
「い、いえ、そんな!満足するまで、どうぞ!」
『ふふふ、そうするわね』
そういって白鳥さんは頭を肩に預ける。
出来るだけ視線を白鳥さんに向けないようにしているのだが、どうしても本能が白鳥さんへと向かってしまう。
思わず首の骨を捻じ曲げたいほどだったのだが、本能が邪魔をする。
(煩悩退散煩悩退散!!白鳥さんはタオルも巻いていない状態なんだ!ここで見てしまったら、俺は最低野郎だ!!)
しかし、思いとは裏腹に首が言う事を聞かない。
ぐぐぐぐっと、白鳥さんの方へと向けたがっている。
『ふふふふっ。そんなに緊張するんじゃないわよ。ほら、ゆっくりしなさい』
「ふぁ!?」
白鳥さんは緊張をほぐそうとしたかったのか、俺の膝の上に乗るのであった。
白鳥さんの柔らかいお尻が俺の脚に当たっている。
こ、これは流石に拙いっ!!
「し、白鳥さん?で、出来れば降りてもらうと―――――」
『あら、嫌だったかしら?緊張をほぐそうと思ったんだけど…………』
「いえ!問題ないです!」
『なら良かったわ』
なんだか声質が残念そうに聞こえたので、条件反射で答えてしまった。
断るつもりが、欲望がこのままで居ろと言っているので負けた。
出来るだけ白鳥さんに暴走した俺のあれが当たらない様に、片腕で俺のあれを押さえつける。言わなくても、もう分かるだろ?
どれくらい時間が経っただろうか。
なんだか白鳥さんの柔らかさに慣れてきたなので、気持ちとアレが落ち着いている。
取り敢えず白鳥さんに嫌われることはなさそうだな。
『ねぇ、織斑君』
「なんでしょうか、白鳥さん」
『私と一緒にいて、楽しかったかしら?後悔とか、してない?』
「なんですか、藪から棒に。後悔なんてしてませんし、楽しかったに決まってますよ」
『そう。それは良かったわ………………』
「白鳥さんはどうだったんですか?」
『私もそれなりに楽しかったわよ?貴方をからかうの、とっても楽しかったわ』
「あはははは、そっちですか」
白鳥さんと言えば、白鳥さんらしい答えだ。しかし、さっき白鳥さんが質問してきたとき、何故かいつもの白鳥さんの雰囲気じゃなかった。
あの雰囲気は、前に初めて俺に本気で歌って演奏してくれた日と同じ雰囲気。
あの時の白鳥さんを思い出すと、とても不安な気持ちになった。
そして、いまも。
ギュッ
『お、織斑君?急に、抱き付いてきてどうかしたの?』
「いえ。ただ、こうしたかっただけです。嫌でしたか?」
『………いえ、急すぎたから………ビックリしただけよ』
白鳥さんはそう言って抱き付いている俺の腕をそっと触れて、身体を俺の背に預けるのであった。あぁ、本当に柔らかくて小さな体だ。
こんなにも小さいのに、多くの事を抱え込んできたのだろう。
『ねぇ、一夏君』
「なんで――――――――――いま、名前で呼びませんでした?」
『えぇ、言ったわ。ダメだった?』
「いえ、そういうわけじゃ…………でも、急にどうして?」
『言いたくなったの。ただ、それだけ』
「………………………」
それから白鳥さんは、何も言わなくなった。
名前で呼んでくれたことには嬉しいが、白鳥さんの様子がどことなくおかしい。
なんだかさっきよりも俺の不安が大きくなってしまう。
しかし、その理由が分からなかった俺はそれを誤魔化すように白鳥さんを抱きしめるのであった。