そうして海馬が遊戯の“しもべ”になって1時限目の授業の『数学』が始まった。
「ん~、ではここの所を誰かに解いてもらおうかな。今日は2月14日だから、2×14で出席番号28番の…」
その瞬間、闇遊戯(人格は闇のままです)が海馬の方をジッと見つめる。海馬は闇遊戯の視線にすぐに気付いた。
「ん?」
海馬が遊戯を見ると、遊戯はあごをクイッ、クイッと動かして何かの合図を送る。
「…28番の武藤君に~…」
先生のこの発言に海馬はハッとする。
(まさか遊戯のヤツ、オレが代わりに答えろと!?)
(行け、行け海馬!)
遊戯は再びあごをクイッ、クイッと動かして海馬に合図を送る。
(おのれ、遊戯ィ~…)
海馬はやむを得ず、手を上げた。
「ん~、どうしたのかな、海馬君?」
「先生、その問題オレが答えてもいいですか…」
「ん~、殊勝な心掛けだね~、もちろんイイよ~」
「はい、ありがとうございます…」
海馬が遊戯を見ると、遊戯は親指を一本立てて海馬にガッツポーズを作って見せる。
(くっ、おのれ遊戯ィ~…)
海馬は遊戯を苦々しく思いながらも、前に出て黒板の問題を解き始めた。
海馬の答えを先生が確認する。
「ん~、さすが海馬君、正解ですね~」
「ありがとうございます…」
「実は先生のちょっとした悪戯心で、東大の過去問を出したんですが、ここまで鮮やかに解くなんて素晴らしいですね~」
そうして何とか数学の授業を終え、2限目の『日本史』の授業に入る。
「では、大坂の役で、冬の陣と夏の陣で、豊臣秀頼と協力して、徳川家康と戦った戦国武将は誰かな? 今日は2月14日だから、14じゃつまんないな。2×14で…」
その瞬間、再び遊戯は海馬に合図を送る。
(行け、行け海馬!)
しかしこの質問の答えは海馬にも分からなかった。
(駄目だ。オレは日本史だけは苦手なんだ)
海馬は両手で
しかし遊戯はそんな事はおかまいなしに海馬に合図を送る。
(行け、行くんだ海馬~!)
海馬は首を横に振って必死に“ノー”と合図を送る。
しかし遊戯は相変わらずあごをクイッ、クイッと動かして海馬に合図を送る。
(行け! 行け! 行くんだ海馬ァ!)
(おのれ、おのれ~…)
「…28番の武藤はいるかな?」
(海馬! 海馬ゴー!)
(お~の~れ~…)
海馬は答えが分からないまま手を上げた。
「ん、どうした海馬?」
「……先生、その問題オレが答えていいですか…?」
「おういいぞ!」
「さては相当自信あるな。先生、答えを聞くのが楽しみだ」
すると海馬はおそるおそる答えた。
「…織田信長ですか…?」
「ちょっと違うなぁ。信長は大坂の役の前に本能寺の変で死んでるなぁ」
「じゃあ、本田忠勝…」
「残念、それは徳川方についた武将だ。海馬、もういいぞ。次は28番の武藤に…」
その瞬間、遊戯が海馬に向かって手を両手いっぱいに広げて合図を送る。
(伸ばせ! 伸ばせ!)
(おのれ~…)
「先生、もう少し答えさせてください……」
「おお。やる気満々だな、先生は嬉しいぞ!」
「じゃあヒントを教えてやろう。頭に“さ”の付く武将だ」
しかし海馬には全く見当がつかない。
「さ…、佐々木小次郎…」
すると教室中からクスクスと笑い声が聞こえてきた。
(おのれ遊戯ィ…、何でオレがこんな赤っ恥をかかねばならんのだ)
「違うな海馬。もういいぞ」
しかし遊戯は再び“伸ばせ”と合図を送る。
「先生、この問題は是非オレに…」
「面白い。先生も燃えて来たぞ。この問題は海馬に答えてもらうぞ。大ヒント、真田家の武将だ!」
「…さなだ……サナダ虫」
海馬の答えにクラス中が沸いた。遊戯も腹を抱えてゲラゲラ笑っている。
「いや~海馬、なかなか良いボケ持ってるなぁ。あっはっは…」
(おのれ遊戯ィ、貴様まで~(ToT))
そうこうしてる内に授業の終了を告げるチャイムが鳴った。
「いかん、いつの間にか授業が終わってしまったか。答えは真田信繁だ。真田幸村の名で広く知られているな。こいつはテストに出るから、特に海馬は勉強しとくように…」
先生は笑いを必死にこらえながら教室を出て行った。そうして次の授業は何事もなく終わり、4限目の『体育』の授業が始まった。
体育の授業内容はサッカーだった。そこで遊戯と海馬は同じチームになった。
「いいな海馬、お前がボールをキープしたら全てオレに回せ。絶対にシュートするなよ。いいな!」
「あ、ああ…」
海馬の我慢はピークに達しつつあった。
そんな中、サッカーの試合が始まった。海馬はボールをキープすると、そのまま軽快なドリブルで相手のディフェンダーを抜いて行く。そしてついには相手のゴールキーパーまで抜いてそのままボールをシュートしようとした瞬間、遊戯と目が合った。
「海馬、オレが決める。ボールを回せ~!」
(馬鹿な、もはや何もしなくてもボールはゴールの中に入っていくぞι)
しかし遊戯はそんな状況お構いなしにパスを求める。
「海馬、こっちだ~!」
(くっ、おのれェ~…)
海馬は遊戯にパスを送ると、遊戯はそのまま軽くシュートをしてゴールを決めた。
「おおー、やったぜ遊戯!」
「ナイスだぜ遊戯!」
「いやいや、たいした事ないぜ!」
すぐに同じチームの仲間が遊戯に言い寄ってくる。
(バカな。貴様等の目は節穴か~!? 遊戯は最後に軽くボールをつついただけではないか~! というか、そもそもオフサイドだろ今のは!)
そうして海馬の影の活躍により、遊戯はハットトリックを決めて大勝した。するとクラスの女子が遊戯に言い寄ってくる。
「遊戯くんすごいね~。ハットトリックだよ~」
「おう、ハットリくんだぜ~♪」
(おのれ遊戯~、ベタベタなボケを自然にかましおって~!)
そうして海馬を散々コキ使い、昼休みに入った。海馬はとりあえず一息ついて弁当箱を開いた。
(やれやれ午前中はひどい目にあった。お、今日のおかずはオレの大好物の“牛フィレ肉のフォアグラソース”ではないか~☆)
海馬の頬が一瞬緩む、その時…。
遊戯が海馬の弁当箱をジッと覗き込む。
「へー、今日は牛フィレ肉のフォアグラソース弁当か?」
「よくこのおかずの名称が分かったな」
「まあな。それにしてもおいしそうだな」
「だからどうした。貴様には関係なかろう」
「食べたいな~vV」
「そうか…」
「そうだ。海馬、オレの弁当とお前の弁当を交換しようぜ~♪」
「な、なにィ!?」
「お前はオレに絶対服従だもんな。よし、決まりな!」
「ゆ、ゆ、遊戯ィ~…」
(バカな!? この上さらにオレから牛フィレ肉のフォアグラソースまでも取り上げる気か~…)
「ほら海馬、これがオレの弁当だ」
そう言って遊戯が弁当箱を開けて見せると、そこにはおでんが入っていた。
「な、貴様、これはおでんではないか! オレは今までおでんを弁当に持ってくるやつなど見た事がないぞ」
「って言うか、牛フィレ肉のフォアグラソース弁当の方が珍しいと思うぜ…」
「それにオレはおでんだけは苦手なんだ。この弁当のトレードだけは絶対に応じられん」
すると遊戯はフッと軽く笑う。
「それなら心配無用だぜ海馬。こいつはおでんじゃないぜ!」
「なんだと!?」
すると遊戯が、闇遊戯の心の内に言った。
『あの、もう一人のボク? これは思いっ切り昨日の夕食の残りのおでんだと思うんだけど…』
(フッ、大丈夫だぜ相棒。ちゃんと策があるぜ)
『策?』
(ああ、ここはオレに任せておけって!)
『う~ん、何か嫌な予感するな~…』
表遊戯の心配をよそに、遊戯は笑顔で海馬に言った。
「海馬、こいつはおでんじゃないぜ。こいつは“大根とガンモとコンニャクとジャガイモとその他もろもろのごった煮”弁当だぜ」
「なるほど、大根やガンモやコンニャクなどのごった煮か」
「そうだぜ海馬。おでんと似てるけど全然違うんだぜ~vV」
「そうか…」
海馬は牛フィレ肉のフォアグラソースかけを惜しそうに見つめながらも、しぶしぶ遊戯の弁当と交換する。
『…ってもう一人のボク。一口食べたら速攻でバレるよ~』
(その時はその時だ。こうなりゃ出たトコ勝負だぜ。とにかくバレる前に速攻で海馬の弁当を片付けるぜ!)
遊戯は物凄い勢いで弁当を食べ始める。それにつられて海馬もおでんに箸をのばす。そうして大根を箸で摘むと、それをそのまま食べ始めた。
「ム、これはうまいな!」
「そ、そうか…」
「うむ、こいつはなかなか悪くない味わいだ」
(何だよ海馬のヤツ、おでん嫌いなのってただの食わず嫌いじゃねえか)
そうして食事を終えると、遊戯はふとノドの渇きを感じた。
「なあ海馬、飲み物買ってきてくれよ?」
「何だと貴様。オレをパシリに使う気か!」
「何か文句でもあるのか海馬? それにオレに忠誠を誓ってきたのは貴様の方だろう」
「クッ…」
海馬は何も反論できない。
『あ~あ、こんな事になるんだったらもう一人のボクをからかわなきゃ良かったな~…』
「じゃ、自販機コーナーでお茶買ってきてくれよ。ファラオ茶な」
「あ、ああ…」
すると遊戯は財布を取り出すと、海馬に150円を渡す。
「じゃ、140円のペットボトルのヤツな。おつりの10円は駄賃にやるぜ」
すると海馬は物凄い勢いで150円を机に叩きつける。
「駄賃などいらんわ! オレがおごってやる!」
そう言うと海馬はズカズカとけたたましい足音を起てて教室を出て行った。
「何だよ海馬の奴、何怒ってんだ?」
すると遊戯が闇遊戯の心に再び話し掛けてきた。
『ダメだよ、もう一人のボク~』
(どうしたんだよ相棒、そんなにあせって?)
『もうキミってば海馬くんをいいように使い過ぎだよ!』
(気にする事はないぜ相棒。あいつの方から忠誠を誓ってきたんだからな。これからは爪切りも耳ほじりも、み~んな海馬にやってもらうぜ~vV)
『キミって一体…』
この時ようやく表遊戯は、闇遊戯にバレンタインデイの本当の意味を教える事を決意した。
『あのね、もう一人のボク。ボクが今から話す事を怒らないで聞いてね…』
(お、どうしたんだ相棒。そんなに改まって?)
『あのね、キミにはチョコレートを差し出すのは、しもべが主人に忠誠を誓う証しだって言ったけど、あれはキミをからかうために冗談で言ったんだよ…』
「えっ?」
『バレンタインデイの本当の意味はね、女の子から好きな男の子に……』
遊戯は闇遊戯にバレンタインデイの本当の意味を説明する。すると闇遊戯の顔はみるみる真っ青になっていく。
「じゃ、海馬もバレンタインの意味を知らなかったって事か!?」
『多分…』
「マズイぜ相棒。海馬がバレンタインの本当の意味に気付いたら、オレ達殺されるぞ…」
『まさか、殺されるって事はないと思うけど』
「いや、あいつならやりかねん。以前に
『ちょっとどころじゃないと思うけど…』
その時、ガラガラっと物凄い勢いで教室の扉を開け、海馬が戻ってきた。
「Σ%×@☆…?!」
闇遊戯は思わず声にならない声を上げてしまう。
「ん、そんなに慌ててどうしたんだ遊戯?」
「いや、別に何でもないぜ」
「そうか。お茶を買ってきたぞ」
「あ、ありがとな海馬。本当お疲れ様な」
闇遊戯の態度の急変ぶりに、海馬は怪訝そうな顔をする。
「遊戯、お前…」
「何だよ海馬…」
「オレに何か隠し事をしてないか?」
「ギクー!!」
「なに? “ギク”だと?」
「いや、何でもないぜ。それよりもお茶ありがとな…」
闇遊戯は無理矢理話題を変える。
「そうか、まあいい。ちなみに飲みやすいように“ぬるい”お茶を買ってきたぞ」
「そうか、さすが海馬。これなら飲みやすいぜ~…」
そう言って闇遊戯はお茶を一口飲む。
(うわ、マズッ! 何だよ“ぬるい”って。熱いか冷たいかどっちかにしろよなー!)
「どうだ遊戯、うまいか?」
(聞くなよそんな事。うまい訳ないだろうが!)
しかし闇遊戯は、そうは思っても口には出せない。
「ああ、適温でお腹に優しいぜ。さすが海馬、ナイスチョイスだぜ…」
そう言って闇遊戯はお茶を一気に喉に流し込む。その目は半分涙目になっていた。その時、ふと闇遊戯達の耳にクラスの女子達の会話が聞こえてきた。
「えっリボンちゃん、本田くんからチョコレートもらったの!? それって逆じゃん!」
「しー…、マアちゃん…。声大きいよぉ…」
この会話の内容に海馬が敏感に反応した。海馬はズカズカと二人のもとに歩み寄る。
「おい貴様、逆とは何だ? チョコレートをやるのに何か決まりでもあるのか?」
するとマアちゃんと呼ばれていた女子が言った。
「何言ってるの海馬君? 普通チョコは女の子から好きな男の子に渡すものでしょ。なのにリボンちゃんたら、本田君からチョコもらっちゃって、どうしていいか困っちゃって…」
その瞬間、海馬は全てを理解した。
「ゆ…う…ぎィ~…」
海馬がゆっくりの遊戯の方を振り向くと、海馬は鬼のような形相をしていた。
(相棒、バレたぜ~(ToT))
続く☆
※
海馬の好きな食べ物:牛フィレ肉のフォアグラソース
嫌いな食べ物:おでん
という公式設定があります。