サラミスと行く一年戦争   作:明田川

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宇宙再び

「背後を取りましたァ!」

 

「敵艦の推進器を狙え、損傷させれば後は地球がやってくれる。機銃はMSを近付けさせるな」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「指定の軌道にて増速、大気圏に突っ込みます!」

 

「…我ながら滅茶苦茶な作戦だな、いや博打か?」

 

単艦でジオン艦隊の背後に回り込んだサラミス級ナガノはルウムを彷彿とさせるほどに壊滅した連邦艦隊が逃げるための隙を作るべく、決死の突撃を敢行していた。

 

「奴らのムサイ級は後方に火力を指向できない。同航戦で助かった、相対速度が小さいからな」

 

「敵艦の左舷エンジンに命中!」

 

「敵艦隊に向けてミサイル全弾斉射。200mで信管を作動させろ、破片をばら撒いてMSを牽制する」

 

何故地球軌道でこんな無茶をさせられているのか、それを知るためには少し前に時を戻す必要がある。

 

ーー

ーーー

 

地球にジオンの降下を許した地球連邦軍は降下部隊や補給物資を乗せた宇宙艦隊を叩くことを決定、地球付近の残存戦力を掻き集めていた。

 

「ヘリオン作戦、敵補給艦隊に対する奇襲攻撃か」

 

「我々も参加することになっていますが主機関には少し不安が残ります、あと一回の無茶には耐えられると整備班が申しておりますが…」

 

「武装の光学照準に関する訓練は?」

 

「ミノフスキーで狂ったレーダーよりもマシですが、MSの機動性を考えると命中率は1%〜0.1%程です」

 

「第二次大戦もかくやという数値だな、まあ1000発撃って一発当たるなら上々か」

 

艦隊での統制射撃というのは現状不可能に近い。レーザー通信による連携が試みられてはいるものの、現状のシステムを一新しなければ無理がある。ミノフスキー粒子というものは本当に厄介極まりない。

 

「ボールは全機降ろせ、MS相手に使える戦力じゃあない」

 

「ですが…」

 

「MSへの機種転換訓練を蹴ってまで居残りやがった馬鹿共だ。縛ってでも地球に降ろすぞ、こんな所で失っていい人材じゃあない」

 

ルウムにて活躍したモビルポッドだったが、あれからはMSに対する数少ない対抗手段として機関砲やロケット砲を増設する改造が行われていた。既存の兵器が全く信用ならない現状では浮き砲台程度の彼らでも非常に頼もしく、救助作業中でも最低限の自衛が可能だった。

 

「…ルウムの大敗は何故か上層部の耳に入っていないらしいな、勝てると思っているなら正気じゃあない」

 

「既に地上でも戦闘が激化していますので、動かさざるを得ないというのが最も考えられる話です」

 

「ここで艦隊の保全に動かないでどうする、せめて連邦製のMSが出来るまで待機を命じて欲しかったな」

 

行きたくなくとも行かねばならない、あのまま軍人として在籍していたのが間違いだった。しかし辞めるにも辞められない、ルウムの一件でプロパガンダとして大々的に自分の顔が広められてしまったからだ。

 

「戦果ゼロで勲章とはね、ルウムの病院船とはよく言ったものだ」

 

「そうですよ、ナガノは立派な巡洋艦なんですから」

 

「いやそうじゃあないが…まあいいか」

 

副官の少しズレた発言に体が傾くが、それが嫌な雰囲気を取り払ってくれた。頬を叩いて気合いを入れ、生き残るための算段を立てるために席を立つ。

 

「艦隊がズタボロにされる前提で作戦を練る!会議室に人を集めてくれ!」

 

「はい!」

 

「あと大気圏突入用のカプセルを入念に点検しておくよう整備班に伝えておいてくれ、最優先で」

 

「は、はぁ…カプセルですか…?」

 

「一番安全に逃げられるからな、ザクも追っかけてこられない」

 

「ええと、余りにも滅茶苦茶では?」

 

「滅茶苦茶だよ!分かって言ってるんだよこちとら!」

 

そうして会議室で練られたのは"図体も戦果もデカいマゼラン級戦艦からMSに狙われるだろうから、指揮系統が駄目になった所で一抜けする作戦"というものだった。どうせ負けるのだ、指揮する人間が居なくなった後に足掻く程度いいだろう。

 

ーーー

ーー

 

そして予想通り艦隊は壊滅、生き残りを逃すためにMSと艦隊の注意を引いているわけだ。

 

「MS来ます!ノズル光3!」

 

「このまま加速を続けろ、少しでも速度を乗せる」

 

「ですがムサイ級が前に…」

 

「向こうが避ける」

 

敵艦との距離を詰めていき、主砲とMS相手に射角が足りない機銃を総動員して背中を撃つ。エンジンブロックが盛大に爆発し、艦橋下のMS発艦口にもメガ粒子が注がれる。

 

「敵艦をやっちまいましたァ!」

 

「上々だが、そろそろ潮時だな」

 

二隻のムサイ級を背後からの奇襲で沈め、ミサイルがばら撒いた破片にて宙域のMSを足止めした。しかしそれでも立て直しが早い、回頭してこちらを射角に収めようとしている船が既に居る。

 

「ミノフスキー粒子下での連携もお手のものか。艦首を下げろ、地球に降下する!」

 

「総員退艦!脱出用のカプセルへ急げ!」

 

「ここまでは予定通りぃッ!?」

 

「ひ、被弾ッ」

 

艦橋の分厚い窓がひび割れ、出来た隙間から空気が逃げる。すぐさまノーマルスーツのヘルメットを閉じ、何が起きたのかを探った。

 

「ムサイ級の破片か!」

 

「勢いよく吹っ飛んだようですね、アンテナか何かが艦橋に刺さりました。これにより通信機能の一部を喪失したようですが…」

 

「少しズレていたら艦橋内の人員は纏めて串刺しだった…この船を捨てると決めたのは私だが、今になって惜しいと感じざるを得ない」

 

ルウムで多くの命を救った船だ、失いたくは無かったが他に船員を生き残らせる方法を思いつくことは出来なかった。後方から奇襲をかけるというのも言葉遊びのようなもので、味方に対して逃すために働いたという証拠を残しつつ逃げるためにでっち挙げた言い訳である。

 

「船乗りとしてはあまりに罰当たりだな」

 

出撃前の機関不調は上に伝えてあるため、大気圏に捕まってしまい仕方なく退艦した…と口裏を合わせて言い張るわけだ。至近距離で起きた敵艦の爆沈や艦橋への被弾はある意味幸運だった、更に現実味が増す。博打でしかない作戦だったが、まさかここまで幸運が続くとは思わなかった。

 

「…艦長」

 

「総員退艦だ、我々も急ぐぞ!」

 

「はい!」

 

艦橋から離れた先で入ったカプセルには既に船員が退避しており、点呼も終わっているようだった。大きな損傷も目立った被弾も無かったため、滞りなく退艦は終わっていたようだ。

 

「切り離しを」

 

「了解」

 

大きな揺れが発生した後、カプセルは重力に引かれて落下していく。人の居なくなったナガノもまたゆっくりと落下していたが、回頭と照準が終わった敵艦の砲撃が横っ腹に突き刺さる。

 

「ナガノ被弾!ナガノが被弾しています!」

 

「操縦席、ナガノの方向は分かるか?」

 

「…おおよそ上ですが、後ろを向いて格納庫の天井と壁の境目辺りかと」

 

やけに具体的な指示に感心しつつ、その指示通りに船へと敬礼する。周囲の船員も皆が出来る限り身体を向けるが、大気圏突入前ということもあって席や壁に固定されており無理矢理捻る他ない。

 

「あの世で埋め合わせをしなきゃあな…」

 

こうしてヘリオン作戦は失敗に終わり、連邦軍は残存艦隊を更に消耗させることとなった。しかしサラミス級巡洋艦ナガノが見せた英雄的行動により敵の艦列は乱れ、追撃する船も出たことから隙が生まれた。マゼラン級を撃沈するために武装を消耗していたMSはばら撒かれた破片により補給を妨害され、追撃が遅れたこともまた大きかった。

 

更にはムサイ級巡洋艦二隻撃沈の戦果を挙げ、奇跡的にもカプセルで脱出に成功していた艦長並びに船員達は司令部であるジャブローにてその活躍を讃えられることになるのであった。

艦長本人はムサイ級に関しては運が良かった、後方からの突撃は咄嗟の判断で自らの独断と溢しており、船を沈めたことに関する処罰を待っていたかのような発言があった。英雄とは英雄になろうと思ってなれるものではない、連邦軍の兵士達はそう感じたという。

 

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