サラミスと行く一年戦争   作:明田川

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停戦命令

「…撃ってこないな」

 

「回収作業に手を出す気はないようです、紳士的とは言えますが…」

 

「少々不気味か」

 

「この状況ですから、下手に打って出るのも大きなリスクと考えたのかもしれません」

 

艦隊はボロボロ、艦載機は再編中、そして目の前には船の残骸と赤いMAという状況だ。既に敵艦隊は這う這うの体で連邦軍に背中を撃たれながら撤退を始めており、赤いMAが死守するEフィールドはその抜け道となっていた。

 

「ここで残存戦力を逃せば後でどうなるか…」

 

「だからと言ってここを突破出来る戦力も無い、正直言って我々にはここを抑えるのが関の山だな」

 

そろそろ救助も終わるだろう、そうなれば改めて正面から戦わなければならない。だが戦ったとしても勝てるのだろうか、彼らは殿としてこの場に立っている以上引くことはない。

 

「主戦力の動きは?」

 

「流石に他のフィールドへ一気に戦力を回せるほど柔軟には動けないようです、ミノフスキー粒子の影響もあり乱戦は継続中ですね」

 

「…逃げる敵の背を撃つ趣味は無いが、立ち塞がる敵を倒すのは職務の内だな。要救助者の収容が完了され次第ミサイルによる攻撃を実施する、悪いが付き合ってもらうぞ」

 

ここまで運良く自らが預かる船は損傷こそしたものの沈むことなく戦えて来たが、今回ばかりはそうもいかないだろう。うろ覚えの知識にも相手の情報は無い、やるだけやるしかないのだ。

 

「…艦長、敵司令部からの通信が」

 

「どうした」

 

「傍受に成功した味方艦からの情報共有です、内容に問題がありまして」

 

そう言って通信士が見せて来たのは、なんとも言えない内容の文面だった。敵司令部はどういうわけか指揮能力を喪失したらしく、各々勝手に動けと味方に対して言い放ったようだ。

 

「我、既に指揮能力無し。作戦参加の全艦艇は速やかに戦闘を中止し、各個の判断で行動せよ…とのことです」

 

「戦闘中止か、降伏ではなく?」

 

「はい、降伏しろとは一言も」

 

「だから奴らは撃ってこなかったというのか、なるほど…」

 

あの化け物と正面から戦わずに済むかもしれない、それならば試してみない手は無くなった。

 

「降伏を呼びかける、後方の艦隊には再編が終わっても待機するよう指示してくれ」

 

「殿で残るような相手です、応じるとは思えませんが」

 

「光信号とレーザー通信で先程の戦闘停止命令を聞いたことを伝え、降伏を呼びかけろ。あのMAと戦わずに無力化出来るのであれば試す価値はある」

 

後方の部隊は待機を命じられているため、この場で銃を向け合っているのはナガノⅡ率いる艦隊と赤いMAの部隊の二つだけだ。横槍が入らないことを祈りつつ、決死の交渉が始まった。

 

「返答は?」

 

「ありました!レーザー通信による交信を受け入れるようです!」

 

「交渉の余地はあるか、良い傾向だな」

 

赤いMAは武装が固定されている上に下半身は特殊な装備となっているため武装解除が難しく、手を挙げて見せてはいるが何か専用の対応をしなければならないだろう。しかし話を聞く限り彼らは一筋縄ではいかないような事情を抱えているらしく、そう簡単に降伏して終わりとはいかないらしい。

 

「…つまり貴官と船と周囲のモビルポッドは指揮権が非常に複雑な状態にあると?」

 

『はい』

 

「現場で指揮を取れる人間が居ないまま戦闘を継続していたところで先程の通信が入り、裁量権が現地の誰にも無いために判断が出来ない状態だったと…なるほど…」

 

滅茶苦茶である、末期戦とは言うがここまで来たか。マトモな部隊長すら立てられず、見るからに急拵えの兵器までも投入するとは。艦橋の人員がざわめくが、学徒兵の声が入ったのを聞いて皆が黙り込んだ。

 

「すまないが、貴官の役職は?」

 

『技術士官です』

 

「…そうか」

 

赤いMAに乗っていたのはエースでもなんでもなく、本来ならパイロットとしてこの場に立たないであろう技術士官の青年だった。頭が痛くなってくるが、あの赤い彗星ではなさそうなのが救いと言えた。

 

「ボール部隊、敵モビルポッドの武装解除は?」

 

「大隊司令官との連絡が付かないそうです、それまでは待機したいと」

 

「それで徹底抗戦を命じられでもしたらどうする、応戦の準備は済ませておけ。こう言った言い方をするのは良くないが…学徒兵と技術士官を急造品に乗せて投入するような奴らだぞ」

 

彼らも何かの外伝作品に出て来る者達なのだろうか、そう思いつつ頭を抱えた。彼らの背後には逃げる船と投降に応じる船がごった返しており、ボールが運んで来た陣営を問わない急病人は増えるばかりだ。

 

『Eフィールドで投降する船の対応を行っていると聞いた、武装解除に応じるので捕虜として扱って欲しい』

 

「ムサイ級が接近、砲身は全て上に向けているようですが」

 

ジオン軍に停戦命令が出されようとも、連邦軍が戦いを止める理由など何一つ無い。しかし巨大なMAが投降しているのを目撃した部隊は一縷の望みに賭け、船員ごと船を沈められるのを防ぐためにEフィールドへと逃げ込んでいた。

 

「Eフィールドはいつから対応窓口になったんだ…まあいい、第二小隊を出して確認に向かわせろ。騙し討ちの可能性も十分にある、距離を取って対応しろ」

 

『降伏するっ!コイツを助けてくれ!』

 

「ええいまた急病人か、要塞は総崩れだな…」

 

赤い塗装と巨大な機体は大いに目立ってくれたようで、指揮官を失った学徒兵や行き場のない怪我人が押し寄せて来る。一気に増えたお仲間に驚いたのか、技術士官の青年はモノアイを使ってしきりに周囲を見ていた。

 

「…技術士官殿、オッゴとやらの降伏は出来そうか?」

 

『はい、話をつけます』

 

「頼んだぞ、学徒兵の収容については何か対応を考えておく」

 

ムサイ級だけでなく輸送船や何かの小型艇、更には小破した重巡洋艦と思わしき船まで様々だ。それが混乱した通信の中で赤いMAを目印に集まっている、誰もが生き残るためにだ。

 

「…周囲に伝達してくれ、投降する者は信号弾の元に向かえと」

 

「よろしいのですか」

 

「これで奴らの過激派に船を沈められたらあの世で泣く他ないが、まだ人類の善性というものを信じてみたくなったのさ。状況こそ違うがルウムの再現と行こう、殺すより救う方がよほど難しいとはやりきれないな」

 

こうしてジオン軍残存戦力の逃げ道となったEフィールドには第201補給艦隊による呼び掛けにより、逃げる者と投降する者が分かれ道のどちらかを行くか選択する場となった。連邦軍への不信感から投降を選ぶ者は決して多くは無かったが、それでもかなりの数になったことは言うまでもない。

 

「投降する旨の通信が大量に…」

 

「これだけの戦力が銃を撃たずにして無力化出来るとなれば、少しは割りに合う賭けだっただろう?」

 

「いえ、まさかこれほどとは」

 

「ルウムの時にジオン兵を助けていて助かった、なんでも噂程度にはなっていたらしい」

 

連邦軍のプロパガンダとしてルウム戦役時に救助された捕虜達はジオン本国へと返還されていたらしい。ナガノの名はほんの少しばかり有名になっていたようだ、まあ残念なことに沈んだのだが。

 

ちなみにHLVの一件に関しては意図的に自分が関わったことは報道されていないし、丁度船が変わったので作戦当時に特定もされていない。こちらが表沙汰になっていれば投降する者など居なかったかもしれない、連邦軍の広報戦略に感謝だ。

 

「これも貴官のお陰だな」

 

『いえ、私は何も…』

 

「その巨体で目立ってくれたからな、協力に感謝する」

 

技術士官に軽く礼を言い、MAから降りてもらう。オッゴという名前らしいモビルポッドも彼の説得のお陰でまた一機、また一機と武装を投棄していく。

 

「艦長、司令部から敵艦隊の追撃を命じられていますがどうされますか」

 

「それは…そうだな、待機している艦隊が居たか」

 

再編が終わった部隊には待機を命じていたが、血気盛んな彼らでは投降したジオン軍の兵士達を撃ちかねない。だがこのままじっとしていろと言うのも難しい、残存戦力への追撃は上からの命令だからだ。

 

「頃合いだ、後方の艦隊に敵部隊への追撃を命じてくれ」

 

「了解」

 

「全員は助けられん、悪いが理解をして貰おう」

 

待ってましたと言わんばかりの砲撃がジオン軍の艦隊に突き刺さり、動力炉の爆発が球となって光を放つ。解き放たれた艦載機は武器を手に、憎き仇を討つため突撃した。

 

「第一、第二、第三小隊は悪いが投降したジオン兵が殺されないよう監視だ、この中で事情を聞きたい相手は幾らでも居る」

 

「聞くことというと、コロニー落としですか」

 

「民間人の虐殺が許されるわけがないだろう、勝者の法で悪いが公式な場で裁きを下さねばなるまい。決着は必要だ、こう言う形でな」

 

コロニー内部の人間が皆殺しにされている時点で役満だ、正直言って連邦のためだけではなく他のコロニーのためにも目に見える形での処罰が必要なのだ。

 

「…私の戦争は裁判が終わるまで続いたままだよ、そういうものだ」

 

聞くところによれば因縁のあるヅダの母艦である輸送船は大きな損傷を受けたらしく、ちゃっかり投降していた。それもMAに乗る技術士官の船でもあったようで、中々相手にも運の良い奴らが居るものだなと心底感じた。

 

損傷に関しては載せていたゲルググとのいざこざが原因らしいが、投降させるための理由作りに見えると感じたのは自分だけだろうか。学徒兵の扱いに関しては思う所があっての行動か、難儀なことだ。

 

ーーー

ーー

 

かくしてア・バオア・クーは陥落し、一年戦争は多大な被害を出しつつも連邦軍の勝利に終わった。大量の捕虜と鹵獲兵器を抱えた第201補給艦隊は怪我人への処置にも追われ、一際忙しい終戦をジオン軍の兵士たちと迎えることになる。

 

ナガノⅡの艦長は多大なストレスで寿命が縮む感覚を味わいつつ、いつになったら軍を辞められるのだろうかと星空に想いを馳せる。宇宙世紀はこれからも戦いが続くのだが、足を洗える機会を探る彼と辞めさせる訳にはいかない軍上層部との戦いはたった今から始まることになる。

 

 




本来ならこの話で終わるつもりでしたが、思いの外好評だったので後日談を用意することにしました。次の日の投稿になります、よければ最後までお付き合いください。

それと、プロット管理をミスって使い所を失ったジムを置いておきます。ある程度ちゃんとした形で仕上げたのはこの子だけだったなと少し反省。

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