どうやら拾ったお兄さんは悪の組織的なサムシングらしい 作:デオキシリボ払い
初夏。
じめじめした季節が終わり、これから本格的に熱くなろうという頃。
一人暮らしも慣れてきて、帰ったら買ってきた惣菜でも食べながら動画でも見るかとうきうきしながら自宅のアパートにさしかかる道で。
人を拾った。
いやなんで???
最初は、大きいゴミかな?と思った。なにしろ、かなり小汚かったのと、くすんだ緑の髪がちょうどほこりを被った観葉植物のように見えたからだ。
おーおー粗大ゴミが道まではみ出とるわ。
そんなふうに思って横を通り過ぎようとした時。
動いた。
「えっ生きてるのこれ」
思わず声が出る。
布に包まれた鉢植えかなにかだと思っていたそれはモゾモゾと動いていて、どうやら人のようだ。
「えっあっ大丈夫ですか…?」
近づいて助け起こそうとしてみるが、返事はない。意識を失っているようだ。ぱっと見大きな怪我はなさそうに見えるが、道に放置されていたこともあって相当ボロボロだ。顔を見てみると、やたらと整った顔をした男だった。
「聞こえますか…?動けます…?」
返事は無い。しかし生きてはいるようで、少しみじろぎしている。
見つけちゃった以上ここに放置していくのもなぁ…
少し悩んだが、とりあえず家が近いので運ぶことにした。
警察や救急車という考えは、なぜだか浮かばなかった。
とりあえず家まで運んだが、どうしようか。
布団に寝かせてみたが、なにしろ大学生の一人暮らしだ。なにができるわけでもない。目覚めるまでお粥でも作っておくか。
幸いなのはアパートを借りる時に友人とのお泊まり会に憧れていたこともあって、2人くらいなら泊まれるスペースがあることだ。
「これからどうしよっかなぁ…」
米を鍋に入れながら独りごちる。衝動的に連れてきたはいいものの、この後のことをなにも考えていなかった。
思い返してみると、このご時世に手荷物もなにも無しで出歩く人はかなり希少だろう。それが真っ白でポケットも何もない服を着て倒れているとなればもはや事件性を感じる。
卵とチーズを投入して火を止めたところで布団の方からモゾモゾ動く気配を感じたので振り返ると、例の青年が上半身を起こしていた。
「あ、おはようございます…?」
青年は少し周りを見渡したあと、か細い声で返事をした。
「おはよう…ございます?えっとここは…?」
「そこの道の前で倒れてたところを拾ったんです。覚えてませんか?」
「えっと…確か僕は…痛っ」
言葉の途中で彼は頭を抑えた。
「ごめん…ちょっと思い出せない。あれ?」
見ているこっちが気の毒になってくるほど動揺している。あれ?あれ?と混乱している様子の青年に、とりあえず説明することにした。
「貴方は近くの道で倒れてたんですよ。ボロボロの状態で気を失ってるみたいだったから、運ばせてもらったんです。」
神妙な顔で聞いている青年を見ていると、かわいそうになってきた。
彼はこれからどうするのだろう。行くあてがないのなら、少しの間ならこの家に入れてやってもいいかもしれない。もしそうするなら大家さんにも許可を取る必要はあるけど。
「ご自身の名前とか思い出せますか?連絡先とか覚えているなら、」
「灰蒼です」
割り込むように呟く青年。
「名前は、覚えてます。灰蒼綴。ただ、それ以外のことは何も…」
段々とつぶやき声のような声量まで小さくなる声に、耐えられなかった。
「あの!」
思ったより大きい声が出てしまった。気恥ずかしさに少し顔を赤らめながら、声を出す。
「よかったら、しばらくここで暮らしませんか?これから行くあてもないでしょう?ちょっと狭いですけど、2人ならスペースはありますし、それに、」
一度唾を呑み込み、続ける。
「それに、ここ最近は何かと治安が悪いですから。」
自分でも何故今日知り合ったばかり、しかも記憶がないという人間と暮らそうとして必死になっているのかわからなかったが、なぜかここで彼と別れてしまうのは駄目な気がした。
青年、いや、灰蒼さんはきょとんとしたあと、少し笑って答えた。
「…じゃあ、お言葉に甘えてもいいですか?」
「もちろん!」
目の前のひとを安心させるため、ニコッと笑った。
……普通の人が記憶を失って倒れているわけがないということには、気づかなかったことにした。