『捻れた終着点』から、『あまねく奇跡の始発点』へ 作:文才の無い本の虫
『――拝啓。君がこの手紙を読んでいるという事は、俺はもうある程度の準備を終えているのだと思う。この手紙も、申し訳無いが、その内の一つだ。遺書と言っても良い』
「・・・・・」
『長々と書くのは苦手なので、簡潔に書こう。俺は、君のことが嫌いでは無かった。その情熱的な、一本の筋が通ったような生き様は眩しかった。だが、俺は君の気持ちに応えることは出来ない。済まない』
「・・・・・わかってましたわ。私は、貴方の残酷な優しさに浸っていたのですから」
『これが遺書だと称したのは、俺が今生で書類を除いて最後に書くであろう文章だからだ。どうやら俺は、キヴォトスの為に、消えなくてはならないらしい。薄々、わかってはいた。自身が異端であるということは。だからせめて、君だけには、憶えていて欲しいと、身勝手な事を頼みたい。きっと、この後、俺とノアは居なかったことになってしまうだろうから』
「・・・・・」
『カンナ辺りは憶えてくれていそうだが、兎も角。その忘却を以ってキヴォトスは平和になるだろう。銃声は絶えないだろうが、悲劇は起こらなくなると思う。忘却は代償だ。小難しい話は省く。そう云う物だと理解してくれ』
「アトラさん、貴方は・・・・・
『俺の物はハルナの全部好きにしてくれて構わない。高く売れるであろう物もあるから手間賃だと思ってくれ』
『少し、気恥ずかしいが、君との食事は、楽しかった。さようなら、そしてありがとう、ハルナ。もし、もしもまた会えることがあれば、何か俺の奢りで食事に行こう。親愛なる友人、ハルナへ。敬具』
「・・・・・・・・・・アトラさん、私は」
◆◆◆◆◆
「カンナ、済まん。リンや書類の事まで」
「いいえ、防衛室長・・・・・今は、連邦生徒会長でしたね。貴方が謝ることではありません」
「・・・・・俺の、最後の頼み事だ。カンナ、キヴォトスを頼む」
「ええ。ヴァルキューレの名に恥じぬ様、努めます・・・・・ですから、安心してください」
「ふ・・・・・そうだな。じゃあな、カンナ」
「はい。また何時か」
◆◆◆◆◆
「・・・・・そっかぁ。アトラくんとノアちゃんは居なくなっちゃうんだね」
「済まないな」
「ううん、君達の決めたことだし、おじさんは何も言わないよ。ユメ先輩みたいに、喧嘩別れじゃないしね」
「ん、さよならは言わない。アトラ、ノア、また何時か」
「はは!!そうだな、シロコ。二人共、また何時か」
「ええ、シロコちゃん。二人共、また何時かですね」
◇◇◇◇◇
――血のように赤い
すると、ノアが声を掛けてきた。
「マスター」
「そろそろか」
「はい」
俺は、今日までに
「ハルナへの手紙は書いた、カンナに先を託した、リンへの引き継ぎ書類も作った、シロコ達への別れも告げた・・・・・少し、寂しいな」
「そうですね・・・・・」
『――報告。カウントダウンを開始します・・・・・100、99、98・・・・・・・・・・』
「此方も、始めましょうか、マスター・・・・・・・・・・
――『ウトナピシュティム』、起動シーケンス。ワープドライブ、反転。演算開始します・・・・・」
『・・・・・69、68、67・・・・・・・・・・』
ノアと俺を中心に青白い粒子が舞う。
きっかり一分後、彼女は言った。
「――演算完了」
『・・・・・3、2、1、0。『虚妄のサンクトゥム』及び『アトラハシス』、出現します』
◇◇◇◇◇
『虚妄のサンクトゥム』出現から一時間。
隣りに居るアロナが言った。
『――報告。『虚妄のサンクトゥム』、全機破壊を確認。『アトラハシス』のバリア、消滅』
――リンはしっかりとやってくれたようだ
俺は頷き、ノアに言う。
「よし・・・・・ノア、行こう」
「はい、マスター」
『ウトナピシュティム』が浮上し、赤い空に浮く『アトラハシス』へと飛んでいく。
「――タイマー、セット。時空歪曲開始」
周囲が、歪み始める。
――少し遅くなってしまったが、言わなければ
「なぁ、ノア」
「何でしょうか、マスター」
本格的に、空間が歪み始める。
俺は、彼女の目を見て言う。
「少し遅くなったが・・・・・俺はノアが好きだ。愛してる」
「ふふっ・・・・・私も愛してますよ、マスター」
俺は、ノアを抱き寄せる。
これが、『愛しい』という感情か。
なんとも・・・・・温かい。
「次なんて無いかもしれん。だが、あるとしたら・・・・・必ず、もっと素直になって、逢いに行く。待っててくれるか?」
「愚問ですね。何時までも待ちます」
彼女は微笑んだ。
「何故なら、マスターは私の大切な人ですから」
――そして、『ウトナピシュティム』は『アトラハシス』を巻込み、消滅した
このキヴォトスの『不知火アトラ』と『白波ノア』に纏わる殆どの記録と共に。