『捻れた終着点』から、『あまねく奇跡の始発点』へ   作:文才の無い本の虫

13 / 57
After or …:そして誰もいなくなった

 

 

 

 

 

 

「ふう・・・・・」

 

 

私はコーヒーを飲んで息を吐く。

 

――もう、一ヶ月ですか

 

 

「カンナ防衛室長、此方の書類は・・・・・」

 

 

「ああ、その書類は机に置いてくれ」

 

 

部下を下がらせ、私は後ろ――一面の窓ガラスの外を見た。

 

此処からはキヴォトスが良く見える。

 

 

「アトラ、貴方の守ろうとしたキヴォトスは何時も通りですよ」

 

 

アトラとノアさんが、殆どの人の記憶からも消え、一ヶ月が経った。

 

彼等の功績は、前連邦生徒会長のものとされ、前連邦生徒会長は一ヶ月前に失踪した事になっている。

 

彼の言っていた世界の修正力というやつなのだろう。

 

あの、仮称『虚妄のサンクトゥム』破壊作戦も書類上、前連邦生徒会長が指揮を取った事になっている。

 

序に、アトラとノアさんが二人――最初は一人だった――で回していた防衛室が機能しなくなり、七神リン現連邦生徒会長に『前連邦生徒会長の猟犬』であった私が防衛室長に任命された。

 

 

「・・・・・今は、私が防衛室長ですか」

 

 

――あの頃は、貴方にずっとついて行くものだと思っていましたから

 

 

「感慨深い、というよりも制服の違和感が凄まじいですね」

 

 

私は、缶コーヒーを机に置いて、天井を仰ぎ見る。

 

 

「今でも信じられませんが、キヴォトスの『何時も通り(平和)』は守ってみせますよ」

 

 

私は書類仕事に戻る。

 

ふむ、今日は早めに終わりそうだ。

 

――帰りは、久し振りに屋台に寄りましょうか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

「ごめんください」

 

 

私は、暖簾を潜り、屋台の席に着く。

 

すると、横から声がした。

 

 

「あら?貴女はアトラさんの」

 

 

――先客、それもアトラの友人

 

 

「ふむ、美食研究会長でしたか・・・・・店主、焼き鳥のタレももを四本、茹でた枝豆を小皿で。あと烏龍茶をお願いします」

 

 

「あいよ」

 

 

暫くして、私の前に皿とコップが出される。

 

――隣に、彼は居ない

 

私はコップに注がれた烏龍茶を軽く飲み、言った。

 

 

「美食研究会長、貴女は良く此処に来るんですか?」

 

 

「ハルナ、で良いですわよ。尾刃カンナさん。このお店は偶々見つけましたの」

 

 

「そうですか」

 

 

暫く、黙々と料理を摘む。

 

私は、ずっと彼女に聞きたかったことを、問うた。

 

 

「それで・・・・・貴女は消えてしまった『(アトラ)』の事をどう思っているんですか?」

 

 

「勿論お慕いしておりますわ」

 

 

「アトラは貴女を手紙で振ったと言っていましたが」

 

 

すると、彼女は言った。

 

 

「うふふっ・・・・・アトラさんが『情熱的で、一本の筋が通ったような生き様』と称した私が、一度振られた程度で諦めるとでも?地の果てだろうと、地獄だろうと追い掛けるだけですわ」

 

 

彼女の目は、燃えていた。

 

――直感する。彼女なら成し遂げてしまうでしょう

 

頭の中に、ノアさんと、彼女に腕を引かれて困った顔をしている彼が思い浮かぶ。

 

そして、私はくつくつとした笑いを漏らす。

 

 

「どうしたのですかいきなり?!」

 

 

「ふふふ、いえ、貴女なら成し遂げてしまうと思いまして。ハルナさん、彼等(・・)に伝言を頼んでも?」

 

 

「?ええ」

 

 

アトラとノアさんに――いえ、ハルナさんにも小さな祝福を。

 

 

「――――、と」

 

 

「!!うふっ・・・・・承りましたわ。では、乾杯といきましょうか。私と、カンナさんの出会いに」

 

 

「ええ、貴女との出会いに」

 

 

私と彼女は、カチリとコップを鳴らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――私がハルナさんと話したのは、それが最初で最後でした

 

まあ、彼女ならきっと会いに行けたのでしょう。

 

何せ・・・・・私以外に彼女の事を覚えていなかったのですから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

ガタンゴトンと、電車が走る。

 

その車内には、血塗れの■■■と対面に座る誰かの人影。

 

 

「――アトラ・・・・・貴方は結局、この結果に辿り着いてしまいました。貴方とノアさんの犠牲に依って、キヴォトスの悲劇は回避され、この世界線のキヴォトスは平和になりました。ですが・・・・・貴方は」

 

 

彼女(連邦生徒会長)の対面には、欠けたヘイローが頭上に浮いている、躯が座っていた。

 

 

「・・・・・こんな結末、あんまりです。世界の修正力から、ノアさんは、救えたのに!!当の貴方は・・・・・私が、間違っていたのですか?全てを救おうとしたのが、間違いだった?その間違いが、貴方を『壊して』しまった」

 

 

彼女の涙に対面に座る躯は動かない。

 

だが、その躯のヘイローの足りない部下を赤紫の線が補い始める。

 

そして、()の隣に、白髪の少女――アロナが現れた。

 

 

『――連邦生徒会長』

 

 

「貴女は」

 

 

『未だ、手遅れではありません。私が、マスターの足りない部分を補い、ノアの『舵輪』で存在を補強しました。ですが、未だ足りません』

 

 

()のヘイローが、明滅する。

 

それを見て、連邦生徒会長は覚悟を決めたように、立ち上がった。

 

 

「わかりました。アトラの為に私の全てを賭けましょう」

 

 

『――承諾を確認。連邦生徒会長、手を。今から私と貴女の力を合わせて、奇跡を起こします』

 

 

「ええ、始めましょうか。貴女と私・・・・・いえ、彼等の奇跡を」

 

 

連邦生徒会長とアロナが手を合わせた。

 

瞬間、周囲は光りに包まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紛い物の私(『私』の影法師)でも・・・・・傷付いた救世主の為に――いえ、大切な人の為に祈る事くらいは許して下さいね・・・・・・・・・・ああ、そういえば言えてませんでしたね。アトラ、私はなんだかんだで世話を焼いてくれるお人好しな貴方の事が、結構好きでしたよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光が収まる。

 

――そして車内には誰もいなくなった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。