『捻れた終着点』から、『あまねく奇跡の始発点』へ 作:文才の無い本の虫
モモイ達があの啖呵を切ってから三日、ミレニアムプライスまであと一週間となった。
今日ウタハからはあまり知りたくない検査結果が届いた事以外は、何時も通りの――ミレニアムで起きる馬鹿騒ぎに頭を悩ませる――3日間だった。
俺は手元の『構造一致率92,8%』と書かれているウタハから受け取ったメモをシュレッダーに掛けながら溜息をつく。
「はぁ・・・・・面倒事ではなく、厄ネタだったか」
――『AL-1S』、天童アリスの検査結果
ウタハに頼んだ検査結果から俺の中にある『
ノアによれば『AL-1S』のナノマシンは
憶測になるが『AL-1S』は『方舟』の姉妹機か・・・・・『後継機』。
『方舟』の――
暫くして、膝の上でアロナが言う。
「マスター。マスターは悩み過ぎです。『AL-1S』がどんな存在であろうと私達が居ます。もっとあっぱらぱーでもいいくらいです」
「いや、アッパラパーは不味いだろ」
そうしてアロナと喋っていると、セミナーの部室にノア達――ミレニアムプライス期間中は帰って来ているユウカも同行している――が帰って来た。
「マスター、アロナちゃん、ただいま帰りました」
「ああ。おかえり、ノア。ユウカ、準備は順調か?」
俺は何時もの様にアロナを撫でながらユウカに問う。
ユウカは手元のバインダーを流し見て言った。
「ええ、順調よ・・・・・最近貴方の奇行に動揺しなくなってきた私が怖いわ」
「奇行とは失礼だな」
「セミナーの部室に幼女を連れ込んでなで回すのが奇行ではないってことかしら??」
「まあまあ、ユウカちゃんも落ち着いて下さい。ひーひーふー、ですよ」
「それはラマーズ法よ!!」
「ふふふ、先生にお熱なユウカちゃんには将来必要かもしれませんよ?」
「?!?!な、何言ってるのよノアぁ?!せ、先生とはまだそんなんじゃ?!」
「はい、『まだ』ですね♪」
「〜〜〜!!!!」
・・・・・。
ユウカがノアにからかわれている。
少し可愛そうではある。
――まあ、奪われない内にさっさとくっつくなりすれば良いものをとは思うが
すると、いきなりアロナが言う。
「――緊急。襲撃です。マスター、戦闘態勢を」
瞬間、爆発音と発砲音が聞こえた。
ユウカが銃を構えて焦ったように言う。
「襲撃?!またエンジニア部?!」
俺は上着に袖を通し、立ち上がる。
同時にアロナは
「何が起こってるかは知らんが、急ぐぞ」
「はい、マスター」
「あーもうっ!!ミレニアムプライス前の大事な期間中だって言うのに!!」
「では万が一の為に私は上層からの侵入を警戒しておきます。アロナちゃん、マスターをお願いしますね」
「当たり前です」
――俺達は駆け出した
◆◆◆◆◆
――ん、銀行を襲う
モモイ達の作戦を聞いた時に真っ先に思い出したのはシロコの台詞だった。
私達はヴェリタスがセミナーに没収された『鏡』というハッキングツールを取り戻す為にセミナーの建物の前に来ていた。
(“・・・・・ユウカ、ごめんね。”)
後で怒られるだろうなと思いながら、私達はセミナーに突入した。
「“・・・・・いや、ドアを壊して入る必要あったかな?!”」
「魔王城の門を壊すのは常識だよ先生!!」
「そうです!!光よ!!」
「それに建物が壊れるのは何時もの事だし」
「“それはおかしいと思う。”」
◇◇◇◇◇
「ゲーム開発部に先生?!なんでセミナーを襲ってるの?!」
「・・・・・いや、ヴェリタスも関わってるな」
ヴェリタスのメンバーが何人か来ている。
――ゲーム開発部とヴェリタスが手を組む目的がわからない
ユウカが、先生達に言う。
「どういう事ですか先生!!それにゲーム開発部!!あなた達は何をしてるかわかってるの?!」
「“ヴェリタスの『鏡』が必要でね・・・・・ユウカ、後でいっぱい叱られるから通してくれないかな?”」
「先生へのお説教は確定です!!」
――ヴェリタスの『鏡』が必要だと?
あれはヒマリが作った――彼奴が自慢してきた為に詳細まで知っている――ハッキングツールだ。
あれはヴェリタスにある筈。
何故セミナーを襲撃する必要がある?
「“まあ、通してくれるわけ無いか・・・・・よし、皆!!戦闘開始!!”」
「通すとでも?」
「アロナ、サポートだけ頼む」
「了解」
「・・・・・まあ、この戦闘自体が意味が無いかもしれないがな」
俺達が此処に居る時点で先生達の目的――陽動は成功しているのだから。
だが――負ける気は無いが。
俺は拳銃を握って突撃する。
相手の銃口の先から目を離さず、銃弾を避けながら走る。
「“流石に強いね。”」
「流石生徒会四天王、リア充白髪ヤローです!!」
「失礼だな?!」
暫くして、先生が言う。
「“よし、時間だ。総員撤退!!”」
――やはり陽動だったか
俺は追わずにその背を見送った。
「アトラ、追わないの?」
「明らかに陽動だからな。状況の把握の方が先だ。愛しの先生への説教は後にしてくれ」
それに気になることもある。
あの『鏡』はセミナーが没収する条件――量産が可能で、流通させることが危険視されること――を満たしていなかった筈だ。
――あれはヒマリにしか作れず、ある程度のハッキング能力が無いと使う事すらままならない
それが何故セミナーにあった?
・・・・・もしかして、会長が?
――要塞都市の問題、早めに片付けた方が良さそうだな
「アロナ、調べて欲しい事がある」
「調月リオの要塞都市についてですね」
「・・・・・何も言ってないんだが」
◇◇◇◇◇
どうやらリオ会長とヒマリが裏で動いているみたいだが・・・・・俺は放置することにした。
今のところ実害はないから、と言うよりもミレニアムプライスの方が優先度が高かったからだ。
――手は打っておいたが
あの後、ユウカは先生への説教に向かってから帰って来ていない。
どうせシャーレに泊まったのだろう。
ノアの話によるとヴェリタスのメンバーに『鏡』は取られてしまったらしい――そもそも『鏡』があることすら知らなかったが。
「マスター、お風呂上がりました。髪を拭いて下さい」
「ああ。おいで」
俺はアロナからバスタオルを受け取って膝の上に座った彼女の髪を拭く。
ノアや姉さんのお陰で慣れたものだ。
「ふふふ、まるで兄妹みたいですね♪」
「むふー。至福です」
「じゃあ、アトラの髪は私が拭いてあげましょう」
「な?!レイナさん!!アトラのお姉ちゃんは私だけですよ?!」
「意味不明なのですが??」
「というかもう拭いた後なんだが??」
様々な事を考えなくて良い時間。
自然に頬が緩むのを感じた。
「・・・・・マスター」
「うん?どうした?」
「今日はマスターと一緒に寝たいです。駄目ですか?」
「良いぞ」
「では、私もお邪魔させていただきます♪」
「な、ななな?!」
「レイナさんもどうですか?」
「・・・・・ご一緒させていただきます」
「俺の布団そこまで大きくないんだが??」
「私の布団を持っていけば解決ですね!!」
「姉さん、そこまで俺の部屋にはスペース無いんだが」
「ではリビングで寝ましょう!!さあ!!」
「はぁ・・・・・まあ、良いが」
――結局、予備の布団を出して皆で雑魚寝をしたのだった
――ヴェリタス
ミレニアムサイエンススクールの部活の一つ。ハッカー集団。エンジニア部とも仲が良い。
――『鏡』
明星ヒマリが作ったハッキングツール。ミレニアムのサーバーにアクセスできるレベルのハッカーでないと使い熟せない。