『捻れた終着点』から、『あまねく奇跡の始発点』へ   作:文才の無い本の虫

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Hihumi:楽しい一日、一時の休息

 

 

 

 

 

「・・・・・私、二つで一つってお得だと思うんです」

 

 

隣に座る少女――トリニティの阿慈谷ヒフミ――がぽつりと言った。

 

 

「ふむ・・・・・お得だとは思うが、それがどうしたんだ?」

 

 

「あっ・・・・・いえ、通販を見てまして」

 

 

ヒフミと出会って―――ブラックマーケットで襲われている彼女を助けるという衝撃的な出会いではあったが――から一年と数ヶ月が経ち、彼女は良く家に遊びに来る様になった。

 

トリニティ所属の俺としては、彼女がペロロというマスコットのグッズを求めてブラックマーケットに定期的に赴いている事は宜しくはないとは思うのだが・・・・・彼女は定期テスト中であろうとトリニティを抜け出す様な人物なので、止めても意味は無い。

 

その為、妥協点としてヒフミがブラックマーケットに行くときは俺を呼ぶという約束になっている。

 

――度々、俺から金を借りるのはどうかとは思うが

 

 

「アトラくん」

 

 

「どうした?」

 

 

「少し頼みがあるんですけれど・・・・・今度、ペロロ様の着ぐるみが手に入る予定なので、着てくれませんか?」

 

 

「?・・・・・別に良いが」

 

 

特に何も考えずにそう言うと、たちまち彼女は笑顔になった。

 

 

「本当ですか?!やったー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――微笑ましいな、とこの時の俺は思っていた

 

――だが少し後に、俺はこの時に良く考えて返事をするべきだったと後悔することになる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、ヒフミさん。もうこんな時間ですし・・・・・晩ごはん、一緒にどうですか?」

 

 

「カヤさん、良いんですか?!」

 

 

「ええ、勿論ですよ。二人分も三人分も『お姉ちゃん(超人)』である私にはさしたる労力ではありません!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「〜〜〜♪」

 

 

トリニティにある一軒家の一室で、笑顔の少女が鼻歌を歌いながら鳥をモチーフにした大きな着ぐるみを作っていた。

 

彼女の指先は、まるで数千時間も練習したかのような熟練の動きで正確に着ぐるみを縫い上げていく。

 

――中身(・・)出て来ないように(出て来れないように)壊れないように(逃げられないように)、強く、緻密に、無意識で神秘を込めながら着ぐるみ()を創り上げる

 

 

「アトラくんが着てくれるのが(私のモノになるのが)楽しみですね!」

 

 

彼女が作業をしている部屋には数え切れないほどの鳥をモチーフにしたグッズと、とある人物の写真が至る所に貼ってあった。

 

彼女は自分の手元を見て、更に上機嫌になる。

 

 

「ええ、本当に楽しみですっ」

 

 

――向日葵の様な笑顔を浮かべる彼女の瞳には、炎の様な(狂気)が宿っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

数日後、俺はヒフミの家に来ていた。

 

目の前には俺より少し大きい位のペロロの着ぐるみが前面についた大きなチャックを開けて鎮座していた。

 

――何故か嫌な予感がする(『マスター、さっさと逃げてください』)

 

しかし、約束は果たさなければ。

 

 

「ヒフミ、これを着れば良いんだな?」

 

 

「はい!!」

 

 

彼女は向日葵の様な笑顔を浮かべている。

 

・・・・・気の所為か。

 

俺はペロロの着ぐるみの前から中に入る。

 

何故前にチャックがあるのだろうか?

 

案外、中の居心地は良かった。

 

眠くなって・・・・・

 

 

「これで、良い・・・・か・・・・・?」

 

 

――薬品?!

 

力が抜けていく。

 

まさか・・・・・

 

 

「あははっ♪」

 

 

彼女の笑顔を最後に、俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「あはは、あははは!!最っ高ですっ!!」

 

「アトラくんが悪いんですよ?アトラくんの人助けは美点ですけれど、いささか女の子を引っ掛け過ぎです!!・・・・・ナギサ様も、ミカ様も、セイアさんも!!アトラくんが助けた皆がアトラくんに色目を使ってます!!由々しき事態ですっ!!それならアトラくんを大事に大切に仕舞い込んじゃえばば良いんです!!そしたら誰もアトラくんに色目を使えませんし、アトラくんが危険な目に合うことも、誰かの為に傷付く事も、それで女の子を引っ掛けることも有りませんっ!!我ながらとっても名案だと思います!!」

 

「そうだ!!遠くに行きましょう!!妥協したくありませんし、誰も知らないような、私達の物語を描ける様な場所へ!!」

 

 

 

 

 

「ですから・・・・・・・・・・ずっと、ずーーーっと、一緒ですよ、アトラくん♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

――痛い

 

 

「・・・・・っ」

 

 

「心配。大丈夫ですか、マスター」

 

 

目を開くと、心配そうに覗き込むアロナの顔が見える。

 

彼女は成長した姿で、膝枕をしてくれていたようだ。

 

――日に日に存在が軋んでいく

 

あの夢は、その苦痛が見せたものなのだろうか・・・・・。

 

 

「ああ・・・・・大丈夫だ」

 

 

「・・・・・大丈夫に見えません。酷い冷や汗です。私の膝枕での休息を推奨します」

 

 

真剣な目で彼女は言う。

 

 

「私の膝枕は、お嫌いですか?」

 

 

「・・・・・少しだけ、甘えさせてもらう」

 

 

体の力を抜く。

 

暫くして、頭にアロナの手が触れた。

 

 

「・・・・・アロナ、何を?」

 

 

「なでなで、です。何時もはマスターになでなでされているので、今日は私がマスターをなでなでします。よしよし、です」

 

 

――酷く、安心する

 

少し、苦痛が和らいだ気がする。

 

眠くなってきたな・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「入眠を確認。おやすみなさい、マスター」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







――アトラ

変な夢を見てしまった。この後、ヒフミが「二つで一つ」や「お得」という単語を言うたびに身構えるようになったとか。



――アロナ

アトラが寝ている間、優しく微笑みながらアトラの事をずっと撫でていた。それを見たカヤ曰く「ちょっと会長が言っていた『赤ちゃんみたいによしよしされたい』という発言の意味が少しわかった様な気がします・・・・・」とのこと。



――ヒフミ

地味にペロロ着ぐるみをアトラに来てもらえないかな〜と思っていた。普通に夢の内容は有り得る。




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