白部屋のフィジカルモンスター   作:うぇいぱー

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綾小路はどこまで絆せばええんや。


2.

 

ホワイトルームという非人道的な育成機関、その目的は人工的に天才を作り上げること。

 

オレこと綾小路清隆も、この施設で非常識極まりない教育を受けるべくして白い部屋に迎えられた。

 

父である綾小路篤臣は言う、人は道具だ、と。

 

その教育方針によって引かれたレールの上にある、数々の無理難題を俺は毎日淡々とこなしてゆく日々を過ごしていた。

 

周りの同い年と思われる人間は、教育に耐えきれず段々と数を減らしてゆく。

 

また1人と数を減らしていった頃、確かオレは4歳だったか。オレは、目の前にある試験用紙に並べられた数字の羅列を即座に認知、理解し回答していた。

 

当たり前の作業をこなしていると、ある1人の人間が施設の職員に罵声を浴びせられていた。

 

だが、そいつは動かない。

 

何度職員が注意しようと、本来やるべき作業に戻ることはなかった。

 

職員も痺れを切らしたのか、説教をすることをやめ、定位置へと踵を返していった。おそらく、暴言を被った彼の目は、他の人間と同じようになっているだろう、そう考えていた。

 

ただ、彼の目には微かな光があったような気がした。

 

彼はそのまま自席へ戻り、試験用紙に対して、頭を捻らせていたような気がする。

 

…何をしていたんだオレは。出来損ないの道具を見る暇は、どこにもない、不要だと無駄な思考と行動を切り捨て、やるべきことに注力する。

 

だが、オレはその日、あの目に見た輝きを忘れることが、できなかった。

 

そう、その日からなのだ。

 

ホワイトルーム内に変質者が出た、という噂が出回ったのは。

 

曰く、奇声を発し、顔を血のように染め上げながら筋肉トレーニングをするホワイトルーム生がいるらしい。そいつは、例え吐瀉物をぶちまけても、手の皮が剥けて床に血が染み込んでも、その身を鍛えることを止めずにいるとの事だ。

 

そいつのどこから来るか分からない執念、そして未知への興味に駆られ、オレは、らしくもなくそのホワイトルーム生の様子を見に行くことにした。

 

そこには、目の光を絶やすことなく血反吐を吐く彼がいた…。

 

オレは、若干引いた。

 

だが噂通り、どれだけ身体に不調が出ても、彼はその身を鍛え続けていた。

 

オレは、骸のような目をしながらそいつを見ていた。どうせカリキュラムの内容に耐えかねて自傷紛いなことをしている人間だ、と結論づけた。

 

精神を蝕まれ、このように自傷行為をして脱落していった人間がいることを、オレは知っている。

 

前例に習い、こいつも同じようになる、と考えていると興が冷めてしまったため、オレは自室へと戻ることにした。

 

それから5日後に、彼が倒れたらしい。

 

死んだか、脱落者として施設の方で辻褄が合わされたのかは知らないが、意識不明の状態であるとのことだ。

 

 

 

 

 

 

 

それから3日後、何食わぬ顔で彼はまた奇声をあげていた。

 

オレは、若干引いた。

 

死んでいなかったのか…と心のどこかで安堵が産まれていたのは、気のせいだったか。それにしても、彼の運動能力や筋力が極端に上がっている気がする、いやこれは間違いないはずだ。

 

腕立て伏せするだけで、温かみのあるそよ風は普通発生しない。それに汗臭い。

 

オレは、彼の身体への疑念を持ちつつも、普段となんら変わりの無い、この部屋と同じ真っ白い日々を過ごしてゆく…ことはできなかった。

 

やはり、彼はおかしい。1日、1週間、そして1月経過していく事に何かしらの変化が起きており、度々彼は白目を剥いていた。

 

オレは、そんな彼を「面白い」と感じるようになってしまった、興味が湧いてしまったのである。

 

カリキュラムが終わる都度、彼の部屋へと足を忍ばせて赴き、彼のトレーニングの様子を伺うことが増えた。そのためか、気絶した彼の第一発見者はオレとなることが多くなっていた。

 

単純に彼は、見ていて飽きない。

 

異常な執念と気力、そして何より、今現在この部屋の誰よりも優秀であるとも言える、このオレを超えうる存在になるのかもしれない、という期待と関心がオレには確かに存在していた。

 

オレと同等か、それ以上となるか、あわよくば戦友となるかという、自分がこの施設で優れていると自覚する前の頃の期待を、彼に密かに添えていた。

 

だが、半年後にその期待は崩れ落ちた。

 

父曰く彼、西園寺廻那は、綾小路清隆の忠実な駒として動くためにその身を躍動させているのだ、と。

 

オレは失望した。

 

結局は、オレの足に擦り寄る小物だった。

 

西園寺廻那という名前も、そこで初めて知ったというのに…。

 

オレの淡い期待は、塵と化した。

 

結局、他人は道具であるという認識を強めざるを得なかった。

 

そんなことを考えていた6歳頃、身体訓練の演習中に声を掛けてきた奴がいた。オレは、オレの行動をするために1度無視を決め込んだ。

 

刹那、殺気とともに頬を掠る拳。

 

「無視すんなよ、寂しいだろ。」

 

…不意打ちとはいえ、オレの目を持ってしてもギリギリの回避だった。

話しかけ殴ってきた相手は、オレを失望させた張本人、西園寺廻那。

 

こいつ…仮にもオレの駒として動くために、その身を鍛えているんじゃないのか?

 

だが、将来的に仕える予定の相手にあの殺気立った拳、そしてオレを見据える彼の澄んだ瞳からは、オレへの忠誠心が全くもって感じられなかった。

 

オレの胸の内で、微かに淡い期待が再誕するのを感じる。

 

「…何の用だ。」

 

オレは、問いかける。

 

「ガチンコ勝負とでも洒落こもうぜ。綾小路くん。」

 

こいつは交戦の意を示してきた。普段であれば、必要のないことと一蹴し、断わりの旨を伝えていただろう。

 

しかし、西園寺廻那の実力はいかほどなのだろうか?

そんなつまらない興味が、オレの口の形を変えていた。

 

「いいぞ。全力でこい。」

 

「しゃあぁぁあ!!」

 

「!?」

 

言葉を言い終わった瞬間、目の前には岩のごとき拳。

紙一重でオレは避ける、明らかにオレを殺すつもりの戦闘スタイルだ。

 

こちらも全力を出す他ないと考え、距離を取って構える。

相手は、オレがとった分の距離を詰めて来る、おぞましいスピードだ。

 

ただ動きは単調であり、目が慣れれば避けることも簡単になっていった。

 

「シッ!」

 

オレは、大振りな腹を狙った右からのパンチをかわし、顔面にカウンターをヒットさせる。

 

だが、顔から血が出ようとも相手はそのまま腕をはらい、オレの脇腹を殴打する。

 

「っ…!」

 

明らかに力が入ってないとはいえ、鉄パイプで殴られたような痛みが、横腹に走った。早急に勝負を決めないと敗北も有り得る。

 

オレは、カウンターから繋ぐ攻めの姿勢を崩さず、着実に相手の体力を減らしていった。顔に12発、腹に9発、足にそれぞれ13発、オレの全力の蹴りとパンチを喰らわせても、こいつは戦意を保ったままだった。

 

流石にここまで来ると、オレでも疲弊してくる。

 

そんな思考の緩みを刺すように、相手はオレに向かって脳天に踵落としを決めようとしてきた。

 

流石にこれは不味いと考え、せめてのもの抵抗として両腕をクロスし、頭を守る。

 

だが、その足は力なく振り下ろされた。

 

彼はいつも通り、白目を剥いて立っていた。

 

どうやら、相手も疲弊していたらしい。更には一方的に傷を負っていたのだ、無理もないだろう。あ、倒れた。

 

その後、彼はすぐに意識を取り戻した。意識が戻るやいなや、先程の戦闘で負けたことに落ち込み、反省をしているのが目に取れた。

 

…アレが決まっていれば負けていたのは、オレだったかもしれない。オレは西園寺廻那への期待と興味を再び、そして、より強く感じていた。

 

「なぁ西園寺。」

 

「え?…え、ああなんすか。」

 

オレは先の戦闘でこいつに足りない部分を説く。

 

「勝者にこんなことを言われるのは、癪かもしれないが、西園寺の場合、力を上手く操るための術をもっと学んで、身につけていくべきだと思う。それに、相手の動きを見切る目、次に何がくるかを、体の動きから予測する思考回路を組み立てていけば、より強くなれるかと思うんだが…。」

 

「……お前天才か?今足りてないの、本当にそれだわ。」

 

少し考え込んだ後に、西園寺はそう言ってオレに輝かしい目を向けてきた。

 

その目をオレに向けたまま…

 

「じゃあ、格闘技術の訓練と享受よろしく!綾小路!!」

 

図々しいなこいつ。

 

 

 

そうしてオレは、西園寺の格闘技術を伸ばすため、そしてオレ自身が、彼の能力を学ぶため彼と関わっていった。

 

彼のトレーニング方法はまぁ…大方予想はついていたが、気絶がゴールの、頭のおかしい鍛え方であった。

 

オレではここまで出来ない。純粋に凄いと感心した。

 

ただ、オレも西園寺から教わった自主トレに取り組み、さらなる高みへと己を鍛えていった。

 

そして何より、この関係を持てたことは俺史上、最大の幸福とも言えよう。

 

齢7歳で西園寺と、いや廻那と関わってオレは「自由」を知ることが出来た。

 

彼には自分がある、人は道具じゃないだろ馬鹿かと。

 

彼には悩みがある、俺は皆から吐きすぎて多分嫌われてると。

 

彼には野望がある、ここから出ると。

 

おそらく、ホワイトルームの外では普通のことなのだろうが、オレにとって廻那の考え方は、まさに革命そのものであった。

 

無機質な日々、昨日と今日が入れ替わってたとしても、気づけないような虚の日常。

 

他者から与えられたことをやってのけ、他者から与えられた力で、この身を操る。

 

そうやって生きていたオレには、廻那がまるで光のように感じられた。

 

彼の目は、個としてのオレを見てくれている。

 

そんな奴だからこそ、オレは廻那を友人として、自然にオレの中で結論付けることが出来たのだろう。

 

友人…友人か、とてもいい響きだ、友達っぽいな(?)

 

オレも廻那と関わって、俗世を見るという野望が出来た。

廻那のフィジカルとオレの頭脳、合わされば無敵そのものだ。

 

オレは廻那と共に自由になって、オレのために生きてやるんだ。

 

そんな決断を静かに下しながら、オレは目の前のチェスの駒を動かしていった。

 

…それと同時に、後ろでは廻那が大岩を破壊していたらしい。

 

あいつの戦闘技術の吸収能力とセンスは異常だ、破片がこちらに飛び散ることもない。しかし、なぜあいつは曇った硝子の方向に手を振っているんだ?

 

まぁいい、あと少しでチェックメイトだ。

 

 

坂柳と西園寺の関係性をどうするか。

  • 付き合え。
  • このままで。
  • 作者の自由でも良し。
  • 最早別キャラと付き合え。
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