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父が出資した、天才を人工的に生み出す人材育成計画
その名を「ホワイトルームプロジェクト」
才能は、個々の先天的な能力によって規定されており、それ以上の力や思考を養い、扱うことは不可能である、と私、坂柳有栖は考えます。
そんな私にとって、このホワイトルームという場所は、私自身の考えを、真正面から否定してしまうような場所なのです。
ただ、思考の渦に呑まれ、身勝手な結論を下す行為は、まるで愚者そのもの。
百聞は一見にしかず。
私は、父に付き添う形で、その白い部屋へと7歳の頃に赴くことにしました。
感想としては…まぁ、色々ととんでもない場所でした。
先に述べた考えを持つ私が、このような感想抱いてしまった理由、というよりも原因は、2人の同い年と思われる少年たちに出会ってしまったからです。
1人は、ホワイトルームプロジェクトにおいて、最高傑作と謳われる人間、綾小路清隆。
彼の実力には、正直心を奪われました。
彼は目の前にあったチェス盤を、まるで自分が、相手に次の行動を命じているような手つきで駒を動かし、洗脳の如く、自らに勝利を献上させているような形で、勝負を進めていきました。
これがきっかけで、私がチェスの研究を始めるようになったのは言うまでもありません。
正直、彼の実力を見ただけで、私がこの施設に来た目的や、意義が達成されたと考えてよいでしょう。
彼をこの手で葬ることにより、私の理論は完遂される。
そんな予感、いや確信があったのです…。
…そう、「あった」のです。
彼の実力に惚けていると、彼の後ろにいるもう1人の少年が、大岩の前に指を向けて構えを取っており、精神統一をしているのが目に入りました。
そうです、彼です。
もう1人の原因、人の枠を超えた怪物、西園寺廻那。
彼が目を開いたその刹那、大岩からワンインチ離れていた彼の拳が、自分の背丈と同等、もしくはそれ以上の大岩を、音速紛いのスピードで放ったパンチで、粉々に破壊していました。
…わ、私は今、何を?何を見たのですか…?
愕然とした私の中に渦巻くのは、戦慄と純粋な恐怖でした。
先天性の心疾患により、一切の運動を禁じられている私と彼では、明らかに生物としての格が違うと、本能的に理解してしまった。
彼が岩を粉砕してから、少しの時間が経った後、私は、冷静な思考を取り戻すことに専念すると同時に、頭の中では、彼への疑問が絶えず溢れかえっていました。
え、なんでこちらに彼は手を振っているのですか???
このガラス確かマジックミラーでしたよね???
私は、彼への疑問をより深めつつ、ほとんど頭が空っぽの状態で、彼に手を振り返していました。
「いや…、アレはなんなのですか…?明らかに、神から何かしらの才を受けているとしか思えません…。」
私は、隣で苦笑いをしている父に対し、問いかけました。
「有栖…アレは、いや彼、西園寺君はこの施設において最もイレギュラーと言える存在なのさ…。確か4、5歳頃までは、一般的なホワイトルーム生と同等の能力しか無かったはずだ。が、突如、死に際まで登り詰めるような自主トレーニングを始めたことで、結果としてあのような怪物的な破壊力を手に入れてしまったらしい…。」
「…いや、更によく分かりません…ヒトは、己の肉体のみであそこまでの力を解放することが可能なのですか…?いえ、そんなこと絶対に有り得ません…。」
「気持ちは分かるが、有栖、西園寺君は紛れもなく、努力によってあの力を手に入れたんだ。綾小路先生も、彼の対処には手を焼いていてね…。」
その後父から、西園寺廻那という少年の、肉体の神秘についてのエピソードをいくつか教えてもらいました。
暴力的な犯罪者を、その身一つで半殺しにしただとか。
丸太を貫通出来るほどの硬い拳を手に入れるために、骨が見えるまで木々を殴りつけていただとか。
私が魅了されるほどの力を持つ、綾小路清隆と唯一、対等と言える関係であるだとか。
…もう、私の理論が云々だとか言っている場合では無くなってきました。
とりあえずその日は、あまりにも自分にとって刺激が強すぎたため、微妙に気分が悪いまま家へと帰ることにしました。
ですが、1週間や1ヶ月、更には1年程経つ頃には、私なりの理論を、更に強固なものとすることで自己の精神安定を図り、ひとまず、綾小路君を将来的に屠る算段を企てることに集中することで、私は落ち着きを完全に取り戻すことが出来ました。
もう西園寺君を目の前にしても、私という軸がブレることはありません。
ということで、およそ1年ぶりに再びホワイトルームへの見学を、父と共にすることにしました。
西園寺君は、鉄パイプでバルーンアートをしていました。
…もうなんなんですかこの人は…。
「あ、有栖、大丈夫かい…?」
傍から見れば、その時の私の表情はかなり間の抜けていたものだったのでしょう。
そんな娘の顔を初めて見た、と言わんばかりの声色で父は、私を心配していました。
「えぇ…まぁ、少なくとも1年前よりかは、心に余裕ができていますので…。」
とはいえ、規格外にも程があると思います。私のより強固となった理論に、例外を作ることは、あまりしたくはありません。
…しかし…悔しいですが彼を葬ることは私には不可能です。
…ですが仮にも、彼はこのホワイトルームの育成カリキュラムをここまで乗り切ってきた、本物の強者。
この施設で育った彼を否定しなければ、私の理論は不成立と化す…。
ある意味での矛盾を孕んだ、独自の苦悩を抱えていた私は、とりあえず、彼がこの施設から姿を消すかもしれないという、エゴを含んだ薄い望みを持ちながら、私は定期的に、ホワイトルームへと見学に向かうのでした。
1年後、彼は、自衛官3名を右腕のみで倒していました。
2年後、彼は、投石を正拳突きで生じさせた風圧で弾き返していました。
3年後、彼は、指一つで重機用のタイヤを破裂させていました。
あぁもう思い出したくもありません…。
何時からか、私は、西園寺廻那という、常に予想を上回る人間に辟易し、ホワイトルームへ赴くことをやめてしまいました…。
彼のことは、1度保留にしておきましょう…。
これ以上頭痛薬を飲む生活は懲り懲りです…。
次回、脱走します。
坂柳と西園寺の関係性をどうするか。
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付き合え。
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このままで。
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作者の自由でも良し。
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最早別キャラと付き合え。