脱走します。ちょっと長いです。
それに気づけば評価バーが赤くなってました…泣ける。
御年14歳、西園寺廻那です。
俺たちは、明日の夜明け前、ちょうど9月に差し掛かる頃に、ホワイトルームから逃げ出すことにした。
ここを出ることにおいての当初の目的である、コンクリの壁を破壊するという目的は、実を言えば、3年ほど前に達成済みであった。
だが、清隆の方で練り上げている計画の完成は、かなりの時間を要するらしく、俺が駄々をこねたら、アイツに金的を食らったため、この日まで大人しくしていた。
まさに「石の上にも三年」状態だったわけだ。
俺なら腹立って、その石かち割るけどな。
そんな清隆の計画は主に2つ
1つは、この施設の運営方針に懐疑的な大人、もしくは、善性を保っている大人の協力を仰ぐこと。
俺たちは、世間一般的に見れば中学三年生のクソガキだ。実質的な親の許可がなければ、日銭を稼ぐこともままならないため、大人の力が必要なのは明白だ。
というわけで、そんな大人の立場に選ばれたのが
この人は言うなれば、根っからの善人みたいな感じだ。
事実、脱落してった同期の子供らにもめちゃくちゃ好かれてたし、身体能力が異常で、他の研究員やホワイトルーム生にとって、祟り神を見るような視線を浴びていた俺にも、何一つ嫌な顔せずコミュニケーションをとってくれていた。
皆に嫌われてることに悩んでいた俺にとって、松雄さんは心の拠り所だった。
日頃から、彼にとっての「坊ちゃん」ポジションである清隆の存在もあって、今回の俺たちの計画に賛同してくれたのだという。感謝してもしきれない。
計画の2つ目は、松雄さんからの提案もあって、高度育成高等学校なる場所へと入学をすること。
ホワイトルームの出資者の1人である、坂柳成守が理事長を務めており、最大の特徴として「外部との接触」を禁じている、俺たちにとっての理想郷である。
加えて、希望進路にほぼ100%進むことが出来るらしい。
意図的な留年とかって出来たりします?
冗談はさておき、上記2つが清隆の計画、及び目的である。
1つ目は、既に達成しているのが明白だが、2つ目に関しては、手続きの資料、主に中学校までの成績、評価などの情報源が必要となってくる。
俺たちにとって、かなりの鬼門となる…はずだった。
松雄さん…!偽造資料の作成も、坂柳理事長への秘密裏な説得も、何もかも行っててくれてたんですか…!?
松雄さんの労力が頭2つぐらい飛び抜けてる。本当に申し訳ない。
清隆は、俺の動き方だったり、どのようなルートで抜け出せば、より安全に、より安易に脱出が可能となるかだったりを、綿密に企ててくれている。
「足」の松雄さん、「頭脳」の清隆、この2人のおかげで計画の9割は形を成し得ることが出来た。
あ、俺の役割は「破壊」一択です。
ほんまにごめん。これしか出来ないんです…。
まずは、今後の生活資金を賄うため、ホワイトルーム内にある金庫を、なるべく静かに破壊する。1000万ぐらいは持って行きたい。
次に、施設のモニタールームにある機材を一掃する。
これからの犠牲者を出さないためにも、この行動は必要だと考えたのだ。
機材の中に保存されていた、残虐非道な教育の様子を写した監視カメラ映像は、既に松雄さんの手によって、複数個のUSBメモリに複製済みなので、心置きなく、ぶち壊したいと思います。松雄さん…!!(感涙)
そして次、外へと出る予定の場所へ行くまで、施設の壁をこれでもかと破壊する。
松雄さんから、施設の見取り図を受け取り、なるべく壁が崩れやすいであろう場所を、重点的にぶっ壊してく戦法だ。
最後に、松雄さんが車を停めてあるところから近い、俺の部屋の壁を破壊し、待機している清隆を連れて、逃げ出す。
これにて計画完遂、の予定だ。
ちなみに、これらの計画を考えたのも清隆です。
脱出したら俺は、施設の金で2人に焼肉とやらを奢ることを決意した。
ただ、懸念もあった。
ここまで派手に、あの綾小路篤臣の施設を壊せば、どれだけの大人が俺たちに牙を剥くか、どれだけの人間が俺たちを追いかけてくるのか、と。
そんなことを考えてたら、政界の重役に目を付けられたのか、ホワイトルームプロジェクトが今年から停止になりました!!!!
神はいる。本気でそう考えてしまうところだった。
この施設の存在に否定的な意見を述べる大人は、少なくはないということの確認がとれた事実と、普段よりは緩んでいる、今のホワイトルームの監視体制ならば、脱出する好機である、と考え、月の境目である、明日の夜明け頃の脱出を決めたのだ。
だが、9月に差し掛かる頃に脱出をする決め手は、実の所特にはない。
というのも、俺の我儘でそうなったからである。
高度育成高等学校という、俗世の中の箱庭ではなく、せめて入学する前の半年間は、本物の世間を見てみたい。
そんな子供染みた願望から、この日に脱出することが、決まったのである。
昔から望むことだけは1丁前だな、と清隆に鼻で笑われた。君もちょっとこの話聞いて、気分高揚してた癖に。
自分のこと棚に上げちゃダメだよ清隆君、ニコニコ。
計画実行の深夜1時、俺は清隆と、俺の部屋の前で最後の打ち合わせをしていた。
「いいか廻那。金庫は、なるべく静かに。モニタールームの機材と壁は、万が一の追っ手の足止めのために、派手に壊してくれ。」
「金庫ってそのまま持ってきちゃダメ?」
「馬鹿か。車を潰す気かお前は。…第一、金庫の警備システムは松雄が、出来る限り停止させているとはいえ、確信を持って、安全だと言い切れない。だからこそ、静かに、そして手早く、金を盗んで来てほしい。」
ま、松雄さん…!
「了解了解。金盗んで、機材壊して、壁も壊して、俺の部屋ね。」
「順序としては、その通りだ。が、知っての通り、お前の部屋の壁は、改装されて俺の部屋のものとは違う。完全に鉄で出来た、鋼の分厚い板だ。効率を鑑みて、お前の部屋からの脱出を希望したのは俺だが…正直心配だ。お前は大丈夫か?廻那。」
清隆…お前、人の心配とか出来るようになったんだな…。俺は本当に嬉しいよ…。
「舐めてもらっては困るぞ、清隆。鉄アレイを消しゴムサイズに丸め込んだ人間が、その程度で屈するとでも?」
「ふっ…。調子に乗るなよ、廻那。」
そうは言っているものの、清隆の目には俺に対する信頼の色が見えた。
俺は、輝きを増した瞳で清隆を見て言う。
「じゃあ、ぶっ壊して来るわ。清隆、待ってろよ。」
「ああ。存分にぶっ壊してこい。廻那。」
俺の14年間を捧げられたこの施設、存分に恩返ししてやるよ。
俺はクラウチングスタートの姿勢を取る。
清隆に軽く笑みを伝えて、脹脛の筋肉に力の意識を集中させ、足に熱を帯びる。
───貯蓄した力の解放により、その身はまるで弾丸のように打ち出された。
恐らく、後ろにはソニックブームが起きたような、空気の輪があることだろう。
気がつけば、目の前には金庫室。壁に耳を当て、人が居ないことを確認した後、ドアを外して中へと入る。
清隆の言葉を思い出し、俺は細心の注意を払う。
音による防犯機能があるかもしれない、熱感知システムが生きているかもしれない、と考え、俺は、全身の血管を締めて体温を調整し、息を殺して金庫へと足を進めていった。
ダイアル式の、巨大な金庫の目の前に、俺は立っていた。
俺は指に力を込め、まるで点描画のように、金庫の扉に円を描くようにして小さな穴をいくつか開け、蓋のようにして、円形状の部分を破壊し、扉を開けた。
…100万円の札束が意外と薄くて萎えた。
とりあえず、出来る限りポケットの中へ金を詰め込み、金庫室を後にした。
次に目指すは、俺たちを上から見下ろしていた、あの忌々しいモニタールーム。
高速でモニタールームへと辿り着いた俺は、その勢いを殺すことなく…
「うぉおおおおおぉお!!!」
そのまま体当たりした。どうだこの野郎。
轟音と共に、警報を鳴り響かせながら、俺は、数百万相当はするであろう機材の数々を破壊していった。
コードが弾け飛び、モニターの破片が床に飛び散っているほど、跡形もない状態にしてやった。
すると、奥の方からまだ施設の中にいた職員たちの、喧騒と足音が聴こえてくる。
モニタールームは彼らにとって、研究の経過や成果の保存部屋。魂そのもの。
そんなところからの警報となれば、彼らは一目散にここへと赴くため、他の場所の警備が甘くなり、彼らを足止めすることだってできる。
俺は、ポケットからとある書き込みを機材の残骸に置いて、職員達が来る前に、その場から姿を消した。
あとは自室へと向かうだけだが、その前に追っ手対策として、自室までの廊下を破壊しておく必要がある。
俺は、横にある白く、くすみのない壁に、腕を突っ込んで、ヒビを散らす。
「
そう言って俺は、爆走を始める。当然、腕は壁に突っ込んだまま。
すると、どうだろうか。俺が元いた場所からどんどんと離れる度に、横側の壁が崩れ落ち、大きな瓦礫となって廊下を圧迫してゆく。
ただ走るだけでは、味気がないので、片足を地面にめり込ませつつ、床を剥がす要領でその足をあげ、もうひとつの足を再度めり込ませる、という走法で施設を破壊していった。
俺の部屋の前にいる清隆を視認したところで、俺は、今自分が出せる
──視界がブレる。視野が段々と狭くなってゆく。
それでも、目の中にあるのは無神経な白色。
どこを見ても、いつまで経っても変わらない、
──ただ、一瞬だけ見て捉えられた友の肌色。
俺の努力を示す、床に染み付いた赤色。
俺は鉄の壁に向かって、空中で両足を向ける。
「俺のこれからの人生、薔薇色だと、いいなァっ!!!」
全力を出すための信号を、身体へと伝えるトリガー。
俺が勝手に決めた言葉。かっこいい。
───鋼鉄の壁が、その形を忘れるように凹み、貫かれた。
俺の全力のドロップキック。足ガックガクだぜ…。
「き、清隆ぁ!早く車向かおう!座りたい…!」
「廻那…。お前はやっぱり、見ていて飽きないよ。」
「おう、ありがとう!早く座ろうぜ…!」
そう言って俺は、清隆をおぶってなるべく早く、木々をなぎ倒しながら走り、松雄さんの車の元へと向かうのだった。
「じゃあな!!クソ部屋!!!」
最後に、外観から見てもボロボロになっていた、汚れた白い箱に向かって俺はそう言い残した。
──これで計画は完遂された。後の人生は、俺の勝手だ。
「なんだ…これは…。」
綾小路篤臣は、驚愕の表情を隠せない。
目の前の残骸は、私が生涯を賭けて蓄積してきた情報を、共に記録してきた物体だという。現実としてこのようなことが存在するだろうか、いやない。
「綾小路先生…!やはり、昨日まで施設内にいた、ご子息の綾小路清隆、それに、西園寺廻那の姿が見当たりません…!」
「西園寺の部屋ですが…鋼鉄の壁が貫かれておりました…。厚さにして約60cm、人の成す技とは言いきれませんが、そこから脱走したとして考えてよいでしょう…。」
いや待て、違うな。目の前にある現状よりもこちらが大問題だ。
清隆と西園寺が消えた?脱走だと?巫山戯ているのか?
部下の言う戯言になどに耳を貸せずにいた私は、再び、目の前の破壊痕に目を向ける…。
足元から、くしゃっという音が聞こえた気がする。
それは紙だった。私に踏まれ、黒ずんだ白い紙。
拾い上げて見ると、文字が書いてあることに気づく。
「俺にとって、お前は最高の筋トレ道具だったぜ!!!!
ヒトは道具。心に刻んでおいてやるよ!!!! かいな」
「糞ガキがぁぁぁあぁああ!!!!!!」
その日、私の毛根は死滅した。
コメディ感が強すぎた気がしますが、どうでしたでしょうか?
次回から原作に入ります。
アニメ見返しつつの投稿になると思うので、ちょっと頻度が下がるかもです。
坂柳と西園寺の関係性をどうするか。
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付き合え。
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このままで。
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作者の自由でも良し。
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最早別キャラと付き合え。