なっがい坂柳視点。
父が理事を務める高度育成高等学校への入学一日目にして、私は帰りたくなってしまいました。
具体的には、座席表を見てしまった時ですかね。
私の隣の席には「西園寺廻那」という文字が刻まれていました。
彼であろう名前を見た瞬間、蘇る畏怖の念と混乱。
…は?…いや、そんな、有り得ませんよ…。だって彼はホワイトルームによって、俗世間から隔絶させられているんですから…。
若干の寒気さを覚えつつ、私はとりあえず席へと座ることにしました。
…えぇ、そうですよ。西園寺なんて苗字ありふれていま…せんね…。ですが廻那という名前は珍しくも…いや、とても珍しいですね…。
私が思考に呑まれていると、隣の席付近に人が立っているのが見えました。
…結果は予測通りでした。
「ど、どうして貴方がここに…。」
出来る限り体裁を保とうと努力しましたが、声は震えてしまいました。
「え?…いや、まぁ隣なんで。あ、俺は西園寺廻那!よろしく坂柳!」
逃げたいです。
一応軽く自己紹介をしたものの、やはり恐怖は拭えません。
考えてもみてください…私の隣に居るのは、この教室の人間なぞ片腕で蹂躙できるような化け物なのですよ…恐れじと振舞うことなんて不可能です…。
「坂柳…俺たちって、もしかして会ったことあるか?」
は??
き、聞き間違いでしょうか…?
私の耳に入ってきたのは、稲妻のような一言でした。
なんで分かるのですかこの怪物は…。
な、何とかして誤魔化さなければ、ホワイトルームのことを知っているとバレたら、何をされるのか分かりません…。
「えっ…そ、そうでしたっけ?申し訳ございません、私の記憶には少々…。」
「あー、なんか変なこと聞いちゃったね。ごめんな。」
セーフです…と思いきや、西園寺君は眉間に皺を寄せて懐疑的な雰囲気を醸し出していました…。
詮索しないでください…お願いします…。
西園寺君の発言に気が気でない状態の私でしたが、担任の先生がクラスに入ってきてくれたおかげで、何とか一命を取りとめました。
担任、真嶋先生はこの学校のルールについての説明を行いました。
…なるほど、実に面白い説明ですね。
ホワイトルームを見学することで培われた思考のメリハリ、もしくはメンタルにより、私は先生が述べた発言の意図を充分に推測することが出来ました。
質問もしてみましたが…私の問いに沿った答えは貰えませんでした。
しかし、「答えられない」という回答は、この学校の特異的なルールを考察する上で、深みを与えてくれる可能性がありますね…。
副産物として、懐疑的な雰囲気をクラスに発生させることも出来ました。優秀な駒が比較的早めに手に入りそうで、助かりますね。
「…やるねぇ坂柳。」
ヒュッ。
し、心臓が止まるかと思いました…急に話しかけないでください…。
「そ、そうでしょうか?私はただ、先生に質問をしただけですよ…?」
何とか言葉を連ねることが出来ました…。危なかったです。
…いえ、このままじゃ駄目です坂柳有栖。まるで私が西園寺君の手中に置かれているようでなりません。
彼を、そして綾小路君を超えるために、私は今まで努力を怠ってきませんでした。
ここで1つ西園寺君の実力を計り、いずれこのクラスの中心核となるためにも、彼に話しかけるのです…!頑張れ私…!
「…さ、西園寺君は、気づいていましたか?先生の発言の、本当の意図に。」
や、やりました!彼に言葉をかけることが出来ました…!
大きな一歩です。いつまでも怯えてばかりの矮小な人間ではありません…!
「まぁ一応…。それに見て、あの監視カメラの数、明らか不自然でしょ。お前らの実力見せてもらいますよ、って言ってるよあいつら多分。…ここは強制教育機関かっつーの。」
先に述べましょう。私は矮小な人間でした。
彼に話しかけるという偉大な1歩を踏み出した私は、おそらく調子にのっていたのでしょう。
「ふふっ、やはり…流石ですね。」
…私は、彼のホワイトルームについての情報を含んだ言葉に、少し笑みを浮かべて反応してしまったのです。
確実に施設について既知であることがバレました…。目が死んでゆくのが分かります…。
「…てかやっと、普通に目を見てくれるようになったな。」
「あっ…。」
…見ないで。
私は反射的に彼から目を背けました。
それに先の発言で、彼はこの学校の歪さを語る上で私以上の情報を用いてきました…。なんだか負けた気分です…。
なんでしょうね、この日を境に私の脳が焦げたように感じます。
…あ〜お空が綺麗ですね〜。
西園寺君は私の視界に入らないでください…。
そんな波乱万丈な日から始まった私の学園生活は、意外と順調に進んでいきました。
神室さんの万引きを目撃することで彼女の弱みを握り、早くに手駒を確保出来たことは勿論のこと、橋本君や鬼頭君などの優秀な人材も私の手駒となりつつあります。
また、ここ3週間の間で西園寺君の人となりもある程度理解することが出来ました。
思っていたよりも普通、というか少々子供っぽい感じの男の子でした、性格は。
ですが、彼自身のスペックについては未だ不透明です。
肉体が人の限界を遥かに凌駕していることは承知していますが、彼がどのぐらい頭の切れる人間なのかが定かではありません。
彼の未知数さとその実力を感じさせないような性格により、私は彼の前では、悪い意味で年相応な女の子になってしまうことが常になっていました。
それに、西園寺君関連であと1つ問題をあげるとするのなら、私の対抗勢力となりうるであろう葛城君と彼の仲が非常に良いということです。
休み時間中にお互いの筋肉を魅せあって、上腕二頭筋合コンなるものをしていた時は、本当に頭がやられてしまいそうでした。
曰く、西園寺君たちはまっするめいと?なる関係のようです…。もうやだ。
あ、頭痛薬のストックが切れましたね。放課後に買いに行くとしましょう…。
そんな5月に差し掛かろうとする最中、真嶋先生は抜き打ちの小テストを実施するとの発言をしていました。
…一旦頭をリセットさせて、こちらに集中しましょう。丁度、西園寺君の学習面での能力も計れそうですしね。
配られた問題は、私にとって非常に簡単なものでした。最後の3問目は少々時間がかかりましたが、おそらく完全回答出来ていたことでしょう。
この学校で生き残るのは、もしかすると造作もないことなのかもしれませんね。
テストが回収された後、私は小さな勇気を出して西園寺君にテストの出来栄えなどを聞いてみました。
「…西園寺君、どうでしたか?」
ちゃんと彼の目を見て、話すことが出来ました!私って偉いですね…!
「最後の3問目はちょっと難しかったよな。それ以外は余程のことがない限り、間違えないだろ。」
「やはりそのように感じましたか…。しかし私は正直、満点も狙えるかと思います。」
ふふん、西園寺君、私は貴方ですら難しいと感じた問題を完全回答することが出来ましたよ?
「まぁ、坂柳は頭良いもんなぁ。」
私はまた調子に乗ってしまったのかもしれません。
…なんですか?仮にもホワイトルーム生の癖に…。
「…嫌味にしか聞こえませんよ…。」
私は少し睨みを効かせ…ようかと思いましたが、やっぱりちょっと怖いので中途半端な目で彼を見てしまいました。
──そして来たる5月1日、それは私たちにとって激震が走った日でした。
教室へと赴き、席について周りの状況を確認してみると、何やらざわついているように感じました。
「おはよー坂柳。今日ってポイント減ってなかった?」
朝から西園寺君…!心を落ち着かせなければなりませんね…。
「そうですね、確かにポイントが減っていました。確か、94000ポイント振り込まれていましたね。」
「なるほど…坂柳もか…。つまりはクラス単位での評価ってことか…。」
「私も、とはどういうことでしょうか?それにクラス単位、とは一体…。」
「その答えはきっと、今から真嶋先生が説明してくれるよ。」
西園寺君がそう言い終わると、真嶋先生がドアを開けて教室に入ってきました。
…いや、なんで人が来るタイミングをそうも正確に見定められるのですか…。
「おはよう。これから朝のホームルームを始める…と、その前に何か質問があるものはいるか。」
「先生質問よろしいでしょうか。」
そう言って席を立ったのは葛城君でした。…惜しいですね、私の手柄にしようと考えていましたのに…。
「葛城か、なんでも答えよう。」
「ありがとうございます。単刀直入に申し上げますが、先月よりも支払われるポイント数が少々減少しておりました。何かしらの評価基準があるのでしょうか?ご回答願います。」
「いい質問だ葛城。まずは皆にはこれを見てもらおう。」
真嶋先生は、白板に何かを書き始めました。
一学年クラスポイント一覧
Aクラス…940cp
Bクラス…650cp
Cクラス…490cp
Dクラス…0cp
「これは各クラスにおける、現時点でのクラスポイントと呼ばれるものだ。1クラスポイントごとに、100プライベートポイントが支給されることになっている。入学時点では、それぞれのクラスに1000クラスポイントずつ与えられていた。…ここまでポイントを減らすことなく一月を乗り越えたAクラスは稀だ、俺は皆を誇りに思うぞ。」
真嶋先生はそう言って私たちに拍手を浴びせました。
なるほど…西園寺君が言っていたクラス単位とはこのことですか…。
それにしても、Dクラスは0ポイントですか…。
Aクラスから順にポイント数が減少していることから、このクラス分けには優劣が存在するということが容易に想像出来ました。
Dクラスは正真正銘、最悪の不良品の集まりと言えるでしょう。私の眼中にはありませんね。
「ポイントの増減における詳細な情報などは教えて頂けますでしょうか?」
葛城君は先生に追うように質問を投げかけました。私の手柄が…。
「実社会と同じだ、とだけ言っておこう。」
淡白な答えでしたね…そろそろ私も質問をしましょうか。
私は、自身の存在を誇示するように手を静かに挙げました。
「…坂柳も質問か?」
「はい、その通りです先生。まず、ポイントを増やす機会などは今後存在するのでしょうか?また、私達のポイントが仮にBクラスを下回った場合、私達はBクラスとして扱われるのでしょうか?」
「…後の質問についてだが、その通りだ。ポイント数の格差から分かる通り、Aクラスから順に優劣を定められてゆく。また、ポイントを増やす機会はある。直近で言えば、中間テストだな。成績次第で最大100のクラスポイントが加算されるだろう。」
「なるほど、ありがとうございます。」
概ね私の予想通りでしたね。
「皆からすれば中間テストなぞ、ただのボーナスのように思えるやもしれない。だが、そんな中間テストには注意すべき点が幾つかある。まずはこれを見て欲しい。」
真嶋先生は、この前の小テストの結果をまとめた用紙を白板に貼り付けました。
私は…100点ですか、良かったで…す?うん?
同率1位、西園寺廻那…100点…??
隣からほぇ〜という間の抜けた声が聞こえました。
「これは前回の小テストの結果だ。何名かが非常に高い点数を取っていたため優秀だとも言える半面、下位の者らは気をつけるように。何せ、平均点を2で割って算出される基準点に満たない、いわば赤点の者は即退学となるからな。」
先生のその発言により、教室は一瞬大きなざわつきに満たされました。
…正直、そんなことよりも私は西園寺君のことに全神経を注いでいました。
西園寺君は、結果だけを見れば私と肩を並べる程の学力を保有し、神が宿っているとしか思えない肉体の持ち主。
これからどうするか、彼を私の手駒に…いえ、おそらく難しいでしょう。では彼は葛城君の派閥に…?…そうであれば、なんとしてでも阻止しなければなりません…。
そもそも彼は派閥に入るのでしょうか…?それとも自身がリーダーになる機会を探っている…?
…うだうだしていても仕方ありません、もうここは正面突破です…!
「…他に質問があるやつは居なさそうだな。最後に、我が校が唄う希望進路の確約の恩寵を受けられるのは、卒業時にAクラスであった生徒のみとなる。我が校独自のシステム…Sシステムを駆使し、皆が無事Aクラスとして未来に羽ばたけるよう願っている。」
…よし、真嶋先生のお話が終わりました…。勇気を振り絞って、少し強気に西園寺君に問い詰めるのです。彼のこれからについて…!
「さ、さいおn…。」
「あ、それと西園寺。入学当初にお前が結んだ契約は、今を以て効力を失った。…誰よりも早くSシステムを見抜いたことは賞賛に値する。お前には特に期待をしているぞ。」
「あざす。」
…今、先生はなんと…?
西園寺君にそう言葉を並べた後、先生は授業準備のために職員室へと戻ってゆきました。
「どうした坂柳?さっき俺を呼んだみたいだったけど…。」
「西園寺君…あ、貴方気づいていたのですか?入学当初からこのシステムの根幹に…。」
クラス内での彼の動きについては後回しです。まずは、彼のその実力を見抜きましょう…。
「8割方はな。補給されるポイントの増減がクラス単位なのは、個々人でポイント数が変わると思ってたから、ちょっと予想出来なかったけど。それ以外は大正解だったらしいぞ!…見てこれ!こんな契約書まで書かされたんだよ?ヤバくない?」
西園寺君は笑顔で私に1つの紙を見せてきました。…100万ポイントが支払われる代わりに、彼に箝口令を敷くものでした。
契約履行日は約2週間前…私もある程度は予測していたとはいえ、彼はたった1週間でこの学校の真髄に辿り着いたというのですか…?
「西園寺君…貴方、一体何者なのですか…?」
「…坂柳ならわかってるんじゃないかな。」
ちょっと腹の立つニヤケ顔で西園寺君は私を見てきました。
…伊達にホワイトルーム生では無い、ということですか。
やはり私の理論に、彼は収まらないのでしょうか…。
天才である私でさえも、異能の彼には勝てないのでしょうか…。
…うん?
そうですよ、彼は天才ではなくもはや「異能」です。
人の枠をはみ出た異端者です。
…これって私の理論に彼を組み込む必要性って、そもそも無いのでは…?
……そ、そういうことにしておきましょう、これは言い訳ではありません。単なる事実ですよ、ええ。
私はちょっと救われた気がしました。
…だからといって、彼に負けるつもりはありませんけどね…!
何故なら私が彼に勝ったその時を境に、私はもうひとつ上のステージへと辿り着けるのですから…!
まさか、ここにきて私に成長の兆しが見えるとは思いませんでした。ちょっと嬉しいですね。
「…西園寺、ちょっといいか。」
私が西園寺君と会話をし、思考に耽っていたところを葛城君が西園寺君に話しかけてきました。
「どうした、葛城も。」
「単刀直入に言おう、西園寺。…お前はどちらに付くんだ?」
──瞬間、私の目にもギラついた光が宿りました。
「西園寺君…このクラスは実質的に葛城君と私の派閥にほぼ二極化しています。これから先クラスのまとまりを強固にするには、このクラスを指揮すべき『1つの派閥』が必要と考えられます。そうですよね葛城君?」
「あぁ、坂柳の言う通りだ。いずれ俺たちのどちらかが中心となりこのクラスを引っ張ってゆくだろう。」
「…そこで、普段2人と仲が良い俺はどうするのか、と。」
「えぇ、その通りです。」
「あぁ、その通りだ。」
顎に指を当て、西園寺君は深く考えている素振りを見せていました。
──しばらくして彼は顔を私たちの方に向け、言い放ちました。
「いや、普通に協力しろよお前ら。」
うっ…。
「片や温和に平等にクラスの内情を把握し、整理できる葛城。片や外向的で、全体の士気と意識を高められる坂柳。内務省と外務省みたいな感じでやってけばいいんじゃない?お互いのこと別に嫌いって訳じゃないんだろ?…さて、エゴ丸見えの派閥争いなんてやってる場合なんですかね…。」
呆れたような顔をしながら西園寺君は、私たちに向かってペラペラと言葉を羅列していきました。
そもそもリーダーって1人じゃないといけないのか、とか
今クラスに亀裂が入ったら後で面倒くさくなるぞ、とか
ぐ、ぐぅの音も出ません…。
「ど、ド正論だな…坂柳…。」
「え、えぇ…葛城君。何も言い返せませんよ…正直…。」
完膚無きまでの西園寺君の正論は、私たちの派閥争いを一刀両断しました。
「ちなみに俺はどちら側にも付きません!…友人としての相談なら何時でも乗るからさ。協力し合うってのが、俺の考えるAクラスの最適解だと思うよ。」
…普段であれば野心とプライドによりリーダーとなることを渇望しており、先程の協力という発言にも牙を剥いていたでしょう。
ですが、如何せん目の前にいる生命体は西園寺廻那です。歯向かうなぞ無理ですね。
あ〜また脳が焦げてゆくのを感じます…。
「…西園寺君はリーダーにならないのですか?」
…本当にこれ私の発言ですか?
「やらん。親愛なる隣人ポジションでお願いします。」
「…協力体制を1度築きましょうか…葛城君。」
「…そうだな坂柳…。」
私と葛城君は派閥が云々という争いをやめ、それぞれの得意を活かしつつこのクラスに尽力することを誓うことで、葛城君がクラスを整え、私がクラスの底を上げ、西園寺君が私たちを調節する、という三すくみが完成しつつありました。
先程までこのクラスの中心核となると言っていた私の威勢はどこへやら…。
「あ、お空が綺麗ですよ〜西園寺君。」
「え?…あ、あぁそうだな坂柳。」
っ!?…今、私は無意識に言葉を…?
…そろそろ医者にでも行きましょうか…。
ぽやぽやしてる坂柳から話しかけられて、廻那は内心喜んでました。
次回から一気に進めたいです。
坂柳と西園寺の関係性をどうするか。
-
付き合え。
-
このままで。
-
作者の自由でも良し。
-
最早別キャラと付き合え。