誰も思い出せない、そういう未来にしたから。それを聞いた輝夜は立ち上がりキレた。
「貴方それで良かったわけ!?貴方にとってえーりんは親のような存在じゃないの?!依姫や豊姫も!」
「大切だ。だが自分が育てていた子が龍になったなんて言われたらどうなっていたか。今はどうか知らないがあの時代の都の兵なら確実に俺を実験材料にしていただろう。たとええーりんが居たとしても」
「なら依姫達の記憶を消したのは?貴方の幼馴染みなんでしょ?」
「………僕を忘れて生きてほしかった。ただそれだけだ」
ケジメの為と都の防衛に廻ったら妖怪と見做されて斬られたし。
「………はぁ…えーりんの計画が全て狂っちゃったわね…」
「? どういうこと」
「えーりんはもう数週間後にわたしを迎えに来るわ」
「そういえばなんで月の民がここにいるんだ?」
「えーりんが死を克服する薬…蓬莱山の薬を作ったわ。それを渡しに飲ませた。その薬を飲むことは禁忌だったらしく、わたしは地球に追放。その後回収して貴方の言っている通り実験材料にされるわ。それを阻止するためにえーりんは地上に降り、わたしを逃がす予定よ」
「そんな薬を…」
「そして出来れば貴方という存在の噂話でも探しながらね」
なんで?
「貴方、知らないだろうけど結構有名よ。人間の中では。最初に聞いたときは驚いたわ。えーりんが探している人、いえ龍はまだいると」
「どんな話があるんだ?」
「百鬼夜行を止める青い龍、自然を操る青い龍、人間を喰らう青い龍と。上げれば切りが無いほどの沢山よ」
「? 僕は自然を操ることなんて出来ないよ?」
「へ?なら木が急成長して盗人を捕まえたって話は?」
「あぁ、それは
「………貴方の能力ってホントわかないわね…」
「わからなくていいよ。こんな妖怪の能力なんて」
「妖怪?」
輝夜が首を傾げると共に僕の隣に紫が開く目がいっぱいの空間への入口、スキマが開かれた。
「妖怪と言っても幻想郷の守護龍を頼んでいますわ」
「え、どしたお前その口調…」
「お初にお目にかかります、輝夜姫。わたしは八雲紫。幻想郷の賢者ですわ」
紫がそう言うと輝夜は俺を凝視した。
「貴方、浮気のこと依姫に言いつけるわよ」
「付き合ってねぇよどっちとも」
「え、あらそう」
「しかし困りましたわね、輝夜姫は月に戻ると実験材料、貴方も月に連れて行かれる可能性があるのですよね?」
「そう…かもな」
「なら貴方も逃げるの手伝ってよ。いいでしょ?八雲紫」
「えぇ、その代わり輝夜姫、貴方には幻想郷に来てもらいます。それでもいいですか?」
「もちろんよ」
勝手に話を進めないでいただきたい。
「大丈夫よ。貴方なら月の民なんかに負けないわ!」
「依姫が来たら負ける自信がある」
「ケジメをつけたんじゃないの?」
「なに、輝夜よ。この者を護衛に着けると?」
「ええお爺さま。彼は凄い力を持ち、わたしを護ってくださるわ」
「おぉ〜そうかそうか。では輝夜姫を頼んだぞ」
「はっ!」
なーんで護衛してるんだろ。別に未来を変えれたのに。
「てなわけでお爺さま達がいない今、貴方の知恵を借りたいのよ」
「はぁ…知恵ですか…」
「一つは今の人間の力で月の民を凌げるかって「無理に決まってんだろなに言ってんだお前」そうよね…」
計画通り輝夜は皆に月から使者がやってくること、月に帰らなければならないことを公言した。遠い街から腕が立つ者など、兵力をかき集めることには成功した。
「だがまぁ…月の奴らがどう出るか…」
人間を皆殺しにするか、はたまた無殺傷で輝夜を回収しに来るか。
「貴方はギリギリまで隠れてて。もし逃亡が失敗したと貴方が判断したら月の民をどうにかして、もしくは月の民達から地上の人間を護って!」
「…わかった」
「良いわね?もし月の民が来てもわたしが貴方がいる倉に入れなかったら、それはもう失敗と同等だと思いなさい」
そして決戦の夜、俺は輝夜の屋敷にある倉にひっそりと隠れる。
日が完全に沈み、満月が頭上に来た時。外が騒がしくなる。月から奴らがやってきたんだ。
「……さぁ、どうなるか…」
今のところ悲鳴が聞こえない。そして輝夜が来ない。
俺はゆっくりと立ち上がり龍へと姿を変え―――
〜輝夜〜
駄目だった。えーりんとわたしはすぐに船へと乗せられ、ゆっくりと浮上する船に乗って離れていく地上を見るしかなかった。小さくなる家々、等々雲を突き抜けようとしたときだった。
「…輝夜、あの子について何かわかったこととかある?」
あの子、多分彼のことだろう。えーりんが突然彼について聞いてきた。
「えぇ、それはもう…大収穫よ」
「そう…もし月で会うことが出来たら、その時に話してくれる?」
えーりんはもう諦めかけている。わたしは首を横に振って立ち上がる。
「月でなんて待ち遠しいわ」
「輝夜?何を言って…」
「今よ、今来なさい。幻想郷を守護する龍ならば月の民からわたし達を守って!」
そういう輝夜を取り押さえようと兵が輝夜に近付いたその時だった。船が急停止し、そこから動かなくなる。
「なにごとだ!?」
「操作不能!何かが船体に巻き付いています!!」
『これでいいか、輝夜姫よ』
「…へ?」
後ろを振り返るとそこには青い龍がいた。わたしなんか一口で食えそうな程に大きかった。
「ちょっと!遅いじゃないの!」
『別に良いだろう。ほら、頭の上に乗れ。えーりんは何処にいる』
「多分この下よ!」
頭に乗ったことを確認すると彼はその巨大な顎を使って床を捲り、その手を使ってえーりんを摘み出す。
「これは…!輝夜、これはどういう!?」
「説明は後でもいいんじゃない?八雲紫!お願いできる?」
「ハイハイ、わかってるわ」
スキマが開かれ、俺はえーりん達を先に入らせる。その後、月の民の船を見ていた紫も摘んでスキマに入れ、最後に俺も入った。
「紫、月には手を出すな」
「わかってるわよ。それよりもほら、あの今にも泣き出しそうな人をなんとかして」
振り返るとえーりんが信じられないと言った顔をしていた。
「……久しぶりだな。えーりん」
「生きていたのね…あの日からずっと…」
幾千年ぶりの再会だと輝夜と紫は静かに見ていた。