腐っても透き通るような世界   作:砂糖ノ塊

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2話です。
アビドス3章来るらしいですね。



#2 アビドス対策委員会と腐乱死体

「うへ〜、今日はなんだか暑いね〜」

 

 日光が砂を熱し、やけに気温が高い日のアビドスの昼下がり。

 小さく丸まった背中が、気だるそうに廊下を歩いていく。

 小鳥遊ホシノは日課の昼寝のため、調度良いサボり場所を探して、いくつもある空き教室を巡っていた。

 

「まったく……もう少し昼寝しやすい気温になってくれるといいんだけどね〜、こんなに暑いと熱中症になっちゃうよ〜」

「あ! いた!」

「ホシノ先輩〜、会議の時間ですよー!」

 

 声をかけたのは同じくアビドス廃校対策委員会のメンバー、黒見セリカと十六夜ノノミだった。

 二人は定例の対策会議のため、小鳥遊ホシノを探しに来たのだった。

 

「ほら! 行きますよホシノ先輩!」

「うへ〜……こんなに暑いのに元気だねー、セリカちゃんは」

「確かに今日は暑いですね〜」

「こういう時にこそ! しっかりやっていかないとですよ!」

 

 そうして教室に着いた彼女らは、中で待機していた二人の生徒と共に、いつもの会議を始める。

 

「ん……ホシノ先輩は来た」

 

 銀行強盗、もとい砂狼シロコが言う通り、これで対策委員会のメンバーは全員集合したことになる。

 しかし、小鳥遊ホシノはある違和感に気づいた。

 

「あれ〜? 先生がいないみたいだけどー?」

「そうなんです。今日は先生もいらっしゃる日なんですけど……」

 

 奥空アヤネが困惑したような声で返答する。

 彼女らの『先生』、つまりはシャーレ担当顧問の『先生』であるが、彼は一連の騒動の後もアビドスに力を貸し続けている。

 今日もその一環で、対策会議に顔を出す予定だったのだが、大人の彼が時間になってもやって来ない。

 

「案外、先生も熱中症で倒れちゃってるのかもよ〜?」

「不吉な事言わないでください……」

「でも珍しいですね〜、先生が時間に遅れるなんて」

「ん……みんな、あそこ」

 

 砂狼シロコが指差したのは、窓の外。アビドス高等学校のグラウンドである。

 時期外れの暖気で異様なほど熱された砂上に、どこか見覚えのあるものが横たわっていた。

 

「人みたいですね〜」

「シロコ先輩、あれってまさか……」

「多分、セリカの想像してる通り」

「うへ〜、おじさん冗談だったんだけどな〜」

「言ってる場合じゃないです! 助けに行きますよ!!」

 

 そうして対策委員会のメンバーは、グラウンド上に放置され、今まさに息絶えたような腐乱死体の回収へ向かった。

 無論、これが彼女らの『先生』である。

 

「これ、死んでる?」

「ん、先生は元々ゾンビ」

「ァ……」

「あ、生きてますね〜」

「これを生きてるって言っていいのでしょうか……?」

「なんだか先生と初めて会った時を思い出すね〜」

 

 いつにも増して身体が崩れている。それも仕方ないことだ。

 外は猛暑で、男は先生で、そしてゾンビだった。

 

「それじゃあ、そろそろ会議を始めようか〜」

「ちょ、このままでいいんですか!?」

「ア゙ア゙……」

「先生もこう言ってるし大丈夫だよ」

「……何で言ってることが分かるんですか」

 

 黒見セリカは至極真っ当な質問を投げかけた。

 

「そりゃ〜、分かるよね?」

「ん、当然」

「これ……私がおかしいの……?」

 

 先生との信頼関係によって変化する、コミュニケーションの方法。

 特に信頼関係が構築できている一部の生徒には、彼の言ったことが完璧に理解できるのだ。

 

「ところで、先生はどうしてグラウンドで倒れてたんですか?」

 

 奥空アヤネの質問に対し、先生は身振り手振りも混ぜながら説明した。

 

「なるほど〜、つまり整理すると〜」

「先生はシャーレからここに来るまで、身体が崩れないよう厚着してきたものの」

「先生が思っていたよりも気温が高くて」

「暑くなって、着ていた服を脱いで〜」

「そして腐乱死体と……バッカじゃないの!?」

「ア゙ア゙……」

 

 面目ないといったように両手を挙げる。

 その形相はいつもよりホラー度が高く、さながらゾンビ映画のようだったという。

 

「とりあえず保冷剤で身体を冷やしますね〜」

「これ以上ドロドロになられると、こっちが迷惑なんだから!」

「ア゙ーア゙……」

 

 そうして十六夜ノノミと黒見セリカの二名が、彼の肉体の維持という仕事に割かれてはいるが、対策会議が始まった。

 議題はかつて彼女らと先生が出会った時と変わらず、借金返済とその他諸々について。

 男は口を出さない。

 大人が解決策を提示するというやり方は、彼の主義に反する。

 

「先生はどう思いますか?」 

「ア゙……ア゙……」

「なるほど〜、いいこと言うね先生〜」

「だから何で言ってることが分かるんですか……」

 

 こうして意見を求められた際、保冷剤を装備した身体で助言をするだけだ。

 決して答えは出さない。

 彼女らが話し合い、そして納得して出した答えならば、マルチ商法だろうと、銀行強盗だろうと、スクールアイドルだろうと、男はそれでいいと思っていた。

 

「じゃあ、先生をどっかの実験場に引き渡すのは?」

「ア゙……! ア゙……!」

「うそうそ、流石のおじさんもそんな事しないよ〜」

 

 ただし、生徒が道を誤ったときにはそれを止めるのも彼の役目だ。

 男は先生なのだから。

 そして、彼女らは生徒なのだから。




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