アビドス3章来るらしいですね。
「うへ〜、今日はなんだか暑いね〜」
日光が砂を熱し、やけに気温が高い日のアビドスの昼下がり。
小さく丸まった背中が、気だるそうに廊下を歩いていく。
小鳥遊ホシノは日課の昼寝のため、調度良いサボり場所を探して、いくつもある空き教室を巡っていた。
「まったく……もう少し昼寝しやすい気温になってくれるといいんだけどね〜、こんなに暑いと熱中症になっちゃうよ〜」
「あ! いた!」
「ホシノ先輩〜、会議の時間ですよー!」
声をかけたのは同じくアビドス廃校対策委員会のメンバー、黒見セリカと十六夜ノノミだった。
二人は定例の対策会議のため、小鳥遊ホシノを探しに来たのだった。
「ほら! 行きますよホシノ先輩!」
「うへ〜……こんなに暑いのに元気だねー、セリカちゃんは」
「確かに今日は暑いですね〜」
「こういう時にこそ! しっかりやっていかないとですよ!」
そうして教室に着いた彼女らは、中で待機していた二人の生徒と共に、いつもの会議を始める。
「ん……ホシノ先輩は来た」
銀行強盗、もとい砂狼シロコが言う通り、これで対策委員会のメンバーは全員集合したことになる。
しかし、小鳥遊ホシノはある違和感に気づいた。
「あれ〜? 先生がいないみたいだけどー?」
「そうなんです。今日は先生もいらっしゃる日なんですけど……」
奥空アヤネが困惑したような声で返答する。
彼女らの『先生』、つまりはシャーレ担当顧問の『先生』であるが、彼は一連の騒動の後もアビドスに力を貸し続けている。
今日もその一環で、対策会議に顔を出す予定だったのだが、大人の彼が時間になってもやって来ない。
「案外、先生も熱中症で倒れちゃってるのかもよ〜?」
「不吉な事言わないでください……」
「でも珍しいですね〜、先生が時間に遅れるなんて」
「ん……みんな、あそこ」
砂狼シロコが指差したのは、窓の外。アビドス高等学校のグラウンドである。
時期外れの暖気で異様なほど熱された砂上に、どこか見覚えのあるものが横たわっていた。
「人みたいですね〜」
「シロコ先輩、あれってまさか……」
「多分、セリカの想像してる通り」
「うへ〜、おじさん冗談だったんだけどな〜」
「言ってる場合じゃないです! 助けに行きますよ!!」
そうして対策委員会のメンバーは、グラウンド上に放置され、今まさに息絶えたような腐乱死体の回収へ向かった。
無論、これが彼女らの『先生』である。
「これ、死んでる?」
「ん、先生は元々ゾンビ」
「ァ……」
「あ、生きてますね〜」
「これを生きてるって言っていいのでしょうか……?」
「なんだか先生と初めて会った時を思い出すね〜」
いつにも増して身体が崩れている。それも仕方ないことだ。
外は猛暑で、男は先生で、そしてゾンビだった。
「それじゃあ、そろそろ会議を始めようか〜」
「ちょ、このままでいいんですか!?」
「ア゙ア゙……」
「先生もこう言ってるし大丈夫だよ」
「……何で言ってることが分かるんですか」
黒見セリカは至極真っ当な質問を投げかけた。
「そりゃ〜、分かるよね?」
「ん、当然」
「これ……私がおかしいの……?」
先生との信頼関係によって変化する、コミュニケーションの方法。
特に信頼関係が構築できている一部の生徒には、彼の言ったことが完璧に理解できるのだ。
「ところで、先生はどうしてグラウンドで倒れてたんですか?」
奥空アヤネの質問に対し、先生は身振り手振りも混ぜながら説明した。
「なるほど〜、つまり整理すると〜」
「先生はシャーレからここに来るまで、身体が崩れないよう厚着してきたものの」
「先生が思っていたよりも気温が高くて」
「暑くなって、着ていた服を脱いで〜」
「そして腐乱死体と……バッカじゃないの!?」
「ア゙ア゙……」
面目ないといったように両手を挙げる。
その形相はいつもよりホラー度が高く、さながらゾンビ映画のようだったという。
「とりあえず保冷剤で身体を冷やしますね〜」
「これ以上ドロドロになられると、こっちが迷惑なんだから!」
「ア゙ーア゙……」
そうして十六夜ノノミと黒見セリカの二名が、彼の肉体の維持という仕事に割かれてはいるが、対策会議が始まった。
議題はかつて彼女らと先生が出会った時と変わらず、借金返済とその他諸々について。
男は口を出さない。
大人が解決策を提示するというやり方は、彼の主義に反する。
「先生はどう思いますか?」
「ア゙……ア゙……」
「なるほど〜、いいこと言うね先生〜」
「だから何で言ってることが分かるんですか……」
こうして意見を求められた際、保冷剤を装備した身体で助言をするだけだ。
決して答えは出さない。
彼女らが話し合い、そして納得して出した答えならば、マルチ商法だろうと、銀行強盗だろうと、スクールアイドルだろうと、男はそれでいいと思っていた。
「じゃあ、先生をどっかの実験場に引き渡すのは?」
「ア゙……! ア゙……!」
「うそうそ、流石のおじさんもそんな事しないよ〜」
ただし、生徒が道を誤ったときにはそれを止めるのも彼の役目だ。
男は先生なのだから。
そして、彼女らは生徒なのだから。
ストックはもうない。
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