腐っても透き通るような世界   作:砂糖ノ塊

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3話目です。


#3 ゲーム開発部とゾンビの成り立ち

 荒廃した世界。手を繋いだ二つの人影が駆け抜けていく。

 彼らはやがて失速し、近くの廃ビルに寄りかかる。

 

「はぁ……はぁ……どうやら私は、ここまでのようだ……」

「そ、そんな……しっかりしてよ先生!」

 

 男は傷だらけの身体を冷たいコンクリートに支えられながら、浅い呼吸を繰り返している。

 少女はどうすることも出来ず、ただ彼の身体に縋り付いていた。

 

「私は"感染"してしまったらしい。まったく、情けないな……視界も霞んできたよ」

「先生!」

 

 男の皮膚は血色を失い、徐々に人でない何かに変わっていく。

 

「早く逃げなさい。まだ、私の理性が残っているうちに……」

「嫌だよ先生! ユズも、アリスも……ミドリも、先生まで私を置いていくなんて、そんなの酷いよ!」

「モモイ」

 

 男は少女の名を呼び、頭を優しく撫でる。

 

「どんな姿になろうと、どこへ行こうと、私はずっとモモイのことを想い続ける」

「先生……っ!」

「せめて、モモイが私を殺さなければならないなんて事がないように……できるだけ遠いところで彷徨うとするよ」

 

  男はいつものような軽口で、いつもより弱々しく微笑むと、少女を突き放した。

 

「生きろ。私の分まで生きてくれ」

 

 少女はもう振り返らない。

 朽ちていく男の身体に、雨が降り始めた。

 

 

 

「ア゙ア゙……」

「モモイ、全然違うそうです!」

「ちくしょう!!」

 

 ここはミレニアムサイエンススクール、ゲーム開発部の部室。

 四人の少女と一人の男が、今日も今日とて賑やかな日常を送っていた

 

「まぁ、正直お姉ちゃんの願望しか入ってないし、私たちを死んだことにするのは流石にないし」

「うぅ……でも流石にネタ切れだよ〜……」

 

 うなだれる少女、才羽モモイ。

 ゲーム開発部のシナリオライターである。

 

「というか最初から無理な話だったんだよ! 先生の生い立ちを推測するなんて!!」

「お姉ちゃん、始まる前はあんなに自信満々だったのに」

 

 そう指摘するのは彼女の妹、才羽ミドリ。

 この突如始まった「先生の過去を推測するゲーム」は、やはり才羽モモイの思いつきである。

 

「アイデアを出す良い機会だと思ったのにな〜」

「仕方ないよモモイ……ノーヒントで先生の生い立ちを当てた人なんて、ミレニアム、キヴォトス中を探してもいるかどうか……」

 

 ゲーム開発部部長、花岡ユズがそう付け加え、才羽モモイを慰めた。

 彼女の言う通り、男の生い立ちを知るものは誰もいない。

 

「噂だと先生の生い立ちを当てた人には多額の賞金が出るとか……」

「え!? そこまでする!?」

「"そこまで"しても分かってないんでしょ。無理ゲーだよ」

 

 先生。

 キヴォトス中を探しても、これ以上特異的な存在は居ないだろう。

 ただでさえ謎の多いシャーレ所属と言うだけでなく、彼の肉体は異質そのものと言っても差し支えない。

 男は先生で、ゾンビだった。

 

「ところで、先生は何のゲームをやっているのですか?」

 

 ゲーム開発部最後の一人、天童アリスが先生の行動に興味を示し、隣に座った。

 ちなみに現在、先生がしているのはゾンビを撃ち殺す、バイオでハザードなゲームである。

 

「アリス知ってます! フレンドリーファイアというやつですね!」

「アリスちゃん……ちょっと酷いよ……」

「ア゙……」

 

 画面の中では先生の操作するキャラが大量のゾンビに襲われている。

 やがて『GAME OVER』が表示された。

 

「今度はアリスの番です!」

「ア゙ア゙……」

 

 アリスは先生からコントローラーを受け取り、ゾンビを撃ち始める。

 男はそんなアリスを、どこか複雑そうに見ていた。

 

「でも先生って、ほんとにゲームの中のゾンビとそっくりだよね」

「ア゙……?」

「確かに、そっくりそのままゲームの中から出てきたみたい」

「先生……先生は何でそんな姿なんですか……?」

 

 ゲーム開発部の視線が、約一名を除き、男に集中する。

 その視線に気づき、男は首を回して彼女らの方へ向く。

 そして少しの沈黙の後、男は口を開いた。

 

「ア゙ア゙、ア゙ア゙ア゙……ア゙ア゙ア゙? ア゙ア゙。ア゙! ア゙ア゙ア゙!? ア゙ア゙、ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙……」

「「「……」」」

「ア゙ア゙ア゙。ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙。ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙……! ア゙ア゙ア゙ア゙? ア゙ア゙ア゙ア゙? ア゙ア゙!」

「「「……?」」」

 

「ア゙、ア゙ア゙……ア゙ア゙ア゙、ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙。ア゙ア゙ア゙、ア゙ア゙ア゙。ア゙ア゙ア゙ア゙。ア゙ア゙ア゙」

 

 男は三人に語り追えると、再びアリスのプレイ画面の方に向き直った。

 

「いや分かんないよ!!」

 

 才羽モモイの心の叫びだった。

 

「親愛度が足りないから分からないんですよモモイ!」

「そー言うアリスは先生の言うこと分かるの!?」

「はい! 先生は『私の秘密を暴こうなんて百年早い!』と言っています! ね?」

「ア゙!」

 

 頷き合う男と少女。

 少なくとも意思の疎通は可能なようだ。

 

「それと『ヒントなんて甘えたものは一切やらん!』とも言っています!」

「えぇ……」

「まぁ、少なくともアリスちゃんが先生とコミュニケーションできるなら問題ないよ。お姉ちゃん、先生の生い立ちの別案考えるよ」

「え!? 無理だよ!!」

「当てたら部費に困らなくて済むようになるんだから、頑張って」

「ミドリとユズも一緒に考えてよー!」

 

 こうして今日も、ゲーム開発部の平和な一日が過ぎていく。

 

「(あれ、アリスは先生の言ったことが分かるなら、さっきの説明も分かったんじゃ……)」

 

 ユズが振り向くと、男が人差し指を顔の前で立てていた。

 

「ユズ? どうかした?」

「な、なんでもないよ……」

 

 

 

「ア゙……」

「礼には及びません。勇者なら当然のことをしたまでです」

「ア゙ア゙ア゙ア゙……」

「それより先生、いくら言ってることが伝わらないからと言って、デタラメを喋るのは良くないと思います」

「……ア゙ア゙ア゙」

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