魔理沙が珍しく一人で遊び来て、こんなことを言い出した。
「なぁ、アリス。命に重さってあると思うか?」
「はぁ?」
「だから重さだよ重さ。重量って言ったらわかるか?」
なぜそんなことを質問するのだろうか?
質問自体より、そんな質問をしようと思った過程に興味が湧いた。
「どうしてそんなこと質問する理由を聞きたいわ」
「別に理由なんてないぜ、ただ…」
「?」
「ただ気になっただけだぜ」
はぐらかされた。
言いたくないってワケね。
「…重さねぇ。あるんじゃない?」
とりあえず適当に答える。
「その重さを計る秤はどこにあるんだ?」
あ一、もうしつこいなぁ。
お茶請けとして相応しくない話題だと感じたので無理矢理話題を変えた。
「知らないわよ。それより魔理沙。」
「んー?」
「この紅茶、まずくない?」
「おまっ、コレ高かったんだぞ?」
先程まで、真剣な顔をしていた魔理沙に笑顔が戻る。
「だってこの紅茶甘すぎるし、口の中にベタベタ後味が残るんだもの」
「アリス、お前わかってないなぁ…このベタベタな後味がいいんだぜ?」
「しつこい味は嫌いよ、私はさっぱりした紅茶が好きなの」
そんな話をした翌日だったと思う。
魔理沙が自殺した。
理由はわからない、わかるはずがない。
他人の気持ちなんて、察することは出来ても100%理解することなんて出来やしないのだから。
「魔理沙が死んで、もう3ヵ月ね…」
たかが人間が一人死んだところで幻想郷は何も変わらない。
博麗の巫女は異変を解決し、吸血鬼は紅茶を啜る。
古道具屋の主人は不思議な道具を売り捌くし、妖精達は悪戯ばかり。
何も変わらない。
何一つ変わらない。
魔理沙なんて奴は最初から居なかった、そう言われても不自然ではない程に。
ああ、そういえば変わったことが一つだけあったか。
「私、魔理沙が死んでからほとんど誰にも会ってないな…」
私は独りの時間が好きだ。
だから必要だと感じる時以外、出かけないし、家に人を呼んだりしない。
でも、魔理沙が生きていた頃は、しょっちゅう魔理沙が幻想郷の住人と一緒に遊びにくるものだから、私の家は騒がしかった。
まぁ、その時は煩いと感じていたけど、今となっては懐かしい。
魔理沙が連れてきた人達と触れ合って感じたことがある。幻想郷の住人達はそれぞれ自分だけの輝きを持っている。
魔理沙はそれぞれの輝きを結んで、新たな輝きを作っていた。
まるで星を結んで、星座を描くように。
「命の重さ、か……」
命の価値、命の値段と言い換えることもできる。
ああ、なんて陳腐な言葉だろう。
実際に声に出してみると、馬鹿馬鹿しさが際立つ。
命の重さなんてモノが存在するかは人それぞれ。
私にとっては存在する…と思う。
私にとっての重さはそれは…死んだ人間、死んだタイミング、死因、重さを計る自分自身の心境、そういうモノが関わってくる。
だから命の重さなんてコロコロと変わってしまう。
ソレが私の思う命の重さ。
魔理沙にとって命の重さとはなんだったのだろう?
魔理沙はなぜ、死ぬ前にあんな質問をしたのだろう?
実際、魔理沙の命は重くは無かった。魔理沙が居なくなっても、大きな変化は無い。
ただ、彼女が繋いだ人と人の縁が消えただけ。
彼女の死が誰にも影響を与えてないわけではないが、それはあまりにも小さな影響だった。
そう、湖の真ん中に小石を投げても、小さな波紋しか広がらないように。