『一番機早瀬ユウカ……出るわよ!!』【ブルアカ×ロボットSS】   作:一旦しーた

1 / 2
Vol:1『舞い降りる翼』

「立って、走るよ!!!」

 

 つまづいた妹を立ち上がらせ、いたるところから黒煙を吹く大通りを走る。

 乗ってきた車は既におしゃか。もう目的地まで目と鼻の距離だったが、追手がいくつも迫ってきてる。逃げる道を探すことさえ簡単ではなかった。

 

「お姉ちゃん! こっちの路地裏は!?」

 

「ダメ! 誰がいるかわからないし、ビルが倒れてきたら逃げ場がない!!」

 

 ――連邦生徒会長がいなくなってからというもの、キヴォトスの治安は急激に悪化。予想をはるかに超える世紀末と化していた。

 それというのも、カイザーインダストリーが開発していた乗り込み式のパワーローダー、いわゆる作業用の二足ロボットに武装を取り付けた悪質な改造品が、ある時を境にブラックマーケットを中心にかなりの数が出回り始めた結果、テロリストはもちろん、街の不良集団までもが簡単に圧倒的な力を手にできるようになってしまっていた。

 

「走って……! ミレニアム自治区はもうすぐだから……っ!!」

 

 元は作業用とはいえ、圧倒的な装甲と大型の火器を装備したそれは、もはや巨人と言って差し支えない脅威。個人で携行できる火器程度で太刀打ちできる代物ではなかった。

 各自治区は急激に増加した武装集団の対応に追われ、学校のある中央エリア以外まで手が回らず、郊外エリアの治安はもはや地に落ちていた。

 

「お姉ちゃん……もう、息が……!」

 

 妹の手は離さず、少し歩くスピードを弱める。遠くからはまだズシン……と歩行兵器の歩く音が響いてくる。

 

「……そうね、これだけ音が離れてるなら少しだけ――」

 

「そこか!? いたぞ!!」

 

 上から声がしてバッと顔を向ける。歩道橋からヘルメットを被った少女がこちらを見ていた。

 遠目で分かりづらいが、メットのマークと状況を鑑みるに半連邦体制側のテロリストの構成員でまず間違いないだろう。

 

「まずい……っ!?」

 

 妹の手をぐいと引っ張って路地裏へ逃げ込む。崩落の危険とか言ってる場合ではなかった、一刻も早く追手をまかないと……。

 後ろから銃声が聞こえるが無視して走る。ちらりと妹の顔を覗くがもう顔色も悪い。息も絶え絶えでハッハッと頑張って小さな呼吸を繰り返している状態だった。

 

「これ以上は……」

 

 数メートル走ったところでビルの隙間を抜け、もう一つの大きな通りへと出た。

 どっちに逃げるべきか……と逡巡する間もなく。ギャリギャリと地面がこすれる音が遠くから聞こえてくる。音のする方を見ると、足をキャタピラにしたタイプの歩行兵器が舗装された道路を削りながらこちらへと向かってきていた。

 

「キャタ付きまでいたの!? 追いつかれる……っ!」

 

 ぐいっと妹の手を引っ張って逃げようとするが、重しに引っ張られたように逆に身体が硬直してしまう。見ると、妹はその場にへたりと座り込んでしまっていた……。

 

「マユ……!?」

 

「もう、無理っ……これ以上は……走れない……っ」

 

 ぜーぜーと乾いた息を吐く妹がもう一歩も走れない状態なのは明白だった。

 ガリガリと地面を削る音は地面が揺れるほどの距離へと近づいていて、最悪の事態を予感させるには十分すぎるほどに焦燥感が駆られていく。

 

「クソッ……せめてマユだけでも逃さなきゃ……!」

 

 自分の体力の限界が近いのも忘れて妹の身体を背負う。

 来た道は追手が来ているだろうから使えない、ビルに入ってもビルごと潰されたらおじゃん、一か八か他の小道を目指すしかないと判断して一気に駆け出す。

 しかしそれを許してもらえるわけもなく、歩行兵器が持っている大型マシンガンを構える音が聞こえてくる。

 妹だけは……! と祈る暇もなく向けられた銃口の光が見え――――

 

 

 ――――瞬間、ガキュンッッと空気を引き裂くような音が響いた。

 

 

「――ゲヘナの武装集団へ告げます。ここはすでにミレニアムの自治区。ミレニアムにおいて無許可でのパワーローダーの改造、及び使用はすべて認められていません。直ちに戦闘行為を中止、武装解除して投降しなさい!」

 

 大きな羽を携えた白い機体が空からゆっくりと降りてくる。

 早く逃げなきゃいけないのに、まるで天使みたいだ。とその場から釘付けになって動けなかったのを今でも覚えている。

 白を基調としたキレイな機体に黒と青のライン。そして肩と盾に刻まれたミレニアムの校章。レールガンの一撃で腕を破壊されたテロリストのモノアイが恨めしそうにその機体を睨みつける。

 

「こちらはミレニアム生徒会組織『セミナー』もう一度告げます。ゲヘナの武装集団、直ちに武装解除して投降しなさい。さもなければ治安維持のために鎮圧行動へと移ります」

 

 ――その瞬間テロリストの機体が動いた。

 姿勢を低くくし向けられていたレールガンの銃口をかわして、まだ残っている左腕から隠しナイフを取り出す。素早く掴み直して振りかぶったかと思った刹那、

 

「そう来ると思った、わよッ!!」

 

 くるりと機体を翻してナイフをかわし、回転を活かしてそのまま機体の土手っ腹に蹴りを入れ込んだ。蹴られた方は吹き飛ぶとまではいかなかったものの、大きくバランスを崩してその場に倒れ込む。

 ズズン……と砂埃と大きな衝撃がこちらに伝わってきて、ようやく我に返る。

 

「これが……キヴォトスで最強のローダー部隊……ミレニアムの『セミナー』……!」

 

 呆けていると、セミナーの白い機体がギュインとこちらへ向き直る。びくと身体が反応して、どうしようかと思案していると、コクピットらしき部分が開いて中から青いパイロットスーツを着た少女が顔を出す。

 

「早くこっちへ!」

 

 願ってもなかった言葉に安堵の気持ちと共に駆け出す。罠の可能性も捨てきれたわけじゃないが、どちらにせよ今要求に従う以外に生き残る術はない。疲れとストレスで目を閉じたまま浅い呼吸を繰り返す妹を背負いながら、降ろされた簡易エレベーターに乗って、誘われるままコクピットへと乗り込む。

 

うち(ミレニアム)の生徒……じゃないわよね。追われてるようだったから助けちゃったけど、問題なかったかしら?」

 

「はい……ありがとうございます。えっと……」

 

「私はミレニアム2年生、セミナー所属会計担当の『早瀬ユウカ』よ。貴女は?」

 

「ゲヘナ学園2年――アスカです……こっちは妹のマユ。あの、私たちミレニアムへ亡命したくてここまで来て……」

 

 空いてるスペースへマユを降ろして、自分も座席の背もたれに手を付きながら腰を下ろす。ようやく一息つけたと深く息を吸うと、徐々に無理をした身体の節々が悲鳴をあげる。

 

「亡命……? 悪いけど、詳しい話は後で聞かせてもらうわね、仕事が建て込んでて……こちら1番機ユウカ! 一番近かった1機を無力化したわ。そっちの状況はどう?」

 

 シートの右側にホログラムで通信画面が投影される。位置的に上手く見えないが、ちらと見えている銀髪の少女が呼びかけられていた『ノア』だろう。

 

「こちらノア。確認済みだった他3機はすでにミレニアムの自治区から撤退済みです。ちょっと距離はありますけど、マーカーを共有しますか?」

 

 部隊が撤退と聞いて、そんなまさか……と訝しげな表情に変わる。あいつらからしたら自分たちは絶対に逃したくない代物のはず。そう簡単に引き下がるはずが……。

 

「追撃はしないしいいわ。あとはあっちの自治区に任せましょう……それより今、うちの所属じゃないけれど、生徒を二人保護したの。大きな負傷は無さそうだけど、一応保健室の空きを確認しておいて」

 

「わかりました、では作戦終了ですね。お疲れ様です、ユウカちゃん」

 

「さて……じゃあこれから一旦ミレニアムに帰ってそこで色々と事情を聞かせてもらうことになるけれど……大丈夫かしら?」

 

「はい……けれど、気を抜かないでください。あいつらがそう簡単に諦めるはずが……」

 

 そう言うやいなやコックピット内にアラーム音が響き渡る。何、と思う前にもう一度回線が繋がりまたホログラムの通信画面が投影される。

 

「ユウカちゃん! その地点に着弾予定の弾道ミサイルが確認されました! 急いでその地点から離脱してください!」

 

「ミサイルって……! もろとも吹き飛ばそうって腹なの……!」

 

「飛ぶわ! アスカ、マユをちゃんと支えてて!」

 

 その瞬間ガタガタとコックピットが揺れ始める。外を映すモニターを見ると、この一瞬のうちにビルの高さを飛び越えていた。

 

「撃ち落とすわ! データを送って!」

 

 撃ち落とす!? と驚愕していると、羽のようなスラスターからパシュッパシュッと吹かす音が聞こえてくるのと同時に、機体の揺れが収まっていく。

 

「機体座標固定。電磁砲(レールガン)光の剣(スーパーノヴァ)長距離狙撃(ロングレンジ)モードに切り替え。エネルギー充填まであと21秒と34!」

 

「データ送信しました。なんでもかんぺき〜なユウカちゃんのことなのであんまり心配はしていませんが、敢えて言っておきますね。外しちゃダメですよ。私も先生が心配しますからね」

 

「わかってるわよ。私の計算に狂いはないわ!」

 

 右のキーボードを目にも止まらぬ速さでカタカタと入力していくユウカ。その度にプシッと機体が細かく動く音が聞こえてくる。

 

「エネルギー充填完了。誤差コンマ0.003mm。ぜっっったいに当てるわ!」

 

「じゃあユウカちゃん。発射コマンドの詠唱をお願いしますね♪」

 

「えぇっ!? あれやらないといけないの……? 結構ちゃんとしたシリアスな場面なんだけど……!?」

 

「そこはアリスちゃんとの約束ですから、ね。ほら、発射タイミングも迫ってきてるので、ちゃんとお願いします♪」

 

「あ~~もう……っわかったわよ!!」

 

 ――――レールガンの銃口が広がっていく。開いた鰐の口のようだ、などと見る人が見れば多様な例え方ができるのだろうが、ここは敢えて剣の(つば)のように、と表現するべきだろうか。

 

「……魔力充電、100%」

 

 光の剣と呼ばれるそれの刃は未だ姿を見せない。しかし、それを支える鍔と柄は剣の大きさを表すかのように大きく変形していく。

 

「悪を打ち砕く正義の一撃、出力臨界点突破…………!!」

 

 そしてその鍔の中心にだんだんと光が集まりそして――――

 

 

「……光よ―――――――!!!」

 

 ついに現れた大きな光の(つるぎ)は飛来するミサイルを切り裂くのだった。

 

「――カッコいい……」

 

 元万魔殿(パンデモニウムソサエティー)(こころ)アスカ亡命事件。後にそう呼ばれるこれは、これからキヴォトス全体を揺るがすことになる大きな事件の始まりの一つ。そして――

 

「――一番機、早瀬ユウカ。これより帰還するわ」

 

 ミレニアム最強のパイロット『早瀬ユウカ』の物語である。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。