東方狂奏夏【~Phantasy “Hot” Orchestra~】   作:トカゲの妖怪

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早苗&はたて編 四話

地下通路を通り、異空間に抜け出す。

塔の様な巨大な建造物から出てきた私達は、周囲の光景に圧倒される。

見渡す限りの地平線が広がっており、夕焼けの様な薄暗さを保っている。

空には星が瞬き、足元には薄く水が張られている。

 

「ようこそ侵入者よ!」

 

頭上から声がかけられる。見上げると、そこには木造の物体が浮いている。

竜骨がある所を見ると、小型の船だろう。

小型の船はゆっくりと落下し、私達の目の前に着水する。

その船から飛び降りてきたのは、烏帽子を被った女だ。

 

「我の名は物部布都、今は太子様の命あって貴様らを迎えにきたのだ!」

「はぁ。そうですか」

「異変の調査に来たのであろう、さぁ我の船に乗るがいい!」

「じゃあ遠慮なく」

 

私は布都の手を掴み、船に乗り込む。

はたても恐る恐る乗ると、船はゆっくりと浮き始めた。

 

「今太子様は手が離せんのだ。故に我が今ここで貴様らに説明役を仰せ仕ったのだ」

「説明? なんの説明ですか?」

「え〜と、少し待てよ。確かこの辺にしまったはずだ」

 

布都はゴソゴソと自分の服の中に手を入れ、何かを探す。

見つからないのか、覗き込んだり服を叩いたりする。

首を傾げながら烏帽子を外すと、その中から巻物が落ちてきた。

 

「おぉ、あったあった」

 

巻物を広げ、布都は大きく咳払いをする。

 

「『よく来たな、博麗の巫女』……」

「……?」

「……貴様博麗の巫女ではないな!? 誰だ貴様!」

「え、人違いでここまで連れてこられたんですか!?」

 

気づけば入り口の塔も地平線の彼方、目印も何もない空間で私達が人違いだと言う事を知らされる。

布都は少し悩み、巻物と私の顔を見比べる。

 

「まぁ巫女は一緒だし問題はなかろう。ゴホン!『知っての通り今幻想郷には異変が起こっている。民の平穏を願う我々からしても、由々しき異変だ。しかし我々はある理由から手を出せない事を承諾していただきたい』」

「ある理由、ですか?」

「うむ。太子様は我々家臣の者にも話してくださらぬ。だが太子様が静観を命じるのならば従うだけである。続きを読んでもいいか?」

「あぁ、どうぞ」

「では、『そして本来は私が直接赴きその旨を話すべきだが、間の悪い事に今は手が離せない。代理として布都を迎えとして出すので、直接会って訳を話したい。私はこの異変を止める方法を君達に託したい』との事である」

「なるほど。訳知りで、異変の止め方を知っている……ですか」

「しかし我々はその話を知らん、我も今ここで初めて知ったのだ。と言うかなぜ博麗の巫女ではないのだ」

 

布都の話を聞き流しながら、前方に目が吸い寄せられる。

船の先。

数キロ先に小さな黒点が見える。

それはどんどんと大きくなり、こちらに近づいてくる。

私はお祓い棒を取り出し、船の船頭に足をかける。

 

「お客さんみたいですよ」

「何を馬鹿な事を。ここは神霊廟、普通の方法ではまず入って来れん異空間であるぞ」

 

布都は身を乗り出す様に船から顔を出す。

先から迫る黒い点を目を細めて凝視し、驚いた様に身を引いた。

 

「あなや……驚いた。本当にいるではないか」

「戦闘の用意を」

「いやいや、それは出来ぬ! 太子様から襲撃者があれば手を出すなと……!」

「えぇ!? じゃ、じゃああれ私達でやらなきゃダメなんですか……」

「ほらはたてちゃんも立ってください! 来ますよ!」

 

高速で接近する物体は船の目の前で止まり、羽ばたきながら私達を観察する。

その姿は、さっき見た蝉の妖怪にそっくりだった。

 

「ふむ。博麗の巫女ではないのか……?」

「守矢神社の風祝、東風谷早苗です!」

「ふむ。想定とは違うが、致し方無し。ここで倒させてもらう!」

 

蝉の妖怪は羽を広げ、槍を空高く掲げる。

赤い髪をかき上げ、空の光を受けて輝く。

 

「我こそは油熊四天王が一人、名を『油暮実々美(あぶらぐらしじじみ)』! 夕陽が沈むまでお相手仕ろう!」

 

油暮が何かを船に投げ、船底に突き刺さる。

それは小さな砂時計で、ゆっくりと砂が落ち始める。

 

「【轟符『森の怪奇な笑ひ声』】!」

「スペルカード!?」

 

油暮がスペルカードを発動すると、周囲が薄暗くなり油暮の姿が闇に消える。

それと同時に四方八方から薄み悪い人間の様な笑い声が鳴り始める。

 

「カナカナカナカナ」

「はたてちゃん、索敵お願いします!」

「は、はいただいま!」

 

はたては携帯のカメラを周囲に向け、シャッターを切りまくる。

写真を撮られた場所は闇が晴れ、笑い声も止む。

ここで無闇矢鱈に攻撃すれば、外した時に反撃されるリスクがある。今はとにかく相手の出方を伺いながら、相手の場所を探る。

はたてのシャッター音が連続で鳴り、闇はどんどんと晴れていく。だが、油暮の姿はまだ見えない。

 

「でも、ここまで減れば大丈夫! 【奇跡『客星の明るい夜』】!」

 

周囲の闇が一瞬で消え去り、視界が開ける。

だが船の周囲には人影はなく、霧散したはずの闇がまたどこかから景色を塞ごうとする。

 

「カナカナカナカナ。出方を伺うのはお互い同じ。良い判断、強者だ」

「隠れてないで出てきたらどうですか? 隠れてるだけじゃ勝てませんよ」

「油熊四天王は普通の実々美とは性質が違う。能力は共通だが、群となる事で強化されないデメリットを持つ」

 

闇の中を蝉の羽音が飛び回る。

音が聞こえた方に弾幕を放つが、次の瞬間には全く違う方向から羽音が聞こえる。

完全に挑発されている。

 

「だがその代わりに、特別な技能を授かる。私がいい例だ」

「……」

「ど、どこにいるか分かりません……!」

「いいから撮影続けて」

「は、はい!」

 

はたては必死に周囲を撮影し続ける。撮影される度に闇が数秒晴れるが、すぐに周囲の闇がまたその空間を覆う。

足元に刺さる砂時計を見ると、既に半分は下に落ちていた。

 

「……夕陽が沈むまでって言ってましたよね」

「あぁそうだな」

「じゃあ大丈夫なんですか? もう九割、砂は落ちてますが?」

「カナカナカナ、そんな騙りに引っかかり飛び出るほど馬鹿じゃない。今はせいぜい半分といったところか?」

「なるほど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……カナカナ、口が滑ってしまったな」

「それだけじゃありませんね」

 

私は胸の前でお祓い棒に九字を切り、大きく振り上げる。

 

「夕陽が落ちるまで相手をする。つまり砂時計が落ちるまでは相手をすると言う事。それなのに、半分落ちたのに手を出してこないのは何故か」

「……」

()()()()()()()()()()()()。はたてちゃんのカメラで四方八方闇を晴らされ、挙句に私が周囲を光で照らす。それを見て、あなたは怖くなった」

「何を。私が恐怖しているだと?」

 

私はお祓い棒を振り下ろし、船を縦に切り裂く。

その瞬間、確かな手応えが返ってくる。

私の目の前には真っ二つになった船と、その裏で私のお祓い棒を受け止める油暮を捉える。

 

「何故……!?」

「こんなだだっ広い場所で死角は船の裏しかありません!」

「カナカナ! 見事見事だ、【夏符『夕暮れセンチメンタル』】!」

「まぶしっ!」

 

赤い光が目を焼き、一瞬視界が奪われる。

全ての感覚が麻痺し、フラッシュバックの様に視界が蘇る。

目の前には、私の通っていた学校と同級生達が帰宅していた。

 

「あれ?」

「早苗! 帰るよ〜!」

「……なるほど。そう言う事ですか」

 

私はいつの間にか握っていたお祓い棒を振り下ろし、同級生を真っ二つにする。

周囲の景色が歪み、バラバラと崩れる。

また一瞬視界が白み、急接近する地面が見える。

 

「カナカナカナカナ! 過去に何の未練もないと言うのか!」

 

地面スレスレで急ブレーキをかけ、油暮に向かって急上昇する。

固く握ったお祓い棒を両手で逆手に構え、油暮が突き出す槍を両腕の間に通す。

すれ違い様に油暮を両断し、お祓い棒に付いた妖気を振り落とす。

 

「未練がないわけじゃないです。ただ、この幻想郷で風祝をやっている自分が大好きなんです!」

「天晴れ……カナカナ」

 

油暮は地面に落下する。

乾いた蝉の死骸の様に身動き一つせず、油暮は水面に浮いている。

私はついつい殺ってしまった事実に気づく。

 

「どうしましょう……弾幕勝負だって言うのに、普通に祓っちゃいました……」

「だ、大丈夫なんじゃないんですかね……」

「はたてちゃん! 無事でしたか」

「えぇ、お陰様で……あの蝉の妖怪、今は空っぽになってます」

「空っぽ? ……あぁ。どうりで蝉妖怪は手応えが薄いんですね」

「貴様ぁ! よくも我の船を真っ二つにしてくれたな! 直せ!」

 

ぷんぷんと頬を膨らましながら、布都が真っ二つになった船の残骸を持って飛んでくる。

我ながら綺麗に割れたものだ。割れ目を指で撫で、奇跡の力で修復する。

布都は船が直った事に一瞬驚くが、満足した様に頷いた。

 

「まぁ直せるのなら壊してよし! さぁ乗れよご両人、あと少しで太子様の待つ神霊廟であるぞ」

「まだかかるんですか?」

「もうすぐであるすぐであるぞ」

 

再度船に乗り込むと、布都は船首に立ち何やら儀式を始める。

船が進むにつれて周囲の景色が歪んでいく。結界の一種に見えるが、見た事もない高度な結界だった。

周囲の景色が一新され、強烈な吐き気に襲われる。

 

「おぉそういえば。結界を超える際人間の体は耐えきれず不調を発するが……手遅れそうであるな」

「先言って欲しかったです……」

「わぁ……立派な建物ですねぇ」

 

はたてが前方に向けてシャッターを切る。私も吐き気を我慢し顔を上げると、そこには立派な御殿が立っていた。

その玄関口にあたる部分では、高貴なオーラを纏う人が立っている。

 

「よくぞ参りました、博麗の……守矢の風祝、ですか?」

「はい……そうです」

「まぁ、良くぞ参った。私は豊聡耳神子、久しぶりだな」

「はぁ……」

 

はたてに支えられながら、着陸した船から降りる。

頭がぐわんぐわんと大きく揺れる様な感覚が、思考をずずっと鈍らせる。

 

「おっと失礼、少し絞ろうか」

 

目の前の人物の高貴なオーラが少し収まると同時に、頭の揺れも引いていく。

 

「すまない、さっきまで臨戦体制だったものでね」

「いえ……あの蝉ですか?」

「あぁ、異変の主犯の遣いだ」

「異変の主犯? 誰なんですか?」

「残念ながらそれを伝える事は出来ない、少し厄介な事情でね」

 

神子は静かに首を振り、悔しそうな顔をする。

それを見て、布都は慌てふためき神子にどう声をかけたものかと悩んでいる。

この人がこんな表情をするのを見た事がないのだろう。

 

「まぁいいです。事情もどうせ話せないんでしょう」

「その通りだ。今回私が出来るのは間接な止め方を伝える事だけだ」

「それはとてもありがたいですね。それでその方法とは?」

「……博麗の巫女では無いが、油暮を倒した功績を認め託します。『紅魔館に向かいなさい。紅い霧が空を覆う時、幻想郷は一時の安息を得るでしょう』」

「なるほど、紅魔館ですね。考えた事もなかったですね」

 

はたては驚いた様な顔で私の顔を見る。

神子は大きく頷き、小さな木簡を手渡してくる。

 

「これを持っていれば、ここを出る時紅魔館の近くに出られます。はい、鴉天狗の人にも」

「あ……ども……」

「それと、この言葉を博麗の巫女に伝えてください。『聖は聖を知る』」

「分かりました。霊夢さんにちゃんと伝えますね!」

「君達の異変解決が無事に行われる事を祈っているよ。布都、送ってあげなさい」

「はい! 太子様!」

 

降りたそばからもう一度船に乗り、ゆっくりと御殿を離れていく。

御殿の入り口では私達を見送る神子をじっと見ていると、景色が急に歪み始める。

その時、布都が慌てて立ち上がる。

 

「しまった! 我はもらっておらぬ!」

「何をですか?」

 

その答えを聞く前に、周囲の景色が一新される。

気がつけば、私とはたては霧の湖のほとりに立っていた。

湖の反対側にあるはずの紅魔館は、黒い球体に覆われていた。

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