東方狂奏夏【~Phantasy “Hot” Orchestra~】   作:トカゲの妖怪

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早苗&はたて編 五話

はたてはカメラで黒い球体に包み込まれた紅魔館を撮影する。

近くまで来て分かったが、紅魔館を包み込む球体は虫の大群だ。上は羽虫、下は土虫。ありとあらゆる虫達が紅魔館の防御魔法を攻撃している。

羽音で鼓膜がずっと揺れ続け、不快な気持ちになる。

 

「ど、どうします?」

「決まってます。紅魔館に入り、紅い霧で幻想郷の空を覆います! そうすれば日光は届かず、気温は下がるはずです!」

 

無い袖を捲り、スペルカードとお祓い棒を構える。

虫達は私の意思に気づいたのか、成人男性大の虫の塊が放出される。

 

「来ますよ!」

「は、はい!」

 

はたてがシャッターを切り、塊の半数が動きを止める。

弾幕を正面から放ち動きを止めた虫を焼くが、残った半数はそのままの勢いを保ちこちらに向かってくる。

 

「【蛇符『グリーンスネークカモン』】!」

 

緑の蛇が地面を突き破り、虫の塊を一口で飲み込む。

蛇に指示を出し、紅魔館を囲う虫達に向かわせる。

 

「ある程度引き剥がし、強行突入します! 向かってくる虫の対処をお願いします!」

「わ、分かりました!」

「【蛇符『バインドスネークカモン』】!」

 

もう一匹蛇を召喚し、虫の大群にけしかける。虫達は食われる直前まで陣形を崩さず、ギリギリで避けて再集合して陣形を保っている。

何らかの意思を感じた私は、手当たり次第に弾幕を放つ。

虫達はギリギリを狙っているのかの様に避け、掠った虫達は体を焼かれ地上に落ちていく。

生き物としての不自然さ、それが私の疑問を確信に変えた。

 

「おそらく中に虫を操っている者がいます! 中からの攻撃に注意して」

 

その瞬間、幻想郷では聞きなれない音が羽音の隙間から聞こえた。破裂音の様だが、先細りする乾いた音。

それと同時に、私の頬を何かが掠める。頬からは血がゆっくりと流れ出て、手のひらにぴちゃりと落ちる。

 

「……銃です!」

 

咄嗟にはたてと自分の前に奇跡で壁を作る。その瞬間虫の壁の向こう側から、マシンガンの様な銃声が聞こえる。飛んできた弾丸は障壁にぶつかり、弾けて消えていく。

 

「な、なに!?」

「中からの攻撃です! 気をつけてください!」

 

蛇のうち一体が銃弾を浴び、力なく地上に落ちていく。

私は少し距離を取り、銃弾が飛んできた元に向かって狙いを定める。

 

「【奇跡『ミラクルペンタクル』】!」

 

お札を一直線上に纏め、虫の壁の向こう側に向かって放つ。

虫の壁の向こう側で、微かに魔力を感じる。感じ取った瞬間、弾丸が私に向かって飛んでくる。

軌道と一発しか放たれない様子から、逆探知されている事に気付く。

 

「なるべく探知されない様に……息を殺して……」

 

虫の壁の向こう側から銃を乱射されるが、どれも私からは的外れな方向に飛んでいく。

だがその弾丸が向かう先には、追ってくる虫にシャッターを切って撃ち落とし続けるはたての姿があった。

 

「はたてちゃん!」

「え……うわっ!」

 

弾丸の雨がはたてにぶつかろうとした瞬間、もう一匹の蛇が弾丸とはたての間に入り撃たれる。

はたての代わりに被弾した蛇ははたてを守る様に空中に留まり、最後の力を振り絞って虫の壁に向かって突進した。

虫の壁に大穴が空き、通れるスペースが出来上がる。

 

「入れ!」

「ないんですよねぇ!」

 

大穴に飛び込もうとした私の顔を誰かが掴んで、紅魔館の外に投げ飛ばす。

麦わら帽子が吹き飛び、虫に喰われて跡形も無くなる。

私の目の前には、蛍の妖怪リグル・ナイトバグが不敵な笑みを浮かべていた。

その背後で、ゆっくりと虫に空いた大穴が塞がる。

 

「どう出るかと悩んでいたんですよ。どうもありがとうございますねぇ」

「蛍妖怪……前会った時と雰囲気や妖気が違うんですけど、なにがあったんですか」

「僕も夏の妖怪の端くれ、この異変の恩恵を受ける条件には入っています。それに、同士から頼まれましてね」

「……蝉妖怪の仲間ってわけですか」

「正解! 僕は今やこの幻想郷の王と言っても過言ではない! 夏は虫の時代だ! 【蛍符『地上の彗星』】!」

 

リグルがまるで指揮をするかの様に腕を振ると、虫の塊がいくつも飛び出してくる。

太陽の光を浴びて体を煌めかせながら、蠢く虫達は彗星の様に私に向かってくる。

 

「【連写『ラピッドショット』】!」

 

シャッター音と共に虫の大群は動きを止め、飛んで来た弾幕によって撃ち落とされる。

はたてはカメラのシャッターと弾幕を交互に放ち、虫の彗星を次々と撃ち落としていく。

 

「統率が取れている大群なら、私の得意分野です!」

「ナイスはたてちゃん! 【大奇跡『八坂の神風』】!」

 

スペルカードをリグルに放ちながら、弾丸の様に打ち出される虫を回避して接近する。

リグルは一切避けず、虫を弾幕にぶつけ打ち消している。

体を捻り勢いをつけ、お祓い棒で思い切り薙ぎ払おうとする。

その瞬間、虫の壁の向こうから弾丸が飛んできて、私のお祓い棒を真っ二つに撃ち抜いた。

 

「嘘でしょ!?」

「いい援護ですね!」

 

リグルの踵落としを腕で受けるが、一瞬で耐えきれないと判断する。

即座に奇跡を使って腕を保護し、踵落としを受け流す。

体勢の崩れたリグルを虫の大群が覆い、私から距離を離して虫の中から現れる。

 

「どうやら奇跡も味方してくれない様ですね」

「奇跡は……そう簡単に起きてくれませんから」

 

残ったスペルカードも数は少なく、お祓い棒も折れて効力を失ってしまった。

奇跡の残量も、残り大奇跡一回。普通の奇跡ならば二、三度で限界だろう。

それに対し目の前のリグルと虫の壁の向こう側の狙撃手、そして大量の虫と敵の方が圧倒的に優勢だ。

 

「早苗さん! もうすぐでメモリいっぱいです!」

 

はたては新しく湧いてくる虫の彗星を潰しながら、私に向かって訴えてくる。

せめて奇跡の力を込めれる武器があれば、この状況をどうにか出来る。

私は考え、その場で立ち止まる。

 

「諦めましたか? ここで葬ってあげます! 【蠢符『リトルバ」

 

リグルが高々とスペルカードを発動しようとした瞬間、虫の壁の向こう側から銃声が響く。

放たれた弾丸は虫を貫きリグルに直撃し、リグルは大きく吹き飛ばされる。

 

「く……!」

 

リグルが虫の壁の中を睨みつける。

その瞬間、私は活路を見出した。

 

「はたてちゃん! 魔力切って!」

「えぇっ! 分かりました!」

 

息を止める様にその場で丸まり、はたては魔力を抑える。そこに向かって虫の塊が飛んでいくが、ぶつかる直前に弾丸の雨が虫を散らす。

 

「やっぱり……蛍妖怪、中の狙撃手は仲間じゃありませんね!」

「……それがどうしましたか!」

「やりようがあるって事です! 奇跡発動!」

 

私は残った奇跡を使い、虫の壁の向こう側の者に向ける。

ここから奇跡が作用するまで数秒のラグがある。この一瞬が勝負だ。

 

「【秘術『一子相伝の弾幕』】!」

 

幼い頃から二柱に叩き込まれた弾幕を周囲に展開する。弾幕は周囲に散り、一部はリグルに向かって飛んでいく。

リグルはまた虫をぶつけてガードするが、私の狙いはそこじゃない。

一部の弾幕は虫の壁を撃ち抜き、中に飛んでいく。それに反応する様に銃弾が弾幕に向かって放たれ、私に向かって飛んでくる。

奇跡を使い身を保護すると、弾丸の雨は私を避ける様に飛んでいく。

 

「……来た!」

 

虫の壁を突き破り、何かが飛んでくる。

受け止めると、それは油熊実々美が持っていた槍だった。

残った奇跡の力を全てその武器に注ぎ込み、浮力を失う。

 

「はたてちゃん!」

「はい!」

 

落ちる私をはたてが受け止め、リグルに向かって私を投げてもらう。

槍を低く構え、被弾面積を抑えるべく体を真っ直ぐにする。

リグルは虫の弾幕を放つが、私に掠るだけで決定打にならない。

 

「あ、当たらないなら! 【蛍符『地上の恒星』】!」

 

巨大な蛍の光が私の目を眩ます。だがその光は弾丸によって撃ち抜かれ、一瞬で消えてしまう。

リグルに向かって槍を振り、脇腹に直撃させる。奇跡の力を込めた槍は、神々しく輝く。

 

「【開海『海が割れる日』】!」

 

巨大な奇跡のオーラが紅魔館を覆う虫の大群を真っ二つにする。

それは海が割れる様に幻想的な光景だった。

 

「おわぁ!」

「危ない!」

 

落ちる私をはたてが受け止め、地上に着地する。

気絶したリグルが紅魔館の塀に引っかかっているのが見える。統率者を失った虫達は各々自然に帰っていき、紅魔館はものの数秒で元の姿に戻った。

紅魔館の門の向こうから、誰かが歩いてくる。

それは命蓮寺の聖白蓮と、里で団子屋をしている玉兎の清蘭だった。

 

「あらあら、誰かと思えば山の巫女さんでしたか」

「うわぁ、あんまり見たくない顔だな」

「そういうお二人こそ、どうしてこんな所に?」

「こんな所とは心外ね。私の紅魔館に文句でもあるのかしら」

 

メイドの十六夜咲夜に日傘を持たせ、レミリアスカーレットが不満げに門までやってくる。

レミリアは塀に引っかかって気絶しているリグルを見ると、不愉快そうに眉を顰めた。

 

「何があったんですか? さっきの虫は?」

「この二人がやってきて、霧を出して日を遮れって」

「それで急にレミリアさん達との戦いが始まって」

「倒したと思ったら今度は虫がやって来て」

「……それで今に至ると?」

 

三人は同時に頷く。よく見るとお互いやり合ったのか、身体中弾幕が掠ったのか傷だらけだ。

それに紅魔館の庭には虫の死骸が大量に落ちている。

さらに言えば清蘭は背中に巨大な銃を背負っている。

 

「もしかしてさっき撃って来たのあなたですか!?」

「あん? もしかして弾幕撃って来た奴か? てっきり敵だと思ってたが……」

「退治です退治! 巫女に対する暴力罪で退治です!」

「は〜、やっぱり敵で間違いない様だなぁ!?」

「コラ、お止めなさい」

 

聖の鋭いチョップが清蘭の頭蓋に直撃する。

頭を抑えながら、清蘭は蹲る。ウサ耳がしなしなと萎びている。

 

「いくら恩人とは言え、手は出すなよ!」

「いいえ、交戦的な振る舞いは許さないと言ったでしょう。それに今回は私達にも非があります、一緒に謝りましょう」

「……すいませんでしたぁ」

 

清蘭だけが頭を下げ、その様子をはたてが写真に収める。

 

「一緒にって言ったよね!?」

「でも私は何もやってないなって思って……」

「意味がわからん! どうにかしてくれ!」

 

清蘭が叫んだ瞬間、背筋に嫌な物が走る。

その場にいた全員が感じたようで、一斉に周囲を警戒する。

霧の向こうを挟んだ向こう側、人里とは逆方向。魔法の森手前の空間に、巨大な人影が現れる。

 

『いやぁご苦労ご苦労。さすがは幻想郷、想像よりも早く現れる事が出来ましたわ』

 

昔読んだ少女漫画に出て来そうな紫のドリルヘアーと、それに合わない角が天に伸びている。

幻想郷でも滅多に見ない十二単の様な着物を着た巨大な人物は、誰かと会話する様に少し下を見ている。

 

『ご機嫌よう魔法使い。それと博麗の巫女。それから幻想郷の全ての生命よ! (わたくし)の名前は『楼山閣(ろうざんかく) ミズチ』、この幻想郷をこれから支配する女王ですわ』

「幻想郷を支配……? というか霊夢さんあそこら辺にいるんですね」

『……ご名答ですわ。さすがは博麗の巫女。飲み込みが早い事で感心ですわ』

 

ミズチは高笑いし、尚も足元にいるであろう霊夢と会話を続ける。

そんなミズチの足元から突然、黒い塊が波の様に湧いて出る。

 

『ご苦労実々美、約束通り幻想郷の下半分は差し上げますわ』

「あの数の蝉妖怪がいたのか? つまり私達が今倒したのは一匹に過ぎないって? やってられるかよ」

 

清蘭が口をこぼし、大袈裟にリアクションを取る。

命蓮寺で戦った個体と一緒だとするならば、弱いとは言えあの数を倒し切るのは骨が折れそうだ。

それに、神霊廟で戦った様な強い個体もいるとするのならば。

 

『ですが邪魔者がいては支配も出来ません。屈服させ、支配しなければ真の目的達成とは言えませんね』

 

蝉の妖怪達は幻想郷の空を埋め尽くし、太陽を遮り渦を巻いて旋回する。

直射日光が無くなった分、少しばかり涼しくなった気がする。

 

『ですが(わたくし)、争い事は嫌いでして。……なので降伏する時間をあげましょう』

 

ミズチは懐から時計を取り出し、足元にいるであろう霊夢さんに向ける。

ここからでは遠く、何も見えない。

 

「あ、撮れた」

 

はたてちゃんがシャッターを切ると、巨大な時計を見る霊夢の後ろ姿の写真が画面に表示される。

 

『明日の昼、昼食をとり終わった十四時ちょうど。その時までには幻想郷の支配権を(わたくし)に開け渡せる様にしておいてくださいまし。……おほほほほ! 拒否するならば更に気温を上げ、この地を焼き尽くす事もやむなしですわ! よくお考えなさってくださいまし! お〜っほっほっほっほっ!』

 

高笑いをするだけして、楼山閣(ろうざんかく)ミズチは跡形もなく消え去った。

 

「異変の主犯様直々に顔出して宣戦布告とはいい度胸ね。咲夜戦争の準備をしなさい!」

「いえ、さっきの虫の襲撃で食糧庫が食い荒らされました。武器弾薬も木製の物は虫に食われ、紅魔館内に残った虫の駆除に従者総出で駆り出されております。パチュリー様は紅魔館の魔力障壁の再構築と、虫の迎撃で魔力切れと喘息の発作を同時に」

「分かったわよ! ……チッ、とにかく残ってるタスクを片してきなさい」

「かしこまりました」

 

レミリアは傘を咲夜からもぎ取ると、咲夜は一瞬で姿を消した。

レミリアは大きくため息をつき、私達の顔を見上げる。

 

「あんた達はどうするのよ」

「異変解決の為に戦います! きっと霊夢さんもそう言います!」

「私も命蓮寺の皆や、里の信者。そして幻想郷の為に」

「……異変解決までが命令なので」

「私も異変解決しなきゃ里でやっていけないからね」

「あっそう……まぁ私もあんなに日が強いと鬱陶しいから、早めに解決してちょうだいね」

 

レミリアはそう言い残し、紅魔館に向かって歩いていく。

その後ろ姿に亀裂が入り、空間を割ってスキマが出現し慌てた様子の八雲紫が顔を出す。

 

「早苗……と命蓮寺の?」

「あらどうも、ご無沙汰しております」

「……それに玉兎?」

「どーも」

「早苗、この人達は?」

「わかんないです。何でこんな所に?」

「異変解決の為、霧で空を覆おうと……」

「異変解決の協力者? なら助かるわ、一緒に来てちょうだい」

 

紫はスキマを大きめに拡張し、私達を中に誘う。

私達は四人顔を見合わせ、スキマの中に入った。

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