東方狂奏夏【~Phantasy “Hot” Orchestra~】 作:トカゲの妖怪
聖&清蘭編 一話
人里を歩き、周囲の人達を観察する。
誰も彼も元気そうだが、やはりこの異常な暑さのせいで疲弊しているようだ。
気分の悪そうな者、体調が悪そうな者、どこか落ち着かない様子の者。
人々の平穏が、異常な気温によって脅かされている。早急にこの異変を解決しなければならない。
そしてそれは、私にしか出来ない事だ。
「お〜い待ってくれ!」
「はい?」
背後から声をかけられ、振り返る。そこには人里で団子屋をやっている清蘭がいた。
全速力で走って来たのか、私に追いつくと膝に手をつき息を整えている。
「やっと追い付いた……」
「どうされました?」
「いやぁ実は命蓮寺に団子を売りに行ったんだが、帰る途中の信者さん達が全部買って行ってくれてね。どうしても礼が言いたかったのさ」
「あらあらそれはまた」
「それで信者の人達が心配しててさ。こんなに暑いのに出て行ったから、人里に帰るついでに様子を見てくれって頼まれてさ」
「そうなんですね。私は大丈夫と、信者の人達に伝えてくださいな」
「……実は異変解決に向かったって聞いてさ。私も今回の異変のせいで散々な目に遭ってるんだ、だから助けになれないかなって思って」
清蘭は懐から、笹の葉で包まれた団子を取り出す。
団子はパサパサに干からび、ひび割れていた。
「気温が高いせいで、作ったそばから団子がダメになっていくんだ。団子が売れなきゃ生きていけない、それにこの暑さで食欲がないってんで人間達が団子を買ってくれないんだ」
「大変ですね。では私はこれで」
「なぁ嘘だろ?! 私も連れて行ってくれよ!」
「いえ、今回の異変解決は私だけでやり遂げます。力になりたいと言うのなら、どうか水分不足で倒れない様に家にいなさい。では」
私は清蘭を置いて、人里を歩き続ける。
八百屋に立ち寄り、果物の詰め合わせを買う。
八百屋の店主は私の後ろでじっと待つ清蘭を見て、怪訝な顔をしている。
「なぁ頼むよ。この異変を解決しない限り、私は不安で夜も眠れないんだ」
「玉兎の方は睡眠を取らずとも生きていけると聞きましたよ?」
「それはそうだけど……気分の問題だよ!」
「ふぅ……困りましたね」
「お願いお願い! 言うこと聞くし勝手な行動しないから〜!」
「……」
清蘭は潤んだ目で私を見上げる。
しかし、どこか嘘くさい。何か隠した本音がありそうだ。
私の心を読んだかのように清蘭は顔を逸らし、小声でポツリと呟く。
「異変解決の功労者として名を上げれば、人里でももう少しやりやすくなるかなって……」
さっきの八百屋の店主の視線、そして今も清蘭を見る人々の視線。
人里の一員ではなく、来訪者に向ける疑問と不安に満ちた目。
清蘭は、人里の一員となるために異変解決を手段とするつもりなのだ。
「それに活躍できれば団子も売れるしさ!」
清蘭は誤魔化す様に笑う。
私は思わず清蘭の頭を撫でる。
「分かりました」
「ほんとに連れて行ってくれるのか!?」
「いえ。私と手合わせしていただき、実力があると判断出来たら同行を許可しましょう」
「え、手合わせ……?」
私は僧衣を脱ぎ、果物の入った籠を包んで人に預ける。
軽めのストレッチをしつつ、清蘭の目を見る。
「貴方も全力で戦ってください。そうじゃないと実力は計れませんので」
「分かったけど……私は肉弾戦は得意じゃないんだよ」
「何を使ってもいいので、全力で」
清蘭はどこからか取り出した銃器を次々と点検し、魔力で作った弾を黙々と込める。
巨大な銃を背負い、取り出したホルダーを体に巻き付ける。次々と異空間から取り出した銃を、体のホルダーに取り付けていく。
「……それは?」
「私は銃撃戦の方が得意なんだ。最近は弾幕勝負用に調整したから、それの試運転も兼ねたいのさ」
「なるほど。まぁいいでしょう」
魔法を使い、人里の上空に飛び上がる。
準備を終えた清蘭は片手に収まる小さな銃を持ち、姿勢を低くして私の前に飛び上がってくる。
「そちらのタイミングで初めてくださいな」
「それはありがたい……ね」
清蘭は後ろに下がりながら、銃を乱射する。銃口から放たれた鋭い弾幕は空を裂き、私に向かって飛んでくる。
飛んで来た弾幕を掴み取り、飛んでくる弾幕にぶつけて相殺する。
「マジか」
「それだけですか?」
「いいや、小手調べって奴さ」
清蘭は小型の銃をしまい、少し大きめの銃を取り出す。
両手で構え、今度は私に向かって近づいてくる。
腰を低く落とし、出方を伺う。次の瞬間清蘭の姿が視界から消える。
視界が一瞬暗くなる。
「……上!」
私に覆い被さる影から銃口を読み取り、素早く体を捻る。頭上の清蘭から放たれた弾幕は私の体を掠める事なく降り注ぐ。
地上に人がいない事を確認し、空を蹴って飛び上がる。
「うわっ」
「ふんっ!」
清蘭の銃を掴み、捻って手放させる。そのままの勢いで片手を捻り上げ、背中側に押さえつける。
力を入れすぎて骨を折らないように気をつけつつ、足を絡めて動きを封じる。
「これでおしまいです。異変中は家でゆっくり……」
「まだまだ!」
清蘭は押さえつけたはずの腕の関節を外し、私の拘束を抜け出す。
そのまま私の肩を掴み、頭上を通って背中側に回る。私の目の前には、小さな鉄の筒が降ってくる。
「フラッシュバン!」
「っ!」
鉄の小筒は目の前で激しい光と音を放ち、私の視界を潰す。咄嗟に耳を防いだため、片方の耳は聞こえる。
私の背後で関節をはめ直す音と、何かを引き抜く高い音が聞こえた。
「グレネード!」
私の背中で何かが爆発する。咄嗟に魔力で体を強化し、背中にぶつかる熱と弾幕を防ぐ。
感覚で腕を背後に伸ばし、何かを掴む。それは固く、清蘭の腕ではない事は理解した。
さっきの鉄の小筒や、爆発した物体の可能性がある。
「南無三!」
鉄山靠でそれを吹き飛ばし、拳を小さく引きモノクロの視界で清蘭を探す。
爆煙の向こう側、長い銃を構える清蘭を捉える。
「フラッシュバンが効かないの?!」
「効いてますとも!」
長い銃から鋭いレーザーが放たれる。
構えを解き、拳を振り上げレーザーを殴り上げる。
驚いた様子の清蘭に近づき、その顔に拳を寸止めする。
「……」
「まぁ実力は申し分ないでしょう。ですがもっと人を思いやる気持ちを持ちましょうね」
「は……はい……」
青ざめた顔の清蘭は、浅い呼吸と共にゆっくりと落ち着きを取り戻す。
私は自分の体を見つめ、大きくため息をつく。
「大丈夫ですか? 立てますか?」
「は、はい……」
清蘭は私の手を取り、地上にゆっくりと降下する。
私は僧衣と果物を拾い上げ、また人里を歩き出す。
「着いてきなさい、清蘭さん」
「……いいんですか?」
「えぇ、私のストッパーが欲しかったんです」
「す、ストッパー?」
「私は今、力の制御が難しいと言う症状を患っています。もし異変解決途中にやりすぎたりして誰かを殺めてしまったら……だから私の歯止めが効かない時に、私の頭を綺麗に撃ち抜いてください」
「そんな無茶な!」
「これを約束してくれなければ、同行は許可できません」
「……分かったよ、死んでも恨むなよ」
清蘭は負けた様な、少し悔しそうな顔で条件を飲む。
私は籠を手から下げ、人里を抜ける。
清蘭から銃の事を教わりながら、竹林の入り口にまでやってくる。
「そういえば、そのフルーツは何の為に買ったんだ?」
「響子が熱で倒れてしまったので、そのお見舞いの品にと思いまして」
「あぁ、だから竹林に……」
私はこの前まで貼られていた結界が無くなっている事に疑念を抱きながら、竹林に足を踏み入れる。
竹林の中は前に響子を担ぎ込んだ時と全く変わっておらず、時間がまるで止まっていた様だ。
「うっぷ……」
「どうしました?」
「めちゃくちゃ気分が悪い……地上に来たばっかの時に穢れ酔いと同じ感覚が……」
「そうなんですか? 良ければ背中に乗りますか?」
「いや……大丈夫です、行けます」
清蘭は口元を押さえながら、私の隣を歩く。
私は何も感じないが、やはり月の生物と地上の生物は違うのだろう。
永遠亭へのルートを通り、竹林を抜け永遠亭の前に着く。
清蘭はスナイパーライフルを杖代わりに、よたよたと着いてくる。
「ごめんください、お見舞いに来ました」
戸を開けると、妖怪兎たちがせっせと薬品や水を運んで右往左往している。
その中の一人である、因幡てゐがこちらにやってくる。
「やぁ聖、久しぶりだね」
「あらどうも因幡さん、響子の病室はどこかしら?」
「それなら右手の廊下の途中にあるよ。扉に名札があるからそれを頼りにしな」
てゐは遠慮なく籠の中からりんごを取り、一口齧る。
私は籠の中から響子の好きな梨を二つ取り、残りの果物を籠ごとてゐに渡す。
「これ、みんなで分けて食べてくださいな」
「こりゃあどうも。兎達の士気が上がるよ」
てゐは頭の上に籠を乗せ、兎達に紛れてどこかへ走って行った。
大汗を掻きながら玄関口に座る清蘭を放って、廊下を右に進む。
中庭には小さな池があり、バケツが置いてあったのか地面が丸く湿っている。
廊下に面する襖に『幽谷響子』の名を見つけ、優しくノックをし中の様子を見る。
「響子?」
「んむ……あ、聖様!」
「元気そうですね、良かった」
中は部屋というよりは、巨大な部屋が清潔な仕切りで区切られただけの空間だった。
床の上に敷かれた布団の上に寝ていた響子は体を起こし、私の来訪に感激の表情を浮かべた。
響子の布団の隣に座り、梨を手刀で切り分ける。
部屋の中は涼しく、まるで冬の様だ。枕元には水筒が用意されており、結露が浮いている。
「聖様、こんな暑い中本当に申し訳ありません……」
「いえ、そんな事はありません。私の気が至らないばかりに、苦しい思いをさせてしまい……」
「聖様……」
響子は困惑した様な顔で、小さな手で布団を握る。
私は切り分けた梨を響子の口に運ぶ。
響子は驚きつつも、梨の甘さを噛み締めている。
「ここでの生活はどうですか?」
「今日安静にしていたら退院出来るって、先生も言ってました!」
「それは良かった。命蓮寺のみんなも待っていますから、あと一日安静にしておいてくださいね」
「はい!」
「では私はこの後に用事があるので、また明日命蓮寺で」
「はい! ありがとうございました、聖様!」
響子は手を振り、私を見送る。
襖を閉め廊下に出ると、清蘭が誰かとこちらに向かって歩いてきていた。
「だから、マジなんだって! 聖白蓮と一緒に来たの!」
「月の兎が地上の僧侶とお見舞い? せいぜいスパイ活動の間違いでしょ?」
「ほら! いたじゃん!」
清蘭がこちらを指差し、駆け寄ってくる。
訝しげにこちらに視線を送るのはこの永遠亭の兎、鈴仙だった。
「……聖さん、この玉兎はお連れ様ですか?」
「はい。異変解決のアシスタントに」
「こいつは月のスパイですよ?! 本当に連れていくんですか?」
「スパイじゃないよ!」
「こんな銃器ジャラジャラにぶら下げている奴を信用するんですか!?」
「はい、そしてゆくゆくはうちに入信してもらいます」
「「はい!?」」
ウサ耳が四本、驚愕の声と共に永遠亭で跳ねる。
私の様子を見て冗談じゃない事理解したのか、鈴仙は大きなため息をついた。
「まぁ本人がいいならいいですけど……あんた変な事企んでたりしたら、私が潰しに行くからね」
「しないよ! いや入信もしないけど!」
「まったく……みんな異変解決に動いてくれるのはありがたいけど、トラブルを持ち込んで来ないでほしいなぁ……」
「何かあったんですか?」
鈴仙は口を滑らせた事に気づいたのか、急いで口を塞いだ。
しかし少し考えた末に、小さな声で話し始めた。
「さっき霊夢さんと魔理沙さんが、異変解決のためにここに来ましたよ。つい数分前、あっちの方に飛んで行きました」
鈴仙はそう言いながら空を指差す。
「ありがとう、後を追って見るわね」
「はい、異変解決頑張ってくださいね。清蘭も、ちゃんと役に立つんだぞ」
「はいはい」
私は中庭から清蘭と共に飛び立ち、竹林を進む。遠くの方には、広大な魔法の森が見える。